【改訂版】鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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(15E)

 

 ──車内で乱闘になるのは悪手だ。風圧はキツいが、移動は天井から。

 

 天井を駆け抜け、先頭車両に復帰。

 臭いは燃料のものと混ざっている。位置は……!

 

「見つけ──ッッ」

 

 

  血鬼術『強制昏倒睡眠・眼』

 

 

 クソッ、喰らった……!

 首周辺は敵の眼球が付いた『肉柱』『肉壁』が犇めいているらしい。そしてその『眼』を見てしまうと、血鬼術が発動するようだ。

 

 本体じゃなかったとは言え、一度斬首まで持ち込めたから油断していた。敵はまだ、手札を残している。

 

 ──『自害』 覚醒。

 次の瞬間にはもう、肉柱に殴られていて……身体が宙に投げ出された。

 相変わらず直接的な殺傷力を持つ攻撃手段は無いらしく、戦闘の継続に問題はなかったが……非常に面倒な相手だ。

 

 しかしここでまたも、()()()()()が一つ。

 

 身体が完全に落下し切る前に、()()()()()空中で停止。車両の後方まで飛ばされる前に、着地に成功。

 

 

「──甘露寺さん!!」

 

「炭治郎くん、無事!?」

「はい!!」

 

「遅れてごめんね! 上官が揃って最後まで寝てただなんて、ホント恥ずかしいけど──その分ここから挽回するわ!!」

 

「煉獄さんも起きたんですか!?」

 

「うん! 禰豆子ちゃん達の様子を見ながら、一人で四両も守ってくれてるわ!」

「なら、下は安心ですね!!」

 

 こっちは鬼の攻略(こっちのこと)に集中できる。

 

「甘露寺さん! 鬼の『声』と『眼』に注意してください! 眠らされます!! 眠ってしまった場合は、夢の中で自分の首を斬ってください!」

「了解! なら()()()()()()()わ!!」

 

「えっ、ちょ──」

 

 止める間も無く、甘露寺さんは突撃を開始した。

 ──車体の側面から触手が伸び、彼女を襲う。

 

「甘露寺さ──ッッ」

 

 しまった。

 声をかけた瞬間、『待ってました』とばかりに触手が『眼』を見開いた。マズイ。

 

 

「ううん、大丈夫!!」

 

 

  恋の呼吸 壱ノ型 初恋のわななき

 

 

「──すごい」

 

 速度を落とさず周囲の触手を斬り刻み、彼女の足は進み続ける。

 俺も追随しなければ……! さっきので、『眼』は視線を合わせなければ術が不発になると分かった。敵の注意が甘露寺さんに集中している今なら、俺も動きやすい!!

 

 

「──『眠れ』」

「お断りよ!!」

 

 

  恋の呼吸 参ノ型 恋猫しぐれ

 

 

 ──!?

 

 いま何が起こった!?

 二度目の妨害。今度は『声』による術が発動した──()()()()、俺も甘露寺さんも、眠らない。

 

 ──まさか、『音に乗った術』を斬ったとでもいうのか?

 確かに日輪刀を使えば、『血鬼術を斬って無効化』することは可能だが……『()()()()』なんて、目の前で実行された今でも信じ難い。

 

 敵も動揺しているのか、妨害が止まっている。

 そして甘露寺さんは先頭車両に到達し──何故か彼女も停止した。

 

「──炭治郎くん!」

「はい!!」

 

「……ごめん私、頸の位置わかんないかも!!!」

 

「…………いま行きます!!!」

 

「うわーんごめんねぇぇ!!」

(挽回するとか言って格好付けて、『とりあえず近付けばビビッとくるでしょ』なんて甘い考えで先行して、結果がこれって……! 恥ずかしい……!!)

 

 しなる日輪刀を振り回しながら、甘露寺さんが戻ってくる。妨害の対象が俺に変わっても、すぐさま『眼』と『口』を潰し、術を押さえ込んでくれているのだ。

 気の抜ける言動に反し、この隙の無さ。やはり凄い。ウン。

 

 

「──ここです甘露寺さん! 床を!!」

「斬ればいいのね!?」

 

 

  恋の呼吸 陸ノ型 猫足恋風

 

 

 列車の床と、その下にある鬼の肉が剥がされ──『骨』を掠めて地面まで貫通。

 

 

『ア゛ア゛アアア゛ア゛!!!!』

 

 

 悲鳴と共に、車体がのたうつ。

 足が浮き、身体が跳ねて壁に激突。──マズイ。

 

「──ッ、大丈夫ですか!?」

 

 男性が一人、近くに倒れている。運転士か。

 ここは頸の近くで、揺れが一番強かった。トドメを刺せば、更に激しい振動に襲われるだろう。

 その前に保護しなければ──。

 

 

 そう思ったことに、後悔はないのだけれど。

 

 

「──ぇ」

 

 

 俺が男性に駆け寄ると、彼は『錐』を取り出して……俺の腹を刺した。

 

 

「死ねクソガキ……ッ! 夢の邪魔をしやがって……!!」

 

「──!!! 炭治郎くんッッ!!」

 

「──ッ、俺は大丈夫です!! 甘露寺さんはッ、トドメを!!!」

 

「〜〜っ、もう!!!」

 

 再び放たれる、『猫足恋風(陸ノ型)

 さっきよりも大きな断末魔と、脱輪するほどの大きな揺れ。

 

 宙に投げ出される身体。回転する視界。全身に幾度も衝撃が走り、刺された腹部に激痛が走る。

 

 ──回転が止まり、()()()を確認して……溜め息を一つ。

 

 運転士の男性に、怪我はなかった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 Q:『音を切断できる』→『音より速い斬撃が出せる』のであれば、甘露寺さんは音で周囲を把握する悲鳴嶼さんより強いのでは?

 

 A:否。現実は『ターン制のゲーム』ではないので、一瞬ごとに様々な『動き』が発生する。

 強者の定義は様々だが、『殺し合い』において『先読みの精度』は非常に重要。人間の反射速度の限界を考えれば、刀が届くほどの近距離なら『音速』と『光速』は誤差の範囲である。

 ──少なくとも、柱クラスの強者は『動き』をほぼ『先読み』で行っている。

 甘露寺さんが()()()()()()()()()()()()()()悲鳴嶼さんにも勝てるだろうが、それは物理的にまず不可能である。そしてそもそも、彼女の『音速を超える斬撃』とて先読み前提の攻撃であるのだ。

 

 オマケ。

 今回の話の場合、甘露寺さんは『目を閉じる前』に『列車の形状を把握』 勘(という名の無自覚な反響定位)によって周囲の変化を確認→即斬撃。『口』が出たら術の発動前に直接斬るか、『先読み』で空気を斬って防御──としていた。

 ……ただし『先読み』は得意でもなまじ『いい眼』を持ってるせいで視覚に頼り切り気味な部分のあるカナヲとかぐやがこの場に居たらたぶんドン引く。


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