──試験管に、
「……魘夢が死んだか。やはり役に立たんな、下弦の鬼なぞ」
無限城。実験室。
鬼の首魁は作業の手を止め、目蓋を閉じた。……それは間違っても『黙祷』などではなく──。
「──猗窩座。これから言う場所に向かって、目障りな『耳飾りの剣士』と『継子』を殺してこい」
次に目を開けた時にはもう、彼は実験のことしか考えていなかった。
これ以降、無惨が魘夢のことを思い出す日は来ないだろう。
*
「──炭治郎くん! 炭治郎くん……!!」
横転した列車の向かい側から、甘露寺さんが駆け寄ってくるのが見える。
「大丈夫……!?」
「……はい、
「──いや、そうじゃなくって!!」
「すみません。しばらくは、動けそうにありません……俺のことはいいので、甘露寺さんは……乗客の、救助を」
「あっちは師範が、
「そう、でしたか……よかった」
「よくないわよもう! こんなに血が出てるのに……! 病院に運ぼうにも、まず止血しないと……!!」
「……呼吸で止血、できたらよかったんですが」
「〜〜っ。やろうと思えばできる筈だし、やり方教えてあげたいけど……! 私説明へたっぴだからなぁ……!!
こ、こう……傷口のところに意識を向けてギュゥゥッて……できない……!?」
「…………とりあえず、やってみますね……」
傷口に、意識を集中……集中……。
「あぁあ、ちっ、違うわ炭治郎くん……! それだとむしろ血がグワッてなって、出血が……!!」
「すみません……いままで……血流の促進しか、やってこなかったもので……」
……寒い。血が抜けて、体温がこぼれていってるんだ。
意識が、朦朧とし始めて……。
────『目を覚ませ』と言わんばかりの、轟音が響いた。
「何よもうっ! こんな時に──ッッッ!?」
甘露寺さんの反応から、尋常ではない事態が発生したのだと察し……痛む身体を反転させ、音がした方向を見遣る。
すると土埃が視界に入り、その奥に──。
「────
上弦。鬼舞辻の血が最も濃い、六体の鬼。その一角。
一体一体が、
ソレが、すぐそこに居て。
気付いた時には、その拳が目の前にあって。
恋の呼吸 弍ノ型 懊悩巡る恋
その前に腕ごと斬り刻まれていたらしい
鬼が後ろに跳んで距離を取り、一瞬で腕を再生させる。……甘露寺さんの刀なら追撃できた筈だが、俺を気にしてか様子見に徹している。
「……怪我人から先に狙うなんて、最低」
…………あぁ、伊之助は
戦わなければいけないのに。自分が邪魔にしかならないと解っている。
足手纏いだと理解していて、それでも……怪我の痛みとは別の要因で、逃げるべき足が動かない。
「……そういう『命令』だからな。
お前達の闘気は、歳の割によく練られている。ここで殺すには惜しいが……あの方はどうにも、『耳飾り』のソイツが気に食わんらしい。『必ず殺せ』とのお達しだ。
──が、
「……?」
「──お前も
「…………何を、言ってるの?」
「上弦の鬼には『勧誘』の特権が与えられている。無論、あの方の許可制ではあるがな。
そっちのガキは却下されたが、
「……バカにしないで。鬼狩りの剣士に、そんな誘いに乗る人はいないわ」
「何故拒む? 見れば分かる。お前の剣技、
──お前、
「……ッッ」
「鬼はいいぞ? 強さが全てだ。数が多いだけの弱者共に
そんな
「…………」
──何故だろう。彼からは、悲しみの臭いがする。慈しみの臭いがする。
「鬼になれ。桃髪の。そうすればお前は自由になれる」
「……ごめんなさい。貴方のこと、少し誤解してたみたい。
──でも、私は鬼になる気はないわ」
「何故だ?」
「確かに辛いこともあったけど、苦しいこともあったけど……私は、今のままでも幸せなの。こんな私を、
──貴方はどう?」
「……何?」
「もうとっくに、貴方は誰より強い鬼なのに。
「……決まっている。俺は、上弦の壱に勝利する」
「
「…………俺は『強くなりたいだけ』だ。そこに理由が必要あるのか?」
「本当に?
ねぇ、貴方──
「────」
「貴方、とても悲しい目をしてるわ。
──燃えるような恋を封印していた時の私と、
「……だまれ」
「決定的な違いは──」
「黙れと言っているッ!!」
術式展開『破壊殺・羅針』
苛立たしく、地団駄を踏むように──血鬼術が起動した。
凄まじい鬼気に、甘露寺さんが口を
「──気が変わった。お前も殺す」
「……そう」
「安心しろ。お望み通り、耳飾りのガキより先に相手をしてやる」
「……信じるわよ、その言葉。言ったからには絶対に、『私が倒れるまで、
「あぁ、約束しよう──」
二人の姿が、かき消える。
「──何秒持つかは、お前次第だがな!!」
*
大正コソコソ噂話
『──甘露寺テメェ。どォして
『…………くだらねェ。前から『頭が足りない』たァ思ってたが……まさかここまでとはなァ』
『お前はお前。俺は俺だろうが。
──テメェは
お前は別に、鬼が憎くて鬼狩りになったワケじゃねェだろ。目的を履き違えたままで、強くなれる道理があるかよ』
……私には今でも『強くなる理由』があって、あの時それを思い出すことができたから……こうして、戦うことができているけれど。
彼は、きっと──……。