──最近、思うように事が進まない。
妻、瑠火が病にかかった。すぐに腕が良く、信頼できる医者を何人も呼んだ。薬だって、金に糸目はつけず、なんでも用意した。
だが、妻の病気はすぐには治らなかった。
──最近、思うように事が進まない。
異能も持たない雑魚鬼の首を、落とし損ねてしまった。無論二撃目で落としたが、もしこれで近くに一般人が居たら、食われていたかもしれない。柱として恥ずべき失態だ。
……妻の病気は、まだ治らない。
──最近、思うように事が進まない。
今度は討ち損じるどころか、傷を負わされてしまった。奴が毒や呪いを使う鬼だったら、ここで死んでいたかもしれない。
……俺は、柱を続けられるのだろうか。
妻の病気は、一向によくならない。
最近────
「かぐや様ッ、かぐや様! しっかり!!」
「そこの貴方ッ、動けるなら包帯と傷薬をお願いします!」
思うように、事が進まない。
どうして、かぐや様が倒れているんだ。
「この痣は……いえ、不幸中の幸いと捉えましょう。今はそれより──」
「包帯と薬、持ってきました!」
鬼は死ぬと、塵になって消える。肉体の構造が違うからか、斬っても刀にべったりと血が付着することは少ない。日輪刀に染み込んだ太陽光が、鬼の細胞を焼いているのもあるだろう。
だから、日輪刀に血が付くことは少ない。
──では何故、俺の刀は血が滴っているんだ?
これは一体、
「かぐや様、返事を……! 返事をしてくださいッ、姉さん……!!」
「俺、は……何、を」
も う、な に も し た く な い 。
*
珠世さんを見つけて煉獄家に案内したら、任務帰りの槇寿朗さんと鉢合わせて斬られた件。当たり前ですねハイ。でも
『──足音が二つする』
からの初手玖ノ型はビビる。でも見えないならそりゃ範囲攻撃するよね。当たり前でしたハイ……。
でもそれとは別に、最近槇寿朗さん目が死にかけだったから、怖さ倍プッシュですよ。失禁するかと思った。
まぁ、それは頑張って防いだんよ。『煉獄』は予備動作が大きいから、なんとか防御が間に合ったのさ。
その後、なんとか説得しようかと思ったんですが……槇寿朗さん、既にもう一回斬りかかってましてね。トドメ刺してないんだから当たり前だけど、いい加減にしてくれ。
めっちゃ頑張って珠世さんを突き飛ばして、私は背中を斬られました。そして失神。
んで目覚めたら……。
「大変、申し訳ございませんでした。腹を切ってお詫び致します」
なんか槇寿朗さんが小刀持って、服をはだけて──ってオイオイオイ!!!
「強姦です!! ここに強姦がいます!!! 誰か助けてください!」
「えっ」
「なんだと!? 許せん!! 貴様かッ!
──むっ、父上が強姦!? 見損ないました!!」
「えっ」
「兄上、『ごーかん』ってなんですか? 父上、悪い人だった、ですか?」
「千寿郎! 強姦というのはな──」
「止めろ杏寿郎! 千寿郎にはまだ早い!!」
「父上は黙ってお縄についてください! これからは俺が千寿郎の父親です!!」
あらヤダ思ったより本気に取られてないかしらん?
「あの、杏寿郎? 強姦は嘘ですからね?」
「そうですか! 安心しました!!」
「……で? 可愛い息子二人の前で、槇寿朗さんは何をする気ですか?」
「……はぁ、何もしませんよ。かぐや様がお元気そうで何よりです」
「私は見ての通り問題ありません。問題は、珠世さんと瑠火さんです」
それを言うと、槇寿朗さんと杏寿郎は目を逸らした。
……え? 嘘だろ?
「珠世さんは無事です。母上は、一月もあれば治せると」
「な、なんだ。朗報じゃないですか。驚かさないでくださいよ」
「ただ……」
「ただ?」
杏寿郎は拳を握りしめ、悔しそうな顔で言った。
「かぐや様は、
*
「──どういうことですか」
かぐや様は一瞬だけ焦りを見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、聞き返してきた。
……いいや、冷静なものか。そう見せているだけだ。
「……かぐや様は、ご自身の背にある、月模様の痣のことを知っていましたか?」
「……いいえ」
「……その痣は、身体能力を大幅に向上させ、傷の治りを早くする代わりに……寿命を奪うものなのだ、と」
「ふむ……
「……え?」
「ですから、『使い方』です。傷の治りに関しては、今体験しました。しかし私はまだ、大幅な身体能力の強化を経験していません」
「なっ──」
「──この馬鹿者がッ!」
……驚いた。父がかぐや様に本気で怒鳴ったのは、これが初めてではないだろうか。
「寿命が擦り減るんだぞ……!? そんなものは使うな! 一切使用を禁止する!!」
「ですが使わなければ、死んでしまう状況だってあるでしょう」
「便利なものは、一度使ってしまうと癖になる! だから使ってはならん!!」
「──お父様は、二十四で亡くなりました」
『バシャリ』と冷や水を浴びせられたように、父上は固まった。
「お父様と同じ歳まで生きられるのなら、かぐやは充分です。だから、そんな顔をしないでください」
そう言って、かぐや様は穏やかに笑った。本当に、一切自分の寿命なんて気にしていないかのように。
──『危うい』と思った。父もおそらく、同時にそう思ったのだろう。
だが、なんと声をかけたらいいのか……分からなかった。
「……本当に、困りましたね。
ほら、上弦を倒せる可能性が上がるんですよ? 笑いましょ? 煉獄家の男児にそんな顔は似合いません!」
かぐや様は『ニッ』と声をかけ、指で口角を上げ
「……すみません。珠世さんに直接伺ってきますね」
誰も──誰も、かぐや様を止められなかった。
「──ッ。ではせめてっ、せめて十二鬼月と無惨以外には使わないと約束してください……!」
俺は咄嗟に、そう言うので精一杯だった。
「…………えぇ、約束します」
困ったように笑う彼女の姿が、いやにずっと……印象に残っている。
*
明治コソコソ噂話
煉獄親子「ドンヨリ」
かぐや 「ツヤツヤ」
杏寿郎は珠世がかぐやを必死に治療する姿を見ているので、完全に信頼して瑠火さんを診てもらったみたいだぞ。
槇寿朗はやることなすこと空回り中なので絶不調。
千寿郎くんは何が起こってるのかよくわからないけど、家族が大変な状態になってるのは分かる。泣きたいけど泣かない。良い子。
Q:そもそもどうやって珠世さんを見つけたのか。
A:『珠世』という名ではなく『輸血を行う薬師』として探します。
珠世さんは無惨からも鬼殺隊からも逃げたいので、まず自分の名前の痕跡は残さないでしょう。ですが血液型すらまだ発見されたばかりの時代に『輸血』というメジャーではない言葉で血を貰う以上、こちらは痕跡が残ります。
探す人里は、山の近くにある場所がいいでしょう。いざという時日光から逃げやすいですし、薬の材料も取れます。
話を聞くのは特に貧しい家がいいでしょう。薬代を受け取らない代わりに血液を貰う、という形を取っているらしいので。
後は耀哉の勘と人海戦術です。よくもまぁ一年と少しの期間で見つけられましたね。
尚かぐやの瑠火さん救命プランBは『珠世さんの薬』で最終手段は『愈史郎さんと同じく珠世さん由来の鬼にしてもらう』というもの。どちらも珠世さん頼りなので、見つからなかったら詰んでました。
ちなみに愈史郎さんは原作初登場時点で実年齢三十五歳。
彼が居ないと鳴女戦で詰む……ということをかぐやは知りませんが、彼の外見年齢的に、あまり早く探し始めて珠世さんを見つけてしまうと、愈史郎君が画面外で退場することは知っていました。千寿郎くんの誕生まで捜索を待ったのはそういう訳です。