──さァて、どうしたものですかねェ……!
『支』の結成から約二年。
耀哉からの任務で時透兄弟の勧誘にやってきた私であったが、兄『有一郎』くんの猛反発に遭い敢えなく撤退。
正史と違い戦力なら充分整っていたので、『無理に勧誘する必要はないだろう』と判断した私は、日々使う分の『藤のお香』と、将来必要になるであろう金銭を置いて立ち去る──ということを繰り返していたのだが、
なんか今、
おっかしいなぁぁ……! こうならないように対策してた筈なんだけどなぁぁぁ……!(震え声)
柱の過去は大体調べて知ってたから、有一郎くんが今年鬼に殺されることも知っていた。だから藤のお香で、鬼が来ないよう自己防衛して貰うことにした。……だが兄弟は、香を焚かなかった。
まぁね? わかるよ? ほんのり匂いがする程度じゃ意味ないから、鬼対策で使う藤のお香はガンガン焚かないといけない。正直夏に使いたくはない代物だ。
だから二人が香を使わなかった時の対策に、朝陽を見張りにつけた。そして鬼が出たら、近くで待機している私に連絡するようにと頼んでいたのだ。
つまりここまでは想定内。後は私が『かぐや』とバレずに鬼を斬れば終わる──筈だった。
私はあらかじめ、鱗滝さんリスペクトの天狗面で顔を隠し、特徴的な黒刀は槇寿郎さんに預け、代わりに赤い刀を借り受けていた。更に無一郎くんには万が一に備えて『霞の呼吸』を教え、ついでに『鬼の前で私の名を呼ばないように』と言い含めていたのだ。
……が、しかし。
『ぁ……かぐや、さん?』
『…………えぇ。助けに来ましたよ、無一郎くん』
鬼と対峙し、半狂乱になっていた彼は……『誰かに助けられた』ことに気付くと、口に出した自覚があるかどうかも分からないくらい『思わず』といった様子で、私の名を呼んだ。
内心善逸ボイスで『イィィヤァァァ!!!』と絶叫しつつも、私はやるべきことをやった。胡蝶姉妹直伝の我ながらテキパキとした動きで、まず重傷の有一郎くんから応急手当て。その後比較的軽傷の無一郎くんにも処置をしたところで──。
『──用事は、済んだか……?』
奴は、現れた。話しかけられるまで、一切気配を感じなかった。
いや、おそらくだが随分と前から近くに居たのだ。琵琶の音は、していなかったから。少し遠くに送られて、そこから気配を消して接近してきていたのだろう。
『お前が虹柱……かぐやで、相違ないな……?』
正直『いいえ人違いです』と言って南東にリレミトをかましたかったが、逃げたところで状況は改善しない。
大人しく私が肯定すると、奴は『場所を移そう』と言って歩き始め──今に至る。
いやふざっっけんなよチクショウ!! 十二鬼月でもなんでもない雑魚鬼だったぞアレ!? そんなのが消滅間際に拾った言葉まで目敏く感知するなバカ!!! 童磨さん倒した直後とかなら解るけど、私もう二年くらい前線出てなかったぞ!? どんだけ根気強いんだテメェ!? あぁ鬼だから体力無限でしたねクソッたれェ!!!! 今も背中ガラ空きなようで全く隙が無いですもんねぇ!
「そろそろ……いいか……」
「…………子供を戦闘に巻き込まないよう、気遣ってくれたこと……素直に感謝します。ですが手加減は一切しませんので、そのつもりで」
「無論……むしろ望むところだ……」
──意識を完全に切り替える。
痣を励起。呼吸を炎から『彼岸朱眼』使用時専用の複合呼吸へ移行。
「────ッッ!!! 貴様、その呼吸……! 誰に習った……!?」
「教えると思いますか?」
六つの目をこれでもかと見開いている上弦の壱に、『水面斬り』を放つ。
(この心拍数、間違いなく痣者……そして、間違いなく……
後ろ飛びで回避された。でもコレで足が浮いた。早くも好機。私なら着地前にもう一撃出せる。
──変転 日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡
水面斬りの反動を使って、自然な動きで型を移行。呼吸は完全に日へ移したから、不純物だらけの呼吸を使ってる時より格段に威力が出る。
そして奴からは、速度が不自然に上がったように見えるだろう。剣技に精通している奴ほど、私の攻撃はよく当たる。
だからほら、もう首筋に刃が届く。
──そして、
えっ?
「────見事」
月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り
「──ッッ」
超速の抜刀。からの横薙ぎ。そこに纏わり付いた血鬼術による斬撃が、私の刀を寸断した。
そしてすかさず放たれた二撃目が、私の両脚を掠めていた。
──何が『見事』か。私の使った『水面斬り』と『烈日紅鏡』に合わせた意趣返しで、ここまで格の差を見せておいて。
「膂力、技の冴え、反応速度……どれを取っても、申し分ない……」
「それはどうも……ッ」
再び、彼岸朱眼を発動する。
今回ばかりは、本腰を入れて長期戦に持ち込むしかない。幸い朝は近い。日光を遮るものの多い山中だから、それで倒し切ることはできないけど……是非もなし。
はぁぁ……こんなことになるなら、支柱の皆も近くに待機させとけば良かったなぁ……まぁここ神奈川だから、基本東京から動かない
「──何より……その眼だ……」
「っっ」
──来る。
刀の振りが速い。そして、くっついてくる血鬼術の斬撃……これの射程が長い上、数が多い。
──でも、童磨さんほどじゃない。よく見れば、私なら避けられる。
「彼岸朱眼は……使い物にならない技だと、思っていた……しかし……まさかここまで……実戦での運用を、可能とする……これほどの猛者が……現れるとは……」
大丈夫、大丈夫。まだまだ避けれる。体力は充分。気力は振り絞る。
それに実のところ、攻撃手段もまだ残って──
「此方も抜かねば……無作法というもの……」
────警鐘。
コレは、ヤバい。止めなきゃ──いやダメだ距離を取るッッ。
月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月
月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間
「ぅぐ、アあぁあ……ッッ」
──避け切れなかった。
技の射程が倍以上に伸び、斬撃の密度は最早壁の領域に達していた。刀を握っていたなら防御できたが、現実は変わらない。無手の私は、当たり前のように斬られてしまった。致命傷を避けるので精一杯だった。
右足はくるぶしの辺りから先を飛ばされ、左腕は首を守るのに使ってズタズタ。
──私はもう、戦えない。
「流石だ……今の攻撃を……その程度で、凌ぐとは……」
────いや、まだだ。奴がノコノコと、近付いてきてくれている。
まだ私には、右腕と左脚が残っているのだ。最後まで、諦めるな。
──だけどこれも、判断ミスだった。
「お前は
「──ッッッ!!?」
待て待て待て待て……!!! なんでだ、どうしてバレた!?
珠世さんの言ってた痣者の鬼──黒死牟・継国巌勝が上弦の壱であることは、察していた。縁壱さんは妻子が鬼に襲われ亡くなったという話だから……時透兄弟はコイツの子孫だってことも、分かっていた。
だけど二人のことも、当然私のことだって、一切口には出してない! 童磨さんだって、名乗るまで私のことを知らなかったのに……!
「その反応……やはりただの血縁ではない……期待してはいなかったが──まさか、宗家か……?」
クッッソが墓穴掘った……!!
「ククッ、ハハハ……! そうか、そうか……! 産屋敷は代々……病弱だった、筈だが……! まさか宗家から、お前ほどの剣士が……! 信じ難し……!」
「──っ」
「させん……」
「──ぁあ゛あ゛あ゛!!!!」
────ヤバい。ヤバい。ヤバい。
自害用の懐刀も腕ごと飛ばされた。珠世さんの血清も、この状況じゃ意味が無い。
────詰んだ。
「──ゃ、やめて……やめてください……どうか、私を鬼にするのだけは……!」
「…………敵の足に縋るか……私の知る限り、最強の女よ……失望したぞ……」
有一郎くん、無一郎くん──ごめん。私、二人を守れなかった。
ごめん耀哉。せっかく人並の寿命を貰ったのに、私のせいでまた呪いが強くなるかもしれない。
ごめん輝利哉。私のせいで、キミは明日にでも殺されるかもしれない。
ごめん杏寿郎。お姉ちゃん、最期まで気高く在れなかった。
ごめんなさい、ごめんなさい……! 皆、本当に……!!
「────だが……
「……? ──ぐぅっ!?」
肩に噛みつかれて、血が溢れる。
「ふむ……
ぁ、ダメだ。血を失い過ぎて……意識が、ト
*
「──取り込んだね? 私の血を」
「むッ──!?」
猛烈な悪寒に襲われ、私はすかさず女を蹴り飛ばし距離を取った。
「クひッ。遅いよ? もう遅い。アナタは私を齧っちゃったから」
「貴様──
違う。この者は、先刻まで対峙していた女ではない。
比喩ではなく、実際に──
ただしそれだけなら、今まで戦った相手の中にも例はある。複数の人格を持ち、その交代によって体質まで変化する者──そういう
だが、この女は──この者は、
「私? 私は鬼を殺すもの。鬼を殺す、神楽を舞うもの」
──人間は、失った手足を生やせない。
「Shall we dance? いらない子同士で踊ろうよ、
「────ッッッ!!!!」
全てがどうでもよくなった。
──コイツは、殺す。
*
■治■■コソ■話
──わぁぁぁんもうムリ怖い煽るんじゃなかったアイツの眼怖いよぉぉぉ!!!
早く起きてお姉ちゃあああああん!!!!