白姫と少年の姿をした氷像が、周囲に吹雪を巻き起こす。無数に飛び交う氷片は、一粒一粒が肺を殺す猛毒だ。
──そんな中、優雅に舞を披露する者が一人。
穏やかな川のように流麗な足取りに対し、剣捌きは嵐のように荒々しく。それでも、その舞は無理なく続いていた。
(炭十郎さんならきっと、もっと上手く舞うのでしょうね)
人里離れた山奥でひっそりと、年の始まりに奉納される神楽舞。その原典となる型を崩さぬように最適化された、
(私はまだ、彼の領域には至っていないから。こうやって、騙し騙しやるしかない)
しかしかぐやは、未だその真髄に到達していない。周囲の粉氷りを風の呼吸で吹き飛ばし、彼岸朱眼で安全圏を確認しつつ息継ぎをするという、曲芸染みた手法で命を繋いでいるのだ。
「凄い、凄いよ!! 分析が追いつかないっ、俺の思考速度を超えてきた人は初めてだ! ますます君が欲しくなった!」
「私はっ、鬼にっ、なりませんッ!!」
(しっかし、コレは予想よりマズいですね……!)
時間が経てば増援が到着する──それは彼女の想定より、優位に働く条件ではなかった。
(
この場で戦力となり得る候補が、極端に限定されているのだ。
最悪なのが、
粉凍りを認識できる超感覚持ちは、現状誰もいない。珠世と愈史郎なら吸っても大丈夫だが、前線には出せない。となると候補は、血鬼術の範囲外から氷を吹き飛ばすだけの力がある実弥、杏寿郎、錆兎の三名のみ。天元も、童磨を相手取る上で相性は悪くないが……連携が非常に難しい。
(…………ダメですね。比較的相性が悪くない面子でも、どこかで氷を吸うリスクが高過ぎる。私がやるしかない……!)
そして覚悟を決めた彼女は、思いっきり
「なッ──!?」
「〜〜〜〜ッッ!!! ヒノカミ様にッ、奉る!」
型を完成させれば、体内の氷は無効化できる。そう割り切っての捨て身。
童磨はそれを阻止すべく、血鬼術の密度を上げるが……。
「──御照覧、あれッッ!!!」
型は完成した。
密集した氷は全て炎上し、粉塵爆発のように燃え広がって──童磨を焼いた。
「…………俺の負け、だね」
「──最後の最後で手を抜きましたね? アナタ」
横たわる童磨の首筋──そのすぐ横に刀を突き立て、かぐやはそう言った。
「逃げれば良かったのに。一時でも氷を吸った私では、身体が鈍って追い切れなかった。そうして態勢を立て直して、仕切り直せば……体力切れで、私の負けでした。アナタならそれくらい、解っていた筈でしょう?」
戦いを通じて彼女は、彼の観察眼がどれほど優れているか……言われずとも理解していた。
「…………キミに、俺の救いは必要ない。でもキミは、無理矢理にでも一回型を完成させてしまえば……敗北を悟った瞬間、自害するだろう?」
鬼になるくらいなら自害する。加護が残っている内に自害すれば、鬼化の血をどれだけ注がれようが関係ない──彼女なら間違いなくそうすると、彼は理解していた。
「……キミを殺したくはなかったからね」
「…………そうですか」
かぐやは日輪刀を抜き、構えた。
水の流派における、伍ノ型の構え。
「貴方の生き様に敬愛を。貴方の死に哀悼を。せめて痛みなく、私がこの手で送りましょう」
「──ねぇ、名前を教えてよ」
「かぐやです。鬼殺隊虹柱の、かぐやと申します」
「そっか、かぐやちゃんか。よく似合ってる。俺もキミになら、どんな無理難題を吹っ掛けられても求婚したくなるからね」
「世辞でも嬉しいものですね。……さようなら童磨さん。私の親友になってくれたかもしれない貴方」
「──さよなら、かぐやちゃん」
──干天の慈雨
実に百八年ぶりの、上弦討伐が完遂された。