鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第五話:死別

 

「──ただいま帰りました」

「あぁ……おかえり、かぐや。聞いたよ、遂に──ゴホッ、ゴホッ」

「……父上、無理はしないでください」

 

 私は最終選別を突破した。無論死者零だ。

 そして合格したら、装備が支給されるワケだが……私の日輪刀は既に用意されていたらしく、実家に呼び出されたのだ。

 だが、この様子を見てしまえば……否応なく解ってしまう。そんなものは、口実でしかない。

 

 ──これは父と話す、最後の機会だ。

 

 呪いによって発生した『(ただ)れ』が、胸まで広がっている。五年前、柱合会議で顔を出した時はまだ、(ひたい)から目の部分までしかなかったのに……

 

「……安静に、とにかく安静にしていてください。そうすれば──」

 

 甘く見ていた。『三十まで生きられない』という言葉を甘く見ていた。こうなることを想定できなかった、己の愚かさに腹が立つ。

 

 ──だが、まだだ。まだギリギリ間に合う。間に合わせる。

 

 上弦の陸が吉原(よしわら)遊廓(ゆうかく)に居るのは知っている。ただ肝心の能力を知らないから、本当は準備を整えてから行きたかったのだが……上弦は柱三人分。現役の柱は現在三人。全員引き連れて行けば、ギリギリ足りるだろう。

 

「……かぐや」

「喋らないでください。あと十日……いや、六日耐えてください。(かぐや)が特大の朗報を持ち帰ってみせますから」

 

 大丈夫。大丈夫。今まで全部うまく行ってきた。揺り戻しなんて来るはずない。だから大丈夫。私は転生者。この身(かぐや)は天才だ。だから、私が──。

 

「……君はもう、充分頑張ったよ」

「──っ」

「お前はもう少し、自分に優しく──ゴホッ、ゴフッ」

「父上ッ!」

 

 ──喀血(かっけつ)だ。マズい。

 

「待っててください、すぐに医者を──!」

「いい、いらない。自分のことは、自分が一番解る……私は、ここまでだ」

「父上ッ、お願いだから喋らないで……!」

「そうだ。私は『父』なんだよ……最期くらい、父親らしいことをさせてくれ」

()()()なぞ求めておりません! 私はただ、生きていてさえくれれば、それで……!」

 

()()()()()()()()()()?」

 

「────」

 

 父の指摘に、息を呑んだ。

 

「……かぐや、お前は確かに特別なんだろう。だけどね……私は別に、お前が普通の女の子でもよかったんだ」

「……無理な話です。私が男の前世を持つ女(かぐや)である限り、普通になぞ、なれる道理がありません」

「あぁ、()()()()()()()()()という話かい?」

「えっ……」

「……おそらく、江戸時代に活動していた隊士の一人……なんだろう?」

「…………」

 

 ──ごめんなさい。全然違います。

 

「一日で呼吸を覚えるなんて普通無理だし、今でこそなくなったけど……昔はたまに、やたら古風な言葉遣いをする時があったからね……」

 

 ごめんなさいごめんなさい。それ明治時代の口調がよく分かんなくて、ズレてた時のだと思われます……。

 

「まぁ、この推測が合ってなくても構わない。私が言いたいことは……君が何者であるのだとしても、私にとっては一人の娘だということだ」

「……私は確かに前世で男でしたけど、江戸時代の人間じゃないですし、鬼殺隊士でもありませんでしたよ」

「そうかい。ちなみにその口調は……」

「無理はしていません。敬語は癖なんです」

 

 素の口調で話すのは無理。恥ずか死ぬ。んで気付いたら、マジで敬語が癖になってた。本来コミュ障なんよ私。

 

「……君が前世でどういう人間だったのか、教えてくれるかい?」

「構いませんよ」

 

 ──色んなことを話した。私が未来人であることも含めて。

 

「そうか……君の時代に鬼はいないのか」

「えぇ。私がいてもいなくても、無惨はもうすぐ討たれることになります」

「それならもう……思い残すことはない」

 

 ……そして父はやっと、大人しく眠ってくれた。

 

「……では、私はこれで」

 

 日輪刀を持って、部屋を後にする。

 母と耀哉に声をかけ、私は家を出た。

 

 ──日輪刀を抜き、色の変化を確認して納刀する。

 

「──朝陽(あさひ)

「はい、ここに」

 

 専属の鴉を呼んで、目的地を伝える。形式上私は『一般隊士』だが、耀哉からある程度の自由行動を許されているから、指示を待たずに動けるのだ。

 

雲取山(くもとりやま)へ向かいます。貴女は先に向かい、道中に鬼の情報があれば伝えてください。全て斬り捨てます」

「承知しました」

 

 刀の色は、やはり『黒』だった。まぁ、最終選別の時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時点で、ほぼ確信していたのだが。

 ……この身(かぐや)は才気に溢れている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものの、()()()()()()()()()()()だったし。……まぁ私もこの身(かぐや)も『型』の才能はそこまでではないみたいだが。

 無論炎の呼吸はめっちゃ修行したから、『型』の練度も並の隊士には負けないつもりだけど……上弦を相手にするのなら、日の呼吸はおそらく必須となる。

 

「……あの、かぐや様」

「どうしました?」

「……もう少し、実家に留まってもいいのでは」

「構いません。父との別れなら、先程済ませました」

 

 娘の正体が得体の知れない『誰か』と察しながら、彼は私を愛してくれた。最後に親孝行の一つもしてあげたかったのは確かだが……父ならば、その時間で鬼の一体でも倒した方が喜ぶだろう。

 

「……承知致しました。では、出立します」

「えぇ、行きましょう」

 

 朝陽は飛び立ち、私は一歩踏み出す。振り返ることはしない。

 

 『もう少し、自分に優しく』『特別でなくともよかった』と、父は言ったが……私は元より自分の欲望のままに生きているし、そのためには、『原作キャラ(特別な人間)』にとっての『特別』にならなければいけない。

 

「……お父様、私はあなたを許しません」

 

 私はあくまで『誰かのための涙を見る』のが好きなのであって、私が泣きたいワケではないのに。

 

「だってこんなのっ、反則でしょう……!」

 

 どうして私はまだ十歳なんだ。どうして父は二十四で死にかけてるんだ。三十までまだ六年もあるだろう。こんなに急いだのに、どうして間に合わない。こんなの無理に決まってる。

 

「お父様……お父さまぁぁぁ……!」

 

 父が何をした。産屋敷家が何をした。

 無惨という鬼を生み出した? ふざけるな。そんなこと知ったことではない。

 

 だが、だが──いいだろう。

 

 

「鬼舞辻無惨は私が殺す」

 

 

 どうせ、そうしなければお前達は耀哉のことも呪うのだろう。

 やってやる。やってやるから、代わりに私の寿命であればくれてやるから──これ以上、私の家族を奪わないでくれ。

 

 

 背中に一瞬、焼けるような痛みが走った。

 

 

 後から知ったが、私の背には()()()()()()()()ができていたらしい──。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 ■■コ■■ソ噂■

 

 笑い声が嫌いだ。自分が馬鹿にされているような気がして嫌いだ。

 怒った声が嫌いだ。好きな人はいないと思う。

 無表情が嫌いだ。何を考えているのか分からないし、怖いから嫌いだ。

 

 ──でも、涙は好きだ。悲しみは癒やせる。嬉しい涙は嘘を吐かない。だから怖くない。

 

 だけどみんな、みんな、ぼくが狂っていると言う。お父さんも、お母さんも、『お前は頭がおかしい』と言うから、そうなのだろう。

 

 だからみんなに好かれている人について、勉強しました。オカシイところは、学んで正せば良いのです。実際そうしたら、友達ができました。

 

 ──でも仲良くなって、つい本音で話してしまうと、やっぱりみんな私から離れていきます。

 

 だからもう、誰とも深い関係にはならないと決めました。

 

 …………ある日、義務教育以降にかかる費用を知りました。

 とてもとても、私のような人間にかけていい金額ではないように思えました。

 

 ──だから、中学校を卒業したその日に自殺しました。

 包丁を持っていた私を、両親は止めませんでした。それどころか、逃げました。

 ……薄れていく意識の中見えたのは、自分が殺されなかったことに安堵する、両親の歪んだ笑顔だったのです。

 

 狂っていても、私は間違っていませんでした。この方法は、正しく愛を証明してくれる。

 私は彼らに、愛されていなかった。それが証明されました。

 

 私が愛されるためには、最期まで本性を騙り切らねばならないと証明されました。

 

 

 だから前世で私がどういう人間だったのか、話す気はありませんでした。

 ……なのに彼は、私の嘘を尽く見抜いて、私の心を、暴いていって。

 

 …………それを、受け入れてくれたのです。

 

 だけどすぐに、彼は死んでしまいました。私は、ひとりぼっちに逆戻り。

 

 その一日に満たない時間が、どれほど私の救いになったか……彼は知らずに去りました。私は、感謝もできずに去りました。

 

 

 ──ならばせめて、生涯を懸けて恩義を返しましょう。

 

 

 彼には、息子がいます。まだ生きています。でも彼の父と同じく、すぐ死んでしまうでしょう。

 

 だからぼくは──(かぐや)は命に変えても、耀哉を絶対に救うのです。

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