鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

30 / 82
間話:義勇としのぶ

 

 ──水柱、冨岡義勇は凡人である。

 

 これは本人の卑屈さを差し引いた上での、客観的な評価だ。

 彼には真菰(先代)のような俊足があるワケではないし、左近次(恩師)のように特殊な感覚を持つワケでもない。努力はできるし、すればしただけ伸びる秀才型ではあるが、錆兎(親友)かぐや(その師匠)ほど圧倒的な天賦の才は無い。比較的体格には恵まれているものの、行冥や天元ほどじゃあないし、実弥のように特異体質を持つワケでもなければ、胡蝶姉妹のように、戦闘以外の取り柄があるということもない。杏寿郎のように、幼い頃から強くなるための環境が整っていた──なんてことも、ない。

 

 しかし義勇には、鬼殺隊士に最も必要なものが備わっていた。

 

 ──()()()だ。

 

 甲の隊士が柱へ昇格する条件の一つは『鬼の討伐数が五十に達すること』である。

 だが考えてみてほしい。人が鬼に負けるのは当然のこと。そして負ければ大抵、死ぬのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 故に柱は、その身に宿る特異性を以て(全員が常勝不敗全戦無傷なかぐやほど極端ではないにせよ)勝ち続けてきた猛者達だ。その一戦一戦にどれだけ犠牲を出そうが、勝利を重ねてきた者達だ。

 

 しかし、義勇は違う。彼は敗北を知っている。

 最終選別では何の異能も持たない雑魚鬼に気絶させられ、初任務では敵を討ち損じた。それ以降も、彼の戦績は華々しいとは言い難い。

 

 ──それでも彼は生きている。実力だけでは届かない、『己の生存』に特化した『運命力』の持ち主。

 間違っても『幸運』なのではない。彼は心の底から、『自分より死んだ姉の方が価値ある人間だった』と信じている。彼が都合の良い結果を引き寄せる『幸運』の持ち主だったのなら、彼の姉は今も息をしているだろう。

 

 それでも彼は生きている。特別な才能(モノ)なんて何も持たないまま、生きて生きて生き続けて──泥臭く普遍的な基礎を、誰よりも清涼に磨き上げた。

 

 ──彼は、冨岡義勇は『そういう類の凡人』だ。

 

 

 ただしもう一度明言するが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 では卑屈さ(それ)込みならどうなるか?

 

 答えは『藤襲山の雑魚鬼にも負ける〝癸未満〟のクソ雑魚ナメクジ』である。

 

 周囲の人間が何と言おうが、度し難いことに……彼の中の『冨岡義勇』は、そういう類の凡人なのである──。

 

 

 

 *

 

 

 

「──で、藤襲山の鬼を全部斬り捨ててきた……と。端的に言ってバカなの?」

「あぁ、わかっている。だから来た」

「『自分にそんなことはできっこないと』わかっている。『血鬼術で都合の良い幻覚を見せられている恐れがある』 だから『診察を受けるために蝶屋敷(ここ)へ』来たってコト?」

「そうだ」

「はぁぁ…………バ カ な の??

 

 かぐやが幼少期に、藤襲山へ槇寿郎を派遣して以来──柱の任務には、最終選別の会場であるこの場所の調査が含まれるようになった。

 

 そして、冨岡義勇は水柱である。彼は先日仕事で、藤襲山を訪れていた。

 後は二、三日調査をして、軽い間引きなどを行えば終了する程度の、本来簡単な任務なのだが……彼は何を勘違いしたのか、初日で山に居た鬼を掃討。二日目に生き残りを鏖殺。その後どこにも存在しない鬼を探し続け──合計七日間、彼は山で一人プチサバイバルを行っていた。

 

 もうお察し頂けたかと思うが、彼はこれを『任務は建前。真の目的は最終選別の再試』だと思い込んでいたのだ。

 

(あぁもう……これじゃ中々帰ってこなくて心配してた、私の方がバカみたいじゃない)

 

「……仮に、万が一本当に『異能の鬼が会場に居て』『定期的な間引きに気付いていて』『術で冨岡さんを騙し切った』のだとして……もう冨岡さん、日光浴びてるでしょ? なら大丈夫よ」

「……正直俺自身、来る前にそれは思った。だが……」

「だが?」

 

()()()()()()()()()()()。お前に『大丈夫だ』と言ってほしかった」

 

「──っ!?」

 

「おかげで安心できた。感謝する」

 

 それだけ言って、彼は部屋を後にした。親しい者にしか分からないくらい、ほんの少しだけ──晴れやかな顔で。

 

「…………誤解しちゃダメ誤解しちゃダメ。どうせアレに他意は──」

 

 

 これは関係ない話だが──後日蝶屋敷に、しのぶ宛に差し出し人不明の文と羽織が送られてきたらしい。

 

 

『季節の変わり目で体調を崩しやすい時期だ。睡眠時間を削るのも、机で寝落ちするのも構わないが、せめて暖かくして寝ろ』

 

 

「…………誰のせいで寝不足になってたと思ってるのよ……バカ」

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 

 私は、鬼が嫌いだ。私の父をいたぶり、殺しかけ、震える母と私、そして姉をも喰らわんとした、鬼が嫌いだ。

 

 やつらは強い肉体を与えられて増長しているくせに、追い詰められると嘘ばかり吐く。人間の強みは本来理性と思考力にこそあるというのに、愚かで醜い本能を剥き出しにして憚らない。

 

 ──なのに姉は、『鬼を救いたい』と言う。そして、そのために私の力が必要だとも。

 

 私は、そんな姉を尊敬している。誰より優しくて、強くて、何でもできる──最愛の肉親。

 

 そして姉と並び立つ『柱』達も、皆凄い人ばかりだ。皆みんな、強靭な肉体に清らかな魂を宿している、超人達。

 …………私は、彼ら彼女らのようには思えない。だから──

 

 

『ならどうして、お前は諦めない?』

 

 

 初めてだったのだ。私に諦めさせようとするでもなく、ただ見守るでもなく、隣に寄り添ってくれた──等身大の只人は。

 

 

 

 *

 

 

 

『──義勇と匡近には()()、珠世さんのことを話してはいけないよ』

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。