──二日後。
『…………マジか』
炭治郎達は予定通り、日中に山を探索していた。
前衛に炭治郎。
安全重視の行軍だったこともあり、初日は特に成果が無かったものの……調査は滞りなく進んでいた。
そして調査二日目の今日、遂に彼らは
「あの家、
ただ家があるだけでも怪しいのに──あからさまな、鬼の所有物であろう住居。高所恐怖症でなくとも、『普通の人間』ならば到底住みたいとは思えないだろう住まい。何せそもそも、玄関に足を踏み入れることができない。
「……異形の鬼が使っている、ってことなんだろうな。もしくは、捕まえた人間を逃がさないための檻代わりか……。
──善逸、中から音は聞こえるか?」
「…………いや、何も聞こえない。中には誰も居ないと思う」
「俺の感覚にも、引っかかるものはねぇな」
「そうか。じゃあ松衛門、軽く中の様子を見てきてくれないか?」
「『天王寺』ガ抜ケテイルゾ愚カ者! ツツキ回サレタイカ?」
「ごめんごめん。──天王寺松衛門、頼む」
「ウム、了解シタ!」
そうして鴉に様子を確認して貰っている間に、伊之助は『次』について確認することにした。
「──それで、どうすんだ? この奥も探索すんのか?」
「……いや、今日はもう引き返して休もう。日が落ちたら改めて此処に向かう」
「ヨシきた!!」
「えぇ〜〜……結局夜戦かよぉ……」
鬼が居ない以上、住居を破壊しても意味は無い。
全ての感覚が人間よりも優れている鬼を相手に、『朝』という有利を手放すことは痛いが……拠点が判明したのであれば、出直すのはアリだ。いつどこで会敵するか分からず、神経を磨り減らしながら行軍するよりは余程マシである。それに、善逸を除く隊員のモチベーション的にも……この選択は一概に悪手とは言えない。
だから炭治郎は、この場所の『
*
「──人の足跡に、残り香があるな。まだ新しい……三人組か。
どうする? 累。コイツらも俺と
「うーん……『保存食』はもう充分蓄えたし──早い者勝ちで、好きにしてイイよ。
「キヒヒッ、了解ぃ!
──あぁ、楽しみだなぁ! 今夜は久しぶりに、派手な悲鳴を聞けそうだ!!」
*
「……、〜〜っ。おいポン太郎、まだか?」
「……ごめん、もうすぐだ」
──夜になった。
いま俺と伊之助、善逸は改めて山を訪れているワケだけれど……やっぱり朝と夜では、臭いの密度が違う。
だから伊之助には申し訳ないけど、ゆっくり少しずつ、時々立ち止まりながら……鼻を慣らしつつ進ませてもらっているのだ。
そしてこの選択は、間違いなく正解だったと断言できる。
────だって、そうでなければ
「……金次郎、天一。気をつけろ。
「うわわっ!? な、何コレ!? ──避けてくれ炭治郎!!」
「はぁぁ!? 言ったソバからなんで操られてんだテメェは!?」
「無茶言うなって!! 何をどう気ぃ付ければイイんだよこんなの!?」
そこら中を闊歩する、蜘蛛の群れ──その中に混じる、鬼の分体。ソレに取り付かれてしまうと、どうやら糸で動きを操られてしまうらしい。
伊之助のおかげで『居る』と分かってからは、気配を探るのもそう難しくなかったし、動きも遅かったが……とにかく数が多く、面倒だった。
──が、問題はコイツじゃない。
この蜘蛛は仮に取り付かれたとしても、身体を操る『糸』を切断してしまえばすぐに無害化できる。
だから、問題は……。
「──うおおぉ!? なんだコイツ!?
「ぎゃあああああヴァケモノォォォ!!!?!?」
俺達の方に走り寄って来た、この人面蜘蛛。
伊之助がそれを斬り殺そうとした、その直前。
────俺は人面蜘蛛から、
「伊之助斬るな!! それは人間だ!!」
「「はぁ!?」」
伊之助が慌てて峰打ちに切り替えたことを確認し、嘆息する。
そして、朝『あの家』を見た時の違和感……その正体に気付いた。
宙吊りになっている家。そこに繋がれた、蜘蛛の糸──自然の蜘蛛では出せない強度にも関わらず、太陽光の下でも存在を維持していたアレは……この人に出させた糸だ。
太陽光は鬼と鬼の術を消してくれるが、全てが『無かったこと』になるとは限らない。
──他に、この人を元に戻す方法があるとすれば……それは、術者の鬼を滅殺することだ。
「…………善逸、伊之助を頼んだ」
「へっ、俺!?」「あぁん!? 俺がこの弱味噌に何を頼まれなきゃいけねぇって!?」
「伊之助はもう察してると思うけど、この山には
「んなこたとーぜん分かってんだよ!!」
「──マジか」
「今の人は、正面から来た。朝伊之助が見つけてくれた、
伊之助は、『操り糸』の鬼を探して斬ってくれ。善逸は伊之助が索敵に集中できるように、近くで守って欲しい」
「……!」
「ハン! ならさっさと行きやがれ! こっちは俺一人でもなんとかならぁ!!」
…………善逸が涙目で首を横にブンブン振っていることだけ、少し心配だったが……俺達はここで、二手に別れた。
「鬼を倒すか怪我をしたら、麓の小屋まで撤退すること! 仮に三体目の鬼を見つけたとしてもだ!!
絶対にお互い生きて、合流しよう!!!」
*
大正コソコソ噂話
ゆらゆら、ゆらゆら、まどろみの中。
ガタガタ、ガタガタ、箱の中。兄の背中。
守ってくれる。安心する。嬉しい。暖かい。
…………でも、どこか悲しい。
今日も揺られて、わたしはただ、ただ、どこかへ運ばれて。
──酷い臭いがした。何か、尋常じゃないことが起こっている気がした。
────そっと、少しだけ扉を開けてみる。
蜘蛛のようで、
──悲しい。悲しい。
わたしには、彼らを助けてあげられない。
────本当に?
パタンと、扉を閉める。
ぎゅうっと、瞼を閉じる。
──グツグツ、グツグツ、煮え滾っている。
足りない。足りない。
もっと早く、もっと先へ。進め。奥底へ。ぬくぬくと守られていた間の遅れを、取り戻せ。
────ゆらゆら。グツグツ。