鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第二十五話:修行開始

 

「──来ましたね」

「……はい。よろしくお願いします」

 

 言われた通り、彼女の部屋を訪れ──張り詰めた空気に、息を呑む。

 

 武者震いが止まらない。一目で、瞬時に理解させられた。

 部屋の中心で目を閉じ、正座で待っていたこの女性は……聞きしに勝る実力者だ。

 

 今の今まで、『彼女』についての話は半信半疑だった部分がある。

 

 ──刀を折らない。上弦の弍を無傷で倒した。

 

 隊士になって、上弦と戦えば、『そんなバカな』と思わずにはいられない。『そんな人間が実在するのか』と、疑わずにはいられない。

 

 でも、()()()()()できる。

 そう確信させられる、圧倒的な『強者』の気配(におい)

 

「……ごめんなさい。怖がらせてしまいましたね。

 ……焦りを表に出すとは、不甲斐ない限りです」

 

「焦り、ですか?」

 

「鬼殺隊が()とした上弦の月は、二つ。対し失った支柱は、()()

 ……これをそのまま捉えると、残る四つの月を墜とす過程で……()()()()、支柱が犠牲になるということを意味します。

 幸い、死者は出ていませんが……この先もずっと、そう上手くいくとは限らないでしょう。

 ──新たな『柱』が必要です。私達が退(しりぞ)いても、隊士達が希望を抱き続けることができるような……『象徴』が、必要なのです。

 

 炭治郎くん。私はキミこそが、その『象徴』になると思っています」

 

「えっ?」

 

 象徴? 俺が? そんなまさか。

 無限列車でも、遊郭でも……守られてばかりだった、俺が?

 

「……勿論、あなたに全てを背負わせる気はありません。命ある限り、私は鬼殺隊の先陣を切り続けるでしょう。

 問題は──…………」

 

「……問題は?」

 

「──ふっ。分かりませんか?

 私が活躍し過ぎると、それはそれで後継者の重荷になってしまうことです」

 

「…………」

 

 ──嘘だ。

 いや、『真っ赤な嘘』というほどではないけれど……彼女はいま、何かを取り繕った。

 

「なので、なるべく早く頭角を示してくださいね? 炭治郎くん。私が、上弦を狩り尽くしてしまう前に」

 

「……頑張ります」

 

 冗談めかして告げられた、彼女の言葉に……俺はそう返すしかなかった。元々、俺にはそれしかできないというのもあるが。

 

 ……彼女が何を取り繕ったのかは分からない。

 分かったのは、一瞬何かを打ち明けようとして……しかし重荷を背負わせないように、真意を隠したということ。

 

 ……俺が、弱いから。

 

「ふふ。色よい返事をありがとうございます。

 ──では、ついてきてください」

 

「はい!」

 

 

 

 これは後から分かったことだけど……俺がどれだけ強くたって、彼女の問題は……解決できないものだった。

 

 だけど、それでも。

 

 彼女は、一人であまりにも多くの責任を抱えていた。大き過ぎる期待を、一人で背負っていた。

 

 その重責は、煉獄さんを始め……多くの人が、肩代わりする機会を求めていたけれど。その『機会』は終ぞ、誰にも訪れなかった。

 

 ──だけどもし、もしも『この時』

 俺に、もう少しでも力があったのなら。

 

 …………俺には『この時』 彼女を助ける機会があったんじゃないか──。

 

 そんなことを、考えてしまうのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

「──どう、でしたか?」

「ふむ……」

 

 広場に移動した私達は、軽い地稽古を行っていた。

 

 しかし、これは…………どうしたものか。

 

 ──クッソ微妙。

 

 それが、私から見た炭治郎くんの正直な評価だ。

 

 いやね? 『階級が(きのと)以下の隊士として』なら、掛け値なしに『破格』の強さよ?

 でも、支柱の面々と比べちゃうと……三年前(就任当初)の粂野さんよりかは強いかな? くらい。これじゃ猗窩座とは勝負にならん。血鬼術ナシの童磨さんにも負けるだろう。……上弦の伍と肆相手にどこまで通用するか、分からない。

 

 つまり、ウン。これはアレだ。正史を知らなくても流石に察せる。

 

 ──バタフライエフェクト(私のせい)で、遊郭編の強化イベントが潰れたのだ。

 

 

「炭治郎くん。あなたは既に、『柱』として通用する力量を持っています。

 ──が、()()()()です。今のままでは、『参』以降の上弦には通用しない」

 

「……はい。解っています」

 

 私の湯治は、残り十日。

 この期間で、可能な限り彼を鍛え上げる。

 

「しかし幸い、基礎に関して言うことはありません。あとは持ち味を活かせるようになれば、キミは一気に伸びるでしょう」

 

「──本当ですか!?」

 

「えぇ」

 

 

 ──まずはその、完全に持て余している『鼻』と『肩』を活用するところからだな。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 花柱(カナエさん)は引退こそしていないものの、実は堕姫との戦いで右腕を痛め、後遺症で物がうまく掴めなくなってしまったらしいぞ。

 左腕を駆使して誤魔化しているが、『柱』として通用するだけの力は失われている。このことを支柱の面々は知っているが、一般隊士は知らされていない。

 

 ……なので、猗窩座以降の鬼とマトモに相対できる追加戦力は意外と少ない。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 無限城で、黒死牟と猗窩座が対峙していた。

 

 ……いや。()()()()()()()()()()()()()を、()()()()()()が見下していた。

 

「出直せ……相手にならん……」

「…………喰え(殺せ)

 

 無惨の血を与えられ、強化された猗窩座は──黒死牟に『入れ替わりの血戦』を申し込んでいた。その結果がコレだ。

 

「……近頃……私には、覇気が無かった……その自覚は……ある……。無惨様にも、お前にも……いらぬ気を、揉ませた……。その点は、詫びよう……。

 猗窩座……お前は生きて、引き続き……鍛錬に、励め……」

 

「……チッ。腑抜けてないなら、紛らわしい真似をするな。()()()()()なんぞをかけられても──」

 

 『(みじ)めになるだけだというのに』

 猗窩座はそう言おうとしたが、途中で口をつぐんだ。

 

 

「武士に見えるか? 私が。こんな、醜い姿のバケモノが」

 

 

「…………」

 

「……私は、断じて……断じて()ではない……」

 

 黒死牟はそう言い捨て、琵琶の音と共に消えていった。

 

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