破壊殺・乱式
「どうしたどうした!? 威勢の割に、随分と動きが悪いなァ!?」
「──ッ」
(しょうがないでしょ!? 私こういう戦い方得意じゃないし!!)
猗窩座の猛攻を前に、蜜璃は防戦一方だった。しかも、被弾を避け切れていない。……形勢は、誰の目にも明らかだった。
……彼女も自覚している通り、蜜璃は……と言うより『恋の呼吸』は、持久戦向きではない。
そもそも『攻め』重視の『炎の呼吸』から派生しているためか、『攻防一体の型』は多いが『専守防衛の型』は存在しないのだ。
では何故派生元とは言え『適性外の呼吸』を使ってまで、格上相手に、態々『不得意』な戦法を使うのか。
……猗窩座の攻撃は、武器も血鬼術も用いない『純粋な打撃』である。
たとえば今使われている『乱式』は、言葉にすれば……『ひたすら速くて重い
──
これは『純粋』な、小細工抜きの地力勝負である。そこに『運』という『不純物』が介入する余地は存在しない。最初から決まっている『勝敗』は、覆すことができない。
──甘露寺蜜璃では……猗窩座に勝てない。
それを理解しているから、彼女は
……もっとも、
破壊殺・脚式 流閃群光
蜜璃は宙返りと共に、斬撃を繰り出そうとするが……猗窩座は『お見通し』とばかりに上段へ連続蹴りを行い、彼女を吹き飛ばした。
「ガッッハ……!」
「ハッハァ! よく飛んだなァ!!」
「甘露寺さん……ッ」
「──大丈夫!! まだまだやれるわ……!」
(でも、
猗窩座の『血鬼術』は、最初に起動した『羅針』のみである。
その効果は、『闘気を読む』こと。効果範囲内の生物の位置・強さ・意識を向ける先が分かる術。
……以上。それだけ。鬼の超感覚と膂力があれば、殆ど無用の長物である。血鬼術だけで評するなら、間違いなく『最弱の上弦』と言えるだろう。
──しかし『武人』である彼が持つことで、この術は正しく『鬼に金棒』と化している。
(……
猗窩座は、確かに蹴り飛ばした筈の蜜璃が……強がりではなく
──彼とて、原因には気付いている。
彼女の筋肉は、並外れた柔軟性と驚異的な密度を誇る。打撃を受けても、バネのように衝撃を吸収し……鋼のように耐えることができるのだ。
────しかしいくらなんでも、その密度が
実のところ猗窩座も猗窩座で、蜜璃とは相性が悪かったのだ。
──両者共に、膠着状態。
故に、
「破壊殺──」
(筋肉の鎧で打撃が通らないなら、頭を潰すまで。
空式で隙を作ってから──)
「……!」
(来るッッ)
──
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
「……は?」
「──まさか、上弦の鬼が来ていたとはな。よもやよもやだ。
甘露寺。竈門少年。俺が来るまで、よく堪えた」
「「──煉獄さん……!!」」
「しかし、なるほど。
「──なんだ、お前は」
(いつから背後に立っていた? 何故
猗窩座は両手で
(──どうして、俺の頸は
「俺は炎柱。煉獄杏寿郎だ」
言うや否や、彼は『
支えを失った頸が、大地に転がって……少しずつ、塵になっていく。
「────すごい……一瞬で、勝っちゃった……」
「……とは言え、浮かれてもいられない。まだ上弦には、かぐや様を倒した『壱』が残っている」
(──なんだ、その口振りは。それでは俺が、単なる前座のようではないか。
ここに居ない『
そんな思考を、読み取ったワケではないだろうが……杏寿郎の視線が、猗窩座に向いた。
ボロボロ、ボロボロ、崩れていって……もう半分以上消えている、彼の頭に。
「…………」
最後まで残った、『参』と刻まれた眼球は……最後に杏寿郎が背を向ける様子を確認して、塵になった。
(ふざけるな。まだ俺は戦える。まだ──)
──『猗窩座という鬼』は、ここで終わった。
*
■■噂■
負けるのか? 俺が。一撃も技を出せずに、ワケも分からないまま。
──否だ。俺はまだ戦える。
そして強くなる。誰よりも強く。こんなところで終われない。
強くなって──……強くなって、どうしたいのだったか。
……気の迷いだ。こんなことを考えてしまうなんて。
…………
────殺してやる。
「「「──ッッッ!?!?」」」
鬼狩り共が、息を呑む気配。
──分かる。感じる。
酷い気分だ。どうでもいい。
身体の調子が最高に良い。どうでもいい。
──ただ、殺したい。……誰を?
…………ダメだ。さっきから、おかしな疑問ばかりが浮かぶ。
早く……一刻も早く、殺さなければ……これ以上、おかしくなる前に。
────あの女を、この手で。