鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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間話:玄弥とかぐや

 

『──憎いですか? 私が』

 

 ……夢を見ている。

 鬼になった母が……己の目の前で、斬り殺された日の夢。

 

『私が憎いのなら、強くなりなさい。そしていつかその刀で、私を殺しに来るのです』

 

 …………虹柱、産屋敷かぐや。

 母の仇。無敵の剣士。……同時に、家族の恩人。俺が、酷い言葉を投げかけてしまった人。

 

 彼女が来てくれたから、母は『母』のままでいられた。『我が子を喰らった鬼』となる前に、『人』のまま死ぬことができた。

 ……そうでなければ、あの時家に居た弟妹(おとうといもうと)は無事じゃ済まなかっただろう。何せ壁一枚隔てた先の鬼に、自ら近付いて行ったのだから。

 

 乱暴な、扉を叩く音。異常に気付かず、『母が帰ってきた』と喜ぶ家族。

 開かれる扉。一瞬映る、熊手のような影。……重いモノと固いモノが勢いよく衝突した、鈍い音。

 そうしてようやっと『異常』に気付き、固まる弟妹(ていまい)に向け……俺は『中にいろ』と言って外に出たのだ。

 

 ……あの時、近くには兄もいた。…………その手には、(なた)が握られていた。

 考えたくもないことだが……母が兄以外の子供を全員喰い殺し、その母を兄が手にかける──そんな『最悪』が、あの時あの状況ではあり得ていた。

 

 なのに俺は、彼女を『人殺し』と罵った。

 自身の命を、弟と妹の命を、兄の尊厳を、何の見返りも求めず救ってくれた彼女を……あろうことか、罵倒した。

 

 …………償わなければならない。

 俺は柱になって、彼女に会って、あの日の贖罪をしなければならない。

 

 

 ──そのことを思い出す、『夢』を見たせいなのだろうか。

 

 

「……あなたは」

 

「──ぁ」

 

 

 心技体のどれもが分不相応のまま、偶然にも……俺は彼女と、再会してしまった。

 

 

「……不死(しなず)が」

「すみませんでしだァッッ!?

 

「いや何してるんですかッ!?」

 

 

 焦りに焦った俺は、何をとち狂ったか()()()()()()土下座を決行し──盛大に額を叩き割って血飛沫を上げるのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「まったく……風呂上がりなのに、肝が冷えてしまいました」

「す、すみません……」

 

 出血を確認した彼女は、躊躇なく着物の袖を噛みちぎって包帯に変え、有無を言わさず止血。そのまま流れるように俺を横抱きにして、近くの宿に駆け込んだ。

 ……しかし、応急手当ての手際といい、患部の頭を揺らさない運び方といい……。

 

「……その、慣れてますね」

「当然です。どれだけ迅速に鬼を斬っても、鬼殺隊(わたしたち)の耳に鬼の情報が入るということは……大抵、()()()()()()()()ということですから。

 『隠を待っている間に怪我人が亡くなってしまった』『すぐに手当てをすれば助かったのに』 ──そんな失態があっては、私が私を許せない」

「……そうですね」

 

 たしかに、そんな不手際で救える命を取り落としてしまったら……取り返しがつかない。

 

「……しかし、どうして貴女が『里』に?」

 

 この人は、一度も刀を折ったことがない筈だ。

 

「私は湯治です。身体に不調はありませんが、一応病み上がり? なので」

「あぁ……そういえば、此処は温泉の名所でもあるって話でしたね」

「えぇ。……『隠れ里の名所』とはこれ如何に、と思わないでもないですが」

 

 …………たしかに。

 

「──まぁ、そんなことはどうでもいいです。それより、アナタ……」

 

「……はい」

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

「────」

 

 てっきり『あの日』の話をされるのかと身構えていたところに、予想外な方向から──それも痛いところを突かれ、絶句する。

 

「傷の治りが異常に早い。加えて、視たところ……肺も、筋肉も、骨も、既に常人離れしていますね。

 ……いまは良いこと尽くめなように感じるでしょうが……()()()()()()()です」

 

「……鬼殺隊を辞めろ、と……仰るんですか?」

 

「『そのまま鬼喰いを続ければ、人に戻れなくなる』と言っているのです」

 

「望むところです」

 

「二度と太陽の下を歩けなくなるだけなら、()()()()()でしょう。

 しかしその内、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「藤襲山の鬼は、人を喰えない。共喰いにも限度がある。でも生きてます。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()。違いますか?」

 

 おそらくは、火を通さない生肉なら……人間でなくとも、食べることができるのだ。

 

「……藤襲山の鬼を見たなら、解っている筈ですね。命を繋げても、禁断症状で発狂しますよ」

「その時は、蝶屋敷から輸血を融通してもらいます。給与から天引きで構いません」

 

「──鬼舞辻無惨は私が殺します。

 そして、無惨が死ねば……呪いで無惨と繋がっている配下の鬼も、死に絶えます。……その時アナタも、道連れになるかもしれません」

 

「────。

 ……それが鬼舞辻を倒す代償なら、構いません」

 

「反対に、そこを生き延びたとして……老化しなくなって、大切な人の死を……永遠に見届け続けることになるかもしれませんよ」

 

「……その時は、満足するまで生きてみて……その後に、太陽へ身を投げます」

 

「…………決意は、固いんですね」

 

「はい」

 

「ならもう、私は止めません」

 

 そう言うと、彼女は背を向けた。

 

「それでは、またいつか。里に逗留するなら、近い内にどこかで会うこともあるでしょう」

 

 こうして結局、俺は『あの日』の謝罪をすることなく彼女と別れた。

 ──しかし二度目の別れは、初めと違い……穏やかな希望に満ちていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 

『…………〝人に戻れなくなる〟〝潮時〟なんて、自分のことを棚上げしてよく言うよ』

 

(いいんですよ、私は。特に不都合とかありませんし。……勿論、貴女が『これ以上(わたし)と意識が混ざるなんて嫌!』と仰るなら、『天照』を使うのは控えますが)

 

『……別にー? 私も()()()()()()()()()()()イヤじゃないし? ()()()イイんだけどさー……』

 

(……()()、なんですか?)

 

『さーねー?』

 

(……答える気はない、と)

 

『そーね──ま、害はない()()()し大丈夫でしょ』

 

(なんですかその含みのある言い方は。気になるんですけど)

 

『これ以上は言えないよー』

 

 

 ──何せ、()()()()()()()()()()

 

 姉の『天照』は、本来の『拾参ノ型』とは()()()()()()()になっている。……正確にはこの場合、『非なるモノ』は私の方だが。

 

 祟り神の巫女たる私の『神楽舞』と、姉の『ヒノカミ神楽』は、本来()()()()()()

 私と先代──継国縁壱は、(えにし)の繋がっている神が違うのだ。

 それを『私の肉体』で、『先代の技』を使うモンだから……姉は『天照』を使う度に、私だけでなく()()()()()()()()()()()()──可能性が、ある。

 

 ……そう、あくまで可能性。疑惑の話。断言はできない。『お天道様』については『畑違い』だから、コレは推測に過ぎないのだ。

 

 ただ()()として、姉は私に近付いている。人のまま、人外の力を振るっている。

 確かに姉の『天照』は、私を中継に〝彼女〟の『呪い』を使っている。……にも関わらず、童磨(上弦の弍)黒死牟(上弦の壱)で……効果の出方が、全く違った。

 

 

 そして何より────そうとでも考えないと姉の強さに()()()()()()()()!!!

 

 

 ふざけるなバカ! ちょっと特殊な特技を持ってて頭が良かった程度な元一般人があんなに動けてたまるか!! 私の立場が無いわ!! 実際立場取られてるんですけどね!!! 実はちょっと根に持ってるぞチクショウ!!!

 

 

 …………まぁ縁壱も縁壱で、姉と同じく『神仏が想定していた以上の強さ』だったらしいし……『最初からアレの同類だった』と言われれば、それまでなのだが。

 効果の出方も、あくまで使い手はお姉ちゃんだから……イメージの結果、とも考えられる。

 

 ……けど、やっぱり解せないなぁ……。

 

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