到着が早くなっている影響で、今はまだ
なので……。
那田蜘蛛山、麓にて。
「──待ってくれ! ちょっと待ってくれないか!!」
「……? どうした、善逸」
藤の家から半日以上かけて、ようやっと到着した目的地を目の前に……善逸は座り込んでいた。何故かキメ顔で。そこだけ切り取れば、とても絵になるだろうが……。
「怖いんだよ! 目的地が近付いてきて分かったけど、あの山スゲー怖い!!」
実態は、少年がただ三角座りをして喚いているだけである。とても情けない……。
「何言ってんだコイツ。気持ちワリィ奴だな」
「半裸の猪頭野郎に言われたかねぇよ!?
なぁ炭治郎、分かるだろ……!? あの山は絶対
「まぁ、分かるけど……鬼が居るんだから、当たり前だろう?」
「それにしたってだよ!! この『音』の
「…………。でも善逸、
「いや
「「────」」
──意外と正論だったことに驚いたのか、炭治郎と伊之助は面食らった顔になっている。
鬼殺隊が夜に戦うことが多いのは、鬼が夜に動くからだ。動かないものは追えないからだ。何せ
しかしこの任務は違う。
鬼が苦手とする『朝』に、
彼らが相手にしている鬼は、妖怪でもなんでもなく実体のある生物だ。朝もどこかの日影で生きていて、存在しているのだ。
──ならばどうして、わざわざ相手が有利な状況で戦ってやる必要があるのだろう?
「話にならねぇな。剣八郎、行こうぜ」
「いや、待て伊之助。珍しく、善逸の言うことに正当性が見受けられる……」
「オイ炭治郎? 『珍しく』って何? 俺はいつだって常識人だったよ??」
最後の
「…………伊之助は、空気の流れが読めるんだったよな?」
「あぁ、それがどうした?」
「当初の予定では、俺の鼻で鬼の居場所を探る予定だったんだけど……近付いてみて分かった。那田蜘蛛山は、酷い刺激臭が充満してる。とてもじゃないけど、あの中で鬼の臭いを探し当てる自信はない。
だから今回、索敵は伊之助と善逸に任せることになると思う」
「──! おう、任せとけ!!」
「ぉ、おぅ……索敵は頑張ります。
「そこで問題になるのが、昼間動かない鬼の居場所を探れるかどうかってことだ。
相手が動かないとなると、音も出ないだろうから……善逸の耳にはあまり期待できない。だから、残るは伊之助なんだけど……」
「あ゛ー、できねぇこたぁないが……半々だな。たぶん見つからないと思った方がいい」
「だよなぁ……」
「えっ、どうして?」
「お前なぁ……テメェが鬼だったら、昼間はどう隠れるよ?」
「……山の中」
「それだけだと、ふとした拍子に日光が当たるかもしんねぇだろ。
──だから俺なら、
「あっ」
鬼という生物は、基本的に不死身だ。
「うん。実際禰豆子も最初の方は、穴を掘って日光から逃げてたから……土の中に隠れているって線は、充分にあり得る」
「分かりやすく家でも建てててくれりゃあ別なんだが……」
「期待はしない方がいいと思う」
「むむむむむ……でも鬼だって元は人間なんだし、快適な住まいが欲しいって考えてもおかしくないだろ? 実際前の鬼は屋敷持ってたし」
「だから
──まァ昼に戦えるとしても、俺は御免だけどな。勝てて当然の戦いなんざ、俺にとっちゃ無価値も無価値。やる意味がねぇ」
「俺も正直、乗り気にはなれないかな」
「なんでだよ!? お前らアレか! 斬り合いに華とか求めちゃう武士か何かか!!」
「いや別に武士ではないけど……いや、そうだな。
──伊之助。出直そう」
「え? あっ」
「……チッ、まぁ隊長の指示ならしゃーねーか。まだつまんねー結末になるって決まったワケでもねぇし、今回は退いてやる。
──が! 代わりに今夜はお前が俺と戦え炭吾郎!! それなら許す!」
「……しょうがないなぁ。俺で良ければ、相手になるよ」
「た、炭治郎? 炭治郎!? ちょっ、待てって! 事情があるなら聞くからさぁ! なぁ炭治郎────」
──こうして、最初の夜は何事もなく過ぎ去った。
*
大正コソコソ噂話
「……それで、炭治郎の『私情』ってのは何だよ」
「二人には話しただろ? 俺が鬼殺隊に入った目的」
「……禰豆子ちゃんを人間に戻す方法を探す……だろ?」
「あぁ。そのために、鬼舞辻を見つけて話を聞きたい。
鬼舞辻を見つけるために──居場所を知ってる鬼を探したい。その点十二鬼月は、期待値が凄く大きい」
「十二鬼月……鬼舞辻直属の配下……幹部みたいな存在、だっけか」
「そうだ。そして鼓の鬼は、
「えッ、そうだったの!?」
「うん。本人がそう言ってたし、眼に『下陸』って文字も書かれてた。バツ印が付いてたけど」
「それで……鬼舞辻の話は聞けたのか?」
「いや。あの時俺は十二鬼月が何なのか知らなくて……話を聞く前に斬っちゃったんだ。……そこまで手加減ができるような相手でもなかったし」
(……逆に言うと、
「つまり、ソイツより強い鬼の気配がするってこたぁ──あの山に居る鬼も十二鬼月ってことだな!? 俄然やる気が出てきたぜ……!」
「……うん、その可能性が高い。だから今度こそ、俺は腰を据えて話をしたいんだ。できればな」
「なるほど……でもそれは別に、朝でもできるんじゃないか?」
「…………じゃあ聞くけど、仮にその十二鬼月が家を建てていて、俺達が朝の調査で、そこを見つけることができたら……どうする?」
「屋根をぶっ壊す。鼓鬼の時は中に清くんが居たからできなかったけど、中に人が居なければ、昼間の鬼なんて建物を壊せば一発よ」*2
「ほらすぐそういうこと言う……それじゃ話なんてできないだろう?」
「マトモに戦うこともできないじゃねぇか!!」
「(伊之助の言い分はともかく、)だから『私情』か……」
「そうだ。でも鬼殺隊としては、善逸のやり方が合理的ってことは解ってる。だから明日、正午頃にもう一度改めて調査に向かう。それまでは仮眠と腹ごしらえだ」
「……うん。悪いな」
「フン、気に入らねぇ。
──今に見てろよ? すぐに俺も昇進して、お前らを足で使えるようになってやるからな!!」
「……あぁ、伊之助ならできるよ。きっと」
「…………『足』じゃなくて、『顎で使う』だろ? 全く」