【改訂版】鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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(16)猗窩座

 

 ──試験管に、(ヒビ)が入る音。

 

「……魘夢が死んだか。やはり役に立たんな、下弦の鬼なぞ」

 

 無限城。実験室。

 鬼の首魁は作業の手を止め、目蓋を閉じた。……それは間違っても『黙祷』などではなく──。

 

「──猗窩座。これから言う場所に向かって、目障りな『耳飾りの剣士』と『継子』を殺してこい」

 

 次に目を開けた時にはもう、彼は実験のことしか考えていなかった。

 これ以降、無惨が魘夢のことを思い出す日は来ないだろう。

 

 

 

 *

 

 

 

「──炭治郎くん! 炭治郎くん……!!」

 

 横転した列車の向かい側から、甘露寺さんが駆け寄ってくるのが見える。

 

「大丈夫……!?」

「……はい、()()()()()()()()()()()……」

 

「──いや、そうじゃなくって!!」

 

「すみません。しばらくは、動けそうにありません……俺のことはいいので、甘露寺さんは……乗客の、救助を」

「あっちは師範が、()()()()()()()()()()()()()()みたいだから大丈夫! 見た目ほど被害は大きくないわ! 一番の重傷者は炭治郎くんなのよ!?」

「そう、でしたか……よかった」

「よくないわよもう! こんなに血が出てるのに……! 病院に運ぼうにも、まず止血しないと……!!」

「……呼吸で止血、できたらよかったんですが」

「〜〜っ。やろうと思えばできる筈だし、やり方教えてあげたいけど……! 私説明へたっぴだからなぁ……!!

 こ、こう……傷口のところに意識を向けてギュゥゥッて……できない……!?」

「…………とりあえず、やってみますね……」

 

 傷口に、意識を集中……集中……。

 

「あぁあ、ちっ、違うわ炭治郎くん……! それだとむしろ血がグワッてなって、出血が……!!」

「すみません……いままで……血流の促進しか、やってこなかったもので……」

 

 ……寒い。血が抜けて、体温がこぼれていってるんだ。

 意識が、朦朧とし始めて……。

 

 

 ────『目を覚ませ』と言わんばかりの、轟音が響いた。

 

 

「何よもうっ! こんな時に──ッッッ!?

 

 甘露寺さんの反応から、尋常ではない事態が発生したのだと察し……痛む身体を反転させ、音がした方向を見遣る。

 すると土埃が視界に入り、その奥に──。

 

 

「────()()の、()……!?」

 

 

 上弦。鬼舞辻の血が最も濃い、六体の鬼。その一角。

 一体一体が、()()()()()()()を持つという……災厄の化身。

 

 ソレが、すぐそこに居て。

 

 気付いた時には、その拳が目の前にあって。

 

 

  恋の呼吸 弍ノ型 懊悩巡る恋

 

 

 その前に腕ごと斬り刻まれていたらしい(ソレ)は、(すんで)の所で塵となった。

 

 鬼が後ろに跳んで距離を取り、一瞬で腕を再生させる。……甘露寺さんの刀なら追撃できた筈だが、俺を気にしてか様子見に徹している。

 

「……怪我人から先に狙うなんて、最低」

 

 …………あぁ、伊之助は()()()……こんな気持ちだったんだな。

 

 戦わなければいけないのに。自分が邪魔にしかならないと解っている。

 足手纏いだと理解していて、それでも……怪我の痛みとは別の要因で、逃げるべき足が動かない。

 

「……そういう『命令』だからな。

 お前達の闘気は、歳の割によく練られている。ここで殺すには惜しいが……あの方はどうにも、『耳飾り』のソイツが気に食わんらしい。『必ず殺せ』とのお達しだ。

 ──が、()()()()()。桃髪の」

 

「……?」

 

「──お前も()()()()()()()?」

 

「…………何を、言ってるの?」

 

「上弦の鬼には『勧誘』の特権が与えられている。無論、あの方の許可制ではあるがな。

 そっちのガキは却下されたが、()()()()()()()()()()

 

「……バカにしないで。鬼狩りの剣士に、そんな誘いに乗る人はいないわ」

 

「何故拒む? 見れば分かる。お前の剣技、()()だろう? そして()()()()

 ──お前、()()()()()()()()()だろう」

 

「……ッッ」

 

「鬼はいいぞ? 強さが全てだ。数が多いだけの弱者共に(わずら)わされる必要はない。

 そんな身体(カラダ)で、今まで人間(ヒト)と歩幅を合わせて生きてきて……辛くはなかったか? 苦しくはなかったか? 日々の食事すらも、満足にはできないだろうに」

 

「…………」

 

 ──何故だろう。彼からは、悲しみの臭いがする。慈しみの臭いがする。

 

「鬼になれ。桃髪の。そうすればお前は自由になれる」

 

「……ごめんなさい。貴方のこと、少し誤解してたみたい。

 ──でも、私は鬼になる気はないわ」

 

「何故だ?」

 

「確かに辛いこともあったけど、苦しいこともあったけど……私は、今のままでも幸せなの。こんな私を、()()()()()()()()()()()()から。

 ──貴方はどう?」

 

「……何?」

 

「もうとっくに、貴方は誰より強い鬼なのに。()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……決まっている。俺は、上弦の壱に勝利する」

 

()()()()? そもそも、()()()()()()()()()()()()()の?」

 

「…………俺は『強くなりたいだけ』だ。そこに理由が必要あるのか?」

 

「本当に?

 ねぇ、貴方──()()()()()()()んじゃない?」

 

「────」

 

「貴方、とても悲しい目をしてるわ。()()()()()()()()()()の目。

 ──燃えるような恋を封印していた時の私と、()()()()目」

 

「……だまれ」

 

「決定的な違いは──」

 

「黙れと言っているッ!!」

 

 

  術式展開『破壊殺・羅針』

 

 

 苛立たしく、地団駄を踏むように──血鬼術が起動した。

 凄まじい鬼気に、甘露寺さんが口を(つぐ)む。

 

 

「──気が変わった。お前も殺す」

 

「……そう」

 

「安心しろ。お望み通り、耳飾りのガキより先に相手をしてやる」

 

「……信じるわよ、その言葉。言ったからには絶対に、『私が倒れるまで、炭治郎くん(この子)に手出ししない』で」

 

「あぁ、約束しよう──」

 

 

 二人の姿が、かき消える。

 

 

「──何秒持つかは、お前次第だがな!!」

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 

『──甘露寺テメェ。どォして()()()()()()()()()んだァ?』

 

『…………くだらねェ。前から『頭が足りない』たァ思ってたが……まさかここまでとはなァ』

 

『お前はお前。俺は俺だろうが。

 ──テメェは()()()()強くなった? ()()()()()力を身につけた?

 お前は別に、鬼が憎くて鬼狩りになったワケじゃねェだろ。目的を履き違えたままで、強くなれる道理があるかよ』

 

 

 ……私には今でも『強くなる理由』があって、あの時それを思い出すことができたから……こうして、戦うことができているけれど。

 

 彼は、きっと──……。


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