「……無一郎。
「……さぁね」
──『刀鍛冶の里には、秘宝がある』『その秘宝には、鬼狩りを強くする力がある』
隠れ里を訪れた僕と兄さんは今、その『秘宝』を探すべく……ロクな手掛かりもなしに、外を散策していた。
「でも、真菰さんは『ある』って言ってたし……」
「それも、又聞きだけどな」
「…………」
……宇髄さんが、引退した。カナエさんも、戦う力を失った。
これだけの代償を支払って尚、手にした戦果は上弦の
こんな調子じゃ……鬼殺隊は、無惨に勝てない。
だからもう、藁にもすがる気持ちだった。
身体が成長するまでおとなしく待つなんて、悠長なことはできなかった。いつだって、鬼は待ってくれないから。
「ん……? なんだ
──そう、いつだって。
「どうしたの、兄さ────ッッ」
────『あの日』のように。
促されるまま振り返ると、視線の先には『ヤツ』がいて。
左手で鯉口を切る。
ほぼ同時に右手で兄を押しのけ、縮地。
間合い。抜刀──脊髄反射による、最速最適な一撃。
それが当たる直前に、僕は腕を止めた。
「フーッ、フゥ──……フウウウウ」
呼吸を整え、納刀する。
……常中を乱しておいて、何が『最速最適』か。反省だ。
「オイ無一郎、どうした!? 何があった!?」
「……ごめん。ちょっと、見間違いで」
「あ゛ぁ ? 見間違いぃ?」
「この人形が、その……
真昼間に鬼が出るなんて、ありえないのに……取り乱した。
「…………そうか。コイツが」
「うん。実際は目が六つで、腕は二つなんだけど……それでも、そっくりだ。
……コレが例の『秘宝』ってことで、いいのかな?」
「刀の方は……訓練用だな。
「……てことは、コレ……動くの?」
「──
後ろから突然、声をかけられた。子供の声。
「正確には、
「……キミは?」
ひょっとこの面をしているところから察するに、里の刀鍛冶なのだろうが……若い。というより、幼い。自分と兄も鬼狩りとしては幼いが、彼はそれ以上だ。
「小鉄といいます。その人形の持ち主です」
「小鉄くんだね。覚えたよ。
僕は無一郎。時透無一郎」
「……時透有一郎。コイツの兄で、継子だ」
「──継子? え、それって」
「あー、うん。こう見えて、一応『柱』をやらせてもらってるよ」
「…………すごいですね。俺とそんなに、歳も変わらないでしょうに」
重苦しい、無力感が乗った声。馴染み深い、
「……そうだね。だからたぶん、
「……そうですか? 天才に、無才の悩みがわかるとは思えませんが」
「わかるよ? むしろ、僕ほど無才の気持ちが理解できる人はそういないんじゃないかな。何せ『無一郎の無は無能の無』『無一郎の無は無価値の無』だからね」
「…………なんですか、その趣味が悪い言葉遊びは。謙遜のつもりですか? 度が過ぎると、嫌味にしか聞こえませんよ」
「いや謙遜じゃなくて、実際に言われてたことなんだけど……」
それも毎日のように。しょっちゅう。
「………………。
でも結局、あなたには一番必要な才能があった。
俺には『必要な才能』がないんです……家業を継ぐ才能が無い。その人形を修理する腕が、俺にはない」
「……そっか。苦しいよね。わかるよ。
僕もね、倒さなきゃいけない鬼がいるんだ。他の誰でもない、僕が斬らなきゃならない鬼が。
でもソイツはすごく強くって、今の僕じゃあ絶対に勝てないヤツなんだ」
「……それでもアナタには、才能がある。これから時間をかけて、じっくり強くなればいい。
だけど俺みたいな無能は……何をやっても所詮無駄で、無意味です。あなたなら、
「……そうだね。でも、
「──ッ、お引き取りください! ウチの絡繰は、誰にも使わせません!!」
「…………そっか。わかったよ、ごめんね」
兄さんにも声をかけ、僕達は来た道を引き返すべく振り返った。
「……才能を言い訳にして燻ってる暇があるなら、その時間で行動しろよ。クソガキが」
「────うるさい!!! さっさと帰れよ!」
「言われなくてもそのつもりだ、この──」
「兄さん。そこまで」
「……チッ」
兄さんの舌打ちを最後に僕達は、今度こそ帰路についた。
「…………解ってるんだよ、そんなこと……!!」
*
大正コソコソ噂話
「やっぱり、そうオイシイ話なんてないよね……」
「当たり前だバカ。
──ま、持ち主がアレじゃあ仮に使えたとしても、どうせ役に立たない代物だろうがな」
「…………久しぶりにすごい毒吐くじゃん」
しかし、どうしたものか。
普通に鍛錬をしても伸び悩んでいるから、『秘宝』を探していたワケだが……。
……ただ、悩んでいるのは自分だけじゃない。課題は違えど、彼も今頃……目の前の『壁』をどう越えるか頭を悩ませているだろう。
── 一緒に頑張ろう、小鉄くん。
まずは温泉に入って汗を流しつつ、ゆっくり今後の方針を──と、考えていた時だった。
「……なんでしょうね。
よもや同じ場所で、これほど繰り返し『懐かしい顔』と巡り合おうとは……因果なものです」
「「────え?」」
階段の上から『聞こえる筈がない声』が聞こえて、俯かせていた頭を上げる。
するとそこには、『居る筈がない人』が居た。
「久しぶりですね、お二人とも。元気そうで何よりです」
「「かぐや様!?」」
──拝啓、小鉄様。
どうやら僕の悩みは、解決してしまったらしいです。