鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第二十九話:襲撃・崩壊

 

「ハッ、ハッ……!」

 

 ──あぁ……何を、しているんだろうか。

 

 山の中を、走っている。

 里の中心部から、『敵襲』を知らせる鐘の音がして。こういう時に取るべき行動は、何度も何度も……訓練していたのに。

 

 気付けば、何も持たずに走り出していた。

 本当は……隊士に渡せる刀を、運ばなきゃいけなかったのに。

 

「ハッ、ハァッ……!」

 

 ……客観的にみて、自分は価値の無い人間だ。

 身一つで生き残っても、今の自分には……実用性のある刀を新調する能力が、備わっていない。そしてこの先、それが備わるのかもわからない。

 だから自分は、身一つで逃げていい存在じゃあなかった。だから刀を、持ち出さなければならなかったのに。

 

「ハァッ、ハ──げほっ、はァ……!」

 

 あぁ、それでも……『可能性』がある分、()()()()()()()まだ良かった。

 

「はぁっ、はぁ──……」

 

 目的地に着いて、足を止める。

 

 ──縁壱零式。

 

 俺は、一族が残した人形の前に来ていた。

 

「…………っ、ッ。──ぅあ、ぁぁ……!!!」

 

 人目がないのをいいことに、声をあげて泣いた。

 ……いや。人目があったとしても……耐えられなかったかもしれないけれど。

 

 だって、もうどうすることもできない。

 

 無意味だ。

 こんな大きい人形、自分一人じゃどう頑張っても運べないのに。

 たとえ運べたとしても、今からじゃ……もうどこへも逃げられないのに。

 

 ……無意味だ。

 先祖代々受け継がれてきた人形は直せず、刀を作ることもできず、誰にも看取られることなく、己はここで……何も成せずに死ぬしかない。

 

 

「────ギョッ、ギョギョッ」

 

 

 ほら、来た。

 バカみたいに泣き喚くから、声に釣られて。

 

 巨大な金魚に壺と腕、それと刃物を取り付けた姿の……歪な怪物。それが複数。里のいたる所に、奴らは現れていた。

 鬼は群れないから、使い魔なのだろうけど。剣士ではない己にとっては、どちらでも大した違いがない。

 

 ──抵抗する手段が無い以上、逃げられなければ『死』あるのみ。

 

「ギョッ、ギョッ」

「げぅっ」

 

 …………死ぬ。

 

 容赦の欠片もない剛力で、全身を締め上げられて。

 

 痛い。苦しい。

 本能が、『死にたくない』と叫んでいる。

 喉はもう、悲鳴を上げる力もないと言っている。

 

 あぁ……己はいったい、どうすればよかったのだろうか。

 

 人形を動かして、抵抗していればよかったのか?

 いいや。動かす準備をしている間に殺されるか……動かせたとしても、自分が巻き込まれて死ぬのがオチだ。それに、使い魔を一匹倒せたとして……人形はそこで壊れるから、後が無い。

 

「ァ、が……────ぁ」

 

 …………でも、最後に使ってやればよかったかもしれない。

 

 だって、こんな……

 

 

「あぁ、うぅウ……! あァァァ……!!」

 

 

 ビチビチと荒ぶる、使い魔の尻尾で……叩き飛ばされて、見向きもされず、無感動に壊されるくらいなら……。

 

 

「…………無意味に終わるのは、俺だけでよかったのに」

 

 

 獲物の限界を、感じ取ったのだろう。

 トドメを刺すように……拘束が一瞬、強くなって。苦しみが、極限に達して。

 

 ──感覚が消失する。身体が浮遊感に包まれる。

 

 …………これが、『死』か。

 

 

 

「──残念。まだ終わりではないですよ?」

 

 

 

 知らない誰かの、声がした。

 

 浮遊感はすぐに消えて、再び身体が拘束される。しかし今度は、慈愛と労りを感じるほど柔らかい──『抱擁』だった。

 

 恐る恐る目を開けると、使い魔は消えていて。

 代わりに、()()を着けた女性がいた。

 

 

「花柱──胡蝶カナエ、推参しました。

 私が来たからには、もう『死にたい』と言っても死なせませんので。悪しからず」

 

 

 

 *

 

 

 

 大正噂話

 

 カナエさんは、『柱』として通用するだけの力が失われているらしいが……?

 

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