鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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(9G)

 

「──シィッ」

「ヒュゥゥゥ」

 

 つい先刻までの戦いで、五感は研ぎ澄まされている。互いの息の音が、ハッキリ聞こえるくらい。

 迫る彼の拳が、見える。巨漢の鬼より更に速いけれど、迎撃できない程じゃない。

 

  水の呼吸 捌ノ型 滝壷

 

 まずは水の呼吸で受けて、隙をみてヒノカミ神楽を──なんて、甘い考えが間違いであったと分かるのは、このすぐ後のこと。

 

 彼の右拳が跳ね上がり、俺の刀は弾き返された。小蝿を払うみたいに、軽々と。

 

 ──『マズイ』と思った時には遅かった。

 俺の両腕は刀と一緒に天高く掲げられ、胴体はガラ空き。そこへ彼の左拳が突き刺さった。

 咄嗟に腹筋を固め、『水』の歩法で後ろに跳んで衝撃を逃しても尚……コレは、おそらく肋骨(あばら)が何本か折れた。更に続けて、勢いよく背面が木に激突。背負い箱が粉々になって衝撃を発散し、頑丈な隊服が破片から身を守ってくれたが……それでもかなり痛い。肺の空気が一気に吐き出され、その動きでまた骨が軋む。

 

「ガッッハ……!! ──っっ痛ぅ……!」

「『父蜘蛛』の腕すら斬れなかった技で、()の攻撃を止めようとか……無理に決まってるでしょ。アレの剛腕は、俺が与えたモノなんだからさ」

 

 …………これは、マズイ。ヒノカミ神楽どころか、水の呼吸を維持するだけでも辛い。

 

「ムーーッッッ!!!」

 

 うずくまる俺を見て、禰豆子が悲鳴を上げながら手を伸ばした。鋼糸が身体に喰い込み、血が流れていく。

 その様子を一瞥した彼は、軽くこめかみを押さえて溜め息を吐いた。

 

「…………はぁ……まったく。『変わろう』って決めたばっかりなのにね……やっぱり根っこの部分がこういうのに弱いのかな……()は」

 

 その間になんとか立ち上がり、俺は刀を正眼に構えた。

 

「……殺す前に、もう一回だけ聞いてあげるよ。『鬼になる気はないかい?』」

「『ない。俺は鬼にはならない』」

 

「そ──じゃあ死のうか」

 

「……ッ」

 

 

  血鬼術 刻糸輪転

  ヒノカミ神楽 幻日虹

 

 

 ──使った。使ってしまった。ボロボロの身体で、水の呼吸から無理矢理急激に切り替えて、ヒノカミ神楽を使ってしまった。

 

 激痛で、涙が出る。そして次に止まれば、この比ではない痛みに襲われる筈だ。そうなれば俺は、今度こそ何もできなくなるだろう。

 

 正面から迫り来る糸を回避し、そのまま回り込み、彼の背後へ到達。この一撃で終わらせなければ。

 

 

  ヒノカミ神楽 円舞

 

 

 糸を操る彼の両手は、正面に向けられている。攻撃を避けた直後の今なら、防御に糸は使えない──

 

 

(──()()()()()()()()()()()?)

 

 

 『ガギン』という嫌な音と、意図していない場所での硬い手ごたえ。

 

 そのまま()()()。刀が、日輪刀が、何かに遮られて……。

 

 ────糸だ。赤い。指以外でも動かせたのか。

 

 驚愕する俺に対し、彼は『全部読み通り』だったのか……落ち着いた様子で、(おもむろ)に振り返る。

 

 

「お別れだ」

 

 

 終わった。

 

 

  血鬼術 殺目篭

 

 

 全方位に、彼の糸が展開される。

 

 避けられない。防御もできない。

 

 もう、死ぬしかないのか……?

 

 

『──炭治郎、呼吸だ。疲れない息のしかたがあるんだよ』

 

 

 ダメなんだ、父さん。俺の身体に、日の呼吸は合っていない。その力に、身体の方が耐えられない。

 

 

『──炭治郎、水はどんな形にもなれる』

 

 

 ダメなんだよ、鱗滝さん。傷を庇うように、呼吸の方を身体に合わせる形で型を使ってしまうと……今度は力が出なくなる。

 

 

『──炭治郎くん。どうかこれが、キミの役に立つ日が来ませんように』

 

 

  ()()

 

 

 ──混ぜた。()()()()。日の呼吸と、水の呼吸が。

 基盤はヒノカミ神楽。そこに水の歩法と呼吸を組み合わせて、傷を刺激しない一撃を。

 

 これならば……!

 

 

  日ノ型参番 烈日紅鏡

 

 

(──なッ!?)

 

 

 走馬灯と現実が半々になって、時間が引き延ばされていく。想定外の追撃に、彼が目を見開いていく過程が……よく見える。

 

 ──驚くのも無理はない。分かるよ。俺自身、動けるとは思ってなかったから。

 

 網の隙間に折れた刀を捩じ込んで、正真正銘最後の一撃を放つ。ピタリと身体に馴染んだ呼吸は、自然に過去最高の鋭さを持つ一刀を産んだ。

 

 だから、

 

 

(完全に不意を突かれた……! この速度、首を切り離すのも間に合わないッ!

 ──クソッ、どうして躊躇せずそんな選択ができる!? ()()()()()()()()()()()、相討ちになるぞ!?)

 

 

 構わない。…………構わないんだ。

 

 俺が死んでも、善逸がいる。伊之助がいる。

 四面楚歌になることを覚悟で入った鬼殺隊で、俺は二人もの理解者に出会えたのだ。幸福なことだ。

 

 繋ぐべきものは、もう繋いでいる。だから構わない。

 

 

 善逸、伊之助──禰豆子。

 …………達者でな。

 

 

 ──幸せが壊れる時には、いつも血の臭いがする。

 

 

 肉を裂く感触。肌を裂かれる感触。

 鼻腔を(つんざ)く、血の臭い。()()()()

 

 

 ──えっ?

 

 

  ()()() 爆血

 

 

 その時、炎が身体を包んだ。しかし俺の身体は、一切熱を感じていない。

 

 炎は()()()()()()()()()()()()、それ以外には一切被害を出さなかったのだ。

 

 

 ────結果、何が起こるか。

 

 

 少年の首が宙を舞い、地に堕ちて、静寂が訪れた。

 

 

「…………生き、てる?」

 

「……らしいな。誇れよ鬼狩り──お前の勝ちだ」

 

「…………」

 

 

 勝利した実感は無い。……いや、実際負けていた。俺一人の力では、勝負にすらなっていなかっただろう。

 

「──ハッ、なんだよその顔。十二鬼月である俺に勝ったんだぞ? 笑えよ」

 

 そう言う彼の顔は、随分と満足げだった。

 

「…………じゃあ一つイイことを教えてやろう。()()()()()()()()()()を」

 

「!?」

 

「『青い彼岸花』を探せ。あの方が鬼狩りの前に姿を現すとしたら、それが見つかった時くらいだろうさ」

 

「──分かった。ありがとう!」

 

「……礼を言うのは、僕の方かな」

 

「え?」

 

「──最期に、()()()()を見せてもらったからね」

 

「……そうか」

 

「──まぁ『青い彼岸花』は()()()()()()()()()()()()()って話だから、気長にやりなよ」

 

「え゛?」

 

「ハハッ──俺に勝った以上、家族を大切にな」

 

 

 その言葉を最後に、彼は塵と化した。

 

 

「…………言われるまでもない」

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 途中から完全に空気と化していた母蜘蛛については、伊之助及び善逸が離脱した時にはもう(累の興味が炭治郎に移っていたので)逃げているぞ。

 ただし逃げた先でやたらヘラヘラした鬼殺隊士に遭遇し、『こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ』という言葉の後に斬首された。

 その後隊士は下山しようとするが……途中で姉蜘蛛に見つかり繭で捕獲された模様。

 

 

 

 *

 

 

 

「チクショウ、俺は安全に出世したかったのに……! こんなところで終わりかよ……!!」

 

「──あら? まだ息がある人がいたのね」

 

「へっ?」

 

「もう大丈夫よ。鬼は私が倒したから」

 

「──()

 

「そういうアナタは、竈門炭治郎くん……ではなさそうねぇ。私の方はハズレってことかしら? さっきの鬼も、十二鬼月ではなさそうだったし……」

 

「じゅっ、十二鬼月が居たのかよこの山……!」

 

「そうらしいわね。でも、心配する必要はないわ。最悪でも上弦ではないって話だから、()()()()()()と思ってくれていいわよ?

 ──私も()()()も、()()()()に負けるほど弱くはないもの」

 

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