鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第十四話:かぐやの休日(二日目)

 

 前にも言ったが、私──虹柱の担当区域は、他の柱より広い。だから基本的には忙しい。

 そして(せわ)しなく働いていると、野宿の経験も多くなる。というか私は大体野宿だ。つまり何が言いたいのかというと……。

 

「だ、ダメです……! このままでは、典型的なダメ人間になってしまいます……!」

 

 朝、柔らかい布団で目が覚めて。綺麗に洗濯された着物が用意されていて。部屋から出ると、可愛い義妹が『そろそろ起きると聞いていた』と言ってご飯を用意してくれて……しかも食べ終わったら食器も洗わず、お茶を飲みながら本を読んでいる。

 

「なんですか、この至れり尽くせりは!? 堕落不可避でしょうこんな生活!」

 

 起床から数時間で、既にちょっと堕ちかけている自分がいる。アカン。

 

「こんな時は……そう、原点回帰です! 思い出しなさい産屋敷かぐや! アナタの目的はなんですか!?」

 

 私の目的は、耀哉と杏寿郎を曇らせて号泣させること! 槇寿朗さんに瑠火さん、まこちゃん、錆兎、竈門家の皆、柱の皆にも曇ってもらえたら更に嬉しい!!

 

「……下手しなくても私、そこらの鬼より『悪鬼』なのでは??」

 

 斬るべきものはもう在る……(cv日の呼吸正統後継者父)

 という冗談はさておき、ホントにどうしましょう。休日って、休む日でしょう? もう私、半日くらい寝た上に本一冊読み終わったから*1、気力も体力も全快ですよ?

 

「……皆さん、休日は何をしてらっしゃるのでしょう?」

 

 カナエさんは、役割的に年中無休な蝶屋敷の主人だし……杏寿郎と不死川さんは私の同類(ワーカーホリック)*2だし……。

 まこちゃんは……こないだ行冥さんと一緒に猫と(たわむ)れてたな。尊い。てかあの二人はそろそろくっつけ。両想いなの知ってるんだからな。

 

 後は宇髄さんだが……たしか温泉が好きと言っていたか。

 

「──そうだ温泉! 休日にピッタリの場所じゃないですか!」

 

 一口に温泉と言っても種類があるからね。成分やpHなどの違いで効能も異なってくるのだ。色とか匂いとか、そういったものの差異を楽しむのも良いだろう。数日使って各地を巡るのも悪くない。

 ──うん。おかげでしばらくは、退屈しないで済みそうかな?

 

 

 

 *

 

 

 

 ──鬼殺隊当主、産屋敷耀哉は人望がある。柱を始めとして、彼と出会い、言葉を交わした者は皆、彼に心酔していく。

 『音柱』宇髄(うずい)天元(てんげん)も、そうして彼に深い忠誠を誓った一人だ。

 

 天元は『顔だけで食っていけるような色男』であることに加え、派手好きで明るい性格と話の上手さから、耀哉同様人に好かれやすい男である。実際、同僚の柱と彼の仲は良好だ。

 ……しかし、彼が他の柱や耀哉と打ち解けるまでの過程は、少々特殊なものとなっている。

 

 天元は、元忍であった。

 命を消耗品のように扱う父のやり方に疑問を覚え、離反こそしたが……彼は忍の全てを否定しているワケではない。

 鬼殺隊とはまた別種の、合理的な肉体の使い方。話術や変装などの高い技術。そういった『使えるモノ』を、彼は肯定する。

 忍の頭領となるべく育てられた彼は、当然人心掌握の技法にも精通している。故に彼は最初、簡単には耀哉に心を開かなかった。

 ……それでも結局は、毎日欠かさず墓参りと隊士の見舞いを行なっていた耀哉に、すぐ絆されることとなるのだが。

 

 ──問題はその後である。

 

雛鶴(ひなづる)、まきを、須磨(すま)。虹柱、産屋敷かぐやについて調査しろ。()()()()()()()()()()

 

 天元は、己の手で他の柱やその関係者といった、主要な人物の調査も行なっていた。その中で、彼が最も『危険』と判断したのが『かぐや』だ。

 

『え、あの人の何が問題なんですか?』

 

 天元の部下兼女房の三人娘の末っ子、須磨が首を傾げて質問する。

 

『……須磨。末端の隊士が抱く、お館様の印象はどんなだと思う?』

 

 天元はこういう時すぐに答えを言わず、自力で考える機会を用意していた。須磨は『ウンウン』と眉間に皺を寄せて考え込んでいる。

 

『……声が、綺麗な人?』

『直接会った奴はそうだな。だが大部分の隊士は、直接謁見する機会なんざ皆無だ。末端の隊士は特にな』

『顔も知らないんじゃあ、印象も何もないじゃないですか』

『その通りだ。なのに末端の隊士は、顔も知らないお館様へ()()()()()()()()()()()

『???』

 

 それこそ本当に何が問題なのか分からず、須磨は完全に固まった。

 そこで見かねた雛鶴は、助け舟を出すことにしたようだ。

 

『須磨。天元様は最初、誰について調査しろと言っていたか覚えてる?』

『……かぐやさん』

『お館様はかぐやさんの何かしら?』

『……弟』

 

 ──それが答えだ。

 

『そう。末端の隊士は大体、お館様のことを『自分達の(おさ)』ではなく『虹柱の弟』として認識していやがるんだ。

 今は虹柱が派手に尊敬を集めているからいい。だがもし、奴が問題を起こしたら? もっと言うなら──反旗を翻したら?』

『うーん、確かにそれは恐ろしい話ですけど……やる気ならもうとっくにやってんじゃないですか?』

『……まぁ、謀反は無いと俺も思ってる。だが、コレはお前達にだから言うんだが……アイツは既に、ド派手な問題を起こしてやがる』

『────』

 

 言外に『心配しすぎだ』と言っていたまきをの表情が、真剣なものに変わる。内心同じことを考えていた雛鶴も、居住(いず)まいを正して次の言葉を待った。

 

『今の産屋敷邸には、()()()()()()()()()。引き入れたのは虹柱だ』

 

 鬼を当主の家に招き入れる──そんな重大すぎる叛逆行為の真意を、雛鶴は天元の言い方から読み取った。

 

『二人ですか。二体ではなく』

『そうだ。鬼の医者と、その従者。どちらも人を襲わず、鬼舞辻と敵対する意思がある()()だ。あのお医者様が持ってきてくれた情報のおかげで、百年停滞していた状況が派手に改善した。それは間違いない』

『……でも、大部分の隊士は『鬼の協力者』なんて認めない。その存在がバレたら、虹柱の信用は地に堕ちる。連鎖的に、お館様も……』

『当然、そうなるわな。だからお前達にも、虹柱が他に何か問題を起こしていないか、万が一にも裏切る恐れはないか、調べてほしいってワケだ』

『『『承知』』』

 

 

 ──そして、一月後。

 

 

『まずは須磨。報告を』

『はい。調査の結果──彼女は男性女性、どちらも好きということが分かりました』

『いや地味に何の調査してんだよ』

『間違いありません。私達を見る目が、須磨と同じでした。どちらかと言うと、女性の方が好きなのかもしれません』

『本当にどういう調査してたんだ!?』

 

 須磨のトンチンカンな報告に、まきをまで真顔で補足を入れ始めたことで、天元は頭を抱えたくなった。

 

『彼女の秘密は、本当にそんな程度のものしかなかったんです。シロもシロ。真っ白でした』

『そうか……まぁ、俺の調査結果と同じだから安心したがよ……』

 

 知りたくないことまで知ってしまった天元は、大きく溜め息を吐いた。

 

『アレをオトすのは派手に難しいみてぇだぞ……杏寿郎よぉ……』

 

 かぐやに(よこしま)な視線が向けられた時、最も強い敵意を(あらわ)にする青年へ向けて、彼は静かに黙祷するのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 かぐやと杏寿郎について。

 

槇寿朗「かぐや様が本当に娘になってくれたら嬉しいんだがなぁ……」

 

行冥 「アレは……お互い姉弟(きょうだい)だと思っているな……先は長い……」

 

天元 「派手に厄介な女に惚れちまった杏寿郎は頑張れ……」

 

カナエ「ちょっと個人的な事情も含め、煉獄くんには頑張ってほしいと思ってるの。だから全力で手助けするわ!」

 

実弥 「あの二人は仲良いよなァ……ん、なんですか悲鳴嶼さん。……煉獄がかぐや様に懸想してる!? お、おう。そうかァ……頑張れよ煉獄……」

*1
森鴎外の舞姫は頁数二十もない短編

*2
正確にはワークエンゲージメント




 天元は原作だと杏寿郎を『煉獄』と呼びますが、こちらだと槇寿朗さんが真面目に働いているので、区別のために下の名前で呼んでます。
 引退はカナエさんの柱就任と同時期なので、以降の柱は大体『煉獄』と呼びます。

かぐや「あと関係ないですけど、アニメ版無限列車第一話に出てくるあのモブなんなんでしょうね。何度も杏寿郎のことを馴れ馴れしく『炎柱』『炎柱』と呼び捨てにするなんて……」(注:『社長様』など、役職に敬称を付けるのは間違いなので、むしろ彼は正しい)
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