鬼殺しのかぐや姫   作:しやぶ

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第八話:曇天

 

 ──最近、思うように事が進まない。

 

 妻、瑠火が病にかかった。すぐに腕が良く、信頼できる医者を何人も呼んだ。薬だって、金に糸目はつけず、なんでも用意した。

 だが、妻の病気はすぐには治らなかった。

 

 ──最近、思うように事が進まない。

 

 異能も持たない雑魚鬼の首を、落とし損ねてしまった。無論二撃目で落としたが、もしこれで近くに一般人が居たら、食われていたかもしれない。柱として恥ずべき失態だ。

 ……妻の病気は、まだ治らない。

 

 ──最近、思うように事が進まない。

 今度は討ち損じるどころか、傷を負わされてしまった。奴が毒や呪いを使う鬼だったら、ここで死んでいたかもしれない。

 ……俺は、柱を続けられるのだろうか。

 妻の病気は、一向によくならない。

 

 

 最近────

 

 

「かぐや様ッ、かぐや様! しっかり!!」

「そこの貴方ッ、動けるなら包帯と傷薬をお願いします!」

 

 思うように、事が進まない。

 

 どうして、かぐや様が倒れているんだ。

 

「この痣は……いえ、不幸中の幸いと捉えましょう。今はそれより──」

「包帯と薬、持ってきました!」

 

 鬼は死ぬと、塵になって消える。肉体の構造が違うからか、斬っても刀にべったりと血が付着することは少ない。日輪刀に染み込んだ太陽光が、鬼の細胞を焼いているのもあるだろう。

 

 だから、日輪刀に血が付くことは少ない。

 

 ──では何故、俺の刀は血が滴っているんだ?

 

 これは一体、()()()()

 

 

「かぐや様、返事を……! 返事をしてくださいッ、姉さん……!!」

 

「俺、は……何、を」

 

 

 も う、な に も し た く な い 。

 

 

 

 *

 

 

 

 珠世さんを見つけて煉獄家に案内したら、任務帰りの槇寿朗さんと鉢合わせて斬られた件。当たり前ですねハイ。でも愈史郎(ゆしろう)君の目隠し*1があったのに……

 

『──足音が二つする』

 

 からの初手玖ノ型はビビる。でも見えないならそりゃ範囲攻撃するよね。当たり前でしたハイ……。

 でもそれとは別に、最近槇寿朗さん目が死にかけだったから、怖さ倍プッシュですよ。失禁するかと思った。

 

 まぁ、それは頑張って防いだんよ。『煉獄』は予備動作が大きいから、なんとか防御が間に合ったのさ。(つば)迫り合いにすらならずパワー負けして、自分の刀で頭を打ったがね。

 その後、なんとか説得しようかと思ったんですが……槇寿朗さん、既にもう一回斬りかかってましてね。トドメ刺してないんだから当たり前だけど、いい加減にしてくれ。

 めっちゃ頑張って珠世さんを突き飛ばして、私は背中を斬られました。そして失神。

 

 んで目覚めたら……。

 

「大変、申し訳ございませんでした。腹を切ってお詫び致します」

 

 なんか槇寿朗さんが小刀持って、服をはだけて──ってオイオイオイ!!!

 

「強姦です!! ここに強姦がいます!!! 誰か助けてください!」

「えっ」

 

「なんだと!? 許せん!! 貴様かッ!

 ──むっ、父上が強姦!? 見損ないました!!」

「えっ」

「兄上、『ごーかん』ってなんですか? 父上、悪い人だった、ですか?」

「千寿郎! 強姦というのはな──」

「止めろ杏寿郎! 千寿郎にはまだ早い!!」

「父上は黙ってお縄についてください! これからは俺が千寿郎の父親です!!」

 

 あらヤダ思ったより本気に取られてないかしらん?

 

「あの、杏寿郎? 強姦は嘘ですからね?」

「そうですか! 安心しました!!」

 

「……で? 可愛い息子二人の前で、槇寿朗さんは何をする気ですか?」

「……はぁ、何もしませんよ。かぐや様がお元気そうで何よりです」

「私は見ての通り問題ありません。問題は、珠世さんと瑠火さんです」

 

 それを言うと、槇寿朗さんと杏寿郎は目を逸らした。

 ……え? 嘘だろ?

 

「珠世さんは無事です。母上は、一月もあれば治せると」

「な、なんだ。朗報じゃないですか。驚かさないでくださいよ」

「ただ……」

「ただ?」

 

 杏寿郎は拳を握りしめ、悔しそうな顔で言った。

 

 

「かぐや様は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 *

 

 

 

「──どういうことですか」

 

 かぐや様は一瞬だけ焦りを見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、聞き返してきた。

 ……いいや、冷静なものか。そう見せているだけだ。

 

「……かぐや様は、ご自身の背にある、月模様の痣のことを知っていましたか?」

「……いいえ」

「……その痣は、身体能力を大幅に向上させ、傷の治りを早くする代わりに……寿命を奪うものなのだ、と」

 

「ふむ……使()()()()()?」

 

「……え?」

「ですから、『使い方』です。傷の治りに関しては、今体験しました。しかし私はまだ、大幅な身体能力の強化を経験していません」

「なっ──」

 

「──この馬鹿者がッ!」

 

 ……驚いた。父がかぐや様に本気で怒鳴ったのは、これが初めてではないだろうか。

 

「寿命が擦り減るんだぞ……!? そんなものは使うな! 一切使用を禁止する!!」

「ですが使わなければ、死んでしまう状況だってあるでしょう」

「便利なものは、一度使ってしまうと癖になる! だから使ってはならん!!」

 

「──お父様は、二十四で亡くなりました」

 

 『バシャリ』と冷や水を浴びせられたように、父上は固まった。

 

「お父様と同じ歳まで生きられるのなら、かぐやは充分です。だから、そんな顔をしないでください」

 

 そう言って、かぐや様は穏やかに笑った。本当に、一切自分の寿命なんて気にしていないかのように。

 

 ──『危うい』と思った。父もおそらく、同時にそう思ったのだろう。

 だが、なんと声をかけたらいいのか……分からなかった。

 

「……本当に、困りましたね。

 ほら、上弦を倒せる可能性が上がるんですよ? 笑いましょ? 煉獄家の男児にそんな顔は似合いません!」

 

 かぐや様は『ニッ』と声をかけ、指で口角を上げ(おど)けてみせたが……誰も、笑う気にはならなかった。

 

「……すみません。珠世さんに直接伺ってきますね」

 

 誰も──誰も、かぐや様を止められなかった。

 

「──ッ。ではせめてっ、せめて十二鬼月と無惨以外には使わないと約束してください……!」

 

 俺は咄嗟に、そう言うので精一杯だった。

 

「…………えぇ、約束します」

 

 困ったように笑う彼女の姿が、いやにずっと……印象に残っている。

 

 

 

 *

 

 

 

 明治コソコソ噂話

 

 煉獄親子「ドンヨリ」

 かぐや 「ツヤツヤ」

 

 杏寿郎は珠世がかぐやを必死に治療する姿を見ているので、完全に信頼して瑠火さんを診てもらったみたいだぞ。

 槇寿朗はやることなすこと空回り中なので絶不調。

 千寿郎くんは何が起こってるのかよくわからないけど、家族が大変な状態になってるのは分かる。泣きたいけど泣かない。良い子。

 

 Q:そもそもどうやって珠世さんを見つけたのか。

 A:『珠世』という名ではなく『輸血を行う薬師』として探します。

 珠世さんは無惨からも鬼殺隊からも逃げたいので、まず自分の名前の痕跡は残さないでしょう。ですが血液型すらまだ発見されたばかりの時代に『輸血』というメジャーではない言葉で血を貰う以上、こちらは痕跡が残ります。

 探す人里は、山の近くにある場所がいいでしょう。いざという時日光から逃げやすいですし、薬の材料も取れます。

 話を聞くのは特に貧しい家がいいでしょう。薬代を受け取らない代わりに血液を貰う、という形を取っているらしいので。

 後は耀哉の勘と人海戦術です。よくもまぁ一年と少しの期間で見つけられましたね。

 尚かぐやの瑠火さん救命プランBは『珠世さんの薬』で最終手段は『愈史郎さんと同じく珠世さん由来の鬼にしてもらう』というもの。どちらも珠世さん頼りなので、見つからなかったら詰んでました。

 

 ちなみに愈史郎さんは原作初登場時点で実年齢三十五歳。

 彼が居ないと鳴女戦で詰む……ということをかぐやは知りませんが、彼の外見年齢的に、あまり早く探し始めて珠世さんを見つけてしまうと、愈史郎君が画面外で退場することは知っていました。千寿郎くんの誕生まで捜索を待ったのはそういう訳です。

*1
愈史郎君が居ると話が拗れそうだったので、目隠しだけして貰って、留守番を頼んだ

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