「──そこに居るのは分かっているぞ! 出てこい、悪鬼!!」
「──……。
ケケ。我が家にようこそ、鬼狩り」
目的地に着いてすぐ、俺が声を張り上げると……鬼は素直に応じ、姿を現した。
蜘蛛の身体に人の頭。そして何より、鼻が麻痺して尚消えてくれない、吐き気を催すこの悪臭……コイツが本体で間違いない。
「これからお前に、二つ聞く!」
「なんだ?」
「蜘蛛になった人間を、元に戻す方法は?」
「無い」
「じゃあ次だ──十二鬼月はどこに居る?」
強い悪臭こそするが、彼は十二鬼月じゃない。
瞳に文字が無いし、そもそも『鬼舞辻の臭い』とは別種の悪臭だ。一番臭いが濃いから勘違いしたが、山へ入る前に感じた『強い鬼の
「……さぁな」
「そうか。なら質問は終わりだ。
──今からお前を、斬る」
「いいぜぇやって──み、ろ¿」
「…………やっぱり違かったか」
水の呼吸 弍ノ型
跳躍と共に放った、攻防一体の回転斬りは……彼の反応を許さず、首と身体を十字に切断していた。
四分割された彼の身体が地に落ちて、塵になる。
──言っちゃ悪いが、弱過ぎる。『鼓』の彼とは比べるべくもない。
「蜘蛛になった人達は……」
…………ダメだ。戻る気配がない。
「……すみません。必ず良いお医者様を見つけて、皆さんを迎えに戻りますから。それまで……待っていてください」
……さて、どうするか。
想定より遥かに早く終わったし、これなら伊之助と善逸の援護にも向かえるか?
しかし臭いの元を倒したことでマシにはなったものの、鼻は依然として回復し切っていない。今から来た道を引き返して、二人の元へ向かって……手間取らずに追えるだろうか──。
*
── 一方その頃。
「もうイヤァァァ!!! なんなのこの山!? どうしてどいつもこいつもブッ飛んだ異形ばっかりなんだよぉぉ!?」
「チィッ……!!」
『操り糸』の鬼を追っていた伊之助と善逸は、現在来た道を全力で引き返していた。
……より正確に言うと、鬼に追い返されていた。つまり
(言逸と同意見っつーのは癪だが、実際イヤになるぜ……! やりにくいったらありゃしねぇ!!
流石の俺様も、
「どーすんの!? ねぇどうするのアレ!?
「あぁもうごちゃごちゃうるっせぇなお前!! いま考えてっから静かにしやがれ!!!」
しかし、彼らを追う鬼は速かった。二人の全力疾走に追い縋り、鋭い鉤針のような両腕を振り回して、攻撃をし続けていた。いくら伊之助と善逸が、視覚に頼らず回避ができる超感覚持ちとは言え……思考に専念できるような状況ではなかった。
──故に、彼が『こうする』のは時間の問題だったと言えよう。
「だああもう面倒くせぇ!」
「伊之助!?」
突然立ち止まり、振り返った彼に釣られ……善逸も立ち止まる。
「そもそもアレコレ考えながら戦うなんざ、俺じゃねぇんだよ!」
「──ッ、バカ!!」
「猪突、猛進!!!」
(まずはその、邪魔な両腕から斬り落として──)
そうして考え無しに突っ込んだ伊之助は──鬼の両腕に刃を振り下ろす直前の体勢で固まった。
『操り糸』の血鬼術。彼は糸に囚われたのだ。
(──あっ)
次の瞬間には、鬼の腕が引き絞られていて。
『やられる』と悟った頃には既に、心臓へ爪が向かってきていて──。
そこで、彼の意識は途絶えた。
「──の助」
「…………」
「伊之助!!」
「ンハッ!?」
そして目覚めた時には、
代わりに、炭治郎が目の前に居た。
「大丈夫か!? 返事はできるか!?」
「お、おう……」
困惑しながらも返事をした伊之助は、続けて『どうして
「思ったより早く鬼を倒せたから、戻ってきたんだ。そしたら
「──は?」
「え?」
「……あの鬼、
「──? 俺が来た時には、
「…………マジか」
その言葉が指し示す意味は──。
「──うぎゃああああああ死ぬうううううう──ぅ?」
「「!?!?」」
突如奇声を上げて飛び起きた『
「──たッ、炭治郎ぉぉぉ!!! 良かったぁ、助けに来てくれたんだな!?」
「あっ、うん……」
「もうヤバかったんだって! バカ猪が無策で突っ込んで、やられそうになるからさぁ!!」
伊之助も、そこまでは覚えている。問題はその先だが……。
「俺頑張ったよ! 伊之助が戦えなくなったらオシマイだから、頑張って
(────あぁ、そうだったな)
伊之助の脳裏に、攻撃を喰らう直前──善逸が割り込んで、鞘に入ったままの刀を盾にしていた姿が浮かび上がった。
「そんで俺も伊之助も一緒に吹っ飛ばされてさ!? 受け身とか取る余裕なかったからさぁ……!! 意識落ちて、もう『終わった』と思ったぜマジでよぉ……!!!」
「そ、そうか……じゃあ、その鬼を倒したのは
「──は?
彼に、嘘を吐いている様子はなかった。回復してきた炭治郎の鼻も、彼から『嘘の臭い』を検出することはなかった。
──二人が善逸の『力』に気付くのは、もう少しだけ先のお話。
*
大正噂話
──宙吊りになった家の下で、病的に白い肌の少年が……しゃがんで『何か』を見ていた。
「…………そ。負けたんだ、兄さん」
少年が見ていたのは、小さな『赤い蜘蛛』だった。
「──じゃあ、
少年は蜘蛛をつまみ上げ、
「『首無し』も負けたみたいだし、あっちも回収しないと。
…………人形とは言え二つも欠片を埋め込んだ手駒だったのに……あの母さんも、もういらないかな」
心底呆れているようで、怒っているようで、その実どうでもよさそうな──そんな声色と、『無表情』
「…………兄さん……アンタは比較的、いい『兄』だったよ」