鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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閑話:鱗滝家

 

 ──鬼殺隊において、真菰の存在は特殊だ。

 

 非力な女性であること。十二歳という若さで最終選別を突破したこと。そして何より──()()()()()()()()こと。

 

 真菰は孤児である。それ自体は組織の性質上珍しくないが、彼女は『普通の孤児』である。鬼に親類を殺されたワケではない。故に鬼を憎まない。

 

 真菰の育て親、鱗滝左近次は初め、彼女を隊士にするつもりはなかったのだ。

 彼女を引き取る以前、彼には十人の弟子がいた。しかし、手塩にかけて育てた弟子達は……誰一人として最終選別を突破できず、彼の元に帰ることはなかった。だから彼は、『もう弟子は取らない』と決めていた。

 ……しかし、真菰は天才だった。彼女は左近次の呼吸が特別なものであると見抜き、教えを乞い始めたのだ。

 左近次は当然渋ったが、根負け。『最終選別に行かせなければいいだけの話だ』として、修行をつけるようになった。

 

 ──結果、真菰は一年で岩を両断して見せた。

 当時十才のことである。

 

 左近次は、止める理由を失った。しかし同時に、『この娘ならば』という期待もあった。

 ただ彼女は、すぐに選別へ向かうことはなかった。

 真菰には自分と同じ日に拾われ、同じ修行を受けた義姉(ぎし)がいたのだが……彼女はまだ岩を斬れなかったのだ。真菰は最終選別に参加するのなら、義姉と共にと決めていた。

 

 そして二年後、義姉──葦実(よしみ)も岩の切断に成功し、二人は選別へ向かった。

 

 そして、最終選別開始日。

 左近次は二人を送り出す時、自作の面を渡していたのだが、それは──。

 

『その面、〝厄徐の面〟と言ったか? それを着けてたから皆食われた』

『……そう、あなたが。あなたがいたから……!』

 

 面の真実を知った真菰は激昂。呼吸が乱れた結果、実力を半分も発揮できず、手足を引き千切られた。そして葦実も、抵抗虚しく食い殺されることとなる。

 

 ──それが、正史における二人の結末。

 

 だがこれは、呪われた少女が(つづ)るもう一つの歴史。

 本来の力を発揮した真菰は、持ち前の俊足で雑魚鬼を圧倒。(ことごと)くを伍ノ型のみで安楽死させ、鬼殺隊史上初の『最終選別死者数零』を達成する立役者となったのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「「ただいま〜」」

「────っ」

 

 最終選別から帰ると、いきなりお義父さんが抱きついてきた。

 ……肩が震えている。不謹慎だけど、本当に心配してくれてたのが分かるから、ちょっと嬉しい。

 

「……二人共、よく戻った」

「……大袈裟だなぁ。楽勝だったよ? 鬼を斬るより、ご飯と寝る場所の確保の方が大変だったくらい」

 

 ──姉さんが『それはアンタだけでしょ』とでも言いたげな目で見てくるが、敢えて無視する。

 

「本当か? どこも怪我はしていないか?」

「……傷一つないから安心して。真菰が山に居た鬼、一人で殆ど倒してくれちゃったおかげでね」

「凄いでしょ?」

「……ああ、凄いな。

 そうだ、今日は鍋にしよう。真菰の好きな具材を沢山用意してあるんだ」

「えーっ、私のは!?」

「勿論、用意してあるとも」

 

 ──()くして、蝶の(さなぎ)は羽化を果たした。飛翔の時は近い。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話:二人は義父のことを家族だけの時は『お義父(とう)さん』と。他の人がいる時は『鱗滝さん』と呼ぶらしいぞ。

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