鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第二十八話:ぬらりひょん

 

 これは玄弥と久しぶりに話した、翌日のこと。

 

『炭治郎、入るぞ』

『──待って兄さん、寝息が聞こえる。

 炭治郎だって、昨日までほぼ修行漬けだったワケだし……寝かせといてあげようよ』

『……つっても、俺らだってもう出立だぞ? 挨拶するなら今しかない』

『明日の朝でもいいじゃん』

『お前なぁ……いいか? 俺達はもう、柱と甲なんだぞ? 背負ってる責任が、時間の価値が、昔とは違う』

 

 自室の前で誰かが話している声がして、俺は目を覚ました。

 

「だからって、そんなにせかせかしなくても……」

 

「……無一郎くん?」

 

 なら、一緒に居るのは有一郎さんか。

 扉を開けてみると、瓜二つの顔に対照的な表情を浮かべた二人。正解だ。

 

「起こしちゃってごめんね、炭治郎」

「フン。上官がわざわざ挨拶に来てやったんだ、むしろ感謝しろよな」

 

 七日間苦難を共にした二人の、『いつも通り』な様子に……なんだか心が暖まった。

 

 ……有一郎さんの発言と、二人の服装を見るに……もう里を出るのか。

 

「気にしてないよ、無一郎くん。

 ──ご足労いただきありがとうございます、有一郎さん」

 

「もう、そんなに畏まらなくたっていいのに。炭治郎の実力なら、『柱』は目の前なんだからさー」

「だけど『今は』まだ、俺の方が上官だ」

「ほら。兄さんだって、もうすぐ炭治郎に抜かれるって自覚あるんじゃん」

「チッ、揚げ足を取るんじゃねぇよ……」

 

「柱……本当に、俺もなれるでしょうか?」

 

 宇髄さんも、かぐやさんも、俺のことをすごく評価してくれたけど……強くなるほど、『そこ』に近付くほど、自信は却って薄れていく。

 

「「────」」

 

 対し二人は、顔を見合わせて『キョトン』とした後……

 

「なれるよ」

「……お前が成れなきゃ、他の誰も成れねぇよ」

 

 無一郎くんは、真剣な眼差しで。

 有一郎さんは、呆れ混じりの声色で。

 ──俺の実力を、認めてくれた。

 

 俺はその信頼に、報いなければならない。

 

「なら、頑張らないとですね」

 

「あぁ」

「……うん。そうだね」

 

 そうして、二人は去っていって。

 俺はその背を見送りながら、『むん!』と気合いを入れて。

 

 ──振り返ったら、()()()()

 

 

「────ッ!?」

 

 

 思考と肉体が、急激に熱を帯びる感覚。

 

 いつ、どこから入ってきた? つい数秒前まで、俺の背後には二人の目が向けられていたのに。

 物音も、臭いも発することなく、コイツは『ぬらり』と突然現れた。

 

 右手の扉を蹴破り、部屋に置いたままだった刀を回収。轟音により、二人も異常を察知した気配。足音が、こちらに向かってくる。鬼からの攻撃は、何故かこない。

 

 

  霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り

 

 

 最初に仕掛けたのは、無一郎くんだった。

 *1鬼の視線は身体ごと、室内へ飛び込んだ俺の方に向けられていて。

 無一郎くんは横合いから、凄まじい勢いで駆け寄って──鬼の頸を、一撃で斬り伏せた。

 

 ……が、

 

(手ごたえが無いッ、()()()()()()()()()()!!)

 

「炭治郎ッ!」

「分かってます!!」

 

 戦意の無い挙動。そればかりか、『どうぞ頸を斬ってください』とでもいいたげな、隙だらけの四つん這い。

 

 ──間違いなくコイツはいま、()()()()()()()

 

 実際数瞬前まで希薄だった鬼気が、急激に膨らんで──。

 

(再生、いや分裂か!?)

 

 ()()()

 こちらに転がってきた頭部からは胴体が生え始め、室外に取り残されている胴体には、既に新しい頭ができている。

 

 遊郭の兄妹と同じなら、同時に斬れば倒せる筈だが……果たしてコイツはどうか。

 

「無一郎、退()がれッ!」

「────」

 

 無一郎くんが、少し遅れて現着した有一郎さんと立ち位置を入れ替える。()()()()()()()()()使()()()()()()という、二人にとって()()()()()

 二人が向こうの鬼を斬る瞬間に合わせて──ッ。

 

「ムーッッ!!」

 

 ……しまった。禰豆子に助けられた。

 鬼の再生が、想定より早い。最早『発生』と称するべき速度で胴体を形作った鬼は、すぐさま団扇(うちわ)のような武器で攻撃を仕掛けようとしていたのだ。……それに気付いた禰豆子が、直前に相手を蹴り飛ばしてくれたからよかったが……。

 

 チラリと一瞬、背後の状態を確認する。

 ──軽い挙動で繰り出された一撃は、いとも容易く家屋の壁を粉砕していた。天井も少し崩れかけている。

 脆弱な人の身で、鬼の攻撃を受ければ無事じゃ済まない。それ自体はいつものこととはいえ……気軽にこの規模の攻撃を放ってくる相手は、そうお目にかかれない。

 

「カカッ、中々やるのう。これは楽しめそうだ」

 

 愉快そうに舌舐めずりしつつ、こちらを見据える鬼の瞳には──『肆』の文字。やはり上弦。

 しかし『陸』の兄妹はおろか、『参』の彼すら超える再生力ともなれば……そこには必ず、カラクリがある筈だ。

 

「……禰豆子、いけるか?」

「────」

 

 無言の首肯を確認。呼吸も安定している。しばらくは安心だろう。

 ……本当は禰豆子に、この姿──『角アリ』の状態で戦ってほしくはないけれど……そうも言ってられない。上弦相手に出し惜しみは、死に直結する。

 

「「…………」」

「なんだ、どうした? 来ないのか」

 

 更に首を斬って、また分裂されても困る。

 だから少し、様子を見ていたのだけれど──。

 

「睨み合いだけでは興醒めだのう。お主らが来ないなら、儂は向こうへ遊びに行こうかのぅ?」

「──ッ」

 

 現実は、ままならないもので。目的が見え透いた挑発に、乗らなくちゃいけない時もある。

 

  ヒノカミ神楽──

 

 狙いは、団扇を持った右腕。そして、移動するための脚。

 今は頸を狙うべき時ではない。注意をこちらに向けつつ……ッ。

 

「──カカッ」

 

 ……やられた。

 敵はこちらの狙いを見越して身を捻り、『炎舞』の軌道へ頸を差し出した。

 ──斬首によって、分裂の条件が満たされる。

 

「禰豆子ッ、正面(まえ)はたの──ぐぅッ!?」

 

 転がった首を追うように、振り返る。──その途中で、身体が宙空に投げ出される。

 

 いや、これは……!

 

「これで()()()だのう!!」

 

 ()()()()()。個体毎に能力が違うんだ。

 血鬼術とは別に分裂能力を持つ鬼には、沼鬼(初任務で対峙した彼)や『梅』と呼ばれていた彼女など、何度か遭遇しているが……いずれも()()()()()()()()

 

 しかしこの鬼は、()()()()()()()()()()()

 何かがおかしい。いくら上弦の鬼とは言え、元人間で、一つの生命だ。血鬼術の理不尽さにだって、限度がある筈なのに。

 いくらなんでも、斬首後の再生が早すぎる。これだけ力を分割しておいて、何故弱くならない?

 

 ──考えが纏まる前に、鬼が大口を開く。

 悪寒。(攻撃)予兆(におい)

 流石に戦慄を禁じ得ない。本当に、幾つ能力を持っているのか……ッ!

 

 咄嗟にヒノカミ神楽で、こちらを掴んでいる相手の脚部を切断するものの……離脱は間に合わない。発動も止められない。

 

 ──筈だった。

 

「コォォ────ッ!?」

 

 攻撃が放たれる直前、鬼の首が千切れ飛んだ。

 ──玄弥だ。銃を持っている。屋根の上から、援護をしてくれたらしい。実際、攻撃は逸れたワケだが……!

 

「玄弥、その場所(ソコ)はダメだ!! ()()()!!!」

 

「は……? ──ハァッ!?」

 

 頸を落としても死なない鬼と戦うのは、初めてなのだろう。玄弥は鬼が頭部を再生させていく様子を確認し、目を剥いていた。

 

「ン……そこで茶々を入れられ続けるのは、あまり喜ばしくないのう。

 ──まずはお前からだ」

 

 マズイ……!!

 

 地に足がついていない俺では、救援に向かえない。今の断頭で増えた鬼の確認も急務だ。

 

 地面が迫る。幸い軌道上に、樹木などの危険物は無い。

 前傾姿勢を意識して身体を丸め、足から着地。すかさず膝を曲げて転がり、衝撃を全身に分散させる。狭霧山での訓練を思えば、通常の自由落下程度は怖くない。隊服がある分楽なくらいだ。

 

 問題は、この後。

 

「敵は……!?」

 

 飛んだ首は、見当たらない。

 斬り落とした脚は、灰になって消えた。

 

「増えてない、()()……!!」

 

 頭を回せ。思い出せ。

 見た情報。敵の発言。

 

 『舌の文字』『〝楽〟と〝喜〟』『四体四』

 再生するとはいえ、脆すぎる敵の身体。

 ────最初の、異常な気配の薄さ。

 

 

()()()()と……!」

 

 

 ──本体がいる。

 

 みんなに、伝えなければならない。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 空喜は喜怒哀楽鬼の中で何故か一人だけ、能力複数持ち。(飛行能力と音波攻撃と爪と劣化増殖)(別段特筆すべき能力の無い槍一本を持ってるだけの哀絶にどれか分けてあげて??)

 そして何故か、空喜だけ一人称が『俺』である。

*1
眼球が裏返っていたので実際に見えていたのかはさておき

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