鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第三十話:後ろの正面

 

 ──花柱……音柱様と一緒に上弦の陸を倒したという、あの?

 

「……さて、あの人形についてですが」

「ぁ…………はい」

 

「彼が持っている刀を、一つ譲り受けてもよろしいでしょうか?」

「え……?」

 

 『どうして』という言葉が出る直前、彼女の持っていた物が()()()()()()()()()ことに気付いた。

 

「弘法筆を選ばず。真の柱は得物を選びません。……とは言え、敢えて使い勝手の悪い物を使い続ける意味も無し。

 あなたさえよければ──私が()の武器にて、敵を悉く討ち滅ぼしましょう」

 

「……!」

 

 連れて行ってくれるのか。ほんの一部でも、無意味に打ち捨てられた人形を。

 もう終わってしまった人形に、『存在意義』を作ってくれるのか。

 

「──是非、お願いします」

「では、遠慮なく」

 

 そう言うと彼女は、抜き身の刀を拾い上げ……素振りを数回。静かに頷くと、こちらの方に向き直った。

 

「ありがとうございます。

 ──返礼として、あなたにはコレを」

 

「……藤の、香り袋」

 

「通常なら気休め程度ですが、ソレは私が()()をしてある特別製です。()()()()()()()()()()()()()()、鬼とその使い魔は、決してキミに近付きません」

 

 ……『細工』というのが一体どんなものかは、分からないけれど……彼女の声色は、根拠のない慰めや励ましではないように思えた。

 

「では、行って参ります。──すぐに終わらせて、戻ってきますからね」

 

 そうして、彼女は幻覚だったかのように消え去った。狐に化かされたような感覚。

 ──それでも、手元に残った香りと感触が……戦う彼女の存在を、証明していた。

 

 

 

 *

 

 

 

 妖のような速度で、スルスルと木々の間を駆けていたカナエは──()()()()()の前で突如脚を止め、声を張り上げた。

 

「そこに居るのは分かっているわ。表に出なさい」

 

 するとすぐに、彼女の()()()()返答が行われた。

 

「…………ヒョヒョッ、随分と鋭い感覚をお持ちのご様子……それに、刀こそ粗悪品に見えますが──有象無象とは明確に違う、その()()。『柱』とお見受けしましたが、相違ないですかな?」

 

(……転移の血鬼術。面倒ですね)

「そう言うアナタは──」

 

()()()()()。名は玉壺。数字は見ての通り、伍番を戴いております」

 

 カナエが振り返ると、彼女の目に『上弦』『伍』と刻まれた眼球を持つ鬼の姿が映る。

 ──ただし鬼は『本来目があるべき場所』に口があり、眼は『額と口』に該当する場所にあった。

 体型の印象は『鱗の無い蛇』に近く、複数の短い腕は蚰蜒(げじ)を連想させるだろう。

 

 上弦の伍は、これまで彼女が葬ってきた鬼達の中でも……殊更『異形』の鬼だった。

 

「殺す前に、少々よろしいか?」

「……お話なら、私としても望むところなのだけど……今日は『次』が控えてるから、手短にお願いするわ」

「フム……では一番の()()のみにとどめておきましょうか。

 ──コレをご覧いただきたい!」

 

 玉壺が手を叩くと、どこからともなく壺が出現し──その壺から、惨殺された男性の遺体が……五人分、吐き出された。

 

「────」

 

「ヒョヒョッ、感動で言葉もありませんかな?

 こちら、〝鍛人(かぬち)の断末魔〟 当作のウリは──」

 

 玉壺が遺体に刺さっていた刀を捻ると、既に事切れていた筈の男性が悲鳴をあげた。

 

「どうです? 素晴らしいでしょう? 作品名にもなっている、『断末魔』を再現するのです!!

 他にも、各所に()()()残した〝鍛人らしさ〟が見所の当作ですが……コレばかりは唯一無二!! 拙作のみの魅力となっております!」

 

「…………」

 

 鬼の演説を、静かに聞き終えたカナエは──真っ直ぐに彼を見つめ、言った。

 

「そうですね。アナタは、()()()()()()()()()()()()()()()()()。その『作品』には、確かな価値がある」

 

「なんと!? 解っていただけますか!!」

 

「──ですが」

 

「ヒョ?」

 

「アナタが使い潰した職人達もまた、価値あるものを生み出す人々だった」

 

「…………」

 

「アナタが生み出した作品(もの)の価値は……アナタが損ねてしまった人々(もの)の価値に、遠く遠く、及ばない」

 

「……少しは話のわかる御仁かと、思ったのですが──やはり所詮は鬼狩り。折角の審美眼も、野蛮な環境に在っては毒され曇るというもの……!

 ──しかし()()()()()()()

 その眼を潰し、手足を()ぎ、我が〝芸術〟で美しく作り直して差し上げましょう!!」

 

  血鬼術 蛸壺地獄

 

 啖呵を切った玉壺は、手元に血鬼術の起点となる壺を召喚し──そこから巨大な蛸足を出現させた。

 一本一本が成人男性の肩幅よりも太い触手(ソレ)が、十本以上。一瞬で、超密度の質量が両者の視界を埋め尽くす。

 

 故に、彼女は回避できない。

 故に──。

 

「──ヒョッ?」

 

 玉壺は、間一髪のところで()()()()()に気が付いた。

 

(灰の臭い……? まさかッ!?)

 

 ()()()()()()()()()で、玉壺は彼女の()()()を見た。

 

(頸が、斬られたのか……!?

 『蛸壺地獄』を細切れにして、私の背後に回り、殺気も無く……!?

 そんな、そんな芸当が可能な剣士は──)

 

「…………。

 はぁ……()()()()()()か。まったく……慢心です。剣技において、やはり私は……他の柱に、及ばない」

 

 仮面を外し、彼女は嘆息する。

 その素顔は──。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 大正噂話

 

 

「────。

 ……クハッ、ハハハ……!!

 

 ()()()()()……! 生きていたのだな……!!!

 

 ──()()()ィィィ!!!!

 

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