──花柱……音柱様と一緒に上弦の陸を倒したという、あの?
「……さて、あの人形についてですが」
「ぁ…………はい」
「彼が持っている刀を、一つ譲り受けてもよろしいでしょうか?」
「え……?」
『どうして』という言葉が出る直前、彼女の持っていた物が
「弘法筆を選ばず。真の柱は得物を選びません。……とは言え、敢えて使い勝手の悪い物を使い続ける意味も無し。
あなたさえよければ──私が
「……!」
連れて行ってくれるのか。ほんの一部でも、無意味に打ち捨てられた人形を。
もう終わってしまった人形に、『存在意義』を作ってくれるのか。
「──是非、お願いします」
「では、遠慮なく」
そう言うと彼女は、抜き身の刀を拾い上げ……素振りを数回。静かに頷くと、こちらの方に向き直った。
「ありがとうございます。
──返礼として、あなたにはコレを」
「……藤の、香り袋」
「通常なら気休め程度ですが、ソレは私が
……『細工』というのが一体どんなものかは、分からないけれど……彼女の声色は、根拠のない慰めや励ましではないように思えた。
「では、行って参ります。──すぐに終わらせて、戻ってきますからね」
そうして、彼女は幻覚だったかのように消え去った。狐に化かされたような感覚。
──それでも、手元に残った香りと感触が……戦う彼女の存在を、証明していた。
*
妖のような速度で、スルスルと木々の間を駆けていたカナエは──
「そこに居るのは分かっているわ。表に出なさい」
するとすぐに、彼女の
「…………ヒョヒョッ、随分と鋭い感覚をお持ちのご様子……それに、刀こそ粗悪品に見えますが──有象無象とは明確に違う、その
(……転移の血鬼術。面倒ですね)
「そう言うアナタは──」
「
カナエが振り返ると、彼女の目に『上弦』『伍』と刻まれた眼球を持つ鬼の姿が映る。
──ただし鬼は『本来目があるべき場所』に口があり、眼は『額と口』に該当する場所にあった。
体型の印象は『鱗の無い蛇』に近く、複数の短い腕は
上弦の伍は、これまで彼女が葬ってきた鬼達の中でも……殊更『異形』の鬼だった。
「殺す前に、少々よろしいか?」
「……お話なら、私としても望むところなのだけど……今日は『次』が控えてるから、手短にお願いするわ」
「フム……では一番の
──コレをご覧いただきたい!」
玉壺が手を叩くと、どこからともなく壺が出現し──その壺から、惨殺された男性の遺体が……五人分、吐き出された。
「────」
「ヒョヒョッ、感動で言葉もありませんかな?
こちら、〝
玉壺が遺体に刺さっていた刀を捻ると、既に事切れていた筈の男性が悲鳴をあげた。
「どうです? 素晴らしいでしょう? 作品名にもなっている、『断末魔』を再現するのです!!
他にも、各所に
「…………」
鬼の演説を、静かに聞き終えたカナエは──真っ直ぐに彼を見つめ、言った。
「そうですね。アナタは、
「なんと!? 解っていただけますか!!」
「──ですが」
「ヒョ?」
「アナタが使い潰した職人達もまた、価値あるものを生み出す人々だった」
「…………」
「アナタが生み出した
「……少しは話のわかる御仁かと、思ったのですが──やはり所詮は鬼狩り。折角の審美眼も、野蛮な環境に在っては毒され曇るというもの……!
──しかし
その眼を潰し、手足を
血鬼術 蛸壺地獄
啖呵を切った玉壺は、手元に血鬼術の起点となる壺を召喚し──そこから巨大な蛸足を出現させた。
一本一本が成人男性の肩幅よりも太い
故に、彼女は回避できない。
故に──。
「──ヒョッ?」
玉壺は、間一髪のところで
(灰の臭い……? まさかッ!?)
(頸が、斬られたのか……!?
『蛸壺地獄』を細切れにして、私の背後に回り、殺気も無く……!?
そんな、そんな芸当が可能な剣士は──)
「…………。
はぁ……
仮面を外し、彼女は嘆息する。
その素顔は──。
*
大正噂話
「────。
……クハッ、ハハハ……!!
──