鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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 今回は難産です……。私には、これが限界でした……。
 


(10)

 

 ──私は、鬼が嫌いだ。

 鬼は、関わった人をみんな狂わせていく。

 

『今日こそ貴女を、笑わせてみせます』

 

 口癖のようにそう言っていた筈の彼女は、ある日……私の家族を号泣させた。

 

『……私ね、できれば鬼とも仲良くしたいの』

 

 そう願っていた筈の長姉は……私の前だと、問答無用で鬼を斬る。

 

『自分で物事を考えられない子はダメよ! 危険過ぎる!!』

 

 ずっとそう主張していた筈の次姉は、私が私の意志で鬼殺隊に入ると──手のひらを返して『迷うな』『考えるな』『鬼と遭遇したら、とにかく無心で首を斬ること』と……そう言い聞かせるようになった。

 

 

 全部、鬼のせいだ。だから私は、鬼が嫌いだ。

 

 

 ──その『鬼』が、何故()に庇われているのだろう?

 

 

「…………炭治郎、私が分かる?」

「……カナヲさん」

「そう。私は()()()の栗花落カナヲ。貴方は私と同じく、鬼狩りの竈門炭治郎。思い出した?」

「……忘れてません。覚えています」

 

 そう言って彼が、鞘に手を当てる。まだ鯉口は切っていないが、人によってはこれだけで充分叛逆行為と見做すだろう。危険な状態だ。

 ドクドクと、心拍数が上がっていくのが分かる。『そんなワケがない』と信じていても、嫌な予感が止まらない。

 

 ……金髪の若い隊士から応援要請を受け、私と師範は此処──那田蜘蛛山へ急行していた。

 山道に入り、途中で二手に別れて*1からすぐ、私は『目標』の片割れを見つけたワケだが……何故か炭治郎()は、()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 私が彼を見つけた少し後に、彼も持ち前の嗅覚で私の存在に気付いたのか、鬼から手を放し──今に至る。

 

 

「カナヲさん……俺は正気です。操られているワケではありません」

「──っ、そう……自分の意思で鬼を庇っているのね……?」

 

「──はい」

 

「どうして……」

 

 隊律違反だということは、承知の上だろう。

 鬼を殺す組織の人間が、鬼を助けている。これ以上無い程の、裏切り行為だ。

 

「……妹です。妹は人を襲いません。鬼殺隊の一員として戦えます」

「信用できない」

「……この状態自体が、証拠にはなりませんか?」

 

 ……確かに、今の状況は少し奇妙だ。

 炭治郎も、鬼の妹も、揃って血塗れ。普通ならとっくに襲いかかっている筈なのに、鬼は大人しく口枷を着けている。

 話に聞いていた異形の鬼はおらず、十二鬼月と目される少年の鬼も居ない。『二人で協力して撃退した』と言われれば、一応辻褄は合うだろう。

 

「…………炭治郎。そこ、動かないで。動けば斬る。動こうとしただけでも、私には分かるから」

「……はい」

 

 ──私は鬼が嫌いだ。

 鬼は人から幸せを奪うばかりで、何も与えてくれない。だから生かしておく価値なんて、塵ほども無い。

 

 なら斬ればいい。炭治郎が何をほざこうが、問答無用で殺せばいい。次姉が言ったように。

 

 でも、それでいいのか? 長姉の理想を目の前にして、私がそれを踏み躙るのか?

 

 ──決められなかった。

 

 決められないから、今日も私は硬貨に二択を委ねることにした。

 

 懐をまさぐり、指で硬貨の感触を確かめる。

 

 ────『裏』だ。裏が出たら、彼らを斬ろう。

 

 目の焦点は二人に合わせたまま、硬貨を弾く。

 左手の甲に乗せる形で、硬貨が飛ばないよう右手で押さえて受け止める。結果は──。

 

 

「──炭治郎、()()()。今から貴方達を、斬る」

 

「……ッ。禰豆子、()()()

「…………」

 

 

 『裏』だった。

 私はこれから、この兄妹を斬らなきゃいけない。

 

 ──惑わされるな。『迷うな』『考えるな』

 

 たとえ炭治郎が抜刀しなくても、禰豆子と呼ばれた鬼に戦意が見えなくても。

 

 

「──むんっっ!!」

 

「──ぇ」

 

 

 たとえ彼女が兄を投げ飛ばし、自らの首を差し出すように座り込んだのだとしても。

 

 

「──待ッ、待ってください! 禰豆子は……!」

 

 

 ────戸惑うな。

 

 驚く『心』なんて、持ち合わせていない筈だ。

 信じるに値する鬼なんて、存在しない筈だ。

 以前一度顔を合わせただけの他人なんて、私にとっては『どうでもいい』筈だ。

 

 何より、もう『決めた』ことの筈だ。

 だから私は、次姉の言ったように『迷わず』『考えず』に──斬らなければ。

 

 

 ──〝本当にそれが、カナヲのやりたいこと?〟

 

 

 ────なのにどうして、そのしのぶ姉さんが引き止めているように感じるのだろう。

 

 

 どうして私の腕は、私の(意思)に反して刀を振っているのだろう。

 

 

「「伝令!! 伝令!!」」

 

『!?』

 

 

 突如、五十鈴(いすず)天王寺松衛門(もう一羽の鎹鴉)が声を張り上げ……私は日輪刀を急停止させた。

 

 

「『竈門炭治郎』及ビ、竹ヲ咥エタ少女ノ鬼『禰豆子』ヲ、()()()()()()()! 連レ帰レ!! カァァァ!!!」

 

「……五十鈴、本当?」

「ハイ。オ館様ノ密命ニ使ワレル『合言葉』ヲ確認致シマシタ。通常ノ癸、壬ニツク鴉ガ知ルモノデハアリマセン」

 

「…………そう」

 

 

 ──『命令』なら、しょうがない。

 

 

「炭治郎、その娘を連れてついてきて」

 

「……え、あ……」

 

「早く。朝になったら面倒でしょう?」

 

「──っ、はい!」

 

 

 ──しょうがないったら、しょうがないのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 この場面の炭治郎視点は、蝶屋敷編でやる予定みたいだぞ。

 

 公式設定より鎹鴉は飛ぶ速度が速い順に、階級が高い隊士につく。つまり鎹鴉にも階級があるらしいぞ。(その点、右も左も分からない新人にチュン太郎ことうこぎくんがつけられてしまったのは妥当と言える。……勿論義勇の老鴉のような例外も居るワケだが)

 天王寺松衛門は原作同様、炭治郎のことを『自分の弟子』だと思い込んでいる新人専属鴉。今作ではその理由を、耀哉(お館様)から『いざという時は助けてあげて欲しい』とあらかじめ頼まれていたからとしているぞ。

 というのも、正史の伝令がどう考えてもギリギリ過ぎであるため。(耀哉は義勇としのぶを直接口頭で送り出しているので、炭治郎と禰豆子のことをこの時伝えられた)

 この理由を筆者は『禰豆子を組織公認の鬼とするのは最終手段であったから』と考察しているぞ。

 出し渋っていた筈の柱を、下弦一体に対し突然二人……というのも普通に考えるとチグハグな話。しかし竈門兄妹の価値と兄蜘蛛の能力を考えると、最適過ぎる人選なのである。

 

 ちなみに蜘蛛になった人達はカナエさんが解毒剤を作って治療したぞ。(正史においても彼女は蝶屋敷の主人として隊士の治療を自らの手で行っていた描写があり、しのぶの医療知識は実家由来のものであると判明している)

 本人曰く『戦闘に毒を組み込めるしのぶ程じゃないけど、時間さえあれば解毒薬を作るくらいはできるわよー』とのこと。

 

 つまり『状況次第で炭治郎が自力の説得を成功させられる』『蜘蛛化した人を助けられる』という条件を満たした柱であれば、一人でも構わなかったと予想。なので今作では那田蜘蛛山へのぎゆしの出張はキャンセル。カナエだけが来た……という形。(カナヲは正史同様ただの過剰戦力)

 

 

 ちなみに今作において、カナヲは無自覚に『やりたいことを表』『やりたくないことを裏』として選択していたりする

 

 

 ……尚余談だが、かぐやは起きた後『なんですかこの甚大過ぎる被害は!?』と素の声で悲鳴を上げ、鎹鴉の運用方法改善について真面目に頭を悩ませることになったとか。

 ただし行き着く結論は『やはり結局、朝陽と私が中心になって現場を駆け回りながら指揮を執るあの形式が一番速くて効率的なのでは?』という脳筋全開な解答である模様。

 

*1
救助対象及び討伐対象はその場に留まっているとは限らない。また、今回の任務は敵が複数の特殊事例。取り逃し防止も兼ねて、纏まって行動するより別行動を取った方が合理的と判断した。




 
 那田蜘蛛山編終了。次回、柱合裁判です。

 つ か れ た。なんとか十月中に走り切れました。

 那田蜘蛛山編、(本来は)キャラの数が一気に増える上に、行動の意図をしっかり考えないと『筆者の都合でキャラを不当に愚か者として描写する』という最大の禁忌に触れてしまうので……大変でした。
 読者の皆様の意見・考察も気になるところ。何かありましたら、この機会に是非感想かDMを。

 それでは、またいつか。(バタンきゅう)
 
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