今回の後書きは閲覧注意です。(累についての独自解釈です。イメージを壊したくない方は注意です)
今回の後書きは山に埋められて消えました。
──前略。竈門炭治郎殿。
初めに謝罪を。すみませんでした。
実をいうと私は、貴方の日輪刀が黒く染まることを知っていたのです。そして、失伝した『黒刀の適性呼吸』が……人知れず、継承され続けていたことも。
無論、悪意から隠していた訳ではありません。理由については、件の呼吸──『日の呼吸』とその型を継承していた家について知れば、納得して頂けるかと。
その一族の家名は──
*
「オレの『家族』にィィ、近付くなァァァ!!!」
斑毒痰
鬼の口から酷い臭気の液体が吐き出され、こちらに向かってくる。
……距離を離したら、攻撃方法が変わった。これが彼の『血鬼術』だろうか?
だが遅い。範囲も大して広くない。避けられる。
回避後、横目で着弾点を確認。
──当たった岩が溶けていく。溶解液か。直撃は勿論、日輪刀での迎撃も避けた方が良さそうだ。
木々の間を縫うようにして、撹乱しながら接近。
──敵の間合いに入った。拳が来る。
敵が最も警戒を緩めるのは、『勝った』と思った時だ。
引きつけて、引きつけて、さっきまでと違って『防御』はしない。
──来た。『隙の臭い』
『
「ごめんな」
ギリギリで跳躍して、回避。同時に空中で身体を回転させ、敵の背後から斬撃を放つ。
水の呼吸では斬れなかった、彼の分厚く強靭な筋肉の鎧は──あっさりと牙城を崩し、その身は塵となって消えた。
──そして呼吸を『水』に戻す。
ヒノカミ神楽……『
内心密かに、胸を撫で下ろす。ヒノカミ神楽を使う場合、連続して出せる技は二つが限度。三つ以上繋げると、反動で暫く一歩も動けなくなる。余裕を持って一撃で倒せたのは、運が良かった。
……何故『炭焼き』のウチに、『神楽』という形で『鬼狩りの剣技』と『始まりの呼吸』が伝わっていたのか……それは分からない。
俺の父『炭十郎』が、どこで黒刀の柱……『かぐや様』と知り合ったのか、それも分からない。当事者の二人は既に亡くなっているから……確かめる術すら、ない。
──だけど、そんなことは重要じゃない。
全てのものは
皆で与え合って、受け継いで、思わぬものが、誰かの助けになる。それが世の
「……へぇ、凄いね。その状態の父さんに勝つなんて……正直驚いたよ。
──お前、階級は?」
「……壬だ」
「壬?
「────」
少年の鬼が髪をかき上げると、隠れていた左目が顕になり──『下伍』と書かれた瞳が、見て取れるようになった。
「でも、誇っていいよ。お前の実力は『壬』なんてものじゃない。前に父さんが倒した奴が『己』だったから……最低でも『戊』で通用するくらいの力量はあるんじゃないかな。
──まぁ十二鬼月である僕からしたら、その程度の違いは誤差なんだけどね?」
「……じゃあ、その十二鬼月であるお前に質問だ」
「何? 聞いてあげるよ」
「鬼を、人間に戻す方法は?」
「知らないけど……そんなこと聞いてどうするの?」
「……鬼になった妹を、人間に戻したいんだ」
「──え?」
鬼は何故か、目を見開いてワナワナと身震いし始めた。
「……もう一つ、質問していいか?」
「──待て。待て……その前に、僕の質問が先だ」
彼は糸から飛び降り……俺の前に立った。
「──鬼狩りのお前が、鬼の妹を……殺さずに、匿っている……ずっと一緒にいるために……そういう認識で、いいのか?」
「……そうだが」
「──良いッ! 凄くイイっっ!!!」
演技ではない、歓喜の臭い。病的に白かった肌が、血色を取り戻していく。
……さっきまで、彼の言葉は全てがどうでもよさそうで、薄っぺらに聞こえたが……この言葉には熱があった。少なくとも俺には、そう感じた。
「〝絆〟だ……! 本物の
「……っ」
興奮していて、とても次の質問ができる空気ではない。
そして何故だか、とても嫌な予感がする。
『死』とは別種の、だけどいつもと同じ──幸せが壊れるとき特有の、『血の臭い』
それは、差し伸べられた彼の手──その上に乗っている、赤い蜘蛛から発せられていた。
「────ねぇ、キミも鬼になりなよ」
「は……?」
「あぁ、『あのお方』以外に鬼を増やす力は無い筈だって? そうらしいね──でも大丈夫。
「────は?」
いまコイツ、なんて言った?
「ハハッ、やる気を出せばできるモンだね。まぁ元々僕には自分の血鬼術を譲渡する権限と能力があったから、その応用で──」
────ダメだ。この鬼は、
そう思った時には、身体が動いていた。
水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
「──おっと、危ない危ない。
キミにとっても、悪い話じゃない筈なんだけど……妹を、自分と同じ人間に戻す。それもイイけど、
跳躍し、彼は再び糸の上に乗ってこちらを見下ろす体勢に入った。
…………反撃は、してこない。危なげなく避けられてしまった上、何事もなかったかのように会話を継続する姿勢。
俺は『敵』とすら、認識されていないらしい。
「……ッ、確実とか安全とか、そんなことは問題じゃない!!」
「じゃあ何が問題なの?」
「俺は人を襲って喰うつもりなんて、更々ない!」
「でも、妹には食べさせてるんでしょ?」
「……妹は人を食べない。代わりに睡眠で回復する。そういう体質なんだ」
「────あ?」
「……!?」
「……あぁ、ごめんごめん。怖がらせる気はなかったんだ。ただ、ちょっと……
一瞬感じた怒気はすぐに鎮まり──彼から、悲しみの臭いがした。
「…………なぁ、お前。一つ答えてくれないか」
「……なんだ?」
「──もし妹が人を喰ったら、お前はどうする?」
「……妹の首を斬る。俺もその後、自分の腹を斬って死ぬ。鬼殺隊に入る前から、決めていたことだ」
「そっ、か……お前も、
──
「…………ねぇ、人を食べるのが……そんなに悪いこと?」
「……許されないことだ」
「そう…………僕には理解できない考え方だ。
──だからさ」
「むぅッ!?」
「──ッ、禰豆子!?」
少年が指を振るうと、背中から重みが消えた。
咄嗟に振り返ると、禰豆子が糸で宙吊りにされていた。
「むーっ! むーーッッ!!」
「お前ッ! 禰豆子を放せ!!」
「……うん。この臭い、この気配……人を喰ってないのは本当みたいだね。知性は戻ってないけど、飢餓状態にもなってない……か」
「聞いているのか!!」
「聞いてるよ。妹を解放してほしいんだろう? だったらさ──力尽くで、自分の力で、やってみなよ」
少年は凶悪な笑みを浮かべて腕を突き上げると──六匹の『赤い蜘蛛』が、そこへ吸い寄せられて……溶け込んでいった。
そして再び、彼が大地に降り立つ。
──轟音と、土煙。質量が増している。
「……!」
「むー!! むぅぅッ!!!」
「──キミの妹、かわいそうじゃあないか。あんな口枷を付けられて、自由に食事も取れないなんて……。
だからさ、
「──やめろ!!!」
「僕は家族を窮屈な
「──妹の好物は金平糖だ!! 元々虫も殺せないくらい優しくて、肉も魚もあまり食べようとはしない子だったんだよ……! だから俺はもう一度、禰豆子が金平糖を食べられる身体に戻してやるんだ!」
「…………でもそれ、昔の話だろ? 過去は変わらない。鬼になってしまった僕らは、もう人には戻れない」
「戻す! 絶対に!!」
「無理だよ、頑固者」
「鬼舞辻無惨の居場所を吐け!! 奴に直接聞く!」
「『様』を付けろよ、デコ助野郎!!」
砲弾のような速度で、少年は突進してきた。彼もやる気になったのだ。
──決着をつけよう。
*
■■噂話
『──ねぇ、累は何がしたいの?』
答えられなかった。そもそも、その答えを探し出すための『家族ごっこ』だった。
……その『答え』を、僕は思い出した。
鬼になって間も無い頃、父は僕を殺そうとした。母はそれを、止めようともしなかった。
だから反撃した。二人共、この手で殺した。
『強い身体に産んであげられなくて、ごめんね』
『一緒に、死んでやるから……』
両親がしっかり『自分を愛してくれていた』ことに気付いたのは、何もかも手遅れになった後だった。
『──何を悔やむことがある? 全て、お前を受け入れなかった親が悪いのではないか。自分の強さを誇れ』
そう思うより、他はなかった。
……これでも、『断食』をしてみたことはあるのだ。まだ両親の記憶があった頃に、罪滅ぼしのつもりで。
でも駄目だった。僕には、人を食べることが『罪』だと思えなかった。
日に日に『何も悪いことをしていないのに、どうして自分が苦しまなきゃいけないんだ』という気持ちが強くなって、抑えられなくなって。
──今度は逆に、大勢喰い散らかした。八つ当たりのように、吐きたくなるまで腹にものを詰め込んだ。
すると、一気に身体が軽くなって。
同時に、親の顔や声を思い出せなくなったことに気付いた。
強くなればなるほど、鬼は人の記憶を失っていく。その法則に気付いたのだ。
嬉しかった。このまま強くなり続ければ、辛くて悲しい記憶は全部忘れられると──そう思った。……思っていた。
どんなに記憶が薄れても、悲しみは消えなかった。やり場のない、空虚だけが残った。
我ながら愚かなことに……それで今度は、失った
それが、『家族ごっこ』の始まり。
──あぁ、本当に愚かだ。
思い出したところで、どうすればいいというのか。
もう父はいない。母もいない。断ち切った絆は、戻ってこない。
────だから
過去に縋るのはやめよう。
──死んでくれ。父によく似た、優しいお前。
俺はもう一度、
安心しろ。妹の鬼は、責任を持って幸せにするから。何一つ不自由はさせないから。その幸福を以て、俺はお前達を否定しよう。『人喰い』を否定したお前達を、否定し返そう。
だけどもし、もしもその刃がこの首に届くなら。
その時は、きっと──