鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第三十二話:募る『怒り』は極まって、

 

「──腹立たしい」

 

 鬼が錫杖(しゃくじょう)で、床を突く。

 突かれた場所を起点にして、雷鳴が鳴り響く。

 

 生じたその(いかづち)は、『本物』の──自然現象としての(かみなり)ではない。

 しかし音を置き去りにして(ほとばし)るその様は、『偽物』と(あざけ)るには速過ぎた。

 

(これは、避けられねぇ……!)

 

 鬼殺の剣士の最高位。『(きのえ)』の階級に位置する少年ですら、その一撃は回避を断念させる程だった。

 ──だが。

 

(何故効かぬ……!?)

(威力は大したことが、ねぇ!!)

 

 少年は雷をものともせず歩みを進め、鬼の頸めがけて我武者羅に刀を振るい続ける。

 鬼は後退して刀を回避しつつ、雷による攻撃を放ち続ける。

 

 一方の攻撃は命中し続け、一方の攻撃は掠りもしない。誰の目から見ても、どちらが優勢でどちらが劣勢かは明らかだろう。

 ──にも関わらず、両者の心境は真逆であった。

 

「ねぇ兄さん、まだ首取れないの〜? 僕もう哀絶(コイツ)の相手飽きてきたんだけど〜?」

「積怒ッ、何をしている積怒……! 早く片付けてッ、儂をっっ、助けろ……!!」

 

「うっせ、いま温まってきたトコなんだよ! もうちょい待ってろ……!!」

「どいつもこいつもッ、腹立たしい……!!!」

 

 鬼と剣士には、それぞれ相方がいた。

 宿の廊下という、長物を扱う武人達には狭い空間内で……もう一つの戦いが、繰り広げられていたのだ。

 

 ──剣士が鬼を一方的に斬り刻み続けるという、正反対の形で。

 

 鬼達は焦っていた。

 

(マズイ……! これは、マズい……!

 儂らはどれだけ斬られようとも、死にはしない。しかしこの調子では、無惨様からの粛清は避けられない……!!)

(何なのだ、今代の柱達は……!? 『虹』と『炎』──既に二人、柱の中核と目される剣士を削っている筈だ……! 『音』と『花』──(ろく)の兄妹が再起不能にした柱も、奴らを破っている以上は上澄みの存在だった筈……!

 ──それで何故、これほどの練度を誇る柱が残っている!? それも、こんな幼い(わらべ)が……!!)

 

「〜〜ッ! 可楽ッ、遊びは終わりだ──全て吹き飛ばせ!!!」

 

(!? しまっ──)

 

 痺れを切らした積怒の言葉に呼応し、『カカッ』という楽しげな笑い声が、壁越しに届く。

 

 ──次の瞬間、建物が風船のように膨らんで……破裂した。

 

 有一郎と玄弥が吹き飛ばされて戦線離脱し、窓を掴んで耐えようとした禰豆子が、瓦礫に埋もれる。

 

「カカッ、どうだ哀絶! これで槍を振るいやすくなったのう!?」

「哀しい……得物を取り回しやすくなったのは、あちらも同じことだ……」

「贅沢を言うな哀絶。一方的にやられていた分際で……腹立たしい」

「俺は喜んでいるぞ可楽! 若造でも『柱』は柱。仕留めれば、無惨様もお喜びになるだろうからのう!」

 

「…………」

 

 四対一。『流石にマズいか』 ──と、無一郎が舌を巻きかけた時だった。

 

「無一郎くん!!」

 

(──この声は、)

「炭治郎!!」

 

 彼の復帰により、無一郎の気力が回復する。

 

「──視線はそのまま、よく聞いて」

「うん」

 

 二人は鬼の動きを警戒しながら、小声で方針を共有する。

 

「舌の文字は見た?」

「『喜怒哀楽』だね」

「うん。ひとまず、これ以上は増えないと判断していいと思う」

「じゃあ、方針は『四体同時に斬る』ってことでいいのかな?」

 

「──空喜、可楽と共に背後へ回れ」

「遊びが無いのう。もう少し楽しそうな戦法はないのか? 積怒」

「可楽、貴様という奴は……!!」

「カカッ、そう怒るな積怒。それでは俺や可楽には逆効果じゃぞ?

 ──ただ喜ばしいことに、今は柱がもう一人向かって来ておるらしい。『楽しみ』は後にも残っておるし、俺は積怒の言う通りに動いてやっても良いと思うぞ? 可楽よ」

「ほう? それならまぁ、嗜好を変えて追い込み漁に興ずるのも悪くないかもしれんのう!」

 

「──待て。『柱がもう一人』『向かってきている』だと?

 空喜、()()()()()()()()()()()?」

 

「待って。たぶんだけど、あの四体への攻撃は殆ど意味がない。

 ──最初を思い出して。奴は()()()()()んだ」

 

「ん? あぁ。里の中心部で暴れていた、玉壺の大きな金魚達がおっただろう? ついさっき、アレらが一斉に消えた瞬間が見えて──」

「──何故それを喜んでいる!? このッ、どうしようもない愚か者めが……!! それが本当なら、上弦の諜報要員が……ッ、いやそれ以前に、戦力が……!!!」

 

「アレは本体が隠れてて、術で分身を出したってことなんだと思う」

「なるほど。じゃあ──」

 

「こうなれば、『()()()』だ」

 

『────えっ?』

 

 積怒を除く、鬼と鬼狩りの声が重なった。

 

 瞬き一つの間に、空喜と可楽が消えたのだ。──積怒が両手を掲げ、二鬼(ふたり)はそこへ吸い込まれるように消えた。

 前衛を張っていた哀絶が、異常に気付き振り返ると──すぐに視界が手で覆われ、反応もできずに吸収が完了。

 

 

「不快。不愉快……極まれり」

 

 

 五体目の分身──『憎伯天』が、誕生していた。

 

 

 

 *

 

 

 

 大正コソコソ噂話

 

 今作の上弦は童磨の死以降、地味に全員無惨の血を増量されていたりする。

 最も変化が少ないのは半天狗。次点が謝花兄妹。逆に最も増血されているのが猗窩座。次点で強化されていたのが玉壺だった。(相手が悪くて瞬殺されたが)

 ──ただ変化が少なかろうと、半天狗も素体が強化されているのである。

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