── 一年後。
槇寿朗さんの第二子が誕生したという
真っ先に、いつも鍛錬で使っていた庭へ向かうと……やはり炎柱親子が居た。今は素振り中か。
「お久しぶりです、杏寿郎」
声をかけると、杏寿郎は素振りを中断し、一瞬でこちらに向かってきた。
……炎のエフェクトが、犬耳と尻尾に見えたのは気のせいだろう。
「お久しぶりです、かぐや様!」
うむ、声の主張が激しい。これぞ煉獄さんって感じがして嬉しいね。声量は普通よりちょっと大きいくらいなのに、不思議なものだ。
「良い踏み込みでした。今も全集中を維持しているようですが、もう常中に至っているのですか?」
「はい! 実は半年ほど前には、既に!」
「何と。教えてくだされば、お祝いの品を用意しましたのに」
煉獄家とは
「すみません! かぐや様の驚いた顔が見たかったもので!」
「……全く、仕方のない弟弟子ですね」
頭を撫でてやろう。よーしよしよし──ん、なんだねそのやり場に困ったような腕は。もう異性のボディタッチが気恥ずかしい年頃かね? 令和ならまだ小一だろうに。カワイイ奴め。
「──で、師匠には挨拶もなしか? 姉弟子」
「邪魔をしないでください。私は今、枯渇した杏寿郎成分を摂取するのに忙しいので」
「!?」
あ、逃げた。
「ウチの息子から何を摂ってるんだ貴様は……」
「むぅ……この一年で触れ合えなかった分を取り戻してるだけですのに。
「──あぁ。そうだ、かぐや様!
「ん、ありがとうございます」
そうそう。そういえば私、柱になったんよ。お父様の刀ありきの結果だけども。
現状『最短かつ最年少で柱になった天才』って騒がれてます。最年少はともかく、最短は無一郎君に抜かれるんだがね。二ヶ月はおかしいよマジで。
「七種類の呼吸を瞬時に切り替え戦うことから、呼称は『虹柱』でしたか」
「えぇ」
五大流派の炎・水・雷・風・岩に加えて、花と日で七つだ。
「後ほど、手合わせをお願いしても? かぐや様の戦い方を是非見てみたいのです」
「構いませんよ。むしろ、
「なんと、光栄です!」
正史の杏寿郎は、指南書三冊だけのほぼ独学で柱になって、
……まぁ今の時期に勝てるのは当然だから、もっと後の話だけどさ。
──というかこの仮定を実現するためにも、瑠火さんの状態が気になるところ。なので早速、様子を見に行くどー!
*
──はい、来ました。
私は今、赤ちゃんを抱いてます。
「あー、うー?」
「……可愛い」
──可愛い(cv伝説の超野菜人)
なんだ、この愛らしい生物は……!?
雲取山で一歳の炭治郎と禰豆子も見てきたけど、どうして子供ってこんなにカワイイんだろうね。
「瑠火さん、この子の名は……?」
「千寿郎です」
「そうですか、千寿郎くんですか……」
よかった。名前は変わってないみたいだ。
しかし可愛い。なんだこの子。成長後はきっと、もっと可愛くなるんだろうな……。
「……時に瑠火さん、妊娠中は抜きとして、私が居ない間もちゃんと運動して、ちゃんと沢山ご飯を食べていましたか?」
こんな可愛い子が、母親の顔も知らずに育つとか許さないですよ? 死んだら殺すっ(錯乱)
「えぇ、勿論」
「ならよかったです。これからも、身体を大事にしてくださいね?」
「分かっています。心配性ですね、かぐや様は」
……瑠火さんは未来のことなんて知らないから、その感想は当たり前なのだけど。肝心なのはここからだ。
物心がつくのは、大体三歳くらい。千寿郎くんが三歳の誕生日を迎えた時に、瑠火さんが息災であったのなら、その時初めて私は安心できるだろう。
「……千寿郎くんをお返ししますね。今から杏寿郎に、稽古をつけてきます」
「よろしくお願いします。ふふ、柱二人に面倒を見てもらえるなんて、あの子は幸せ者ですね」
「……では、張り切って鍛え上げてみせましょう」
……確かに、剣士としては恵まれているのだろう。
でもね、瑠火さん──真っ当な両親が生きて側に居てくれる。そんな日常の方が、子供にとっては幸せなんですよ?
「……そろそろ、『彼女』を探し始めますか」
死なせない。絶対に。
耀哉も、瑠火さんも、杏寿郎も。私が誰も、死なせない。
*
俺──煉獄杏寿郎の家族は、尊敬できる人ばかりだ。
父は誰よりも強く、熱心に俺を指導してくれる。
母はとても気高い人で、ただ無為に力を付けていく俺に、『強者』としての責務を教えてくれた。
そして俺には、血の繋がらない姉がいる。
『昔のように、〝ねーね〟と呼んではくれないのですか?』
……実際に姉扱いをすると、面倒なことになるから……絶対に『姉』とは言わないが。まぁ、それはともかく。彼女も尊敬できる人物であることに変わりはない。
かぐや様は空前絶後と言うべき呼吸術の才を持ちながら、それを鼻にかけず鍛錬に励む、謙虚さと勤勉さを兼ね備えている。俺も『天才』と言われる側ではあるが……彼女を見ていると、とても傲る気にはなれない。
──そして今、俺が知る中で最強の二人が対峙している。
「……あの、どうして槇寿朗さんが中庭に? 私、杏寿郎に稽古をつける約束をしていたのですが」
「俺が頼みました! 父が相手であれば、かぐや様の本気が見れるかと思い至りまして!」
「……まぁ、杏寿郎がそれでいいと言うなら」
そう言って、かぐや様は中段に木刀を構えた。
対する父は炎の剣士らしく、先手必勝を意識した上段の構え。
「隊士になってからは、自己流が多分に含まれるようになってしまいましたが……怒らないでくださいね?」
「構わん! 己の適性に合わせ、呼吸や型を派生させることは珍しくもない!」
「ならよかったです。
杏寿郎、合図をお願いします」
「はい! では──始め!!」
──合図の直後、二人の呼吸音が大きくなる。
聞き慣れない、『シィィ』という音がする。かぐや様が、炎ではない呼吸を使っているのだ。
(
(……八相の構え。あからさまに不知火を使う気ですね)
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
雷の呼吸
「むっ!?」
「せいっ」
父上の袈裟斬りは空振り、かぐや様はその後、すれ違い様に胴体へ一撃を入れた。
「そ、そこまでです!」
……驚いた。まさか父上が、初手で負けてしまうなんて。
「なるほど、これが噂の『変転』か! 相手にすると、思った以上にやりにくいな!」
「槇寿朗さんが素直過ぎるんです。鬼との戦いは短期決戦が基本ですから、槇寿朗さんの戦い方は合理的なんですけど……」
「対人戦では、手の読みやすさが仇となるか!」
「……人同士の戦いなんて、想定したくはないんですがね」
「上弦との戦いを想定していると考えれば、問題あるまい。奴らは長く生き、多くの柱を葬っている。故に、各呼吸の特徴を理解されてしまっているだろうからな」
「──つまりかぐや様の戦法は、上弦にも通用するということですか!?」
だとしたら、これ以上に喜ばしいことはない。
「それはどうでしょう」
「分からんぞ!」
「えぇ……?」
かぐや様が否定するのはまだしも、何故言い出しっぺの父上まで否定しているのか……。
「上弦は、いくら警戒しても足りないですから」
「それにだ、さっきかぐや様にも言った通り、己の適性に合わせて独自の戦法を作る者は少なくない。初見殺しが通用するとは限らんのだ」
「なるほど……」
流石に、百年の壁は薄くないということか。
「──さて、気を取り直してもう一本だ!」
「えぇ、よろしくお願いします」
──こうして、二人の打ち合いは日が沈むまで続いたのだった。
*
明治コソコソ噂話
Q:変転なんてものが使えるなら、炎の呼吸を読んでいた下弦の参相手に使えば良かったのでは?
A:結論から言うと、下弦の参と対峙した時点ではまだ『変転』は使えませんでした。
呼吸の切り替えは、無理にやろうとすると身体に負担がかかります。なのでかぐやも炭治郎くん同様、呼吸を混ぜることでシームレスに呼吸を移行させています。ただし呼吸の性質が近くないと、混ぜようにも混ざりません。
その点日の呼吸は五大流派全ての派生元なので、車のギアでいうニュートラルに近い役割を果たしています。今回で言うと『雷→風』の間に素早く日の呼吸を経由しているのです。
ちなみに常中は日が三、炎が七くらいの割合になっている複合呼吸。炎が身体に馴染み過ぎて、中々移行し切れないようだ。