※注:かぐやは『透き通る世界』には到達していません。
第十話:継子
──
「──よろしくお願いします、師範!」
「はい、では早速始めましょうか。
どうも、かぐやです。
突然ですが、
どうしてこうなったのかと言いますと……。
『──錆兎くんを私の継子に……ですか?』
『うん。あの子が目指す戦法の理想形は、
とまぁ、私の数少ない友人である、
なんでも錆兎くんの日輪刀は赤──つまり炎の呼吸に適性を示したらしい。
炎の呼吸の適性は、『細かいことを気にせず目標に向かって邁進できる、情熱的な人物』に多く見られる。私がアニメで見た『錆兎』は確かに、そういう人物だ。『男』であることに強いこだわりがあったみたいだし。
だが実際錆兎くんが習ったのは、水の呼吸だ。炎とは対極に位置する流派である。
にも関わらず、彼は『最終選別死者零』をやってのけた。適性呼吸を学ぶことで、どこまで強くなるのか……周囲の人間は、非常に強い期待を向けたそうだ。
しかし彼は、『敬愛する鱗滝さんの教えを無駄にしたくない』とのことで、『これからも水の呼吸を使って戦う』ことは絶対らしい。そこで私に白羽の矢が立った。
『お義父さんは、気にせず炎の呼吸を学べばいいって言ってるんだけどさ? たぶん私も、同じ状況ならそうするんだろうな〜って思ったら、ほっとけなくて』
私も、その気持ちは分かる。
以前の私は、父の存命中に上弦を倒そうと躍起になっていたけれど……そんなことをしたところで、父の寿命が延びるワケではないと、分かっていた。それでも、強くなろうと逸る気持ちを抑えられなかったのだ。こういうのは、理屈じゃない。
だからまぁ、引き受けたからには、錆兎くんの気持ちに寄り添いつつ進めていこうと思う。
「まず最初はちょっとだけ、座学の問題です。
水の呼吸と比較しながら、炎の呼吸の特徴について説明してみてください」
「はい! 変幻自在な足運びが特徴である水の呼吸に対し、炎の呼吸は力強い直線的な踏み込みが特徴です。
また、水の呼吸が『どんな敵にも対応できる』受けの型であるのに対し、炎の呼吸は『相手に何もさせない』攻めの型です」
「模範解答をありがとうございます。そこまで分かっているなら覚悟の上でしょうが……炎と水は対極の呼吸。併用するための修行は厳しいものになりますよ」
「当然です。『男』に二言はありません!」
あ^〜、駆逐系男子ボイスで耳が幸せなんじゃあ……などと惚けている場合ではありませんねハイ。真面目にやりましょう。
「さて、では座学の問題その2です」
「はい!」
「私達『柱』が全員使える技で、『常中』というものがあります。これは一体何でしょう?」
「じょう、ちゅう……? 聞いたことがない単語です……。
今の柱は師範と、真菰姉さん、炎柱、花柱と入れ替わりで入った岩柱……皆違う呼吸ですが、全員が使えるんですよね?」
「はい。ちなみに正解は、『
「……すみません、今なんと?」
「四六時中、全集中の呼吸を維持してください。勿論寝ている間もです」
「……冗談ですよね?」
「聞いた当初は私も『常識的に考えて、寝ている間は無理でしょう』と思いましたが、大丈夫です。やればできます。できました」
「……やってみます」
錆兎くんはドン引いた顔をしつつも、素直に全集中の呼吸を始めた。
十秒、二十秒、おー、初めてにしては結構持つね。
四十秒、五十秒、
「かひゅっ、ゲホッゲホッ」
「五十三秒。上出来です。これを繰り返して、少しずつ慣らしていきましょう。常中訓練は自習課題とします。
さて、ここからが本番です。これから炎の呼吸を伝授します」
「──っ、よろしくお願いします!」
錆兎くんが『いよいよか!』という顔になった。やる気のある生徒で、先生は嬉しいです。
「では錆兎くん、
「は──ハイ!?」
ん……? 突然真っ赤になって、どうしたのだろうか。
「なっ、何故そんなことを!?」
「え? いや、だって……見るだけではどれくらい吸ってるのかとか、分かりにくいでしょう?」
「で、ですがっ! 年頃の女性にそのような……!」
あーね。今私は十六歳。一応もう合法的に結婚できる年齢過ぎてるし、身体も女性らしくなってきた。……たぶんCはあるんじゃないかな。
ただ私、未だに自意識は男だからなぁ。
「構いません。私のことは男と思って接しなさい」
「しかし……!」
んー、だけどやっぱり女性の身体だからか、こういう時に男の子を『可愛い』と思うことは増えた気がする。
──だからちょっと衝動に従って、
「ふふ、アハハッ! ご心配どうもありがとうございます。ですがご安心を。私はアナタより強い。なんたって柱ですからね。仮にアナタが欲情して私に襲いかかってきても、私なら三秒で鎮圧できます。
鈍い、弱い、未熟──そんなもの、私にしてみれば『男』とは言えません。私に異性として見られたいなら、私より強くなることです。分かりましたか、さ・び・と・
──『ピキッ』と、錆兎くんの額に青筋が浮かんだ気がする。
「えぇ……よく分かりました──やっってやりますよ! 後悔しないでくださいね!?」
そして錆兎くんの手が、勢いよく私の胸に向かっていき──。
「──ぁんっ、んんっ!」
恥ずっ、変な声出た。
とりあえず距離を取って咳払いをしつつ、錆兎くんの様子を伺う。
──うん、手を伸ばした体勢のまま固まってるね。
「……言い方が、悪かったのでしょうか。確かに『私のことは男と思え』『胸に触れてください』とは言いましたが、
「すみませんすみません本当にすみません!!」
と言いながら、流れるような所作で土下座に移行。なるほどこれが水の呼吸──という冗談はさておき。
「今回だけ許します。次はありません」
「はい、もうしません……」
「……この助平」
「うぐっ」
まぁ、『胸』と言われたら『おっぱい』と思っちゃう男の子の気持ちも分かるし、このくらいにしておいてあげよう。私がTS転生者で命拾いしたな錆兎くんよ。
「立って、手を出してください」
「……はい」
私はその手を取り、脇下から肋骨下部辺りを触れさせる。
「肺のある位置的に、ここが一番動きの分かりやすい場所です。
今から炎の呼吸を使いますので、後に続いてください」
「はい……!」
*
吸って、吐いて。吸って、吐いて。
『ゴオオ』という、特徴的な音に耳を傾ける。
目を閉じて、神経を指先と、音の聞き分けに集中する。そうやって、余計なものを削ぎ落とす。
──俺の師匠は、不思議な人だった。
『お館様の姉君』で、『入隊後最短かつ最年少で柱になった天才』だと聞いていたから、きっと自信家で高圧的な人物だろうと思っていたのだが……実際に会ってみると、全然違ったのだ。
俺より身長が高かったから、視線は見下す形になっていたけれど。その目は慈愛に溢れていた。俺や給仕の方といった、目下の人間に対しても、丁寧な口調を崩さない人だったのだ。それに、意図せず初日から無礼を働いてしまったけれど……あっさりと許してくれた。
何より不思議だったのは、『鬼殺隊の女性』というと、葦実姉さんのように男勝りな人や、悲痛な覚悟を持った儚い人を想像しがちだが……師匠はなんというか、別の意味で『男らしい女性』かつ『危うい人』だった。
そう、例えば──。
「錆兎くん、あなたもしや、肺の動きが
「分かるんですか? 極限まで集中してる時、たまに透けて見えます」
「驚きました……錆兎くん、炎と水だけと言わず、五大流派と『変転』も習得してみませんか? 君なら本当に、『虹柱』を継げるかもしれません」
これは継子になってから数日後、炎の呼吸のコツを掴み始めた頃の会話だ。
「正直に言うと、剣技の練度において、私は他の柱に及びません。それでも私が柱の一員として働けているのは、透視によって相手の動きを先読みし、最適な状況で最適な技を繰り出せるからです。この眼があってこその『七色の呼吸』と言えるでしょう」
そう言うと、師匠はなんと──
「なっ、何をしてるんですか!?」
「極限まで集中している時のみ、透けて見えると言いましたね。錆兎くんに透視の才能があると分かった以上、これを伸ばさない手はありません」
「それは分かりますけど、どこに脱ぐ必要が!?」
「霞の呼吸の剣士は、大きめの衣服を着用することが多いです。それには体格を誤魔化し、間合いや動きを読みにくくするためという意図があります。
今回はその逆。私の動き、ひいては肺や心臓、筋肉の収縮さえも見てもらって、透視の訓練をして頂きます」
「これだと集中できないので逆効果です!!」
「減るものじゃないんですし、どれだけ凝視されても構いませんよ。というか、初日に私の胸を揉みしだいた時点で今更でしょう」
「いや揉んではいませんよ!?」
「鷲掴みにしたんですから同じようなものです。やらないなら、今度まこちゃんと義勇にこのことを言いつけます」
「それだけは勘弁してください」
とまぁこのように、非常に無防備なのだ。
風呂上がりの時は絶対に肌を晒さないようにしている──
──そんな師匠の秘密を知るのは、もう少し先の話。
*
明治コソコソ噂話
「……おはようございます、師匠」
「うん、おはよう義勇。おめでとう! 寝てる間も水の呼吸を維持できてたよ。全集中の常中、体得だね」
「……これで次は(最終選別に)合格できるだろうか」
「何を言ってるの? 義勇は今回で合格だよ?」
「俺は(最終選別に)合格していません」
「???」
安定の冨岡である。
*
オマケ2
杏寿郎が虹柱邸に来ていた場合。
「──不知火ッ、昇り炎天ッ、気炎万象ッッ!!
逃げるな貴様ッ、大人しく腕を差し出せ!!!」
「うおおおおお待て待て待てッッ! 俺が悪いのは認めるが、どう考えても不可抗力だろアレはっ! あの言い方で誤解しない男がいるか!?」
「男で一括りにするなケダモノめッ! 常識的に考えて、触る前に確認くらい取るだろう!?」
「取ったぞ!? 俺が確認してたの、お前も聞いてたよな!?」
「あんなものは確認の内に入らん!!!」
「チクショウめぇぇぇッ!!! というかそろそろ助けてくれてもいい頃だと思うんですが師範!?」
「……しょうがないですね。
杏寿郎。私は怒ってないので、その辺りに」
「姉さんが許しても、俺が許さんッッ」
「…………そんなに目くじら立てなくてもいいじゃないですか。杏寿郎だって、私の胸を揉んだことくらいあるでしょう?」
「「!?!?」」
「ほら、昔はよく一緒にお風呂で──」
「ですからそれはっ、赤子同然の……ッッ」
「へぇぇ? そうですかぁ、赤子同然の時でしたかぁ。でもおかしいですねぇ。私の記憶だと、最後に湯船を共にしたのは──」
「それ以上喋ったらもう口ききませんからね!?」
──こんなことに、なっていたかもしれない。