──皆さんは、
野球や
まぁ諸事情で、私はどれもやったことないんですけど──姉曰く、『こういう状況』になったら皆さん揃って言うことがあるそうで。
月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面
「──死ね」
「……ッ」
上空から降り注ぐ、大量の三日月。
枝分かれした目玉付きの大太刀から繰り出されたソレは、不定形に揺らぐ斬撃同士がぶつかり合って犇き……複雑極まりない軌道で、私の命を刈り取るために迫り来る。
──いや掻い潜れるワケないでしょこんなん!?
見えなきゃ避けれないけど、それ見えてれば避けれるって意味じゃないからね!? バットは振ればヒットするワケじゃないし、ドリブルはまっすぐ行ってもディフェンスされるからね!? やったことないから知らんけど!
いやたしかに
──ヴァカめ! いかにも『真打ち登場』感を出して現れた私はその実、お姉ちゃんとは比べるべくもない戦闘ド素人でーーす!!!
できるかぁッ!! 息の吸い方をちょっと間違えたら失明する技使いながら、防御に攻撃・地形の把握・その他諸々気ぃ使う戦闘に、意識を充分割けるワケないでしょバカァ!?
てかそれ抜きにしても何よこの、脳内に溢れる『選択肢』の数!?
使える呼吸も動きも多過ぎて、逆に選べないんですけど!? とりま呼吸はいっちゃん身体に合ってる『日』に限定してはいるけど……! コレホントに正解!? 速度出る『雷』の方が良かった? いや回避なら曲線移動向きの『水』だった? とか考えてる間にもう攻撃来てるんだもん!! ホントどういう思考回路してるのかしらあの姉!?
ひぃぃん見えてるのが逆に恐怖だよぉ絶対痛いもんこのシュレッダーみたいな斬撃……!!
だがコレを
「──貴様、何故避けない……!?」
「受けた方が手早く済むからよ? おマヌケさん」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃ……!
そんな情けない内心は表に出さない。強気な言葉は、
「アナタ、元鬼狩りなら知ってるでしょ? 私達『産屋敷』が、
「……?」
「分かんない? じゃあヒント。自分の身体に聞いてみて?
ねぇ黒死牟──私の血はもう馴染んだかしら?」
「…………」
「ふふっ、ふヒヒッ! えぇ、言わなくても分かるわ。馴染んだのよね? だって私の血、鬼舞辻にすごく近いから。強い鬼ほどよく馴染む筈だもの」
「何が……言いたい……?」
「──いいの? いいのね? 言わせてくれるんだ、私に。
「──ッッッ」
やっと気付いた黒死牟が、慌てて
最初に言ったのに。『もう遅い』んだって。
次の瞬間、黒死牟の全身に
「アナタは見たことあるでしょ? その
これは歴代の産屋敷家当主が苦しめられた、『死の呪い』と同じもの。
──何故、『彼女』が千年も
その答えがコレだ。私の血肉は鬼にとっての御馳走に見えるが──実態は真逆。
私は、
*
「ぐッ、ゴぶフッッ……!」
「──ねぇ、
そのまま何も見えなくなって、手を握られても分かんなくなって、地を這う蟲より無様にくたばって?」
──全身が、言うことを聞かない。
これはもう、血は全て入れ替える気概で吐き出す必要があるだろう。そして同時進行で刀を用い、汚染された細胞を切除する。
だがこの作業中──実質的に
これは流石にマズイか……と、半ば死を覚悟しつつも奴を睨む。
(──怖い。恐ろしい。手負いの猛獣なんて、素人が手を出しちゃいけない危険物の代表でしょうに……。
でも今は、私しかいないんだ。それにそもそも、コレは……この戦いは、本来私達『産屋敷』だけでやるべきことなんだ。
────だからさ、また遠慮なく
奴の傷が、再生していく。そして筋肉の密度が、高まっていく。
──バケモノめ。
鬼ですら、再生には人の血を必要とする。だがコイツは、『無』から身体を造っているのだ。
(……お姉ちゃんが知ったら、怒るだろうな。
私の再生には、『九十六人の歴代産屋敷家当主から削り取られた分の寿命』が使われてる。勿論父──灯夜の分も)
日の呼吸 壱ノ型 円舞・拳式
──来る。だがその動きは、つい先刻までの洗練されたものではなかった。
血鬼術 月魄災渦
「──クヒッ。だからそれ、悪手だよ?」
斬撃が、奴の身体を浅く傷付けながら突き飛ばす。私が極端に弱体化しているという点を差し引いても、異常に頑丈な肉体。
だが、それだけだ。この者は武芸者ではない。私には近付けない。再生し切るだけの時間を稼ぐことも、そう無理な話ではなさそうだ。
──と、思っていたのだが。
突如私の身体に、激痛が走った。
「私もね、一つ『固有の異能』を使えるんだよ──
「なッ……!」
────ダメだ、勝てない。
奴に攻撃すればするほど、私が不利になる。奴は再生できるが、私は再生がドンドン遅れていく。
(まぁ実際は私の場合、ストック切れたら普通に死ぬからハッタリなんだけどね!!!)
…………こうなったら、是非もあるまい……。
*
──ハッタリ成功。奴は攻撃を止めて背を向けた。
今が好機だ。隠し持っていた最後の刀を、
日の呼吸 壱ノ型 円舞
(──読めている)
血鬼術 月魄災渦
刀を首筋に振り下ろす直前、柔らかく押し離すように術が発動。器用な奴だ。
しかし、どこに逃げようというのか。もうすぐ朝が来る。逃げるなら大人しく、琵琶鬼の襖を使えばいいものを──。
『──ダメですかぐや! 黒死牟をそっちに行かせてはなりません!! 私に代わってくださいッ!』
──あれ? お姉ちゃん、起きてたんだ。いつから?
『ついさっきですよ! 嫌な予感がして目が覚めたら案の定……! 早く交代を!!』
ううん、もう大丈夫。なんとかなったから。後は私が追い返すよ。
『あぁもうッ、よく見てください!
え? ──あ。
言われて気付いた。この方向──時透兄弟の家。
────コイツ、二人を喰う気か……ッ!!
『分かったなら早く!!
あぁ、あぁああ……ッ! ダメ、駄目なの……ッ!
だって、お姉ちゃんは人間だから……!
『はぁ!? 何を──』
──いま交代したら、アイツにかけてる呪いが外れるの!!
『────』
血反吐をいっぱい吐かせたから、少しはスペックが落ちてるだろうし……再生までに、多少時間はあるだろうけど……!
『……かぐや、代わってください』
それに、左肩だけは治せない! アイツに『噛まれた証』として、『そういう傷』にしちゃったから!
『──かぐや!!!』
──殺されるに決まってる!!! だってお姉ちゃん、
『全力になったアイツの攻撃は、私もアナタも避けられない! なら受けて、その後斬る! それ以外に方法はありません!! 解るでしょう!?』
〜〜〜〜っっ、それで殺し切れる保証は無いでしょ!? しかもそれで助けられるのは何人!?
──二人だよ!? たった二人!! それならこの先も生きて、
『…………』
────逃げようよ、お姉ちゃん。アイツはいま、亀の歩み。家まで辿り着いて、あの二人を食べて、回復し終わるまで──私達は走って距離を取ろう。
──そうすれば、朝が来る。私達の勝ちだよ。
『…………
…………。
『──でもアナタ、足動いてないじゃないですか。
……生き残っても、後でお姉ちゃんが拗ねて『もう戦わない』なんて言い出したら面倒だから……。
『…………素直じゃない妹ですね、アナタは』
*
「──待ちなさい」
「……貴様は……」
その時黒死牟は、身体から『爛れ』が消えたことに気付いた。
片手で黒い大脇差しを握り、彼を睨む女は──再び人の身へ戻っていた。
「弱い者から殺す──それがアナタの武士道ですか? 継国巌勝。私ともう一度、正々堂々勝負なさい」
「…………いいだろう……」
失伝した筈の呼吸。名乗った覚えの無い名前。弟の存在。人外の力。
『産屋敷だから』の一言では片付けられない、謎めいた存在を前にして──黒死牟の腑は煮えくり返っていた。
勝ち続けると誓ったのだ。このような、醜い姿になってまで。武士道に反する、生き恥を晒してまで
「──鬼殺隊虹柱。産屋敷かぐや」
「──上弦の壱。黒死牟」
「「────参る」」
たった二人じゃないですよ。彼らはきっと、私達以上に沢山の人を助けてくれる──偉大な二人です
始めに、黒死牟が刀を振るった。初戦での決め手となった、壁のような斬撃だ。
対する彼女は先刻と違い、刀を握っているが──防御はし切れていない。動かない左腕は再びズタズタ。肋骨が砕け、内臓に突き刺さる。
──それでも、止まらない。彼女は、
そして、黒死牟が目を見開く。
────かぐやの日輪刀が、赫く染まったのだ。死の淵に立ってこそ発揮される、万力の握力によって。
貴様はどこまでッ、私の神経を逆撫ですれば気が済むのだ……!?
何故、日の呼吸ばかりがこうも特別なのか。超常の力を与えられるのか──そんな怒りが、一瞬だけ鎮火する。
彼は、
貴方の呼吸、使わせてもらいますね
土壇場でかぐやが選択した呼吸は、『月』だった。その構えは、彼が編み出した独自のものだった。
──鬼の術には執着が反映される。異形となる者には、理由がある。
彼の、黒死牟が増やした目は──何を見たいと願っていたのか。
そうだ、もっとよく見せてくれ
見切ろうにも見切れない、弟の剣技。誰にも継げない、己の技。
憎くて憎くて仕方なかった、神の寵愛を持つ剣士が──ここ一番で、どんな技を放つのか。
それが他ならぬ、己の技だと知った時──彼の胸を、歓喜が満たした。
──あまりにも致命的な、『放心』という隙を作ってしまう程に。
何をしている黒死牟ッッ!!!
「──っっ」
咄嗟に彼は、伍ノ型を使用した。
刀を必要としない術──
かぐやの指が、二本飛んだ。脚と腹にもいくらか直撃し、内臓を飛び散らせる。
黒死牟の頸を落とす筈だった彼女の斬撃は、半歩分踏み込む力が足りなくなり──かつて縁壱が斬り裂いた場所を、なぞるだけに留まった。
彼がよろめくように数歩
──それきり、動く気配はなかった。いつかどこかで、見た覚えのある光景。
「────ぁあ……! アアァアァァ……!!!」
朝日が登り、琵琶の音が響いた。
──彼は一度ならず二度までも、剣士として死ぬ機会を逃して生き延びた。
*
■■噂話
「ん……」
特徴的な、薬品と藤の花の混ざった匂い。
──目が覚めると、私は蝶屋敷に居た。
そして、何かが『ガシャン』と割れる音。花瓶だな。
「──カナヲ、ちゃん?」
なんだか随分、背が伸びたような……。
「──後藤さーーん!! しのぶ姉さーん!! カナエ姉さーーん!! みんなーーッッ!!!
かぐや様が意識を取り戻しましたぁぁぁ!!!!」
──!!?!?
か、カナヲちゃんが大声出してる……!! 天変地異の前触れか!?
「はぁ、はぁ────良かった……! かぐや様、本当に……! もう、起きないんじゃないかって……!」
「えぇっっと……?」
「だって、
────は?
『何故か
三年……三年、だと……?
それは、つまり──
──竈門家はどうなった? 無限列車は……。
────杏寿郎は……。