「──実弥、実弥! 聞いたか!? 大変なことになったぞ!」
「どうした匡近ァ」
ある日の朝。匡近が慌てた様子で家を訪ねて来た。
時は流れ、俺は遂に甲となった。匡近も少し遅れて甲になり、先に柱になった方に牛鍋を奢る約束をしたのは記憶に新しい。
「その様子だと、まだ聞いてないみたいだな」
「おう」
「明日、俺とお前ともう一人で、合同任務がある」
「甲二人をつけるたァ、随分と期待されてる奴らしいなァ」
「そう思うだろ? だが逆だ」
「逆──? まさかッ!」
「そう!
文字通り鬼殺隊を支える『柱』は、よっぽどのことがないと動かせない。後進の育成なぞ、『継子』という専用の制度を定めて行っているくらいだ。一体、誰が来るというのか──。
「誰だと思う? なぁ、誰が来ると思う?」
「……その顔、知ってて『早く言いたい』って感じの顔だな」
「おう! さぁ、実弥は誰が来ると思う?」
「…………」
分からないが……おそらく花柱は違うだろう。何度も顔を合わせているから、胡蝶であれば態々ここまで慌てて報告には来ない筈だ。
同じ理由で、水柱も可能性は低い。胡蝶ほどではないにせよ、しのぶ繋がりで何度か顔を合わせたことがある。
炎柱は……俺達が話題にすることは少ないし、おそらく違う。となると──。
「岩柱か。前にお前、『憧れる』つってたからなァ」
「……お前、マジか。確かに言ったけどさぁ……」
「あァ? じゃあ、炎柱か」
「違ぇよ! お前が会いたがってた、
「────」
一瞬、思考が停止した。
今、匡近は何と言った? 彼女が──かぐや様が来ると言ったのか?
「……それ、マジか」
「マジもマジ! 大マジだ!!」
「なっ、なんでだァ!? なんで何の関係もない甲二人のために、虹柱様が動く!?」
「前回の柱合会議で、『甲の隊員は何人もいるのに柱の席が空きっぱなしな件』が議題になったらしくてな? 柱が直々に、甲の隊員の質を見定めることにしたらしい」
「それでかァ……」
「胡蝶さんに感謝しろよ? かぐや様の視察第一号に、俺らを推薦してくれたらしいからな」
「余計な気ィ回しやがってェ……」
そう言いつつ、口角が上がっているのが自分でも分かる。
彼女に言われた通り、俺は強くなった。殺すのではなく、隣に立つために。
予定より少し早くなってしまったが……この力を、今こそ彼女に示す時──!
*
──そう、意気込んでいたのだけど。
「粂野匡近さんと、不死川実弥さんですね?
彼女は開口一番、
……考えてみれば、当然の話だ。彼女が倒した鬼の数は、柱の中でも最多と聞く。その分、彼女は多くの被害者を目にしているのだ。何年も前に一度顔を合わせただけの相手なぞ、逐一覚えている筈がない。
「……お初にお目にかかります。階級甲、粂野匡近です。お忙しい中お時間を割いて頂き、誠にありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願い致します」
「お初にお目にかかります。同じく階級甲、不死川実弥です。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
いつまでも返事をしないワケにもいかないので、匡近に続いてなんとか挨拶を返すが……マズい。甲ともあろう者が、こんな精神状態ではマトモに任務がこなせるか……。
「あー……お二人共、そんなに畏まらなくてもいいんですよ? カナエさんと接するみたいに、気軽に話しかけてくだされば結構です」
「……では一つ、質問をよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞどうぞ」
……? 匡近の奴、何を聞く気だ……?
「虹柱様は鬼の討伐数が、柱の中でも最多であるとお聞きしております」
「えぇ、そうですね」
「刀は消耗品ですし、破損は珍しくありません。しかし記録を見るに、虹柱様は活動休止期間が異様に少ないですよね。その刀、もしや隊士になってから、
(……どいつもこいつも、余計な気ィ回しやがってェ)
この質問で、俺のことを思い出させようとしているのだろう。何故なら彼女は少なくとも一度、俺達兄弟に刀を渡したことで、武器を失っているのだから。
「そうですねぇ……刀を破損させたことは一度もありませんが、この日輪刀は二本目ですよ」
「では、一本目はどうされたのですか?」
「とある兄弟に譲ったんです。今どちらが持っているのかは分かりませんが……」
「あぁそれ、兄の方が持ってますよ」
「はい?」
「ほら、実弥」
かぐや様の視線が、こちらに向く。
居た堪れない気持ちになりつつ、俺はおずおずと刀を手渡した。
彼女は無言で刀を抜き、それが確かに彼女自身の刀であることを確認する。
「「…………」」
そして数秒、互いの顔を見つめて──。
「──ウソでしょう!? 完全に別人と化してるじゃないですかっ!!」
「……実弥お前、顔変えたのか?」
「何言ってやがる」
かぐや様が予想以上に取り乱したことで、匡近まで真顔で寝言を言い始めた。
「……俺はそんなに、変わりましたか?」
「……それは、分かりません。
ただ、呼吸が通常の風の呼吸だったなら……おそらくすぐに気付けました。でも、不死川さんのそれは……全ての型の攻撃範囲を、一段上に引き上げるものです。より荒々しくなった型は、不必要に鬼を苦しめることにもなりかねません。
……あんなに優しい目をしていたアナタが、これほど恐ろしい技術を生み出したという事実が……今でも信じ難い」
『兄ちゃんは、この世で一番優しい人だから』
『心配なのよ。あなたはやさしすぎるから』
……どいつもこいつも、俺よりよっぽどお人好しなくせに……どうして口を揃えて、そんなことを言うのだろうか。
「……さっさと任務を片付けましょう。早くしねェと、雨が降りそうだァ」
「あっ、オイ待て実弥! 先走るんじゃねぇ!
虹柱様、アレはただの照れ隠しですから心配しないでくださいね」
こうして俺達は、任務の場所である屋敷へ向かった──。
*
明治コソコソ噂話
Q:そういえば前回、実弥がかぐやについて『隊士になってから今日に至るまでの八年間で、活動を休止する程の傷を負った回数は一回だけ』と言ってましたが、それなら柱就任最短記録の方も、頑張れば無一郎くん抜けたんじゃないですか?
A:「無理に決まってるじゃないですか。アレの二ヶ月って、隊士になってからじゃなくて、
「……ちなみに無一郎くんと行冥さんの影に隠れがちですけど、十七歳まで一般人やってたのに十九には柱になってる蜜璃さんも地味にチート側ですよね」
オマケ。
『……この特徴的過ぎる髪型、炭治郎くんに腕を折られていたあの子ですか』
『…………日輪刀、すっごく欲しがってたっけ』
『……ん、不死川実弥……未来の風柱ですか。いつものことですが、余計なことを口走らないようにしませんとね』
『──え゛っ、兄弟!? あの優しい目をしてたお兄ちゃんが、正史で理性も知性も無いガンギマリの眼をしてた不死川実弥!? えっ、ふぁあ!?』
※注:彼女はアニメ勢で無限列車までしか知りません。(第一話参照)