(10)噂話コーナーにて『この場面の炭治郎視点は、蝶屋敷編でやる予定』と言いましたね……アレは嘘でした。(土下座)
書いてる途中で筆者が糖分欠乏症になったせいで、暗めの話を大幅カット。その分代わりに進展も遅くなりますが、一つくらいこんな『炭カナ』があっても良いと思うのです。
──でもってそれはそれとして最近更新滞っていてすみませんっっ(焼き土下座)
彼女を見つけたのは『偶然』であったとも言えるし、『必然』であったとも言える。
何故なら──。
「……炭治郎、
「…………はい、おそらく」
──やっぱり、この人が『かぐや様』なのか。
しかしまさか、『目覚めぬ人』というのが『
でも、俺が探していたのは彼女じゃない。
「おそらく?」
「…………下弦の伍との戦いで、俺は走馬灯を見ました。その中に……父と女の子が、実家に伝わる『神楽』を舞っている光景があったんです」
「──それってもしかして、ヒノカミ神楽?」
「はい」
「……道理で。『呼吸が変わった』とは思ってたけど、そういうこと」
カナヲさんには昼間、機能回復訓練でお世話になっている。
彼女の担当は、凝り固まった筋肉を解した後の『反射訓練』と『全身訓練』だ。これは全集中の呼吸を使いながら行う訓練*1だから、俺の新しい呼吸は既に見られている。
「──それで、何の用? かぐや様のお見舞いに来たワケではないんでしょ?」
「……はい。カナヲさんに、伺いたいことがありまして」
「何?」
「…………カナヲさん、
彼女の肉体は、ずっと悲鳴を上げている。
「夜は鬼が出る。蝶屋敷は、鬼殺隊の最重要施設。中でもかぐや様の居るこの病室は、絶対に死守しないといけない」
「……
「それで十二鬼月が撃退できるなら、隊服と一緒に香り袋も支給されてる」
それは、そうかもしれないけれど。
態度に全く出さないせいで、誰も気付いていないみたいだけれど……もう彼女は限界が近い筈だ。
「──カナヲさん、寝てください。今日の不寝番は代わりに俺がやります」
「必要ない」
「必要です。睡眠を取ってください」
「睡眠なら、昼の空き時間に取ってる」
「だとしても、足りてないんですよね?」
「足りてる。身体は動くから、問題ない」
「問題が出てからじゃ遅いから、今寝てくださいと言ってるんです」
「必要ない」
〜〜っ、最初に戻ってしまった。埒が開かない。
「じゃあこうしましょう! 今から
「必要ない」
「必要がなくても、やります。カナヲさんがしっかり眠るまで。
──そして、
「…………炭治郎じゃ、まだ無理だよ」
「いいや、勝ちます」
「…………」
──そしてお互いに言葉を交わすことなく、一刻半が過ぎた頃。
「……よく飽きないね」
「飽きる? 何にですか?」
「こういう、『何も起きない』状況。私は何も思わないけど、普通の人は耐えられないって話だから」
「鬼が出ないのは、良いことじゃないですか」
「……そうだね」
「「…………」」
「……ごめん。『何も思わない』って言ったけど、嘘」
「あ、じゃあ俺、何か話しましょうか?」
「ううん、大丈夫。別に、こういう『何もない時間』が嫌いなワケじゃないの。
──ただ、かぐや様の顔を見てると……少しだけ、変な気分になる」
「変な気分……ですか?」
「なんて言えば、いいのかな……いつもは平気な沈黙が、静けさが……違和感になって、消えてくれないの。……もう三年も経ってるのにね」
「……よく喋る人、だったんですか?」
「うん」
少し、驚いた。──かぐや様は、『傷だらけな人』の匂いがする。泣きたくなるくらい、優しくて悲痛な匂い。
匂いの印象で、勝手になんとなく……物静かで、あまり多くを語る人ではないのだろうと思っていたのだが。
「かぐや様自身もそうだし、何より……周囲から人が絶えない、人気者だったから。この人が居る時と居ない時で、蝶屋敷の賑やかさが全然違った」
「そんなにですか。凄いですね……」
「炭治郎は気付いてなかったみたいだけど……今でも毎日、何人もお見舞いに来てるくらい」
「なんと」
その中には支柱の皆さんも含まれていて、実質的な日中の護衛となっているらしい。
「…………でも、だからこそわからない。どうしてこの人が、私に構い続けたのか」
「──え?」
何を言ってるんだ? この人は。
「……鬼狩りの才能を買われて、ってことなら解る。私はこの人と、同じことができたから。
でも違った。かぐや様が私に教えてくれた型は、一つだけ。しかも、
「それって、もしかして……」
「うん。この型については、炭治郎の方が詳しいと思うよ。水の呼吸の技だし」
「──『干天の慈雨』 ですね?」
水の呼吸の、伍番目の型。鬼に苦痛を与えず絶命させる、唯一の技。
「正解。使って見せたら、カナエ姉さんが喜ぶだろうから……って。これだけ。
だけど姉さんも、この人も、口を揃えてこう言うの。──『こんなものは、役に立たない方が良い』って」
……あぁ。記憶の中の彼女も、同じことを言っていた。
「今でこそ、それは『剣技そのもの』のことだって理解してるけど……当時の私は『じゃあ今度は役に立つ型を教えてください』なんて言って、この人を苦笑いさせたこともある。
……でも私自身、別に是が非でも鬼狩りになりたかったワケじゃなかったし……結局、私はかぐや様から他の型を習うことはなかった。
────だからかな。私の中のこの人は、『剣士』じゃないんだ。皆の言う、『無敵の柱』じゃなくて──出会った時からずっと、
「…………俺も、カナヲさんの笑った顔が見たいですよ」
「どうして?」
「誰かが幸せそうにしている姿を見ると、自分も幸せになれるからです」
「…………それなら私に拘らず、他の『よく笑う人』を探せばいい」
「俺は他の誰かじゃなくて、
「……そ。『変な人』だね、炭治郎も」
「──よく言われます」
*
……一度にこれほど沢山喋ったのは、いつ以来だったか。
少し考えて、すぐに思考を打ち切る。私個人のことなんて、どうでもいい。
それより炭治郎だ。
この子は十二鬼月の一角を討伐してみせた。私より年下で、それが可能な隊士は……柱である、無一郎くらいなものだろう。
炭治郎は私の想定より遥かに優秀だった。こんなところで体調を崩されては困る。それは組織のためにならない。
…………だから、私は無理矢理にでも炭治郎を寝かせるべき……
「──夜明けですね」
「……そうだね」
私は結局、炭治郎を追い返せなかった。
……いや、
「……炭治郎」
「なんでしょう?」
「──少し早いけど、勝負しよっか」
「……! はい!!」
やる気に満ち溢れた眼。元気のある、いい返事。私と違って、徹夜慣れしているワケでもないだろうに。この頑固者め。
────認めよう。私の負けだ。
訓練での勝敗に関わらず、今晩の私は素直に眠るだろう。口には出していないが、炭治郎なら実力も人格も、信頼できる。
彼は『誰かが幸せそうにしている姿を見ると、自分も幸せになれる』と言った。
それ自体は、解らないでもない。私だって、姉さんやアオイ達には幸せであってほしい。
それに、
機嫌の悪い人間は、すぐに人を殴る。だから近付いてはいけない。近付かないために、負の感情はよく見て識別しなければならない。……それはとても、疲れる行為だ。
沈黙は嫌いじゃない。静かな方が、心が休まる。
以前は毎日『音』を立てないように、身を潜めて生きていた。うるさくすると蹴飛ばされて、踏まれて、水に浸けられて、死んでしまうから。
……でも普通の人は、『長時間の沈黙』で機嫌を悪くする。
機嫌の悪い人間と一緒の部屋に居るのは、少し辛い。昔を思い出して、苦しくなる。
でも、かぐや様は違った。
苦しくない喧騒を、祭囃子を教えてくれた。昔よりちょっとだけ、賑やかな空気が嫌じゃなくなった。
『悪くない』と思ったのだ。この『変な人』と過ごす時間は、間違いなく苦痛じゃなかった。
──炭治郎も同じだった。
彼はただ、何もない時間を……穏やかに共有してくれた。
麻痺し切った筈の心が、『この人との時間は
つまるところ、私が彼を追い返さなかった理由というのは────。
*
大正コソコソ噂話
かぐやの護衛は耀哉の命令ではなく、(支柱が厳選した)隊士達が自主的に行っている。
ただし非公式任務なので、当然普段は通常任務が優先。
その点通常任務に蝶屋敷の運営が含まれているカナエとカナヲは、護衛担当になることが多かった。(しのぶは免除)
かぐや昏睡当初は実弥と真菰も担当になることが多かったが、現在は那田蜘蛛山の一件で生じた人手不足の穴埋めで東奔西走中。カナエもここに含まれる。
そしてカナヲは、蝶屋敷に残された最後の戦力として……少し張り切り過ぎたのでした。(カナヲレベルにもなると、寝てても近くに鬼が現れれば飛び起きる。帯刀して同室に待機さえしているなら、むしろ寝ていた方が良いまである)(炭治郎の予想通り、アオイ達はカナヲの体調不良に気付いていない)
*
「──どうした甘露寺! 眠れないのか!?」
「はい! なんだかキュンキュンする波動を感じてしまって!!」
「そうか! だが蝶屋敷に着いたらしばらく、交代で不寝番をやることになるからな! 今日眠らないのは少しマズイ! 鍛錬はほどほどにして、最低でも横になって目を閉じておくように!!」
「はい!!!」