鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第十五話:錆兎vs杏寿郎(休日五日目〜十日目)

 

 虹柱の継子──鱗滝錆兎には、二人の負けたくない相手がいる。

 

 一人は彼の親友、冨岡義勇。

 同門、同い年、同期。常に義勇は、錆兎の隣に立っていた。そして今も、師事する相手こそ違えど同じ『継子』として励んでいる相手だ。

 

 もう一人は……。

 

「──来たか、()寿()()!!」

「うむ! 来たぞ錆兎!!」

 

 炎柱、煉獄杏寿郎。

 錆兎が最も高い適性を示すのは、炎の呼吸。その分野における第一人者は、常に煉獄家だった。それは今も同じだ。

 

(──それらを全て、終わらせる!

 義勇より先に柱となる! 杏寿郎よりも強い男になる!

 そして、そして……!)

 

 ──かぐや様に、告白しよう

 

 錆兎が彼女に懸想するようになったのは、劇的な何かがあったワケではない。

 美しい容姿も、声も、ただ『綺麗な人だ』という印象しかなかった。その在り方も、圧倒的な強さも、ただの尊敬だった。かぐやが男性であったとしても、抱く感情は変わらなかっただろう。

 ただ、一緒に居ると心地良い。どんな面も、愛しいと思える。それがゆっくりと積み重なって、いつしか『愛』になっていたのだ。

 

 思うところがあるとすれば、羞恥心が薄く、危なっかしいところくらいか。『この人も完璧ではないんだな』と、彼にとっては安心する材料でもあるが……初日の一件は、未だにトラウマとして記憶の奥底に封印されている。

 

 ……まぁ、それはともかく。

 彼がその想いを伝えるためには、いくつか障害があった。

 まず第一に、当のかぐやから異性として見られるための条件が厳しすぎる点。彼女本人が明言した『私に異性として見られたいなら、私より強くなることです』という言葉は冗談半分に聞こえるが、それは半分本気ということだ。実際彼女は強い男に一目置く傾向がある。

 

 次に問題となるのが、他ならぬ杏寿郎である。

 実弟である耀哉と同等以上の時間を、かぐやと家族として過ごした青年。

 既に『透視』を安定して発動できる、錆兎だけは気付いていた──かぐやにとって、杏寿郎は『特別』であると。

 彼女は専属の鴉である朝陽を通じて、幾人かと文通をしている。その中で、杏寿郎の文を受け取る時のみ……彼女の心拍数が上昇するのだ。文字通りの『脈アリ』である。

 

(だが、今はまだ自覚が無いご様子。その前に、俺も『男』なのだと意識していただく!)

 

 そのために錆兎は、かぐやを立会人として杏寿郎に決闘を申し込んでいた。

 適性呼吸の関係上、錆兎が勉強のために杏寿郎へ地稽古*1を申し込むことは、不自然ではない。かぐやも杏寿郎も、特に怪しむことなく快諾した。

 そして今日、かぐやが連休を取ったという話を聞き、杏寿郎が予定を早めて虹柱邸に訪れたのだ。

 

「今日は思う存分、お互いの技術を高め合おう!」

「あぁ!」

 

 形式上、杏寿郎が錆兎に教えるということになっているが……言葉通り、杏寿郎も錆兎から学ぶ気満々である。

 実際錆兎は既に、柱として通用する練度に到達している。同じ炎の剣士として、学べる点はあるだろう。

 

「二人共、距離を取ってください。まずは純粋な剣技を見ましょう。

 私が持つ木の枝が地についたら、試合開始です。終了は私が止めるか、相手が降参するまでです。あまり細かく決めなくても、あなた達ならやり過ぎませんよね?」

 

「当然です!」

「うむ!」

 

「よろしい。では、それっ!」

 

 枝が放られ、地に落ち──。

 

 ゴヲヲヲヲヲヲヲヲ──

 

 錆兎が最初に選んだ呼吸は、炎の呼吸。二人の呼吸音が重なり、噴火前の火山のような熱気と緊張感が広がる。

 

(まずはこちらから──)

 

 仕掛けたのは杏寿郎。選択した型は、基本となる壱ノ型 不知火。砲弾のような速度で距離を詰め──間合い一歩前で停止した。

 

(……と行きたいのだが、後の先は七色の呼吸の十八番(おはこ)。やはり警戒しておいてよかった。俺の動きをしっかり視認している)

(俺が踏み込んだらそのまま不知火。動かなければ止まって様子見……師範の戦い方を知ってるだけある。やりにくい)

 

 そのまま暫く睨み合い、先に痺れを切らしたのは錆兎の方だった。

 

 シィィィィィィィィ──

 

(ダメだ、やっぱりじっとしてるのは性に合わない! 間合いは一歩。対応できない速さで切り裂くッ!!)

(──今ッ!)

 

 炎の呼吸 壱ノ型 不知火

 

 錆兎の意識が攻撃に転じた瞬間、杏寿郎が踏み込んだ。しかし、

 

 変転 水の呼吸 ねじれ渦・流流

 

「よもや!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、錆兎は呼吸を切り替えて不知火を巻き込み、そのままの勢いで首筋に木刀を突き付けた。

 

「俺の勝ちでいいな? 杏寿郎」

「うむ、完敗だ!」

「……勝ったのに勝った気がしないのは、なんでだろうな」

「それ分かります。杏寿郎が相手だと、勝負に勝っても人間性で負けた気がするんですよね」

「あぁ……」

「……? 二人共、尊敬できる人物でしょう!!」

「「そういうとこです(だよ)」」

「???」

 

 何のことだか分かっていない様子の快男児に、師弟は揃ってジト目を向けるしかないのだった。

 

「まぁいいでしょう。では一試合目の反省会です。杏寿郎、あなたは()()()()です。何故負けたか分かりますか?」

「少し焦りました。あと数瞬待っていれば、変転が間に合わなかったのではないかと」

「その通り。一息で踏み込める距離まで詰めて、後の先で潰す。狙いは良かったです。錆兎の呼吸が切り替わった瞬間を狙ったのも悪くなかった。しかし、相手が悪かったですね。錆兎以外ならアレで倒せていましたよ」

「そこです。俺は確かに、()()()()()()()()()()()()()()()()()筈。前から気になっていました。かぐや様も、錆兎も、未来を見ているとしか思えない動きをする。一体どのように、動きを先読みしているのか……非常に興味がある!」

 

 するとかぐやはキョトンとした顔になり、錆兎はピシリと固まった。

 

「杏寿郎もやってるじゃないですか。呼吸を見てるんですよ。人は動く前に、肺と筋肉が大きく収縮するでしょう? 後は骨格から攻撃範囲を把握。視線などから狙いを割り出し、対応を……錆兎、何故頭を抱えているのですか?」

「……師範、普通の人間は内臓も筋肉も透視できません」

「知ってますよ。しかし杏寿郎なら、内臓どころか血の流れまで見えるでしょう?」

「無理です! 内臓も血流も見えません!!」

「え?」

「「何故見えると思ったんですか??」」

「え、だって…… じゃあ炭治郎君の傷を塞いだ時のアレは一体……?

 

 何かゴニョゴニョと自問自答しているようだが、錆兎と杏寿郎には聞き取れなかった。

 

「……杏寿郎、今からあなたに錆兎と同じ目を得てもらいます」

「し、師範!? それはちょっと……! そうだ、今日休みでしょう!?」

「ええ。大人しく休んでいる予定でしたが……流石にこの事態は見過ごせません。耀哉のお説教も甘んじて受け入れましょう」

「……ありがたい申し出ですが、いいのですか?」

「緊急事態です。構いません」

 

(あぁ、終わったな……義父さん、すみません。俺はここまでのようです)

 

 かぐやとの初対面、そして破廉恥な透視訓練の内容を思い出し、錆兎は天を仰いだ。

 

「……? 錆兎、何か問題が?」

「いいえ、何も。何も……」

「そうですか。では杏寿郎、こちらに上がって()()()

「はい!」

「……?」

 

 己に課された鍛錬と違う内容に、錆兎は首を傾げる。

 

「私の透視は、『()()()()』からできていた上に、肺に特化している特殊な例なので……後天的に習得した、錆兎のものを参考にします」

 

 そう言うとかぐやは、錆兎に視線を向けた。

 

「たしか『余計なものを削ぎ落とす形で集中する』……でしたよね?」

「は、はい!」

「では杏寿郎。そのまま呼吸を維持して、一から百までゆっくり数字を数え続けてください。それ以外のことを考えてしまった場合、最初からやり直しです」

「分かりました!」

「私と錆兎は、次の修行に使う物を準備して来ます。戻る前に終わった場合、自由時間で結構ですよ」

「「はい!」」

 

 ──そうして少し離れたところで、錆兎は疑問を口にした。

 

「どうして、俺とは違う内容を?」

「まぁ、あれでも効果があるのはアナタで実証済みですが……なんとなく、嫌だったんですよ」

「それは──」

 

 かぐやの表情を見て、彼はその先を言うのを止めた。

 

「……私の胸に触れたこと……杏寿郎の前で口にしようものなら、タコ殴りにしますから」

「……釘を刺されずとも、言いませんよ。俺はまだ死にたくありませんので」

 

(あぁクソ……勝てるのか? これ)

 

 自分の胸に爪を立てながら、『なんとなく嫌』だと言った彼女の表情は、まさに────恋煩いに悩む、乙女そのものだったという。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 かぐやが杏寿郎の手紙を貰う時、心拍数が上昇する理由は、バタフライエフェクトによる急死を恐れているかららしいぞ。真菰からの手紙も毎回ドキドキしながら開いているが、真菰は毎回錆兎にも同時に手紙を出すので、錆兎は自分の手紙を受け取っていて、その様子を見ていないぞ!

 

 Q:じゃあ今回のラストは?

 A:…………身内に痴女だと思われたら、自意識男でも死にたくなるでしょう?

*1
自由に技を掛け合う稽古




 数字を数え続けて雑念を払う修行については、勝木光氏のテニス漫画『ベイビーステップ』に登場した練習法を流用しております。
 休日の残りは杏寿郎との鍛錬に費やした模様。
 数字以外にも基礎練は勿論、中国における修行法『馬歩』*1によるボディーイメージの矯正など、複数の鍛錬を行った結果、杏寿郎も見事『透き通る世界』の入り口に到達したらしい。

*1
空気椅子状態で腕や膝、肩や頭などに茶碗を乗っけるアレです。

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