鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第四話:『煉獄』

 

 異形のいない最終選別から、五年。

 

 十歳となったかぐやは、煉獄家の景色を改めて目に焼き付けていた。

 その日は別段、『特別な日』というワケではなかったけれど。彼女にとっては、違ったから。

 騒ぎ立てることはしなかったけれど。彼女にとっては、『節目』となる日だったのだ。

 

 かぐやがずっと、『できない』と知っていたために『やらなかった』ことを──ふと『できるな』と悟り、『実行した』日だった。

 

 これは、その翌日のこと。

 

 かぐやは当然のように、槇寿郎の前で『仇ノ型』を使ってみせた。

 

「…………合格だ」

 

 彼女は遂に、炎の呼吸の奥義を習得したのだ。

 

「これでやっと、最終選別に行けるんですね……長かった……」

 

「おめでとうございます、かぐや様!」

 

 奥義の習得を、自分のことのように喜ぶ杏寿郎に対し……かぐやは素直に礼を言った。──その直後、彼女は何か悪戯を思いついたような顔をして、口を開く。

 

「杏寿郎。昔のように、『ねーね』と呼んではくれないのですか?」

「──んなっ、俺がいつそんな呼び方をしたと!?」

「あぁ、アレはかぐや様が内弟子になってすぐのことだったな……お前が最初に呼んだ名前が『かぐやねーね』だったから、よく覚えている」

「ほぼ赤子同然の時の話ではありませんか!!」

 

「いいじゃないですか。

 ……もう会えないかもしれないんですから」

 

「──っ」

 

 かぐやが煉獄家の内弟子として扱われる期間は、最初に耀哉が口にした『炎の呼吸とその型を我が物とする』までだ。玖ノ型を習得した以上、彼女は最終選別に参加しなければならない。

 そして最終選別に参加したら、死んで今生の別れとなるか、隊士か(かくし)になって各地を転々とするかだ。いずれにせよ、長期間の離別となることは確実だ。

 それを聞いてハッとした杏寿郎は──

 

「……か、かぐやねーね」

「「!!!」」

 

 端正な顔を、髪以上に真っ赤に染めながら、常時ハキハキとした彼らしくない小声ではあったが……彼は確かにかぐやを『ねーね』と呼んだ。

 

「きょ、杏寿郎。今なんと? もう一度お願いしていいですか?」

「二度と言うものですか!!」

「そんなこと言わず、もう一度!」

「い・や・で・す!!!」

 

 この後すぐに杏寿郎は部屋へ引き篭もり、かぐやは玖ノ型が成功した時の感覚を馴染ませるため、鍛錬に励んでいた。

 

 ──そしてかぐやは翌日、槇寿朗と瑠火に見送られながら、日の出と共に煉獄家を出て行った。その間杏寿郎は部屋で一人、泣いていた。

 

「……よかったのか? 杏寿郎」

「……はい。会ったらきっと、引き止めたくなってしまいますから」

「そうか」

 

 槇寿朗は杏寿郎の頭をグシャグシャと撫で、部屋を出た。

 そうして彼が自室に戻り、手に取ったのは──。

 

「──始まりの呼吸。最強の呼吸。炎を含めた、全ての呼吸法は『日の呼吸』の後追いであり、劣化版……」

 

 二十一代目炎柱ノ書。彼の先祖が遺した書籍。全集中の呼吸が生み出された当初の記録が残された、貴重な品であるが……そこに書かれていた内容は、とてもではないが同じ炎柱が書いたとは思えないほど、読む者の心境を暗く陰湿にさせるようなものだった。

 しかし、槇寿朗が態々再びこの頁を開いたのは……思い当たる節があったからだ。

 

「日の呼吸の剣士達が、鬼舞辻無惨を追い詰めた。公式ではそう記されるだろうが、()()()()()()()……実際に無惨を追い詰め、呼吸法を広めた剣士は──ただ一人」

 

 そして槇寿朗は、かぐやの呼吸音を思い出す。

 

「…………炎の呼吸は、最初に生み出された派生呼吸だからか……()()()()()()()()()()()()()

 

 同じ、『燃え盛る炎のような音』には違いがないのだけれど。

 違う意味を持つ文字が、同じ読み方をすることがあるように──かぐやの()()が、槇寿郎には『違うモノ』のように思えてならなかった。

 

「お館様は、『姉上(かぐや様)が全てを終わらせてくれる』と仰っていた」

 

 槇寿朗は、思うのだ。

 おそらくかぐやは自分や杏寿郎、歴代の炎柱を越える『本物の天才』なのだろうと。つまり彼女の適性呼吸は……『日の呼吸』であるのだろう、と。

 

 その予想は、()()『空想』に過ぎない。

 しかしその空想は、『真実』を確かに捉えていて。

 

 その事実は。彼の心を──……。

 

「──()()()()()!」

 

 嫉妬や諦念で蝕まれる以上に、彼は戦意の高揚を感じていた。

 

「始まりの呼吸の剣士は、一人で無惨を追い詰めたものの、討伐には至らなかった。かぐや様がいくら天才であっても、一人では駄目なのだ」

 

  ──我々が、助けなければならない。

 

 そう決意した槇寿朗は、大きく息を吸い込んだ。

 

「──杏寿郎!!」

 

「はい父上! なんでしょう!?」

「庭に出ろ! 今から修行だ!!」

「──はい!!」

 

 それから二人は瑠火に『うるさい』と怒られつつ、修行を始めた。

 

 ──もう、槇寿朗の心が折れることはないだろう。

 何があろうと。()()()()()()()

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 いつかどこかの内緒話

 

 

「瑠火さん、一つ伺ってもよろしいですか」

「なんでしょう?」

 

「瑠火さんは、『人を殺さず救う、鬼の医者』が存在するとしたら、どう思いますか?」

 

「……大いに結構ではありませんか」

「──安心しました」

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