鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

46 / 82
(9B)

 

 ──二日後。

 

『…………マジか』

 

 炭治郎達は予定通り、日中に山を探索していた。

 前衛に炭治郎。殿(しんがり)に善逸。この二人で近距離を警戒し、伊之助は中央で広範囲の索敵を行いつつ脳内地図作成(マッピング)に勤しんでいた。

 安全重視の行軍だったこともあり、初日は特に成果が無かったものの……調査は滞りなく進んでいた。

 

 そして調査二日目の今日、遂に彼らは()()を見つけた。

 

「あの家、()()()()()()()()?」

 

 ただ家があるだけでも怪しいのに──あからさまな、鬼の所有物であろう住居。高所恐怖症でなくとも、『普通の人間』ならば到底住みたいとは思えないだろう住まい。何せそもそも、玄関に足を踏み入れることができない。

 

「……異形の鬼が使っている、ってことなんだろうな。もしくは、捕まえた人間を逃がさないための檻代わりか……。

 ──善逸、中から音は聞こえるか?」

 

「…………いや、何も聞こえない。中には誰も居ないと思う」

「俺の感覚にも、引っかかるものはねぇな」

 

「そうか。じゃあ松衛門、軽く中の様子を見てきてくれないか?」

「『天王寺』ガ抜ケテイルゾ愚カ者! ツツキ回サレタイカ?」

「ごめんごめん。──天王寺松衛門、頼む」

「ウム、了解シタ!」

 

 そうして鴉に様子を確認して貰っている間に、伊之助は『次』について確認することにした。

 

「──それで、どうすんだ? この奥も探索すんのか?」

「……いや、今日はもう引き返して休もう。日が落ちたら改めて此処に向かう」

「ヨシきた!!」

「えぇ〜〜……結局夜戦かよぉ……」

 

 鬼が居ない以上、住居を破壊しても意味は無い。

 全ての感覚が人間よりも優れている鬼を相手に、『朝』という有利を手放すことは痛いが……拠点が判明したのであれば、出直すのはアリだ。いつどこで会敵するか分からず、神経を磨り減らしながら行軍するよりは余程マシである。それに、善逸を除く隊員のモチベーション的にも……この選択は一概に悪手とは言えない。

 

 

 だから炭治郎は、この場所の『()()()』に蓋をして──元来た道を、引き返して行った。

 

 

 

 *

 

 

 

「──人の足跡に、残り香があるな。まだ新しい……三人組か。

 どうする? 累。コイツらも俺と()で『保存食』にしようか? それとも……」

 

「うーん……『保存食』はもう充分蓄えたし──早い者勝ちで、好きにしてイイよ。()()()()にもそう伝えておいて、()()()

 

「キヒヒッ、了解ぃ!

 ──あぁ、楽しみだなぁ! 今夜は久しぶりに、派手な悲鳴を聞けそうだ!!」

 

 

 

 *

 

 

 

「……、〜〜っ。おいポン太郎、まだか?」

「……ごめん、もうすぐだ」

 

 ──夜になった。

 いま俺と伊之助、善逸は改めて山を訪れているワケだけれど……やっぱり朝と夜では、臭いの密度が違う。

 だから伊之助には申し訳ないけど、ゆっくり少しずつ、時々立ち止まりながら……鼻を慣らしつつ進ませてもらっているのだ。

 

 そしてこの選択は、間違いなく正解だったと断言できる。

 

 

 ────だって、そうでなければ()()()()()()()()()()()()()から。

 

 

「……金次郎、天一。気をつけろ。()()()()()()()──」

 

「うわわっ!? な、何コレ!? ──避けてくれ炭治郎!!」

 

「はぁぁ!? 言ったソバからなんで操られてんだテメェは!?」

 

「無茶言うなって!! 何をどう気ぃ付ければイイんだよこんなの!?」

 

 

 そこら中を闊歩する、蜘蛛の群れ──その中に混じる、鬼の分体。ソレに取り付かれてしまうと、どうやら糸で動きを操られてしまうらしい。

 伊之助のおかげで『居る』と分かってからは、気配を探るのもそう難しくなかったし、動きも遅かったが……とにかく数が多く、面倒だった。

 

 ──が、問題はコイツじゃない。

 この蜘蛛は仮に取り付かれたとしても、身体を操る『糸』を切断してしまえばすぐに無害化できる。

 

 だから、問題は……。

 

 

「──うおおぉ!? なんだコイツ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぜ!!」

 

「ぎゃあああああヴァケモノォォォ!!!?!?」

 

 

 俺達の方に走り寄って来た、この人面蜘蛛。

 

 伊之助がそれを斬り殺そうとした、その直前。

 

 

 ────俺は人面蜘蛛から、()()()()()()()()

 

 

「伊之助斬るな!! それは人間だ!!」

 

「「はぁ!?」」

 

 

 伊之助が慌てて峰打ちに切り替えたことを確認し、嘆息する。

 

 そして、朝『あの家』を見た時の違和感……その正体に気付いた。

 

 

 宙吊りになっている家。そこに繋がれた、蜘蛛の糸──自然の蜘蛛では出せない強度にも関わらず、太陽光の下でも存在を維持していたアレは……この人に出させた糸だ。

 

 太陽光は鬼と鬼の術を消してくれるが、全てが『無かったこと』になるとは限らない。

 

 ──他に、この人を元に戻す方法があるとすれば……それは、術者の鬼を滅殺することだ。

 

 

「…………善逸、伊之助を頼んだ」

 

「へっ、俺!?」「あぁん!? 俺がこの弱味噌に何を頼まれなきゃいけねぇって!?」

 

「伊之助はもう察してると思うけど、この山には()()()()()()()()()

 

「んなこたとーぜん分かってんだよ!!」

「──マジか」

 

「今の人は、正面から来た。朝伊之助が見つけてくれた、()()()()()()()()だ。俺はこのまま、こっちの鬼を斬りに行く。

 伊之助は、『操り糸』の鬼を探して斬ってくれ。善逸は伊之助が索敵に集中できるように、近くで守って欲しい」

 

「……!」

「ハン! ならさっさと行きやがれ! こっちは俺一人でもなんとかならぁ!!」

 

 …………善逸が涙目で首を横にブンブン振っていることだけ、少し心配だったが……俺達はここで、二手に別れた。

 

「鬼を倒すか怪我をしたら、麓の小屋まで撤退すること! 仮に三体目の鬼を見つけたとしてもだ!!

 絶対にお互い生きて、合流しよう!!!」

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 

 ゆらゆら、ゆらゆら、まどろみの中。

 

 ガタガタ、ガタガタ、箱の中。兄の背中。

 

 守ってくれる。安心する。嬉しい。暖かい。

 

 …………でも、どこか悲しい。

 

 今日も揺られて、わたしはただ、ただ、どこかへ運ばれて。

 

 ──酷い臭いがした。何か、尋常じゃないことが起こっている気がした。

 

 ────そっと、少しだけ扉を開けてみる。

 

 

 蜘蛛のようで、()のようで、(家族)のような、不思議なイキモノがいた。遠くから、わたしとお兄ちゃんを見つめていた。

 

 

 ──悲しい。悲しい。

 わたしには、彼らを助けてあげられない。

 

 

 ────本当に?

 

 

 パタンと、扉を閉める。

 ぎゅうっと、瞼を閉じる。

 

 

 ──グツグツ、グツグツ、煮え滾っている。

 

 足りない。足りない。

 

 もっと早く、もっと先へ。進め。奥底へ。ぬくぬくと守られていた間の遅れを、取り戻せ。

 

 

 ────ゆらゆら。グツグツ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。