「──ここ……だよな?」
狭霧山の麓にある、小さな家屋の前にて。炭治郎は誰へともなくそう呟き、足を止めた。
彼は、ここに住んでいる老人 『鱗滝左近次』を訪ねるよう、鬼狩り──『冨岡義勇』に言われて来たのだ。
(会ったあと何をすればいいのかとか全っ然分からないけど、頑張るぞ!!)
炭治郎は大きく息を吸い込むと、腹から声を出した。
「──ごめんください! 鱗滝左近次さんはいらっしゃいますでしょうか!? 冨岡義勇さんからの紹介で来ました、竈門炭治郎です!!!」
するとすぐに玄関の扉が開き、天狗面を着けた男性が現れた。
「義勇から話は聞いている。儂が鱗滝左近次だ。
……その籠の中身が妹か?」
「はい!」
炭治郎は背負っていた籠を降ろすと、禰豆子に外へ出るよう促した。
「むー」
「……どうやら、人を喰っていないというのは本当らしいな」
「分かるんですか?」
「鬼は喰った人間の数に比例して、強い腐臭を放つようになる。……その娘の匂いは、とても薄い」
「なるほど! 覚えておきます!」
「……儂はヒトより鼻が利く。参考にはならん」
「大丈夫です! 俺も鼻には自信があるので!!」
「……そうか。ならば、
「??? はい!」
「これより、お前が鬼殺の剣士となるにふさわしい器かどうかを試す。ついて来い」
「分かりました! ──禰豆子」
「待て。妹は此処に置いていけ」
「え? でも……」
「お前を試験場に送った後、儂はすぐに戻る。妹は儂が責任を持って見ておくと約束しよう。戻るまでの僅かな時間に、この娘が姿を消したとしても……儂の鼻なら見つけるのは造作もない」
「そういうことなら……。
──禰豆子、ここで留守番をしててくれ。できるな?」
「むー!」
「では、行くぞ」
*
「──この辺りでいいだろう」
「ハッ、はぁ……! ここで、俺はっ、何を……!?」
狭霧山の中腹にて。左近次は足を止めて、炭治郎の方に向き直った。
周囲には特に人工物らしきものが見当たらず、『試験場』と言われても、すぐに何をするところかは判断できない場所だ。炭治郎は荒い息を整えながら、左近次に問いかけた。
「儂がこれから通る場所を進み、日の出までに山を降りて、儂の家まで戻って来い」
「えっ、それだけ……?」
「では、試験開始だ」
それだけ伝えると、左近次は霧の中へ溶けるように姿を消した。
炭治郎は困惑しつつも、言われた通り彼の匂いを辿って追随し──開始から数秒で、自分の甘さに気付かされることとなる。
「──
道中、足元に張られていた『縄』に炭治郎が躓くと……次の瞬間、彼へ目掛けて複数の小石が投げつけられたのだ。
更に、怯んでたたらを踏んだ先には落とし穴。
(──なるほど、仕掛けがあるワケか……!)
炭治郎は持ち前の『ど根性』で立ち上がり、すぐさま先を急ぐものの……。
「ガッッ、ハ……!?」
大きな丸太が、炭治郎の身体を軽々と突き飛ばした。
進めば進むほど、罠の危険度は上がっていく。『諦めるなら今だぞ』と言わんばかりに、『死を実感させるための罠』が増えていく。
(諦める、もんか……!!)
……それでも彼は、歩みを止めなかった。
止まればもう、罠にかかることはない。彼の命が危険に晒されることはない。
だが『竈門炭治郎』という少年は、自分より他人の命を優先できる存在だった。
「────ただいま、戻り……ッ、ました……」
「……竈門炭治郎、お前を認める」
彼が辿る『茨の道』は、まだ始まったばかりだ。
*
大正コソコソ噂話
本作では、鬼殺隊士の数が正史よりも多くなっているぞ。
なので雑魚オブ雑魚な『お堂の鬼』は画面外で既に退場しているぞ。