鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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間話:真菰と実弥(休日四日目の後)

 

 (存在しない)前回のあらすじ

 かぐやから『柱の特権について説明がある』として呼び出された実弥。説明自体は普通に『給金』『住居』『階級章代わりの刻印刀』『次の柱合会議はいつか』『会議と合わせて行う就任式で必要な予備知識』『想定されている担当区域』などの真っ当な説明だったのだが……。

 

『その……不死川さんは、私が憎くはないのですか?』

 

 かぐやは呼吸から、彼に恨まれているどころか敬意を向けられていることを察してはいたが……二人切りで会ってみて、ようやくそれを実感したらしい。

 説明を終えた後はごく普通の茶会となったが、最後に放たれた、この戸惑いと不安が混じった言葉が……下弦の壱の言葉と相まって、実弥の心にこびりついて離れなかった……。

 


 

「──かぐちゃんのご両親について?」

「はい」

 

 行きつけの茶屋で湯呑みを傾けつつ、俺と水柱──鱗滝真菰は対談していた。

 先代当主については他の同僚、悲鳴嶼さんにも聞いてはみたが……『現役の柱で先代についてご存知なのは、真菰さんだけ』という話だったので、こうして腰を据えて話せる場所に来てもらったのだ。

 

「まぁ、話すのは(やぶさ)かじゃないんだけど……いつにも増して、怖い顔。何かあったんでしょ──まずは、キミの話を聞かせてほしいな」

「…………先日倒した、下弦の壱なんですが」

 

 昔からこうだ。伊達に年長者をやってないということなのか、世話焼き共は彼女以外にも何人か知っているが……この人が一番、話しやすい。不思議と気が立たないのだ。

 

「ふぅん……『親に虐げられてきた子供』だけを攫う鬼、ね……なるほど。察するに、かぐちゃんがソイツに攫われた、と」

「……話が早くて助かります」

 

「……()()()()()()()、その鬼」

 

 真菰さんが頬杖をついて、嘆息する。眉間には皺も寄っていた。

 いつも穏やかな雰囲気を纏っている彼女にしては珍しく、悪感情を隠さない声色。

 

「かぐちゃんが両親に虐待されてたなんてことは、まずないと思っていいよ。あの子と先代様、すごーく仲が良かったんだから。それにお母様に至っては、物心が付いてすぐの頃に亡くなったって話だし」

「……そうでしたか」

「ん、納得してない顔。かぐちゃんと先代様の仲については、キミも身に染みて理解してると思ってたんだけど」

「え?」

 

()()()。預かってたんでしょ? 我が子を大切にできる人じゃなかったら、あんな規格外の業物(わざもの)用意しないと思うな。私は」

 

「……では、かぐや様の卑屈さと先代様に関係はない……という認識で間違いはなさそうですね」

 

「ん……いや、それについては関係ないとは言わないけどね」

 

「!!!」

 

「あー待って待って。何かあったワケじゃなくて……あの子の卑屈さはね、先代様譲りなんだよ。つまり、単なる遺伝」

 

 遠い目でそう言う彼女に、俺は改めて先代様のことを聞くことにした。

 

 

 

 *

 

 

 

 あれは私が入隊してすぐの頃だったから……大体十四年前のこと。

 その時にはもう耀哉様が当主になっていたけれど、先代様はまだご存命だったんだ。

 

 かぐちゃんのことをよく調べてるキミなら知ってると思うけど、あの子は『最終選別死者数零』の立役者()()()。第一号はこの私。

 ここまではちょっと聞き込みをすれば出てくる情報だけど……これにはちょっとした裏話があってね。

 

 ──『最終選別の異形』って、聞いたことある?

 昔はね、居たんだよ。あの山に……何十年も生き残って、異形の鬼と化した個体が。

 

 ──あぁいや違うよ、私が倒したワケじゃないんだ。

 ソイツは人喰いは勿論、共喰いで飢えを凌ぎつつ鬼舞辻の血を濃くして……相当強くなってたみたいなんだけどね? その存在に勘付いたかぐちゃんが、柱を送り込んで倒しちゃったの。

 それが、私の最終選別直前に行われた『大掃討』 私が参加した最終選別は、例年のものより難易度が低かったってワケ。

 

 うん、そうだね。仮にソイツが生きていたとして、私が遭遇したかはわからない。

 でもね、()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。そう断言できる根拠が──()()。厄除の面。

 ソイツね、私の義父……鱗滝さんが捕まえた鬼だったんだ。それでソイツはお義父さんを逆恨みして、このお面を目印に『狩り』をしてたらしいんだよ。

 

 私が生還した時、お義父さんの反応がやけに大袈裟だなとは思ってたけど……私がその理由を知ったのは、数日後。遺品の仮面を届けに、先代様が狭霧山へいらっしゃった時なんだ。

 

 それでその時、ね……先代様が切腹しようとしたらしいんだよ。『管理不行き届きの責任を取る』って。

 勿論すぐに義父さんが止めたんだけど、流石のお義父さんもビックリしたみたいでさ……遠くまで声が聞こえてきたものだから、私も気になって覗き見盗み聞きしちゃったの。それで事の顛末を大体知ったワケ。

 

 私が直接先代様を見たのはそれっきりだったけど、かぐちゃんと仲良くなって、色々話を聞いてさ……『親子だな』って思ったよ。

 だってあの子曰く先代様は、『どこまでも優しくて』『寛容で』『だからこそすごく自罰的で、繊細な人だった』んだって。『そうなんだろうな』って納得はしたけど、それ以上に『自己紹介かな?』としか思えなくってさ……つい笑っちゃったよ。

 

 ん、その時のかぐちゃん? あーね、『父のように優しく寛容であろうとは努めていますが、流石にあそこまで繊細じゃあないです』ってむくれてたよ。

 

 ──少なくとも私の目には、ただの『お父さんが大好きな子供』にしか見えなかったかな。

 

 だからね……あの子のお父さんは、悪い人じゃなかったと思うんだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

「──ところで話は変わるんだけど、実弥くんはかぐちゃんとカナエちゃんのどっちが本命なの?」

 

「ぶっっ」

 

 真菰さんの話を聞いて、ひとまず『あまり心配しなくても大丈夫そうだ』と思った矢先のことだった。

 いや、それを何故いま聞くのか。

 

「だって、本題はもう済んだでしょ?」

 

 ──思考が、読めるのか……?

 

「顔に書いてある。ウチの継子もキミくらい分かりやすければ楽なんだけどねぇ」

「……しのぶも言ってましたが、そんなに表情が読めないんですか? その冨岡って奴は」

「そうだよー? 私が引退したらあの子が水柱だから、頑張って仲良くしてあげてね? 悪い子じゃないのは保証するからさ。

 ──で、キミが異性として好きなお相手は誰なのかな?」

 

 チッ、誤魔化されてはくれないか……。

 

「うん。誤魔化されないよ〜」

 

「…………はぁ……どうしてそうハッキリさせたがるんですかねェ……」

 

「カナエちゃんはしのぶちゃんのお姉ちゃんなんだよ? つまり実質、私達『鱗滝一門』の身内も同然。身内に悪い虫が近付かないよう目を光らせるのは当然でしょう?」

 

「悪い虫ですか、俺は」

 

「いや? 実弥くんだったら歓迎なんだけど、肝心要のキミ自身が、他に心に決めた人が居るって言うなら……ね? ウチの妹分ができるだけ傷付かない形で諦めさせないといけないからさ」

 

「…………その言い方だと、俺に都合の良過ぎる勘違いをしそうになるんですが?」

 

「それはイケナイねぇ。勘違いは正さないとイケナイねぇ──だから、ハッキリさせよっか」

 

「はぁぁ……分かりました。ハッキリさせればいいんですね?」

 

 俺は────

 

 

「──よろしい」

 

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