鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第二十六話:月の呼吸

 

「戦闘訓練用絡繰人形、『縁壱零式』ねぇ……」

 

 里の宿で(あて)がわれた自室にて、一人ごちる。

 

 『始まりの剣士を模した絡繰』

 『使えるのはあと一回』

 『直せる職人はまだ未熟』

 

 ……あからさまな強化イベントですねハイ。ただし正しい手順でフラグを処理する必要があるタイプ。私の知識不足が惜しまれる……。

 

「たぶん現段階だと、『普通に使って壊す』のはダメなヤツですよね……」

 

 仮に、一回の訓練で劇的に効果があるとすれば……ヒノカミ神楽として残すことのできなかった『未知の型』がお披露目されて、炭治郎くんがそれを覚える……とかだろうか?

 

『あー……まぁ、ありえなくはないのかな?

 ()()()()ワケだし。拾参ノ型』

 

「えっ」

 

 ちょっ、驚き過ぎてリアルに声出たんだが。

 なんで今まで黙ってやがったこの愚妹……。

 

『だってお姉ちゃん、教えるまでもなく自力で習得してたから……』

 

 へっ? それって……。

 

『うん。〝天照〟だよ』

 

 しかし、アレは私以外がやっても……『ただ繋げているだけ』になるのでは……?

 

『そうだね』

 

 えぇ……?

 加護を得られる私でさえ、使い所が限られる型なのに……舞い切っても旨味が無いなら、何のためにある型なんですか? それ……。

 

『本来の用途? 頸を斬っても死なない鬼舞辻を殺すための、日没から夜明けまで斬撃を途切れさせない型だけど』

 

 圧倒的、脳筋スタイル……。

 ()()が剣士として、私より遙か高みにいた筈の人が出した『結論』なのですか……?

 

『でも実際それが有効だったから、無惨は日の呼吸を根絶した』

 

 …………とは言え、私達と炭治郎くんでは実現できない戦法です。我々では、適性が足りない。

 

『そう考えると、あの人形には別の役割があるんだろうけど……』

 

 ……これ以上は、考えても意味のないことです。

 できることを、着実にこなしましょう。

 

『……うん。()()()()()()ね、お姉ちゃん』

 

 えぇ、任せてください。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──全集中の呼吸。

 それは、人が鬼を打倒するための技術。

 『ある超人』の特異体質を、(自然)が産んだ天然(究極)の一品を、人の領域に落とし込んだ『至高』の(わざ)

 

 これには複数の流派があり、それぞれに得手不得手があるワケだが──その一つに、異彩を放つものがあった。

 

 

「では、三人纏めてどうぞ」

 

 

  ホオオオオオ

 

 

 ある隠れ里の、ある広場に、四人の剣士がいた。

 より具体的に言うと──三人の少年が、一人の女性を取り囲んでいた。

 

 四人は全員、流派の違う『呼吸』を使っていた。

 

 ──月の呼吸。

 

 それが、孤立している女性の使用呼吸。

 異彩を放つ、失われた流派の名。

 

(この配置なら、誰かが必ず背後を取れる。

 有利を失わないためには──)

 

 『攻撃よりも、防御を重視すべき』

 三人は、それを念頭に動いていた。

 

 ────にも関わらず、

 

「まず一人」

 

「──え?」

 

 声がした時には、とっくに終わっていた。

 雷の呼吸を超える速度の踏み込みで、女性は『額に痣がある少年』に肉薄し──その首筋に、刀を添えていた。

 

「無一郎ッ!!」

「解ってる!!」

 

 痣の少年が脱落した後、残された双子は迅速に方針を変え、迷うことなく実行に移した。

 

(俺が風の呼吸で、遠くから削る!)

(僕が前に出て、兄さんに近付けさせない!)

 

「……いいえわかってないです。二人共」

 

  月の呼吸──

 

(は? この距離で何を)

(型の予兆……? そんな、まさかッ!?)

 

 

  捌ノ型 月龍輪尾(げつりゅうりんび)

 

 

「ガッッ、ハァ……!?」

 

 …………方針そのものは、合理的だった。

 しかし相手の射程を見誤った少年が、『空気の斬撃』に腹部を強打されて脱落した。

 

 ──残り一人。

 

「兄さんっ……!」

 

「折角避けたのに、余所見してどうするんですか。

 もう死んでますよ? あなた」

 

「……ぁ」

 

 最後まで残った少年も、一瞬目を離した隙に背後を取られ……頭頂に刀の峰が乗せられていた。

 

 

「…………これが、月の呼吸です」

 

 

 

 *

 

 

 

「……もう一本、お願いします」

「俺も、まだやれます!!」

「お前ら、よくいまので心が折れないな……。

 まぁ、付き合うけどさ」

 

「いい根性です。では続けましょう」

 

 

 対上弦の壱を想定した、打ち合いを。

 

 

 ──()()()、最後に私が『月の呼吸』を使ったのは伊達や酔狂じゃあない。

 純粋に、月が最適だと判断したからだ。

 

 ここで明言しておくが、日の呼吸は()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かに日の呼吸は『再生阻害』と『疲労無視』の効能を持つ特別な呼吸法だが……コレは本来、直接戦闘に用いることが想定されていない。故に、『武術』として見れば()()()()()()()()()()()()とすら言えるだろう。

 アレは、神威を人域に堕とし込むためのもの。故にヒノカミ神楽は、奇跡としか言いようがないほど本質を捉えた『()()()()()』だ。

 

 対し月の呼吸は、人が人のまま神域に登り詰めるためのもの。この呼吸によって引き出される力は、()()()()()()()()()()()()

 ……が、肉体にかかる負荷は当然それ相応。結果として、負荷を無視できる鬼が使うことで、真価を発揮する呼吸法になってしまっているのは……なんともまぁ皮肉な話だが。

 

『逆に日の呼吸は、只人でも真価を引き出せる場合があるって証明されちゃってるしね』

 

 ……炭十郎さん。

 あの人は、本当に何者だったのだろうか。

 まぁ問うたところで、彼ならいつもの調子で『ただの炭焼きだよ』と返すのだろうが。

 

 彼のことを思い出すと、同時に蘇る言葉がある。

 それは寡黙な彼が、『覚えておくといい』と前置きして……言葉にしてくれた、ただ一つの『極意』

 

 

『辿り着く場所は、いつも同じだ』

 

 

 ──で、あるのなら。

 

 枝分かれした呼吸を、手当たり次第に(おさ)めた私は……私が歩んできた、片手の指では足りない数の道は──()()()()()()()

 

 いまの私なら、()()()()()筈だ。

 

 

 ──そして世界が、透き通る。

 

 

「……!?」

(かぐやさんの気配(におい)が、消え──)

 

「面」

「──だぁっ!?」

 

 黒死牟もやっていた、完全な気配遮断。どうやら成功しているらしい。

 

 

「……殺す気で来てください。でないと、鍛錬になりませんよ?」

 

 

 ──本物は、私より遥かに強いのだから。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 Q:有一郎くんの適性呼吸は『霞』じゃないの?

 A:適性呼吸は精神性も大きく関わってくるので、彼の性格的に『霞』よりもその派生元の『風』が合っていると判断しました。

 

 

 噂話2

 有一郎くんは鬼喰いをしていて、失った腕が再生しているぞ。

 ただし正史における最終決戦後の炭治郎同様、生えてるだけでほぼ動かない。

 本当は今回、『有一郎くんが鬼喰いをしていることに対しかぐやが苦言を言うシーン』と、『無一郎くんがかぐやに対し、上弦の壱の戦い方について訊ねるシーン』から始まる予定だったが、『天丼』になると判断しカットされたぞ!

 

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