鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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 アニメ一話見返して思ったこと。この頃の炭治郎くん、口調が悪いワケではないんだけど……意外と歳上にタメ口多かったのね。地元で皆知り合いだったからですかね?
 


昏睡期(二十二から二十四歳まで)
間章:空白の三年間(1)


 

 ──幸せが壊れる時には、いつも血の臭いがする。

 

 なぁ、どうしてこうなった。

 

 みんなみんな、死んでしまった。食い散らかされて、死んでしまった。

 

 熊か? 冬眠できなかった熊が出たのか?

 分からない。でも、おそらく違う。アレは、()()()()()()()()()()()だった。

 

 ──いや、今はそんなことを気にしている余裕は無い。一刻も早く、町へ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうだ、妹だけはまだ生きている。

 ウチは六人兄弟だった。俺には三人の弟と、二人の妹がいた。

 皆冷たくなってしまったけれど、上の妹だけはまだ体温を維持できていたから。急げば助かるかもしれないんだ。今もしっかり、背中に温もりを感じる。

 

 

「ゥヴ……」

 

「うわっ!?」

 

 

 背負っていた妹が、突然大きく身じろぎして……雪で足元が滑りやすくなっていたせいもあり、俺は盛大に転んで崖から落ちた。

 しかし不幸中の幸いと言うべきか、(転んだ原因でもあったが)高く積もった雪が落下の衝撃を大幅に軽減したことで、俺は怪我一つなく着地できた。だけど、

 

「ヴゥゥ……!」

「──禰豆子ッ!!」

 

 だけど妹は違う。元から重傷だった。いくら衝撃が和らいでも、身体に響く。

 

「禰豆子、立たなくていい! 横になれ! 俺が町まで運んでやるから!」

 

 そう言って俺が、苦しそうに呻く妹の元に駆け寄ると──。

 

 

「ガアアアァァッッ!!!」

 

「──え?」

 

 

 禰豆子は鬼になっていた。

 瞳孔は縦に裂け、犬歯は大きな牙となり──匂いが『人ではないモノ』へと変貌を遂げていた。

 

 そしていま俺を押し倒し、食おうとしている。

 

 俺は咄嗟に、腰に差していた斧を持って……禰豆子に柄を噛ませた。

 

 ──なぁ、誰か答えてくれ。どうしてこうなったんだ。

 

 一瞬、最悪の想像が頭を()ぎる。

 あの惨状も、妹がやったのでは──と。

 

 でも違う。禰豆子は間違いなく人間だった。一緒に育ったんだ、間違いない。

 家族を食ったのは、妹じゃあない。

 

「禰豆子、禰豆子……ッ!」

「ガァッ、ガァァァッ!!」

 

 ごめんよ。いつも我慢ばっかりさせてごめんな、禰豆子。

 

 ──でも、お前なら。

 

 お前が『()()()()()』に求める言葉は謝罪じゃないって、俺は知ってるから。

 

 

()()()! 耐えろ!! 鬼になんか、成るな……!」

 

「──ァ」

 

 

 そうだ。大丈夫だ。禰豆子、お前は強い。

 こういう時。苦しい時。俺が謝ると、お前はいつも怒っていたな。

 

 だから俺は、信じるよ。お前を信じて、()()()()よ。

 

 

「頑張れ、頑張れ……!!」

 

「ウゥゥ……!」

 

 

 禰豆子の目に、理性が戻ってきたのが解った。

 ポタポタと、俺の頬に涙が落ちる。

 

 あぁ、良かった──。

 

 ──と、一息吐く間も無かった。

 

 凄まじい俊足で走り寄って来た(誰か)が、刀を振りかぶっていた。禰豆子は気付いていない。

 

 俺は急いで禰豆子を抱きしめ、身体を捻って横転することで回避はしたが……。

 

「──何故庇う?」

 

 一度攻撃を回避したからといって、男の刀が消えるワケじゃない。その殺意が無くなるワケでもない。危機は去っていなかった。

 

「……妹だ」

()()が、妹か?」

 

 指でさし示す代わりに刀を向けて、彼はそう問うた。

 ──鬼の存在を当たり前に受け止めて、斬ろうとしている。おそらく彼が、三郎爺さんの言っていた『鬼狩り様』なのだろう。

 

「妹だ!! なんでか鬼になってしまったけど、妹はついさっきまで人間だった!」

「……傷口に鬼の血を浴びたんだろう。人喰い鬼は、そうやって増える」

 

 そして彼は、再び踏み込んだ。

 俺は咄嗟に、禰豆子に覆い被さったけれど……駄目だった。その時にはもう妹は、彼に拘束されて暴れていた。

 

「──待ってくれ!! 禰豆子は誰も殺してない! 何も悪いことなんてしてないのに……!!」

「今しがた、己も喰われそうになっておいて……よく言う」

「でも喰われてない! 俺のことはちゃんと分かってる証拠だ!!」

「似たようなことを言った直後に喰われた奴を、山ほど知ってる」

「禰豆子は違うんだ! 人を襲ったりしない! 俺が殺させない!」

「……話にならない」

 

 そう言って彼は、禰豆子の脹脛(ふくらはぎ)を斬った。これでもう、妹は逃げられない。

 

「ウ゛ゥ ヴゥゥゥゥッッ!!!」

 

 禰豆子は悲鳴を上げて、うつ伏せに倒れた。

 

 ──死ぬ。殺される。次の一振りで。

 数秒後には、俺の肉親は須く……物言わぬ血袋になる。

 

 

 ────嫌だ。

 

 

「やめてくださいッ、お願いします……お願いします……」

 

 

 地に頭を擦り付け、必死に懇願する。俺にはもう、()()()()()()()()()()()()()()から。

 

 結果、それを見た彼は──。

 

 

「──生殺与奪の権を、他人に握らせるなッ!!」

 

 

 姿は見えなかったけれど、強い激情の匂いがした。

 

 

(みじ)めったらしく(うずくま)るのは辞めろ! さっきもそうだッ、()()()()()()()()()()()()()()()!? お前ごと、妹を刺し殺してもよかったんだぞ!!」

 

「──ッ、でも」

 

「奪うか奪われるかの瀬戸際に、相手の心配なんてするな!! そんなことが許されるのは、圧倒的な強者のみッ。弱者には、何の権利も選択肢も無い……! まして()()()()()()()()()()()()()()()の手元には、何一つ残りはしない!!」

 

「……ッ」

 

 

 ────『戦え』と、そう言うのか。

 武器も、身体も、経験も、何一つ及ばない己に。目で追うことすら難しい速度で動く、この剣士と。

 

 厳しいことを言いながら、俺も禰豆子も殺さない……優しい貴方と。

 

 ガタガタと、身体が震える。

 深く呼吸をして、なんとか抑え込む。

 

 一つ。二つ……三つ。

 

 覚悟を決めろ。

 

 

 ────やってやる。

 

 

 

 *

 

 

 

(そうだ。それでいい。怒りは、この先お前が生きるための原動力になる)

 

 

 少年──炭治郎は石を手に取って立ち上がり、すぐさまそれを投擲した。少し離れた場所にある斧を拾うための、時間稼ぎだ。

 

 

(正確な投擲。素人にしてはやる)

 

 

 対する鬼狩り──義勇はその場から動かず、刀で石を弾いてみせる。視線すら動いていない。

 

 そして少年は、斧を拾いあげると……。

 

 

(……前言撤回)

 

「──愚かッ!」

 

 

 愚直な突進。自ら格上の間合いに飛び込む愚行。

 

 

(感情任せになりすぎるのも、考えも──ッ!?)

 

 

 刀の柄を用いた殴打で、炭治郎を無力化した義勇だが──その直後、少年が()()()()()ことに気付いた。

 ハッとして視線を上げた時にはもう、目の前に斧が迫っていた。

 無論気付いてしまえば、首を捻るだけで回避可能な攻撃だが……。

 

 

(コイツ……!!)

 

 

 木と身体で斧を隠しつつ、山なりに投擲。その後振りかぶった体勢で突進し、わざと攻撃を喰らいに行った。彼を斧の着地地点から、動かさないために。

 

 ──ただの一般人にできていい動きではない。

 

 

(戦場での機転が利く。咄嗟の状況でこれだけの策を練り、それを完璧に実行してみせる胆力……!!)

 

 

 少年は、義勇に『資質』を示した。

 奪われるだけの弱者から脱却し──彼と同じ、『強者(鬼狩り)』となる資質を。

 

 そして。そして、

 

 

「アァァッ、アアア……!」

 

(──涙?)

 

 

 禰豆子は泣きながら、倒れている炭治郎の方まで這っていき……身体を揺すった。

 義勇は禰豆子が炭治郎を喰おうとすれば、すぐに首を落とす気でいた。だが彼女は、ただ兄に縋り付いて泣いているだけだ。

 

 しかし義勇が一歩、二人の方へ歩み寄ると……。

 

 

「ヴゥウゥゥ……!!」

 

(……守っているのか? 兄を)

 

 

 禰豆子は身体で炭治郎を覆い隠しながら、牙を剥いて唸っている。……義勇の腕なら、もうとっくに……反応を許さず斬れる距離である、ということも知らずに。

 

 ──間違いなく、飢餓状態である筈だ。傷を治すために、人を喰らいたい筈だ。

 それでも彼女は、炭治郎の言った通り……彼を襲う動きを見せていない。

 

 

「藤の牢獄へ送るつもりでいたが──止めだ」

 

「…………?」

 

 

 義勇が納刀すると、禰豆子は唸るのを止め……怪訝そうに眉間へ皺を寄せた。

 

「安心しろ。もう敵意は無い」

「う゛ぅ……」

 

 なんとなく『信用できない』と言われているような気がして、義勇は珍しく笑った。

 

 

「信じろ。──()()()()()()()()()

 

 

 斯くして『月の無い夜』の物語は幕を上げた。

 

 ──日の出の時は近い。

 

 

 

 *

 

 

 

 ■■噂話

 

 

『──如何なさいますか? お館様』

 

『…………かぐやがそう言ったのなら、現れるのだろうね。鬼舞辻は』

 

『──では』

 

()()。……()()()()

 まだ上弦が半分以上残ってる。いま仕掛けても、返り討ちにされてしまうだろう。

 ……姉さんには申し訳ないけど、炭十郎さんへの義理は果たせない。彼の家族は、私が私の判断で見殺しにする』

 

『……あなたのせいでは』

 

『いや、私の責任だ。……()()()()()()()()()()()()()()()()、私の責任だ』

 

『…………』

 

『──いいかいあまね、()()()。かぐやが居ない現状で、我々が勝利するには……最低でもあと二つ、上弦の月を欠けさせる必要がある』

 

『……はい』

 

『戦いはまだ続く。まずは最低近くまで落ち込んだ士気を上げないといけない。──手伝ってくれるね?』

 

『──勿論』

 

『ありがとう』

 

 

 待っていろ鬼舞辻──もう一手だって、私は間違えてやらないからな。

 




 
 大事なところだったので、原作通りではあったものの最初はじっくり。次回以降は比較的あっさり進めつつ、変化した過去の影響が出てきます。
 
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