前にも言ったが、私──虹柱の担当区域は、他の柱より広い。だから基本的には忙しい。
そして
「だ、ダメです……! このままでは、典型的なダメ人間になってしまいます……!」
朝、柔らかい布団で目が覚めて。綺麗に洗濯された着物が用意されていて。部屋から出ると、可愛い義妹が『そろそろ起きると聞いていた』と言ってご飯を用意してくれて……しかも食べ終わったら食器も洗わず、お茶を飲みながら本を読んでいる。
「なんですか、この至れり尽くせりは!? 堕落不可避でしょうこんな生活!」
起床から数時間で、既にちょっと堕ちかけている自分がいる。アカン。
「こんな時は……そう、原点回帰です! 思い出しなさい産屋敷かぐや! アナタの目的はなんですか!?」
私の目的は、耀哉と杏寿郎を曇らせて号泣させること! 槇寿朗さんに瑠火さん、まこちゃん、錆兎、竈門家の皆、柱の皆にも曇ってもらえたら更に嬉しい!!
「……下手しなくても私、そこらの鬼より『悪鬼』なのでは??」
斬るべきものはもう在る……(cv日の呼吸正統後継者父)
という冗談はさておき、ホントにどうしましょう。休日って、休む日でしょう? もう私、半日くらい寝た上に本一冊読み終わったから*1、気力も体力も全快ですよ?
「……皆さん、休日は何をしてらっしゃるのでしょう?」
カナエさんは、役割的に年中無休な蝶屋敷の主人だし……杏寿郎と不死川さんは
まこちゃんは……こないだ行冥さんと一緒に猫と
後は宇髄さんだが……たしか温泉が好きと言っていたか。
「──そうだ温泉! 休日にピッタリの場所じゃないですか!」
一口に温泉と言っても種類があるからね。成分やpHなどの違いで効能も異なってくるのだ。色とか匂いとか、そういったものの差異を楽しむのも良いだろう。数日使って各地を巡るのも悪くない。
──うん。おかげでしばらくは、退屈しないで済みそうかな?
*
──鬼殺隊当主、産屋敷耀哉は人望がある。柱を始めとして、彼と出会い、言葉を交わした者は皆、彼に心酔していく。
『音柱』
天元は『顔だけで食っていけるような色男』であることに加え、派手好きで明るい性格と話の上手さから、耀哉同様人に好かれやすい男である。実際、同僚の柱と彼の仲は良好だ。
……しかし、彼が他の柱や耀哉と打ち解けるまでの過程は、少々特殊なものとなっている。
天元は、元忍であった。
命を消耗品のように扱う父のやり方に疑問を覚え、離反こそしたが……彼は忍の全てを否定しているワケではない。
鬼殺隊とはまた別種の、合理的な肉体の使い方。話術や変装などの高い技術。そういった『使えるモノ』を、彼は肯定する。
忍の頭領となるべく育てられた彼は、当然人心掌握の技法にも精通している。故に彼は最初、簡単には耀哉に心を開かなかった。
……それでも結局は、毎日欠かさず墓参りと隊士の見舞いを行なっていた耀哉に、すぐ絆されることとなるのだが。
──問題はその後である。
『
天元は、己の手で他の柱やその関係者といった、主要な人物の調査も行なっていた。その中で、彼が最も『危険』と判断したのが『かぐや』だ。
『え、あの人の何が問題なんですか?』
天元の部下兼女房の三人娘の末っ子、須磨が首を傾げて質問する。
『……須磨。末端の隊士が抱く、お館様の印象はどんなだと思う?』
天元はこういう時すぐに答えを言わず、自力で考える機会を用意していた。須磨は『ウンウン』と眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
『……声が、綺麗な人?』
『直接会った奴はそうだな。だが大部分の隊士は、直接謁見する機会なんざ皆無だ。末端の隊士は特にな』
『顔も知らないんじゃあ、印象も何もないじゃないですか』
『その通りだ。なのに末端の隊士は、顔も知らないお館様へ
『???』
それこそ本当に何が問題なのか分からず、須磨は完全に固まった。
そこで見かねた雛鶴は、助け舟を出すことにしたようだ。
『須磨。天元様は最初、誰について調査しろと言っていたか覚えてる?』
『……かぐやさん』
『お館様はかぐやさんの何かしら?』
『……弟』
──それが答えだ。
『そう。末端の隊士は大体、お館様のことを『自分達の
今は虹柱が派手に尊敬を集めているからいい。だがもし、奴が問題を起こしたら? もっと言うなら──反旗を翻したら?』
『うーん、確かにそれは恐ろしい話ですけど……やる気ならもうとっくにやってんじゃないですか?』
『……まぁ、謀反は無いと俺も思ってる。だが、コレはお前達にだから言うんだが……アイツは既に、ド派手な問題を起こしてやがる』
『────』
言外に『心配しすぎだ』と言っていたまきをの表情が、真剣なものに変わる。内心同じことを考えていた雛鶴も、
『今の産屋敷邸には、
鬼を当主の家に招き入れる──そんな重大すぎる叛逆行為の真意を、雛鶴は天元の言い方から読み取った。
『二人ですか。二体ではなく』
『そうだ。鬼の医者と、その従者。どちらも人を襲わず、鬼舞辻と敵対する意思がある
『……でも、大部分の隊士は『鬼の協力者』なんて認めない。その存在がバレたら、虹柱の信用は地に堕ちる。連鎖的に、お館様も……』
『当然、そうなるわな。だからお前達にも、虹柱が他に何か問題を起こしていないか、万が一にも裏切る恐れはないか、調べてほしいってワケだ』
『『『承知』』』
──そして、一月後。
『まずは須磨。報告を』
『はい。調査の結果──彼女は男性女性、どちらも好きということが分かりました』
『いや地味に何の調査してんだよ』
『間違いありません。私達を見る目が、須磨と同じでした。どちらかと言うと、女性の方が好きなのかもしれません』
『本当にどういう調査してたんだ!?』
須磨のトンチンカンな報告に、まきをまで真顔で補足を入れ始めたことで、天元は頭を抱えたくなった。
『彼女の秘密は、本当にそんな程度のものしかなかったんです。シロもシロ。真っ白でした』
『そうか……まぁ、俺の調査結果と同じだから安心したがよ……』
知りたくないことまで知ってしまった天元は、大きく溜め息を吐いた。
『アレをオトすのは派手に難しいみてぇだぞ……杏寿郎よぉ……』
かぐやに
*
明治コソコソ噂話
かぐやと杏寿郎について。
槇寿朗「かぐや様が本当に娘になってくれたら嬉しいんだがなぁ……」
行冥 「アレは……お互い
天元 「派手に厄介な女に惚れちまった杏寿郎は頑張れ……」
カナエ「ちょっと個人的な事情も含め、煉獄くんには頑張ってほしいと思ってるの。だから全力で手助けするわ!」
実弥 「あの二人は仲良いよなァ……ん、なんですか悲鳴嶼さん。……煉獄がかぐや様に懸想してる!? お、おう。そうかァ……頑張れよ煉獄……」
天元は原作だと杏寿郎を『煉獄』と呼びますが、こちらだと槇寿朗さんが真面目に働いているので、区別のために下の名前で呼んでます。
引退はカナエさんの柱就任と同時期なので、以降の柱は大体『煉獄』と呼びます。
かぐや「あと関係ないですけど、アニメ版無限列車第一話に出てくるあのモブなんなんでしょうね。何度も杏寿郎のことを馴れ馴れしく『炎柱』『炎柱』と呼び捨てにするなんて……」(注:『社長様』など、役職に敬称を付けるのは間違いなので、むしろ彼は正しい)