鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第三十一話:分水嶺

 

「────」

 

 ぐしゃり。と……紙が握り潰される音。

 

「……()()? あの女は」

 

 某家、書斎。

 読んでいた本を閉じ、少年──の姿に擬態している無惨は、不機嫌そうに呟いた。

 

「堕姫が相手をしていた花柱(気狂い)(ふん)しているが……似ても似つかない。そも、アレに上弦と渡り合う力は無かった筈だ」

 

 ──十人がかり。

 柱が二人。柱に匹敵する実力者が四人。決定打こそ持たないものの、補佐官として優秀な(くノ一)が三人。(およ)そあらゆる鬼の『天敵』と成り得る術を持つ鬼が一人。

 質も数も、それだけ揃えて()()()()()()()()()()()()()()

 

 上弦の鬼という存在は、そこまでやってようやく『勝負』になる存在なのだ。()()は。

 

 それを覆した剣士は、一人だけ。

 覆しかけた者も、いくらか居たが……達成できたのは、ただ一人なのだ。

 未だ無惨の記憶に色濃く残る『彼女』と、玉壺を斬った女性は──声も背格好も、似通っている。

 

 ──そして何より、仮面の剣士は彼岸朱眼を使っていた。

 一度(ひとたび)使えば視力を失い、鬼狩りとしては実質的な『死』を迎えることとなる、『終ノ型』を。

 

(生きていた……? …………いや、まさか。彼岸朱眼そのものは、独自の型でもなんでもない。上弦が相手なら、代償を承知で使うことも不自然ではない。

 ……他人の空似だろう。

 アレは黒死牟が確かに殺した。奴の肉体は、完全に生命活動を停止していたのだから)

 

 故に、無惨は嘆息する。

 

『何を勝手に動こうとしている? 黒死牟。貴様の参戦を許可した覚えは無い』

 

 鳴女の血鬼術で転移を行おうとした彼を、無惨は制止した。

 

『なッ……!?』

 

『黒死牟。貴様の目的は何だ? 果たすべき役割は何だ?

 ──いずれも、〝勝ち続ける〟ことだろう? 私に勝利を捧げることが、お前自身の望みに繋がる』

 

『その通りでございます……! 故に私がッッ』

 

『ダメだ。

 ──今の貴様には、僅かだが……〝()()()()()()()()()()()()〟などと、そういう血迷った雑念が混ざっているように見える』

 

『……!? そのようなことはございませぬ……!! 私は今度こそ、奴を殺して──』

 

()()()()()()()()()()()()。アレは別人だ』

 

『────』

 

『少し頭を冷やせ、黒死牟。

 まずは半天狗に手札を晒させつつ、力量を見定める。仮にお前の出番があるとすれば、その後だ』

 

 そこで会話を切り上げた無惨は、再び溜め息を吐き……手元の本を棚に戻して、椅子に腰掛けた。

 

 閉じられた瞼の奥で、鬼の首魁は『里』の戦いを覗き視る。

 

 

 

 *

 

 

 

「……来ない?」

 

 鬼が私を捕捉したら、あの日のように──また黒死牟が送られてくると踏んでいたのだが。

 

「いつもの出し惜しみ、ですか……?」

 

 里を跋扈(ばっこ)していた使い魔の軍勢は、既に気配が消失している。本体を倒し損ねたということは、ない筈だ。差し迫った危機は、ひとまず回避できたと判断していいだろう。

 

 残る鬼気は……四つ。いずれも分身系血鬼術特有の、ハリボテ感がある気配。

 …………時透兄弟と竈門兄妹だけでも、余裕で対処できる相手な気がするのだが。

 

「これは……どう動くのが正解なのでしょう?

 ……最近悩んでばっかりですね、まったく」

 

 とりあえず、置いてきた少年を回収しつつ里へ向かうこととしよう。

 人の多いところで奴と鉢合わせたら最悪だが、正直手持ちの装備だとアレの相手は厳し過ぎる。万全の状態でも正攻法じゃ勝てないのに、折れる寸前の刀一本は流石に厳しい。

 ……まぁ本来なら斬首まで耐えてくれただけでも万々歳で、補足されたのは自分の未熟が原因なワケですが。

 とにかく方針が決まったのなら、まず足を動かすこととする。

 

 まさか()()()()()()()()()なんて、マヌケな話はないだろうし。

 

 仮に『まだバレていない』のなら──。

 

 

「……あわよくば、もう一匹。

 私一人で上弦半壊、させちゃいますけど構いませんね?」

 

 

 

 *

 

 

 

 大正噂話

 

 

「『──鳴女!!』」

 

 人里離れた、山奥の秘境にて。

 六眼(むつめ)の鬼は、普段の余裕ある口調をかなぐり捨てて叫んだ。

 

『……上弦の壱様。心苦しいですが、〝動くな〟と厳命を受けている筈では?』

 

『それは、あのお方が気付いていないからだ……!

 アレは間違いなく虹柱だッ! 私以外では勝てない……!』

 

『…………』

 

『大局は既に、分水嶺へ至っている!

 童磨が討たれ、堕姫が死に、玉壺も堕ちたいま──()()()()()()()()()()()()()……! その意味が解るか!?

 あのお方も薄々察しておられる。『青い彼岸花』は十中八九、朝顔と似通った性質を持つ……即ち()()()()()()()姿()()()()()()だ……!

 下弦の伍()が漏洩した情報によって、鬼殺隊は既に『青い彼岸花』を捜索している! 奴らが先に『花』を見つけた場合、奴らは必ずそれを釣り餌に無惨様を誘き出す!

 我々が先に『花』を見つけられれば、何も問題は無い。しかし昼の情報を収集できる手勢が、鬼側(こちら)にはもういないのだ……! 我々が先んじて『花』を手に入れることはできないと想定して動くべきだ。

 では次を見据えて、我々が今取るべき行動は何だ? (きた)る総力戦に備え、『自軍の戦力増強』と『敵主戦力の撃破』だろう!? 今なら刀鍛冶の里という『要所の破壊』もできる!

 逆に今動かなければ、鍛冶師の大部分を逃すことになる上半天狗も殺される! 玉壺は犬死にだ!!』

 

『……上弦の壱様は、鬼殺隊なら〝青い彼岸花〟を探し当てられるとお考えなのですか?』

 

『──神の寵愛を一身に受けた者はいつだって、余人が必死に求めたものを……簡単に、持ち去っていく。そしてそれを、『()()()()()』と吐き捨てるのだ。

 ならば奴らが、自発的に()()を求めた時……どうなるかなぞ、答えは分かり切っている』

 

『…………。

 ……只今の話は、聞かなかったことにしておきます』

 

「鳴女……!?」

 

『あのお方の意にそぐわぬ行動を取った者が、どんな末路を迎えるのか……私よりも黒死牟様の方が、よほど詳しくご存知でしょう?』

 

『──ッ、そのようなことを言っている場合ではない! 天は奴らの味方なのだぞ!? この時を逃せば、もう取り返しが付かない!!』

 

『…………そこまで仰るのでしたら──』

 

 続く言葉を聞き、鬼は六つの眼を閉じて……数秒後、頷いた。

 

 

「──わかった」

 

 

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