「────」
ぐしゃり。と……紙が握り潰される音。
「……
某家、書斎。
読んでいた本を閉じ、少年──の姿に擬態している無惨は、不機嫌そうに呟いた。
「堕姫が相手をしていた
──十人がかり。
柱が二人。柱に匹敵する実力者が四人。決定打こそ持たないものの、補佐官として優秀な
質も数も、それだけ揃えて
上弦の鬼という存在は、そこまでやってようやく『勝負』になる存在なのだ。
それを覆した剣士は、一人だけ。
覆しかけた者も、いくらか居たが……達成できたのは、ただ一人なのだ。
未だ無惨の記憶に色濃く残る『彼女』と、玉壺を斬った女性は──声も背格好も、似通っている。
──そして何より、仮面の剣士は彼岸朱眼を使っていた。
(生きていた……? …………いや、まさか。彼岸朱眼そのものは、独自の型でもなんでもない。上弦が相手なら、代償を承知で使うことも不自然ではない。
……他人の空似だろう。
アレは黒死牟が確かに殺した。奴の肉体は、完全に生命活動を停止していたのだから)
故に、無惨は嘆息する。
『何を勝手に動こうとしている? 黒死牟。貴様の参戦を許可した覚えは無い』
鳴女の血鬼術で転移を行おうとした彼を、無惨は制止した。
『なッ……!?』
『黒死牟。貴様の目的は何だ? 果たすべき役割は何だ?
──いずれも、〝勝ち続ける〟ことだろう? 私に勝利を捧げることが、お前自身の望みに繋がる』
『その通りでございます……! 故に私がッッ』
『ダメだ。
──今の貴様には、僅かだが……〝
『……!? そのようなことはございませぬ……!! 私は今度こそ、奴を殺して──』
『
『────』
『少し頭を冷やせ、黒死牟。
まずは半天狗に手札を晒させつつ、力量を見定める。仮にお前の出番があるとすれば、その後だ』
そこで会話を切り上げた無惨は、再び溜め息を吐き……手元の本を棚に戻して、椅子に腰掛けた。
閉じられた瞼の奥で、鬼の首魁は『里』の戦いを覗き視る。
*
「……来ない?」
鬼が私を捕捉したら、あの日のように──また黒死牟が送られてくると踏んでいたのだが。
「いつもの出し惜しみ、ですか……?」
里を
残る鬼気は……四つ。いずれも分身系血鬼術特有の、ハリボテ感がある気配。
…………時透兄弟と竈門兄妹だけでも、余裕で対処できる相手な気がするのだが。
「これは……どう動くのが正解なのでしょう?
……最近悩んでばっかりですね、まったく」
とりあえず、置いてきた少年を回収しつつ里へ向かうこととしよう。
人の多いところで奴と鉢合わせたら最悪だが、正直手持ちの装備だとアレの相手は厳し過ぎる。万全の状態でも正攻法じゃ勝てないのに、折れる寸前の刀一本は流石に厳しい。
……まぁ本来なら斬首まで耐えてくれただけでも万々歳で、補足されたのは自分の未熟が原因なワケですが。
とにかく方針が決まったのなら、まず足を動かすこととする。
まさか
仮に『まだバレていない』のなら──。
「……あわよくば、もう一匹。
私一人で上弦半壊、させちゃいますけど構いませんね?」
*
大正噂話
「『──鳴女!!』」
人里離れた、山奥の秘境にて。
『……上弦の壱様。心苦しいですが、〝動くな〟と厳命を受けている筈では?』
『それは、あのお方が気付いていないからだ……!
アレは間違いなく虹柱だッ! 私以外では勝てない……!』
『…………』
『大局は既に、分水嶺へ至っている!
童磨が討たれ、堕姫が死に、玉壺も堕ちたいま──
あのお方も薄々察しておられる。『青い彼岸花』は十中八九、朝顔と似通った性質を持つ……即ち
我々が先に『花』を見つけられれば、何も問題は無い。しかし昼の情報を収集できる手勢が、
では次を見据えて、我々が今取るべき行動は何だ?
逆に今動かなければ、鍛冶師の大部分を逃すことになる上半天狗も殺される! 玉壺は犬死にだ!!』
『……上弦の壱様は、鬼殺隊なら〝青い彼岸花〟を探し当てられるとお考えなのですか?』
『──神の寵愛を一身に受けた者はいつだって、余人が必死に求めたものを……簡単に、持ち去っていく。そしてそれを、『
ならば奴らが、自発的に
『…………。
……只今の話は、聞かなかったことにしておきます』
「鳴女……!?」
『あのお方の意にそぐわぬ行動を取った者が、どんな末路を迎えるのか……私よりも黒死牟様の方が、よほど詳しくご存知でしょう?』
『──ッ、そのようなことを言っている場合ではない! 天は奴らの味方なのだぞ!? この時を逃せば、もう取り返しが付かない!!』
『…………そこまで仰るのでしたら──』
続く言葉を聞き、鬼は六つの眼を閉じて……数秒後、頷いた。
「──わかった」