Muv-Luv Alternative Strange Real   作:yagra

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M2 戦場を舞う赤いツバメ2

 前線後方に存在するCP(コマンドポスト)では、戦場に存在するありとあらゆる情報が集約され、取捨選択され、分析、解析されて戦域管制官達の元へと伝えられる。

 その情報を精査し、状況に応じた指示を出すのが彼等の仕事だ。

 

「――現在、戦線側方より侵入した連隊規模のBETA群にスワロー隊が対応中。なお、当該地域の防衛に当たっていたシュパッツ隊は被害甚大のため後退中」

「――スワロー隊交戦開始。このまま敵を抑えるとのことです」

 

 戦域管制官たちが矢継ぎ早に報告を上げていく。その中には、先程まで戦っていたシュパッツ隊の被害も含まれていた。

 彼らの被害は酷いもので、作戦に参加していた8機中6機が大破し1機が行動可能ではあるものの中破、無事な機体は1機だけという惨憺たる有様だった。

 CP内のデスクに座り、戦況の推移の報告を聞いていた作戦司令官はその報告をしてきた戦域管制官に問う。

 

「――シュパッツ隊の損害は?」

「――はい。シュパッツ隊の生き残りは4名。他は全員戦死とのことです。また、弾薬も枯渇とのこと」

「――……了解した」

 

 彼はその一言だけ言うと、手を組み、次々と更新されていくモニターの情報に目を凝らす。彼の目線の先には、友軍を示す青い光点(ブリップ)がBETAの赤い光点(ブリップ)と入り乱れながら戦闘を繰り広げている光景があった。その4つの光点(ブリップ)がスワロー隊を示すものであることは明白であった。

 

「スワロー隊、負担をかける。今回の作戦の成否はお前たちに掛かっている」

 

 彼は誰に語りかけるわけでもなくそう言った。彼の視線の先のモニターには、友軍の損耗率を表す数字が刻一刻と増え続けていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 戦闘開始より900秒後

 

 BETA集団に飛び込んだスワロー隊は現在、要撃(グラップラー)級と戦車(タンク)級を新鮮な肉塊へ変貌させながら戦闘機動を繰り返していた。

 1機は衝角を振り上げる要撃級の腕の根本を右に持つGWS-9突撃砲の36mmで吹き飛ばし、飛びかかってきた戦車級を左腕の腕部ブレードベーンで両断する。別の1機は右腕に持ったBWS-8フリューゲルベルテを使い要撃(グラップラー)級の首を斬り飛ばし、さらに戦車級を縦に割る。また別の1機はMk-57中隊支援砲でもって仲間の死角から迫るBETAたちを挽き肉に変えていた。デトレフのEF-2000(タイフーン)もまた、両腕のGWS-9を巧みに動かし迫りくるBETAの波を次々と捌いていく。あるいは撃ち、あるいは斬り、あるいは蹴り飛ばし、そして時に盾とする。彼らの一挙手一投足全てがBETAを屠るために最適化された動きであり、BETAは為す術無くその命を奪われていく。

 

『――……! 突撃(デストロイヤー)級来る!』

 

 突然のことだった。隊内の1機が異変を察知し頭部を持ち上げる。その視線の先には、不自然に間を開けたBETAたちの姿があった。その奥には、緑色の外殻を纏った巨大な影が見える。

 報告を聞いたデトレフは、奴らの真意に気付くと矢継ぎ早に指示を飛ばした。

 

「――全機噴射跳躍(ブーストジャンプ)。突撃級が通過次第その背中を狙え」

『『『――了解』』』

 

 指示と共にEF-2000の跳躍(ジャンプ)ユニットが火を噴き、その巨体はふわりと宙を舞う。直後、彼らがいたはずの場所には、突撃級が土煙を上げて突っ込んできていた。

 突撃級の外殻は硬い。しかし硬いのは正面のみであり、側背面は突撃砲の36mmで容易に貫けるほど柔らかく、脆い。目に見えて分かりやすい弱点、彼らはそれを見逃さない。

 

「――そこだ」

 

 着地と同時に放たれた36mm劣化ウラン弾は、狙い違わず突撃級の背面に突き刺さる。次の瞬間、突撃級の背はまるで爆発したかのように弾け飛んだ。

 

『――ぃよしッ!』

「――浮かれるな、敵はまだいる」

 

 仲間の戦果を見て歓喜の声を上げる隊員を叱責しつつ、デトレフは周囲に意識を向ける。彼の視界に映るのは、間髪を入れず押し寄せるBETAの大群のみだ。

 

「――CP、CP、こちらスワロー1。作戦の推移状況はどうなっている」

《――こちらCP、現在フッケバイン隊が光線級吶喊(レーザーヤークト)を成功させ離脱中。10分後、支援砲撃を開始予定。そちらにも砲撃支援を送る》

「――スワロー1了解。各機聞いたか、残り10分だ。それまでにBETA共を可能な限り潰せ、いいな?」

『『『――了解!』』』

 

 デトレフの指示に全員が応え、再び激しい戦いが始まった。

 4機のEF-2000はその手に持つ獰猛な武器を振るう。36mmが戦車級を穿ち、120mmが突撃級を木っ端微塵に粉砕し、57mmが要撃級を物言わぬオブジェへと変え、フリューゲルベルデとブレードベーンが近寄るBETAを真っ二つにしていく。彼らの機体はやがてBETAの血に塗れ、機体のカラーリングもエンブレムも見えなくなるほどにその身を赤く染めていった。

 

 

 

《こちらCP、作戦参加中の全戦術機甲部隊に告ぐ。間もなく砲撃を開始する、指定した戦域(エリア)より退避せよ。繰り返す、指定した戦域より退避せよ》

 

 10分という短い時間、しかし戦術機を駆る衛士には無限ともいえる時間。その時間は、遂に終わりを告げた。

 砲撃が始まる。それは戦場に降り注ぐ女神の一撃であり、この戦いに関わる誰しもが最も待ち望んでいた出来事だ。

 

「――スワロー1了解。各機、撤退だ。砲撃が来るぞ。我々はこのまま母艦まで撤退する」

『『『――了解』』』

「――各機、跳躍開始」

 

 デトレフの合図と共に4機のEF-2000は噴射跳躍を始める。それに対し、それまで赤子の手をひねるように屠られてきたBETAたちは彼らを逃がさんと追いすがろうとするが、地を這うしかないものどもと空中を飛ぶことのできる戦術機では機動力に大きな開きがあった。戦術機たちは瞬く間にBETAの魔の手から離れ、その姿は遠ざかっていく。

 そして数十秒後、EF-2000が消えた方向に全力で走っているBETA群の頭上に砲弾が降り注いだ。ある個体は榴弾の着発信管が直撃し内部の高性能爆薬の炸裂によってバラバラになり、またある個体は榴散弾の鉄片によってその身を引き裂かれていく。戦場の女神に目をつけられた以上、彼らに逃れるすべはない。血飛沫と爆炎に彩られた地獄絵図の中、BETAたちは為す術無く蹂躙されていった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 作戦開始より18350秒後 ブリテン島中西部リヴァプール

 

 ユーラシア大陸奪還の要であり、ブリテン島防衛の砦であるこの場所は現在、戦術機とその関係者でごった返していた。理由は単純明快。先ほどまで行われていた間引き作戦が終了し、欧州各国の戦術機甲部隊が修理・整備のため続々と帰還しているためである。

 その中には、つい数時間前までBETAの別動隊との激闘を繰り広げていたスワロー隊の面々の姿もあった。格納庫の壁に寄りかかった彼らは強化装備を着たまま、支給された合成食料の栄養クッキーを頬張り談笑に興じている。そしてそんな彼らに駆け寄る人影もあった。

 

「あ、あのっ。スワロー隊の方々ですか!?」

 

 声の主は若い男性の衛士だった。息を切らしながらやってきたその男性は、少し怯えた様子ながらも勇気を振り絞って彼らに話しかける。

 

「お前は……」

「第117戦術機甲中隊シュパッツ隊のロニー・シュミット少尉です! 先ほどは我々を助けていただきありがとうございます!」

 

 そう言って彼は勢いよく敬礼する。その動きは軍人としてはまだまだぎこちないものであったが、彼が真剣であることは十二分に伝わってくる。

 

「そうかしこまるなって、俺たちは当然のことをしただけさ。それにあんたらがやられてたら後ろも危なかったしな」

 

 ロニー少尉の態度に苦笑いを浮かべながら、スワロー3――クリス・グッドウィン少尉は答える。彼の言う通り、もし彼らの部隊が全滅し防衛線が突破されていた場合、そのまま後方の友軍陣地が危険に晒されていただろう。スワロー隊はその防衛線を維持するために駆けつけたまでであり、感謝されるいわれはなかった。

 しかしそれでも、ロニー少尉は納得できないのか食い下がる。

 

「いえ、あなた方が来ていなければフリッツも、アンナも、エリザベートも、そして僕も死んでいました。だから本当に、ありがとうございます!」

「……そうか」

 

 デトレフは彼の熱意に対し一言だけ応える。その声はあっさりとしたものだったが、突き放すような冷たさはなく、むしろ暖かさを感じさせる。

 

「……あっ、すみません。お忙しいところ長々と話し込んでしまって。失礼します、この御恩は決して忘れません!」

 

 ロニー少尉は再び敬礼すると、もと来た方向へ走っていった。後に残ったのは、変わらず格納庫に響く工具の音と喧騒のみだ。

 

「あの青年、将来は有望ね。そう思わない?」

 

 彼が去った後、ぽつりと零したのはスワロー2――マーガレット・エミリー・ウィリアムズ中尉。彼女は飲料の入ったパウチを手に持ち、デトレフに話しかける。

 

「さあな、俺には人を見る目はない。だが少なくとも、ああいう奴がいるならこの戦争はまだ大丈夫だろう」

 

 デトレフは淡々と答える。所属する国家が異なる場合、大抵は自国のプライドが邪魔をして相手国を見下したり、あるいは自国が劣っていると認めたくないあまり貶める発言をしたりするものだが、彼からはそういったものは感じられなかった。相手を対等に見る、それができる人間というのはこの基地ではそう多くない。デトレフ自身も愛国者ということもありそう言えたものではないが、それでも次代に希望が持てるということに変わりはなかった。

 

「へえ、あなたにしてはよく言うじゃない。まあ確かに、あんな若者がたくさんいるならまだ希望はあるかもね」

「……はい、はい、わかりました。隊長、デブリーフィングの準備が整ったそうです」

 

 ここでスワロー4――ジュリー・ネヴィル少尉がデトレフに声をかける。それを聞いたデトレフは手に持っていたクッキーの包み紙を近くのゴミ箱に放り込むと、寄りかかった壁より身を起こした。

 

「わかった。各員準備しろ、行くぞ」

「「「了解」」」

 

 デトレフの言葉に従い、4人は歩き出す。彼らの向かう先は、人類の未来を決めるであろう戦いの場だ。

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