鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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(9C)

 

「──そこに居るのは分かっているぞ! 出てこい、悪鬼!!」

 

「──……。

 ケケ。我が家にようこそ、鬼狩り」

 

 目的地に着いてすぐ、俺が声を張り上げると……鬼は素直に応じ、姿を現した。

 蜘蛛の身体に人の頭。そして何より、鼻が麻痺して尚消えてくれない、吐き気を催すこの悪臭……コイツが本体で間違いない。

 

「これからお前に、二つ聞く!」

「なんだ?」

「蜘蛛になった人間を、元に戻す方法は?」

「無い」

 

「じゃあ次だ──十二鬼月はどこに居る?」

 

 強い悪臭こそするが、彼は十二鬼月じゃない。

 瞳に文字が無いし、そもそも『鬼舞辻の臭い』とは別種の悪臭だ。一番臭いが濃いから勘違いしたが、山へ入る前に感じた『強い鬼の気配(におい)』は……コイツじゃない。そしてそれは、『操り糸』の鬼も同様だ。糸の臭いが別人のものだった。

 

「……さぁな」

「そうか。なら質問は終わりだ。

 ──今からお前を、斬る」

 

「いいぜぇやって──み、ろ¿

 

「…………やっぱり違かったか」

 

 

  水の呼吸 弍ノ型 水車(みずぐるま)縦横(じゅうおう)二連

 

 

 跳躍と共に放った、攻防一体の回転斬りは……彼の反応を許さず、首と身体を十字に切断していた。

 四分割された彼の身体が地に落ちて、塵になる。

 

 ──言っちゃ悪いが、弱過ぎる。『鼓』の彼とは比べるべくもない。

 

 

「蜘蛛になった人達は……」

 

 …………ダメだ。戻る気配がない。

 

「……すみません。必ず良いお医者様を見つけて、皆さんを迎えに戻りますから。それまで……待っていてください」

 

 ……さて、どうするか。

 想定より遥かに早く終わったし、これなら伊之助と善逸の援護にも向かえるか?

 しかし臭いの元を倒したことでマシにはなったものの、鼻は依然として回復し切っていない。今から来た道を引き返して、二人の元へ向かって……手間取らずに追えるだろうか──。

 

 

 

 *

 

 

 

 ── 一方その頃。

 

 

「もうイヤァァァ!!! なんなのこの山!? どうしてどいつもこいつもブッ飛んだ異形ばっかりなんだよぉぉ!?」

「チィッ……!!」

 

 『操り糸』の鬼を追っていた伊之助と善逸は、現在来た道を全力で引き返していた。

 ……より正確に言うと、鬼に追い返されていた。つまり()()()()()

 

(言逸と同意見っつーのは癪だが、実際イヤになるぜ……! やりにくいったらありゃしねぇ!!

 流石の俺様も、()()()()()()()()からな……!)

 

「どーすんの!? ねぇどうするのアレ!? ()()()()()の倒し方なんて俺教わってないんですけどぉぉ!?!?」

 

「あぁもうごちゃごちゃうるっせぇなお前!! いま考えてっから静かにしやがれ!!!」

 

 しかし、彼らを追う鬼は速かった。二人の全力疾走に追い縋り、鋭い鉤針のような両腕を振り回して、攻撃をし続けていた。いくら伊之助と善逸が、視覚に頼らず回避ができる超感覚持ちとは言え……思考に専念できるような状況ではなかった。

 ──故に、彼が『こうする』のは時間の問題だったと言えよう。

 

「だああもう面倒くせぇ!」

「伊之助!?」

 

 突然立ち止まり、振り返った彼に釣られ……善逸も立ち止まる。

 

「そもそもアレコレ考えながら戦うなんざ、俺じゃねぇんだよ!」

「──ッ、バカ!!」

 

「猪突、猛進!!!」

 

(まずはその、邪魔な両腕から斬り落として──)

 

 

 そうして考え無しに突っ込んだ伊之助は──鬼の両腕に刃を振り下ろす直前の体勢で固まった。

 

 『操り糸』の血鬼術。彼は糸に囚われたのだ。

 

 

(──あっ)

 

 

 次の瞬間には、鬼の腕が引き絞られていて。

 

 『やられる』と悟った頃には既に、心臓へ爪が向かってきていて──。

 

 

 そこで、彼の意識は途絶えた。

 

 

「──の助」

 

「…………」

 

「伊之助!!」

 

「ンハッ!?」

 

 そして目覚めた時には、()()()()()()()

 代わりに、炭治郎が目の前に居た。

 

「大丈夫か!? 返事はできるか!?」

「お、おう……」

 

 困惑しながらも返事をした伊之助は、続けて『どうして炭治郎(お前)がここに』と問うた。

 

「思ったより早く鬼を倒せたから、戻ってきたんだ。そしたら()()()()()()()()()()()……何があったんだ?」

 

「──は?」

 

「え?」

 

「……あの鬼、()()()()()()()()()()()()()?」

 

「──? 俺が来た時には、()()()()()()()()()()()()()ぞ?」

 

「…………マジか」

 

 その言葉が指し示す意味は──。

 

 

「──うぎゃああああああ死ぬうううううう──ぅ?」

 

「「!?!?」」

 

 

 突如奇声を上げて飛び起きた『(くだん)の彼』は、キョロキョロと(せわ)しなく周囲を見渡し──困惑した様子で自分を見つめる二人に気付いた。

 

 

「──たッ、炭治郎ぉぉぉ!!! 良かったぁ、助けに来てくれたんだな!?」

 

「あっ、うん……」

 

「もうヤバかったんだって! バカ猪が無策で突っ込んで、やられそうになるからさぁ!!」

 

 伊之助も、そこまでは覚えている。問題はその先だが……。

 

「俺頑張ったよ! 伊之助が戦えなくなったらオシマイだから、頑張って()()()()()()()()()()()のよ!!」

 

 

(────あぁ、そうだったな)

 

 

 伊之助の脳裏に、攻撃を喰らう直前──善逸が割り込んで、鞘に入ったままの刀を盾にしていた姿が浮かび上がった。

 

 

「そんで俺も伊之助も一緒に吹っ飛ばされてさ!? 受け身とか取る余裕なかったからさぁ……!! 意識落ちて、もう『終わった』と思ったぜマジでよぉ……!!!」

 

「そ、そうか……じゃあ、その鬼を倒したのは()()()()()()んだな?」

 

「──は? ()()()()()()()()()()()()()??」

 

 

 彼に、嘘を吐いている様子はなかった。回復してきた炭治郎の鼻も、彼から『嘘の臭い』を検出することはなかった。

 

 ──二人が善逸の『力』に気付くのは、もう少しだけ先のお話。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正噂話

 

 

 ──宙吊りになった家の下で、病的に白い肌の少年が……しゃがんで『何か』を見ていた。

 

「…………そ。負けたんだ、兄さん」

 

 少年が見ていたのは、小さな『赤い蜘蛛』だった。

 

「──じゃあ、()()()()()()()

 

 少年は蜘蛛をつまみ上げ、()()()()()

 

「『首無し』も負けたみたいだし、あっちも回収しないと。

 …………人形とは言え二つも欠片を埋め込んだ手駒だったのに……あの母さんも、もういらないかな」

 

 心底呆れているようで、怒っているようで、その実どうでもよさそうな──そんな声色と、『無表情』

 

 

「…………兄さん……アンタは比較的、いい『兄』だったよ」

 

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