鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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閑話:狐の蝶は岩にとまる

 

「── 一人と言わず、沢山の人間が喰いたくねぇか!?」

 

 誰もが寝静まった夜の山の中で、少年は鬼と対峙していた。

 

「……どういうことだぁ?」

 

 少年の名は『獪岳』

 孤児である彼は、とある青年に引き取られ、同じく孤児である八人の子供と共に、お寺で暮らしていた。

 貧しい生活ではあったが、彼らは仲睦(なかむつ)まじく、幸せに暮らしていた。しかし……。

 

(運がねぇ。今日はとことんツイてねぇ!)

 

『そういえば今日から、十八だな』

 

 今日は八月二十三日。彼の育て親、悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)の誕生日だ。

 この時代にはまだ、誕生日を祝う風習はなかったが……行冥の呟きを偶然聞いた獪岳は、彼の誕生日を祝おうと考えた。

 ……しかし、彼の不幸はここから始まる。

 

『獪岳アンタ、そのお金どうする気よ!?』

 

 こっそり贈り物を用意して、行冥を驚かせようと考えた獪岳は……同居人達から隠れるようにお金を持ち出そうとして、見つかった。

 その結果彼は盗人(ぬすっと)扱いされ、寺を追い出されたのだ。

 

 身一つで放り出された彼は必然、食糧を求めて山へ入り……鬼に遭遇してしまった。

 獪岳は必死に走って逃げたが、すぐに追いつかれると気付き──冒頭へ至る。だが、この台詞は()()()()()()()()()()()

 

「近くの寺に、大人が一人と、子供が八人居る! 俺を見逃してくれるなら、俺が藤のお香を消して、アンタを招き入れてやる!」

 

()()()()()! これで見逃してくれりゃあ、後は藤のお香を消さずに朝までじっと──)

 

 そう、獪岳は家族を身代わりにする気なぞ無かった。ただ、

 

「【()()() 虚言(きょげん)(ふう)じ】」

 

「……え?」

 

 ──獪岳は、運がなかった。

 

「オレはよぉ、嘘吐きが大嫌いなんだぁ。だからよぉ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞぉ?」

「あ、が、なっ……!?」

 

 彼が遭遇した鬼は、異能の鬼だったのだ。

 獪岳は、『己の発言を真実にするための行動』を取り始めた。

 

(なんだこれ……なんで身体が言うことを聞かないんだ!?)

 

 そして彼は、寺のお香を消した。もう、彼らを守るものは何もない。

 

(ヤバい……ヤバいヤバいヤバい! このまま戻ったら、用済みの俺は食われる。その後で、皆も食われる……!)

 

 ────だが、

 

「よぉし、じゃあなぁ坊主ぅ」

「……ぇ」

 

 鬼は、獪岳を食わなかった。

 

「何驚いた顔してんだぁ? お前は見逃すって約束だろぉ? オレは嘘が大嫌いっつったじゃねぇかぁ……」

「…………」

 

 獪岳は、その場に無言で(くずお)れた。

 

 ──その時彼が真っ先に感じたのは『安堵』

 次に『怒り』 そして『悲しみ』

 

(クソ野郎! クソ野郎! このどうしようもないクソ野郎がッ!!)

 

 最初にするのが自分の心配。次に、そんな自分への怒り。一にも二にも自分のこと。……これは別に、おかしなことではない。

 安全圏から『自分が助かったことを喜ぶな』『人を助けるために死ね』と言う輩の方が、よほどおかしいだろう。

 

 ただ、この場には誰もいなかった。一人取り残された少年を責めるのも、庇うのも、彼自身しかいなかった。

 

(……俺のせいなもんか)

 

 少年は罪の意識に耐え切れず、己の心を捻じ曲げた。

 

(そうだ。勝手にアイツらが俺のことを盗人扱いして、鬼が出るって分かってる場所に放り出したんじゃねぇか!

 殺されそうになったんだ。俺は自分の身を守っただけ。

 これでいい。これで……)

 

 そうして少年は(うつろ)な目で、おぼつかない足取りのまま、目的地もなく歩き始めた。ただ漠然と『生きるため』に。なんのために生きるかも分からぬまま。自分で壊した、『幸せを入れられない箱』を抱えて歩いていく。

 

 ──彼が救われるのは、もう暫く後のお話。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「……なんだぁ? おめぇはぁ……」

「鬼殺隊、階級『甲』 鱗滝葦実。『なんだお前』はこっちの台詞だっての。どうしてアタシが、こんな()()()()()()程度の雑魚しかいないような地域に──」

 

「【血鬼術 虚言封じ】」

 

「──ッッ!?」

 

 葦実は、完全に油断していた。

 元来慎重である彼女は、任務にあたる前に入念な下調べを行う。故に彼女は、この地域の人間が藤のお香での自衛を徹底していることを知っていた。だからこその、『この地域には雑魚しかいない』という発言。だからこそ、彼女は『藤のお香が消されている寺』の前で待ち伏せすることができたのだ。

 彼女は油断していたが、慢心していたワケではない。ただひたすらに、運がなかっただけ。

 

(こんな場所に異能の鬼とかウソでしょ!? ああもうッ、でもまだ術は発動してない! やられる前に殺る!!)

 

 水の呼吸 壱ノ型──

 

「──カハッ!?」

 

 鬼は血鬼術を使った後、すぐさま逃げ出した。当然葦実は追ったが、五秒で追い詰め首を落とすことはできなかった。しかも……。

 

(最ッッ悪!! よりにもよって肺をやられた……! 全集中の呼吸が使えない……!)

 

「ハッハッハッハッハ!!! ザマァねぇなぁ! 鬼殺隊は肺が命だってのによぉ!!」

 

(チクショウ、アタシに真菰くらいの足があればなぁ……!)

 

 ──だが、鬼にとっての幸運はここまでだった。

 

「何の騒ぎだ……?」

 

 寺の青年。行冥が、騒ぎを聞きつけ表に出てきたのだ。

 

「……藤の香炉が消されているな。誰の仕業だ……? まぁいい。それよりお姉さん、体調が悪いなら、家で休んでいくといい」

「なに、いってる……! 逃げ、ろ……!」

 

「逃がすワケねぇだろぉ!!」

 

「うるさい」

 

 『バゴン』という、硬いものが壊れるような音がして──鬼が吹っ飛んだ。行冥が、藤の花を握った拳で鬼を殴ったのだ。

 

「……驚いた。鬼というのは、本当に藤の花が嫌いなのだな。こんなに吹っ飛ぶとは」

 

((違ぇよテメェの馬鹿力だよ!!))

 

 鬼と葦実の心が一つになった瞬間だった。

 

「アンタ……! アタシの、刀を、使いな……!」

「何故刀を持っているか……今は聞くまい……だが、鬼とは言え殺生は……」

 

「ハッハァ! 甘ちゃんがよぉ! ソイツが今苦しんでるのは、オレが呪ってるからだぜぇ!? オレが死ぬまで、ソイツは苦しみ続ける! その刀じゃなきゃあ、オレは殺せねぇ!」

「……何故わざわざ、そのようなことを言う……」

「オレは嘘が大嫌いなんだぁ! 他人が嘘をついたら呪い殺す! だが自分だって、嘘を吐く気はねぇのよぉ! だから、お前達のとこまでオレを案内したガキも見逃したぁ! だが、オレがお前を食えずに生き残っちまったら、アイツも『嘘吐き』になっちまうなぁ!!」

「何……!? その子は今どこだッ!」

「知らねぇなぁ!」

「お前を斬らなければ、二人はどうなる!?」

「死んじまうなぁ!!」

 

「…………刀を、借り受ける」

「……あぁ」

 

「……最後に聞かせよ。貴様は何故、自ら不利になる話をした」

「言ったろぉ。オレは嘘が嫌いなんだぁ。オレは負けた。ならここまでよぉ」

「……そうか」

 

 行冥は、鬼の首を斬り飛ばした。

 

「──聞きたいことがあります」

「……なにさ」

「鬼というのは、元人間なのですか?」

「……そうだ」

「元に戻す方法は?」

「ない」

「……そうですか。

 して、つかぬ事を伺いますが……貴女の居る組織、給金は出るのでしょうか?」

「……自分で言うのも何だが、高給取りだよ。命懸けの仕事だからね」

「子供を八、九人ほど養いながらでも大丈夫だろうか……」

「……藤の花の家紋を掲げた家を頼ればいい。今の状況よりは、大分よくなる」

 

「──ならば、決めました。貴女についていきます」

「歓迎するよ。鬼殺隊へようこそ」

 

 ──後の『鬼殺隊最強』悲鳴嶼行冥が、入隊した。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 現在現役の柱達。

 最古参の花柱。歳が来てるのでそろそろ引退したい。

 炎柱、煉獄槇寿朗。歳が来てるのでそろそろ引退したい。

 水柱、鱗滝真菰。最近優秀な弟弟子が二人もできたし、そろそろ引退かな。

 虹柱、産屋敷かぐや。寿命により途中リタイア確定(そうでなくとも死ぬ気満々)

 

 未来の岩柱「南無……(白目)」

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