鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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 今回の後書きは閲覧注意です。(累についての独自解釈です。イメージを壊したくない方は注意です)
 今回の後書きは山に埋められて消えました。
 


(9F)

 

 

 ──前略。竈門炭治郎殿。

 初めに謝罪を。すみませんでした。

 

 実をいうと私は、貴方の日輪刀が黒く染まることを知っていたのです。そして、失伝した『黒刀の適性呼吸』が……人知れず、継承され続けていたことも。

 

 無論、悪意から隠していた訳ではありません。理由については、件の呼吸──『日の呼吸』とその型を継承していた家について知れば、納得して頂けるかと。

 

 その一族の家名は──

 

 

 

 

 *

 

 

 

「オレの『家族』にィィ、近付くなァァァ!!!」

 

 

  斑毒痰

 

 

 鬼の口から酷い臭気の液体が吐き出され、こちらに向かってくる。

 

 ……距離を離したら、攻撃方法が変わった。これが彼の『血鬼術』だろうか?

 だが遅い。範囲も大して広くない。避けられる。

 

 回避後、横目で着弾点を確認。

 ──当たった岩が溶けていく。溶解液か。直撃は勿論、日輪刀での迎撃も避けた方が良さそうだ。

 

 木々の間を縫うようにして、撹乱しながら接近。

 ──敵の間合いに入った。拳が来る。

 

 

 敵が最も警戒を緩めるのは、『勝った』と思った時だ。

 

 

 引きつけて、引きつけて、さっきまでと違って『防御』はしない。

 

 

 ──来た。『隙の臭い』

 

 

 『()()()』を使う。

 

 

「ごめんな」

 

 

  ()()()()()() 斜陽転身

 

 

 ギリギリで跳躍して、回避。同時に空中で身体を回転させ、敵の背後から斬撃を放つ。

 

 水の呼吸では斬れなかった、彼の分厚く強靭な筋肉の鎧は──あっさりと牙城を崩し、その身は塵となって消えた。

 

 ──そして呼吸を『水』に戻す。

 

 ヒノカミ神楽……『()()()()』は、長時間維持できない。使っている間は、水の呼吸を遥かに超える力を得られるけれど……身体にかかる負荷も、それ相応。『常中』なんて、とても不可能だ。

 内心密かに、胸を撫で下ろす。ヒノカミ神楽を使う場合、連続して出せる技は二つが限度。三つ以上繋げると、反動で暫く一歩も動けなくなる。余裕を持って一撃で倒せたのは、運が良かった。

 

 ……何故『炭焼き』のウチに、『神楽』という形で『鬼狩りの剣技』と『始まりの呼吸』が伝わっていたのか……それは分からない。

 俺の父『炭十郎』が、どこで黒刀の柱……『かぐや様』と知り合ったのか、それも分からない。当事者の二人は既に亡くなっているから……確かめる術すら、ない。

 

 ──だけど、そんなことは重要じゃない。

 

 全てのものは()()()()()()んだ。

 皆で与え合って、受け継いで、思わぬものが、誰かの助けになる。それが世の(ことわり)。そして今回は、父さんの繋いだものが巡り巡って……俺を助けてくれた。それだけ分かっていればいい。

 

 

「……へぇ、凄いね。その状態の父さんに勝つなんて……正直驚いたよ。

 ──お前、階級は?」

 

「……壬だ」

 

「壬? ()()()()()()か──奇遇だね。実は僕も()()なんだよ」

 

「────」

 

 

 少年の鬼が髪をかき上げると、隠れていた左目が顕になり──『下伍』と書かれた瞳が、見て取れるようになった。

 

 

「でも、誇っていいよ。お前の実力は『壬』なんてものじゃない。前に父さんが倒した奴が『己』だったから……最低でも『戊』で通用するくらいの力量はあるんじゃないかな。

 ──まぁ十二鬼月である僕からしたら、その程度の違いは誤差なんだけどね?」

 

「……じゃあ、その十二鬼月であるお前に質問だ」

 

「何? 聞いてあげるよ」

 

「鬼を、人間に戻す方法は?」

 

「知らないけど……そんなこと聞いてどうするの?」

 

「……鬼になった妹を、人間に戻したいんだ」

 

「──え?」

 

 鬼は何故か、目を見開いてワナワナと身震いし始めた。

 

「……もう一つ、質問していいか?」

「──待て。待て……その前に、僕の質問が先だ」

 

 彼は糸から飛び降り……俺の前に立った。

 

「──鬼狩りのお前が、鬼の妹を……殺さずに、匿っている……ずっと一緒にいるために……そういう認識で、いいのか?」

「……そうだが」

 

 

「──良いッ! 凄くイイっっ!!!」

 

 

 演技ではない、歓喜の臭い。病的に白かった肌が、血色を取り戻していく。

 ……さっきまで、彼の言葉は全てがどうでもよさそうで、薄っぺらに聞こえたが……この言葉には熱があった。少なくとも俺には、そう感じた。

 

 

「〝絆〟だ……! 本物の()で結ばれた兄妹っっ、欲しい!!

 

「……っ」

 

 興奮していて、とても次の質問ができる空気ではない。

 

 そして何故だか、とても嫌な予感がする。

 『死』とは別種の、だけどいつもと同じ──幸せが壊れるとき特有の、『血の臭い』

 

 それは、差し伸べられた彼の手──その上に乗っている、赤い蜘蛛から発せられていた。

 

 

「────ねぇ、キミも鬼になりなよ」

 

「は……?」

 

「あぁ、『あのお方』以外に鬼を増やす力は無い筈だって? そうらしいね──でも大丈夫。()()()()()()()()()()()()

 

 

「────は?」

 

 

  いまコイツ、なんて言った?

 

 

「ハハッ、やる気を出せばできるモンだね。まぁ元々僕には自分の血鬼術を譲渡する権限と能力があったから、その応用で──」

 

 

 ────ダメだ。この鬼は、()()()()()斬らなきゃいけない存在だ。

 

 

 そう思った時には、身体が動いていた。

 

 

  水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

 

 

「──おっと、危ない危ない。

 キミにとっても、悪い話じゃない筈なんだけど……妹を、自分と同じ人間に戻す。それもイイけど、()()()()()()()()()()()()──そっちの方が確実だし、安全だと思わない?」

 

 

 跳躍し、彼は再び糸の上に乗ってこちらを見下ろす体勢に入った。

 …………反撃は、してこない。危なげなく避けられてしまった上、何事もなかったかのように会話を継続する姿勢。

 

 

 俺は『敵』とすら、認識されていないらしい。

 

 

「……ッ、確実とか安全とか、そんなことは問題じゃない!!」

 

「じゃあ何が問題なの?」

 

「俺は人を襲って喰うつもりなんて、更々ない!」

 

「でも、妹には食べさせてるんでしょ?」

 

「……妹は人を食べない。代わりに睡眠で回復する。そういう体質なんだ」

 

「────あ?」

 

「……!?」

 

「……あぁ、ごめんごめん。怖がらせる気はなかったんだ。ただ、ちょっと……()()()()を思い出してしまってね……」

 

 一瞬感じた怒気はすぐに鎮まり──彼から、悲しみの臭いがした。

 

「…………なぁ、お前。一つ答えてくれないか」

「……なんだ?」

 

「──もし妹が人を喰ったら、お前はどうする?」

 

「……妹の首を斬る。俺もその後、自分の腹を斬って死ぬ。鬼殺隊に入る前から、決めていたことだ」

 

「そっ、か……お前も、()()()()んだね……」

 

 

 ──()()()

 

 

「…………ねぇ、人を食べるのが……そんなに悪いこと?」

「……許されないことだ」

 

「そう…………僕には理解できない考え方だ。

 ──だからさ」

 

「むぅッ!?」

 

「──ッ、禰豆子!?」

 

 

 少年が指を振るうと、背中から重みが消えた。

 咄嗟に振り返ると、禰豆子が糸で宙吊りにされていた。

 

 

「むーっ! むーーッッ!!」

 

「お前ッ! 禰豆子を放せ!!」

 

「……うん。この臭い、この気配……人を喰ってないのは本当みたいだね。知性は戻ってないけど、飢餓状態にもなってない……か」

 

「聞いているのか!!」

 

「聞いてるよ。妹を解放してほしいんだろう? だったらさ──力尽くで、自分の力で、やってみなよ」

 

 

 少年は凶悪な笑みを浮かべて腕を突き上げると──六匹の『赤い蜘蛛』が、そこへ吸い寄せられて……溶け込んでいった。

 

 そして再び、彼が大地に降り立つ。

 

 ──轟音と、土煙。質量が増している。

 

 

「……!」

「むー!! むぅぅッ!!!」

 

「──キミの妹、かわいそうじゃあないか。あんな口枷を付けられて、自由に食事も取れないなんて……。

 だからさ、()()()()()()よ。僕がお腹一杯ご飯(人間)を食べさせてあげる」

 

「──やめろ!!!」

 

「僕は家族を窮屈な部屋()に閉じ込めたりしない。思う存分走り回れるようにしてあげる。鬼の身体は素晴らしいよ? ──お前はどうして、それを受け入れてやらない? ただ、()()()()()偏食になっただけなのに」

 

「──妹の好物は金平糖だ!! 元々虫も殺せないくらい優しくて、肉も魚もあまり食べようとはしない子だったんだよ……! だから俺はもう一度、禰豆子が金平糖を食べられる身体に戻してやるんだ!」

 

「…………でもそれ、昔の話だろ? 過去は変わらない。鬼になってしまった僕らは、もう人には戻れない」

 

「戻す! 絶対に!!」

 

「無理だよ、頑固者」

 

「鬼舞辻無惨の居場所を吐け!! 奴に直接聞く!」

 

「『様』を付けろよ、デコ助野郎!!」

 

 

 砲弾のような速度で、少年は突進してきた。彼もやる気になったのだ。

 

 ──決着をつけよう。

 

 

 

 *

 

 

 

 ■■噂話

 

 

『──ねぇ、累は何がしたいの?』

 

 

 答えられなかった。そもそも、その答えを探し出すための『家族ごっこ』だった。

 

 ……その『答え』を、僕は思い出した。

 ()()()()()()のだ。僕は、両親に。もうどこにもいない、あの二人に。

 

 鬼になって間も無い頃、父は僕を殺そうとした。母はそれを、止めようともしなかった。

 だから反撃した。二人共、この手で殺した。

 

 

『強い身体に産んであげられなくて、ごめんね』

『一緒に、死んでやるから……』

 

 

 両親がしっかり『自分を愛してくれていた』ことに気付いたのは、何もかも手遅れになった後だった。

 

 

『──何を悔やむことがある? 全て、お前を受け入れなかった親が悪いのではないか。自分の強さを誇れ』

 

 

 そう思うより、他はなかった。

 

 ……これでも、『断食』をしてみたことはあるのだ。まだ両親の記憶があった頃に、罪滅ぼしのつもりで。

 

 でも駄目だった。僕には、人を食べることが『罪』だと思えなかった。

 日に日に『何も悪いことをしていないのに、どうして自分が苦しまなきゃいけないんだ』という気持ちが強くなって、抑えられなくなって。

 

 ──今度は逆に、大勢喰い散らかした。八つ当たりのように、吐きたくなるまで腹にものを詰め込んだ。

 

 すると、一気に身体が軽くなって。

 同時に、親の顔や声を思い出せなくなったことに気付いた。

 

 強くなればなるほど、鬼は人の記憶を失っていく。その法則に気付いたのだ。

 

 嬉しかった。このまま強くなり続ければ、辛くて悲しい記憶は全部忘れられると──そう思った。……思っていた。

 

 どんなに記憶が薄れても、悲しみは消えなかった。やり場のない、空虚だけが残った。

 

 我ながら愚かなことに……それで今度は、失った記憶(ねがい)を求め始めた。

 それが、『家族ごっこ』の始まり。

 

 ──あぁ、本当に愚かだ。

 

 思い出したところで、どうすればいいというのか。

 もう父はいない。母もいない。断ち切った絆は、戻ってこない。

 

 

 ────だから()()()()

 過去に縋るのはやめよう。()()()()()()()()

 

 

 ()はこの力を誇るのだ。人を喰らう生き方を、受け入れるのだ。

 

 

 ──死んでくれ。父によく似た、優しいお前。

 俺はもう一度、(お前)を殺そう。それで、今度こそ過去を忘れ去ろう。

 

 安心しろ。妹の鬼は、責任を持って幸せにするから。何一つ不自由はさせないから。その幸福を以て、俺はお前達を否定しよう。『人喰い』を否定したお前達を、否定し返そう。

 

 

 だけどもし、もしもその刃がこの首に届くなら。

 

 

 その時は、きっと──

 

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