第一話:産屋敷かぐやという女
時は明治。とある屋敷にて。
「──何をしているのですか、お父様」
「……かぐや」
『お父様』と呼ばれた男性は、十代後半から二十代前半程度の若い青年。『かぐや』と呼ばれた女性は、五歳程度の
二人は親子と言うより、歳の離れた兄妹に近い関係であったが、それは今問題ではない。
「そんな物、一体何に使うおつもりですか」
問題は──青年の持っている縄だ。
部屋は必要以上に清掃されており、家具は椅子が一つのみとなっていた。そして縄は、ちょうど頭部が通せるくらいの大きさで輪が結ばれている。
この状況から察せられる、青年の目的は一つだろう。
「……これ、は」
「すみません、意地の悪いことを申しました。
お父様がやろうとしていたことも、そんなことをしようと思った理由も、全て分かっております。
……耐えられなくなってしまったのでしょう? 隊士達の死に」
図星だったのだろう。それを聞いた青年は目を見開き、言葉を失っている様子だった。
「……いつかこんな日が来るのではないかと、思っておりました。お父様はいつも、彼ら彼女らの死を、本気で嘆いておられましたから」
夜な夜な人を襲い、喰らう『鬼』を斬る、政府非公認組織──『鬼殺隊』
青年は、その鬼殺隊を運営する当主であったのだが……彼は、優し過ぎた。
鬼は強い。人はおろか、獣すら凌駕する身体能力に加え、殺害手段が極端に限定されるほどの再生力を持つ。加えて強力な個体であれば、超能力染みた力も用いてくる。そんな鬼と戦う鬼殺隊士の死亡率は、非常に高い。
そうして次々と殉職していく者達の名を、彼は
──そんな苦行、常人に耐えられる訳がない。
「……そうだね。だから、私はもう──」
「──ですので、父上。家督をお譲りください」
「……え?」
それは余りにも、予想外な言葉だった。何故なら、今家督を譲るということは──。
「
「ふふふ、何を今更。お父様が亡くなっていたら、どの道そうなっていましたのに」
「それはっ、そうだけれども……!」
そうさせないために、彼女は彼を止めたのではないのか。普通はそう思う。
しかしかぐやは、心から愉快そうに笑って──告げた。
「大丈夫ですよ。耀哉なら」
「どうして、そう言い切れるんだい……?」
「だって耀哉は既に、
「なん、だって……!?」
「既に我が一族が持つ『先見の明』を得ているのでしょう。明日から当主を交代してもやっていける程に、耀哉は賢く
そしてもう一つ、お父様がまだ知らないことがございます」
「それは……?」
「──わたくし、『
「えッ、は……!? そんなっ、いつの間に!?」
炎の呼吸──それは人が鬼を葬るために必須となる技法、『全集中の呼吸』における流派の一つ。
彼が、歴代の
「先月
「たった一ヶ月で覚えたのかい……?」
「いえ、
「────」
彼はもう、絶句するしかなかった。
全集中の呼吸は通常、習得に
特に『とある事情』で病弱かつ短命な一族である、産屋敷家の人間は……今まで誰一人として、使えた者はいなかったのに。
「槇寿朗さんの教え方が上手かったおかげです。同じ当主でも、どこかの無責任な当主様とは大違いだと思いませんか? 父上」
「うっ……ぐぅの音も出ないね」
(……しかし、かぐやの才能もあるだろうが……まさか一日で、呼吸術を伝授してしまうとは。流石は煉獄家と言ったところか)
鬼殺隊という組織が実力主義であることは、その目的からして想像に難くないだろう。故に当然、上に立つために生まれや育ちは一切問われない。
──だがそんな鬼殺隊で唯一、『名門』と言える家系がある。それが煉獄家だ。
『最高階級に至る剣士を、
「……とは言ったものの、まだ『型』は教わっていませんし、『常中』にも至っていないのですがね」
「いやいや、それでも充分凄すぎるよ……」
『型』とは呼吸法に対応した剣技であり、『常中』とは、通常戦闘時にのみ使用する全集中の呼吸を、寝ている間含め常に行うことを指す。
正規隊員でも全ての型を扱えない者はいるし、常中は最高階級である『
「いいえ。いいえ。
「かぐや……?」
天狗になっても許されるような結果を叩き出しておきながら、彼女は自身の現状に甘んじていない。それは何故か。
「お父様、私は──
「……あぁ、そうかもしれないね」
「えぇ。ですので私と耀哉で、全てを終わらせてみせます。だからそれまで、見守っていてくださいね? お父様」
「……分かったよ」
結局のところ、彼女はただ──父に生きていて欲しいだけの、子供だったのだ。
*
──吸って、『吐いて』 吸って、『吐いて』
呼吸とは極論、空気の〝吸引〟と〝排気〟の繰り返し──そんな認識では、全集中には至れない。どれだけ吸うか、どれだけ吐くかで違うし、一度の吸引でも、複数回に分けたりすることもある。
特に注意するのは『吐く』ときだ。〝排気〟は筋肉が緩めば勝手に行われてしまう。自分の意思で、自分の想定している量を『吐け』
すると呼吸音が『ゴオオ』という、燃え盛る炎のようなものに変わっていく。
よし、後はこれを途切れないように──あ。
「──っ、ゴフッ。ごふっっ」
呼吸が途切れた反動で、咳が止まらなくなる。
荒い息を整えられないまま、私は
「……百七十三秒です。
あの、姉上。やはりこれ以上は……」
咳き込む私を心配し、耀哉が縁側からこちらに駆け寄って来てくれる。きっと、身体を悪くする前に休めと言いたいのだろう。
……だが、それはできない。何故なら──。
「この程度で諦めていたら、『柱』にはなれませんから」
「姉上、私は──!」
「では耀哉、あなたが私なら……ここで止まれますか?」
「……っ!」
耀哉は父と同じく、隊士達への情が強い。それこそ、一人一人に肉親と同じだけの愛を向けてしまうくらいに。
だからできない。むしろ耀哉なら、私なんかより死に物狂いで己を鍛えるだろう。
「弟子でもなんでもない私が、多忙な槇寿朗さんから教えを受けられるのは、柱合会議で屋敷にいらっしゃる時くらい。会議は半年に一度ですから、五ヶ月後。それまでには、常中に至っておきたいのです。一月でこの調子では、間に合いません」
「…………姉上がそこまで焦っておられるのは……私のため、ですか?」
……これは、どう答えるのが正解なのだろうか。
耀哉は──というより産屋敷家は、
だから私は呪いの原因たる鬼を討ち、耀哉が人並の時間を生きられるようにしてあげたい。これは事実だ。
しかしこれを肯定すれば、耀哉はより強く私を止めるようになるだろう。しかし否定して、『姉上は私のことなんてどうでもいいんだ』なんて思われたら私が死ぬ。私は、この可愛い
さて、ではどうしたものか──。
「……えぇ。あなたと、
──こうなったら正直に話しつつ、他の人も巻き込んでしまおう。そうすれば耀哉も無下にはできまい。我ながら最低な発想である。
「父上は今十九歳です。現状では、最長でもあと十年しか生きられないでしょう。私はどうしても、父上がご存命の内に、歴史が動く瞬間を見せて差し上げたいのです」
最低な発想からした発言だが、これは本心だ。というか本心でないと、耀哉にはすぐバレる。人心掌握の英才教育を受けてるからね、この子。心の機微を見通すなんてお手の物ですよ。
「……、…………っ。
……分かったよ、
──お、呼び捨てになったということは!
「これからは姉ではなく、一人の鬼殺隊士候補生として扱おう。そしてこれは、鬼殺隊当主から君へ下す、最初の指令だ」
「──はっ!」
「煉獄家へ向かうんだ。そして炎の呼吸とその型を我が物にし、最終選別を突破せよ」
「拝命致しました」
よっしゃあこれで修行が捗るぜぇ! ついでに煉獄さんとの幼馴染フラグゲットだヒャッホウ!
──あ、今ので流石に気付かれたと思うのですけど、わたくし転生者です。それも
おら見てるか全国の観測者ども! あまりTSものばっかり読んでると、将来おまいらもこうなるぞ! 気をつけるんだナ!!
……という冗談でもキメておかないと、マジでやってけない。まぁこれでも産屋敷だから、神仏という観測者はいるかもだけど。止めてくれ、いやホントに。
しっかし何故『鬼滅』なんだか。私アニメ勢だったから、
──という訳で、我が今生の目標は『原作死亡キャラを救済しつつ
……え、なんでわざわざ死ぬのかって? そりゃあ、割り切って死ぬタイミングを決めてた方が原作知識惜しまず使えるし。後先考えちゃうと、変な知識持ってて疑われないよう気を付けて立ち回ることになるし。まぁ産屋敷だから『先見の明』である程度誤魔化せるとは思うけど……単純に
ほら……人が誰かのためを想って流す涙って、素敵でしょう……? 私、それが大好きなので……夢に見るほど好きなので……(cv下弦の壱) かまぼこ隊が煉獄さんのために流した涙はもう……最高としか言いようがなかったよね……。
──だが
彼の死には不覚にも、私まで泣かされてしまった。
だが私はあくまで『誰かのための涙を見る』のが好きなのであって、私が泣きたいワケではないのだ。
だから次は、お前が涙を流すんだよ杏寿郎ぉぉぉ!!!(cv上弦の参)
── そして
なぁにが『悲しくはないよ』だ! この私ですら泣いたんだぞ!? だからお前も号泣するんだよぉぉぉ!!!
……え、私自身ですら弟を傷付けることは許さないって話はどうなったのかって?
違うんだ、私がやろうとしているのは『曇らせ展開』であって、決して傷付けようとしているのではないのだ。この違い、分かります? 分からない? ソッカー。
────という訳でね! 原作死亡キャラ救済を最優先に、主要キャラ達と絆を深めて最終的には曇らせたい! 以上! いざ征かん、煉獄家へ!!(無茶苦茶)
*
明治コソコソ噂話:かぐやはアニメ勢だが、ネタバレサイトで部分的に情報は得ているぞ。ただし『先見の明』や寿命についてなど、普通に家族として説明されて、今生で知ったことも多い。