無限城、書斎。
「累が死んだ、か」
『お気に入り』の鬼を、柱ですらない隊士に殺害された鬼舞辻は──溜め息を一つ。読んでいた書籍を棚に戻し、琵琶鬼を経由して『採ったばかりの稀血』が入った瓶を取り寄せ、喉を潤し……もう一度深い溜め息を吐いて、椅子に腰掛けた。
「…………『黒刀の剣士』め。
否が応でも、『彼女』以上に『彼』を想起させる組み合わせだった。
──だからこそ。
「
「──奴らの台頭に、規則性は存在しない」
技術は技術である。それは人が扱う『形の無い道具』であって、それ以上の意味は持たない。そこに神秘は存在しない。
それが、鬼舞辻の出した結論。
──彼は最早、日の呼吸を必要以上に恐れない。
「やはり私は間違えない。誰も私を殺せない。
不変こそが至高なのだ。私の方針に変更はない」
どこまでも慎重に。愚鈍でも確実に。
不老である彼は、歩みを止めない限り──どこまでも進んでいくことができるのだから。
日輪の剣士は言った。『道を極めた者が辿り着く場所はいつも同じ』であると。
──奇しくも彼の宿敵は、それを体現する存在であった。
「…………十二鬼月も、もう顔ぶれを変えてまで維持する理由は無いな。どうせ誰も彼も役に立たない。上弦ですらそうだ。
──今ある十席で、最後にしよう」
『ある鬼』が太陽を克服する日は、近い。
*
「任務が来たぞ、竈門少年!!」
日の出前。煉獄さん──
……見慣れたこの蝶屋敷の天井とも、これでお別れか。
「一応確認するが、本当に妹も連れて行くんだな?」
「はい」
躊躇せず肯定する。
組織の一員として動く以上、鬼の妹を連れていては……いずれ俺達を良く思わない隊士とも、共闘することになるだろう。
それなら『軟禁』という建前で、しのぶさんか珠世さんに預けるという選択肢も……たしかにアリだ。きっと、その方が合理的なのだろう。
「──むん!」
「うむ! やる気は充分らしいな!!」
……でも、妹は物じゃない。意志がある。
細い腕で小さな力こぶを出し、張り切ってみせる妹の様子に……自然と笑顔になる。
禰豆子がその気なら、俺に拒む意思がない以上──結論は一つだ。
『──これは私の憶測なのですが、禰豆子さんは知性の奪還よりも
…………青い彼岸花。鬼舞辻が、太陽を克服するために欲しているもの。『彼』が教えてくれた、ヤツを
太陽を克服するということは、本格的に鬼舞辻から付け狙われるということだ。鬼も、鬼殺隊も、放っておいてはくれなくなる。
鬼は戦いの中で進化する。前線へ出るということは、この束の間しかない平穏を……更に縮めるということだ。
「──退くなら今だぞ、禰豆子」
「むー……」
ジト目と、不満気な声。
──続けて手の甲に、強烈なデコピンが撃ち込まれる。
「イダッッ!?」
「ハハッ! 覚悟が決まっている女性は強いぞ、竈門少年!!」
「…………そうでしたね」
……知っていた筈なのだが。
母も、妹も……我が家を去った後、獅子奮迅の大活躍をしていたという……『彼女』も。
瞳に覚悟を宿した人は、いつだって恐ろしく強いのだ。
「──行こうか」
「むー!」
目的地は、『人喰い列車』のある駅だ。
*
大正コソコソ噂話
炭治郎の出立前に声をかけたらしのぶさんに捕捉され、連行された冨岡さん。
「──冨岡さん。私はいま怒っているわ。どうしてか分かる?」
「……分からない」
「禰豆子ちゃんの件」
「…………誤解だ。医者としてのお前を信頼していなかったワケじゃない」
「
──あぁそうだ。私は『隠していたこと』そのものに怒っているのではない。
安易に謝って済ませようとしなかったことを評価して、小言は控えるが……こればかりは、文句を言わなきゃ気が済まない。
「──余計なお世話よ。
それを承知で私は、『
その結果、『いつか腹を切ることになるかもしれない』なんて──とっくのとうに覚悟の上よ」
「…………そうか。すまない。俺はお前を、見くびっていたらしい。
惚れ直したよ、胡蝶」
「──ぇ」
まって、いま音出さずになんて言った?
「……素直に謝罪するだけで、そこまで驚くか」
「おっ、驚くに決まってるでしょ!? だって、だって冨岡さんよ!?(?)」
驚き過ぎて、自分でもワケのわからないことを言った気がする。
「俺を何だと思ってるんだ……?」
「知らないっ! ──とにかく反省したなら、これからはちゃんと私に頼ること!! 以上!!!」
「あ、あぁ」
無理矢理背中を押して、部屋から追い出し戸を閉める。
「…………読唇術、アレで……合ってる、のよね……?」
「……やはり嫌われているのだろうか、俺は」