第十九話:笑わない二人へ(前編)
産屋敷邸、某室。
扉一つ隔てれば、欠かすことなく手入れを施された美しい庭園が見える、その場所に──今、屈強な男達が身を寄せ合っていた。
「──皆、よく集まってくれたな……」
「
「うむ! 流石に『時間』と『場所』と『来てくれ』の一文では、何も分からなかったからな! 俺も気になっていた!!」
「鬼殺隊の『支柱』が六人……『全員じゃない』ってのはどういう意図だ? 悲鳴嶼の旦那」
室内に居るのは行冥、実弥、杏寿郎、天元、錆兎、匡近の六名だ。
かぐや、真菰、カナエ、しのぶ、義勇の五名は、そもそも呼ばれていないらしい。
「そう焦るな。今から話す……。
この会合の目的は、私からお前達への
「相談だァ?」
そういったことであれば、むしろ欠席している面子の方が適任に該当しそうなものだが……。*1
「うむ。お前達には、私と共に──
「…………帰っていいかァ?」
全員口にこそ出していなかったが、
「……アレを確実に笑わせたいなら、とびきり美味い鮭大根を食わせるしかありません。他に方法があるなら俺が知りたいくらいです。以上。帰ろう実弥」
「──まぁ待て……何故私が、真菰さんやかぐや様ではなく、お前達を頼ったと思う……?」
「「…………」」
それに関しては純粋に気になっていた二人は、素直に足を止めた。
「まず大前提として、これは私の個人的な願望ではない……
「……それでェ?」
「実の所、『笑わせてほしい』のは冨岡だけではない……花柱の継子候補にして、蝶屋敷の従業員──
「あぁ……あの放っとくと年がら年中こけしみてぇな
「そうだ。彼女は
「──なるほど! お館様とかぐや様、お二人の願いは共通している。ならば纏めて叶えてしまおう、と。そういうことだな!?」
「うむ」
「……話は分かったァ。ただ、あまり俺に期待はしないでくださいよォ」
「是非もない……元よりこちらは、頭を下げる立場だ……」
「大丈夫だぞ実弥! お前の分まで、俺が意見を出してやるからな!」
「すみません悲鳴嶼さん。俺も頑張って意見出します」
「実弥!?」
「ハハハ! いつ見ても不死川の
「全然驚いてるように見えねぇけどな」
──とまぁ、こうして始まった話し合いの末……後日産屋敷邸で、『支柱格付け大会』という名の
*
「カナヲちゃん。私と一緒に、遊びに行きませんか?」
「…………」
──どうでもいい。
相変わらず、『面倒』と思うこともなければ『行きたい』と思うこともない。
どうでもいいことだけど、彼女が来てから……蝶屋敷は少しだけ騒がしくなった。単純に住み込みが増えたというのもあるけれど、彼女が目当てで、怪我もしてないのに屋敷を訪れる人が発生するようになったからだ。
……そのくらい、この人は『魅力的』な存在らしいが……私には解らない。だから、どうでもいい。
──どうでもいいから、今日も私は硬貨に二択を委ねることにした。
そしていつものように懐をまさぐり、私が硬貨を取り出そうとしたところで……彼女が『待った』をかけた。
「表と裏、どちらが出たら付いてきてくれますか?」
「……表」
「ふむ。表ですね? 実は今日、自前の硬貨を持って来てたんですよ。なので今回は私が投げます」
「え」
「──それ!」
驚いて固まった私を
結果は『表』だったが──。
「…………着地点、ズラしましたよね」
「はい。何か問題が?」
「……いいえ。何も」
──彼女は狙って『表』を出した。彼岸朱眼まで使って。そこまでするくらいなら、普通に『命令』すればいいのに。私だって別に『嫌ではない』のだから……。
「──カナヲちゃん」
「なんですか?」
「今日こそ、貴女を笑わせてみせますから」
「…………よく飽きませんね」
──どうでもいい。
どうでもいいけれど……この感覚に名前を付けるなら、それはきっと『呆れ』だ。彼女に意識を向けてもらいたい人ならいくらでもいるのに、態々私なんかに時間を割く彼女に、私は『呆れている』のだ。
だから私は、口を真一文字に固く結ぶ。
──それは決して、この関係が終わることを惜しんでいるからではない。
だって私は、全てが『どうでもいい』のだから。
「…………楽しいことを考えるのは、飽きません。
かつて引きこもりになった天照大御神は、周囲のお祭り騒ぎがあまりに楽しそうで気になり、再び外界へ姿を現したのだそうです。
今回は趣向を変えて、お祭り騒ぎを『見る側』に回ろうと思います。小規模ではありますが、柱の皆さんに頼んで、準備をしてもらったんです。きっと鬼殺隊ならではの、他では見れない『派手』な催しが見れますよ」
「……手が込んでますね」
それはそれはご苦労様です。という感想しか出てこない。
無感動な瞳を閉じて、ため息を一つ。
あぁ、本当に──
*
明治コソコソ噂話
『大丈夫ですよ、しのぶさん。彼女にだって心はあります。ただちょっと、心の声が小さいだけです』
『──だって心が無かったら、〝どの選択肢を表にするか〟さえ決められないじゃないですか』
『……はい、それは勿論。本人には言ってませんよ。余計な意識をするようになって、二択も決められなくなっちゃったら困るので』
『まぁ、いずれ何とかなりますよ。──彼女を救ってくれる王子様には、アテがあるので』