アニメ一話見返して思ったこと。この頃の炭治郎くん、口調が悪いワケではないんだけど……意外と歳上にタメ口多かったのね。地元で皆知り合いだったからですかね?
間章:空白の三年間(1)
──幸せが壊れる時には、いつも血の臭いがする。
なぁ、どうしてこうなった。
みんなみんな、死んでしまった。食い散らかされて、死んでしまった。
熊か? 冬眠できなかった熊が出たのか?
分からない。でも、おそらく違う。アレは、
──いや、今はそんなことを気にしている余裕は無い。一刻も早く、町へ。
そうだ、妹だけはまだ生きている。
ウチは六人兄弟だった。俺には三人の弟と、二人の妹がいた。
皆冷たくなってしまったけれど、上の妹だけはまだ体温を維持できていたから。急げば助かるかもしれないんだ。今もしっかり、背中に温もりを感じる。
「ゥヴ……」
「うわっ!?」
背負っていた妹が、突然大きく身じろぎして……雪で足元が滑りやすくなっていたせいもあり、俺は盛大に転んで崖から落ちた。
しかし不幸中の幸いと言うべきか、(転んだ原因でもあったが)高く積もった雪が落下の衝撃を大幅に軽減したことで、俺は怪我一つなく着地できた。だけど、
「ヴゥゥ……!」
「──禰豆子ッ!!」
だけど妹は違う。元から重傷だった。いくら衝撃が和らいでも、身体に響く。
「禰豆子、立たなくていい! 横になれ! 俺が町まで運んでやるから!」
そう言って俺が、苦しそうに呻く妹の元に駆け寄ると──。
「ガアアアァァッッ!!!」
「──え?」
禰豆子は鬼になっていた。
瞳孔は縦に裂け、犬歯は大きな牙となり──匂いが『人ではないモノ』へと変貌を遂げていた。
そしていま俺を押し倒し、食おうとしている。
俺は咄嗟に、腰に差していた斧を持って……禰豆子に柄を噛ませた。
──なぁ、誰か答えてくれ。どうしてこうなったんだ。
一瞬、最悪の想像が頭を
あの惨状も、妹がやったのでは──と。
でも違う。禰豆子は間違いなく人間だった。一緒に育ったんだ、間違いない。
家族を食ったのは、妹じゃあない。
「禰豆子、禰豆子……ッ!」
「ガァッ、ガァァァッ!!」
ごめんよ。いつも我慢ばっかりさせてごめんな、禰豆子。
──でも、お前なら。
お前が『
「
「──ァ」
そうだ。大丈夫だ。禰豆子、お前は強い。
こういう時。苦しい時。俺が謝ると、お前はいつも怒っていたな。
だから俺は、信じるよ。お前を信じて、
「頑張れ、頑張れ……!!」
「ウゥゥ……!」
禰豆子の目に、理性が戻ってきたのが解った。
ポタポタと、俺の頬に涙が落ちる。
あぁ、良かった──。
──と、一息吐く間も無かった。
凄まじい俊足で走り寄って来た
俺は急いで禰豆子を抱きしめ、身体を捻って横転することで回避はしたが……。
「──何故庇う?」
一度攻撃を回避したからといって、男の刀が消えるワケじゃない。その殺意が無くなるワケでもない。危機は去っていなかった。
「……妹だ」
「
指でさし示す代わりに刀を向けて、彼はそう問うた。
──鬼の存在を当たり前に受け止めて、斬ろうとしている。おそらく彼が、三郎爺さんの言っていた『鬼狩り様』なのだろう。
「妹だ!! なんでか鬼になってしまったけど、妹はついさっきまで人間だった!」
「……傷口に鬼の血を浴びたんだろう。人喰い鬼は、そうやって増える」
そして彼は、再び踏み込んだ。
俺は咄嗟に、禰豆子に覆い被さったけれど……駄目だった。その時にはもう妹は、彼に拘束されて暴れていた。
「──待ってくれ!! 禰豆子は誰も殺してない! 何も悪いことなんてしてないのに……!!」
「今しがた、己も喰われそうになっておいて……よく言う」
「でも喰われてない! 俺のことはちゃんと分かってる証拠だ!!」
「似たようなことを言った直後に喰われた奴を、山ほど知ってる」
「禰豆子は違うんだ! 人を襲ったりしない! 俺が殺させない!」
「……話にならない」
そう言って彼は、禰豆子の
「ウ゛ゥ ヴゥゥゥゥッッ!!!」
禰豆子は悲鳴を上げて、うつ伏せに倒れた。
──死ぬ。殺される。次の一振りで。
数秒後には、俺の肉親は須く……物言わぬ血袋になる。
────嫌だ。
「やめてくださいッ、お願いします……お願いします……」
地に頭を擦り付け、必死に懇願する。俺にはもう、
結果、それを見た彼は──。
「──生殺与奪の権を、他人に握らせるなッ!!」
姿は見えなかったけれど、強い激情の匂いがした。
「
「──ッ、でも」
「奪うか奪われるかの瀬戸際に、相手の心配なんてするな!! そんなことが許されるのは、圧倒的な強者のみッ。弱者には、何の権利も選択肢も無い……! まして
「……ッ」
────『戦え』と、そう言うのか。
武器も、身体も、経験も、何一つ及ばない己に。目で追うことすら難しい速度で動く、この剣士と。
厳しいことを言いながら、俺も禰豆子も殺さない……優しい貴方と。
ガタガタと、身体が震える。
深く呼吸をして、なんとか抑え込む。
一つ。二つ……三つ。
覚悟を決めろ。
────やってやる。
*
(そうだ。それでいい。怒りは、この先お前が生きるための原動力になる)
少年──炭治郎は石を手に取って立ち上がり、すぐさまそれを投擲した。少し離れた場所にある斧を拾うための、時間稼ぎだ。
(正確な投擲。素人にしてはやる)
対する鬼狩り──義勇はその場から動かず、刀で石を弾いてみせる。視線すら動いていない。
そして少年は、斧を拾いあげると……。
(……前言撤回)
「──愚かッ!」
愚直な突進。自ら格上の間合いに飛び込む愚行。
(感情任せになりすぎるのも、考えも──ッ!?)
刀の柄を用いた殴打で、炭治郎を無力化した義勇だが──その直後、少年が
ハッとして視線を上げた時にはもう、目の前に斧が迫っていた。
無論気付いてしまえば、首を捻るだけで回避可能な攻撃だが……。
(コイツ……!!)
木と身体で斧を隠しつつ、山なりに投擲。その後振りかぶった体勢で突進し、わざと攻撃を喰らいに行った。彼を斧の着地地点から、動かさないために。
──ただの一般人にできていい動きではない。
(戦場での機転が利く。咄嗟の状況でこれだけの策を練り、それを完璧に実行してみせる胆力……!!)
少年は、義勇に『資質』を示した。
奪われるだけの弱者から脱却し──彼と同じ、『
そして。そして、
「アァァッ、アアア……!」
(──涙?)
禰豆子は泣きながら、倒れている炭治郎の方まで這っていき……身体を揺すった。
義勇は禰豆子が炭治郎を喰おうとすれば、すぐに首を落とす気でいた。だが彼女は、ただ兄に縋り付いて泣いているだけだ。
しかし義勇が一歩、二人の方へ歩み寄ると……。
「ヴゥウゥゥ……!!」
(……守っているのか? 兄を)
禰豆子は身体で炭治郎を覆い隠しながら、牙を剥いて唸っている。……義勇の腕なら、もうとっくに……反応を許さず斬れる距離である、ということも知らずに。
──間違いなく、飢餓状態である筈だ。傷を治すために、人を喰らいたい筈だ。
それでも彼女は、炭治郎の言った通り……彼を襲う動きを見せていない。
「藤の牢獄へ送るつもりでいたが──止めだ」
「…………?」
義勇が納刀すると、禰豆子は唸るのを止め……怪訝そうに眉間へ皺を寄せた。
「安心しろ。もう敵意は無い」
「う゛ぅ……」
なんとなく『信用できない』と言われているような気がして、義勇は珍しく笑った。
「信じろ。──
斯くして『月の無い夜』の物語は幕を上げた。
──日の出の時は近い。
*
■■噂話
『──如何なさいますか? お館様』
『…………かぐやがそう言ったのなら、現れるのだろうね。鬼舞辻は』
『──では』
『
まだ上弦が半分以上残ってる。いま仕掛けても、返り討ちにされてしまうだろう。
……姉さんには申し訳ないけど、炭十郎さんへの義理は果たせない。彼の家族は、私が私の判断で見殺しにする』
『……あなたのせいでは』
『いや、私の責任だ。……
『…………』
『──いいかいあまね、
『……はい』
『戦いはまだ続く。まずは最低近くまで落ち込んだ士気を上げないといけない。──手伝ってくれるね?』
『──勿論』
『ありがとう』
待っていろ鬼舞辻──もう一手だって、私は間違えてやらないからな。
大事なところだったので、原作通りではあったものの最初はじっくり。次回以降は比較的あっさり進めつつ、変化した過去の影響が出てきます。