──水柱、冨岡義勇は凡人である。
これは本人の卑屈さを差し引いた上での、客観的な評価だ。
彼には
しかし義勇には、鬼殺隊士に最も必要なものが備わっていた。
──
甲の隊士が柱へ昇格する条件の一つは『鬼の討伐数が五十に達すること』である。
だが考えてみてほしい。人が鬼に負けるのは当然のこと。そして負ければ大抵、死ぬのだ。
故に柱は、その身に宿る特異性を以て(全員が常勝不敗全戦無傷なかぐやほど極端ではないにせよ)勝ち続けてきた猛者達だ。その一戦一戦にどれだけ犠牲を出そうが、勝利を重ねてきた者達だ。
しかし、義勇は違う。彼は敗北を知っている。
最終選別では何の異能も持たない雑魚鬼に気絶させられ、初任務では敵を討ち損じた。それ以降も、彼の戦績は華々しいとは言い難い。
──それでも彼は生きている。実力だけでは届かない、『己の生存』に特化した『運命力』の持ち主。
間違っても『幸運』なのではない。彼は心の底から、『自分より死んだ姉の方が価値ある人間だった』と信じている。彼が都合の良い結果を引き寄せる『幸運』の持ち主だったのなら、彼の姉は今も息をしているだろう。
それでも彼は生きている。特別な
──彼は、冨岡義勇は『そういう類の凡人』だ。
ただしもう一度明言するが、
では
答えは『藤襲山の雑魚鬼にも負ける〝癸未満〟のクソ雑魚ナメクジ』である。
周囲の人間が何と言おうが、度し難いことに……彼の中の『冨岡義勇』は、そういう類の凡人なのである──。
*
「──で、藤襲山の鬼を全部斬り捨ててきた……と。端的に言ってバカなの?」
「あぁ、わかっている。だから来た」
「『自分にそんなことはできっこないと』わかっている。『血鬼術で都合の良い幻覚を見せられている恐れがある』 だから『診察を受けるために
「そうだ」
「はぁぁ…………バ カ な の??」
かぐやが幼少期に、藤襲山へ槇寿郎を派遣して以来──柱の任務には、最終選別の会場であるこの場所の調査が含まれるようになった。
そして、冨岡義勇は水柱である。彼は先日仕事で、藤襲山を訪れていた。
後は二、三日調査をして、軽い間引きなどを行えば終了する程度の、本来簡単な任務なのだが……彼は何を勘違いしたのか、初日で山に居た鬼を掃討。二日目に生き残りを鏖殺。その後どこにも存在しない鬼を探し続け──合計七日間、彼は山で一人プチサバイバルを行っていた。
もうお察し頂けたかと思うが、彼はこれを『任務は建前。真の目的は最終選別の再試』だと思い込んでいたのだ。
(あぁもう……これじゃ中々帰ってこなくて心配してた、私の方がバカみたいじゃない)
「……仮に、万が一本当に『異能の鬼が会場に居て』『定期的な間引きに気付いていて』『術で冨岡さんを騙し切った』のだとして……もう冨岡さん、日光浴びてるでしょ? なら大丈夫よ」
「……正直俺自身、来る前にそれは思った。だが……」
「だが?」
「
「──っ!?」
「おかげで安心できた。感謝する」
それだけ言って、彼は部屋を後にした。親しい者にしか分からないくらい、ほんの少しだけ──晴れやかな顔で。
「…………誤解しちゃダメ誤解しちゃダメ。どうせアレに他意は──」
これは関係ない話だが──後日蝶屋敷に、しのぶ宛に差し出し人不明の文と羽織が送られてきたらしい。
『季節の変わり目で体調を崩しやすい時期だ。睡眠時間を削るのも、机で寝落ちするのも構わないが、せめて暖かくして寝ろ』
「…………誰のせいで寝不足になってたと思ってるのよ……バカ」
*
明治コソコソ噂話
私は、鬼が嫌いだ。私の父をいたぶり、殺しかけ、震える母と私、そして姉をも喰らわんとした、鬼が嫌いだ。
やつらは強い肉体を与えられて増長しているくせに、追い詰められると嘘ばかり吐く。人間の強みは本来理性と思考力にこそあるというのに、愚かで醜い本能を剥き出しにして憚らない。
──なのに姉は、『鬼を救いたい』と言う。そして、そのために私の力が必要だとも。
私は、そんな姉を尊敬している。誰より優しくて、強くて、何でもできる──最愛の肉親。
そして姉と並び立つ『柱』達も、皆凄い人ばかりだ。皆みんな、強靭な肉体に清らかな魂を宿している、超人達。
…………私は、彼ら彼女らのようには思えない。だから──
『ならどうして、お前は諦めない?』
初めてだったのだ。私に諦めさせようとするでもなく、ただ見守るでもなく、隣に寄り添ってくれた──等身大の只人は。
*
『──義勇と匡近には