高校三年生のWCの決勝の日。彼は、それを見つけた。「人生……リセット、ボタン?」かつてチームメイトだった、水色の影を思い出した。/某有名ボカロ楽曲を聞きながら「黒バス逆行書きたいなー」と思っていたら出来上がりました。件の楽曲は大好きですリスペクトしています。逆行なので死ネタ含みますが死ネタタグはつけません。腐向けでもないつもりですが、私は緑高緑と火黒と花宮さんと今吉さんが好きなのでアウトと思ったら誰かタグつけて下さい。//ブクマ二桁!ありがとうございます!(2013/3/31)
2012年にpixivに掲載したものです。

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人生リセットボタン【黒バス】

 黒子が目を開けた瞬間、視界をピンクのものが遮った。一度瞬きすると、それは落ちた。つまみあげてみると、桜の花弁だった。見上げると、桜並木が目に入った。その先には見慣れた校舎があり、慶事を示す花飾りと共に立て看板が立っていた。

 

『帝光中学校 入学式』

 

 ああ、帰ってきたのだ、と黒子は思った。

 

 

 人生リセットボタンを拾ったのは、高三のウィンターカップ決勝の日だった。その時、それはただのおもちゃに見えた。それはあまりにも安っぽく見えたので、黒子はそれを拾ったことさえ忘れていた。

 

 忘れていたのだ。大切な光たちを失うまで。

 世の中に何故名馬が少ないのか。資質がある馬は数多いれども、それを見出す伯楽が少ないからよ。

 

 NBAに渡米した火神大我は銃殺された。実業団に入った青峰大輝は刺された。どちらもその光の強さを疎まれて。

黄瀬涼太と紫原敦はタレントと芸能人になった。ある時テレビの企画で、プロのバスケットボール選手と戦うことになった。キセキは、キセキだった。面目を潰された選手たちは、二人の敵となった。黒子の記憶が確かなら、顔と腕にそれぞれ消えない傷を負って、それでも笑っていた。

 赤司は皆を守ろうとした。そのために彼は実家の覇権を握ろうとした。急激に力を付ける彼に、多くのものが反発した。

 

(テツヤ)

 最期に彼と会った日のことを、黒子は覚えている。

 赤司くん。

(お前は、元気そうで良かった)

 火神の訃報を聞いてから表情が曇ることが多くなり、青峰の事件以後仕事ばかりで会えもしなかった赤司が、その日、突然黒子に会いたいと言った。

 赤司くん?

 黒子は赤司の言葉に首を傾げた。全てが黒子の知っている赤司らしくなかった。

 今日は緑間くんはいないんですか?

 赤司の秘書となっていた旧友の名を出すと、赤司はゆっくり首を振った。

(今日は、休みを取っているよ。高尾と海に行くらしい)

 寒い日なのに、と黒子は思った。

 海釣りですか? それとも明日のラッキーアイテム収集でしょうか。

 黒子の言葉に、赤司は声を立てて笑った。そして、眩しい物でも見るかのように、目を細めた。

 二人で酒を飲んだ。黒子は弱いので、もっぱら赤司が呑んでいた。楽しそうだった。嬉しそうだった。久しぶりに昔話をした。黒子の知らない、高校時代の話。黒子の知っている、中学時代の話。その頃、彼が何を考えていたか。何を感じていたか。

(ねぇ、テツヤ)

 赤司は言った。

(君が退部届を提出した時ほど、僕が衝撃を受けたことはないだろう。これではいけない、次は間違わないようにしよう、そう思って、高校では必要最低限しか試合に出なかった。負ける相手を慮ってバスケをしないなんて、きっとあのころの僕は一番弱い者に優しかったんじゃないかな)

 ズガタカオヤコロと言っていた人の言葉ですか、と呆れたら、また、赤司は笑った。

 

 翌朝、彼が毒杯を煽ったと聞かされた。前日の夜、黒子と赤司が呑んでいた時に緑間真太郎と高尾和成が事故に遭ったと聞いた直後だった。何らかの策謀を感じずにはいられなかったが、赤司家の事情には関われなかった。葬儀の日程は、と言い出した赤司の代理人の言葉を、黒子は遮った。赤司征十郎の別れ際の言葉を思い出した。

(僕たちの葬式には来るなよ、テツヤ)

 人生リセットボタンの存在を、ふと、思い出した。

 

 

 

 入部届はバスケットボール部に提出した。どうせ三軍にしかなれない。自主練の時に、青峰と出会わなければいいのだ。幸い、前の知識と経験がある。もう初試合で鼻血を出すことはあるまい(出れるかどうかは別として)。この際身長を伸ばしてみるのも良いだろう。ネットで検索すれば、背が伸びる体操でも出てくるのではないか。部員のなかでも頭一つとびぬけた紫原を見て思った。当然のことだが、今の紫原は自由に動かせる腕を持っていた。黒子はそのことに無性に安心した。

 自主練は、もっぱら深夜のストバスコートで行った。誰もいないコートに、黒子だけがいた。誰も何も知らない世界で、黒子だけが今は亡き世界を覚えていた。

 

 中三の春。ストバスコートに亡霊が出ると言う噂が流れ、黒子はボールを片手に学校をうろついていた。自主練の出来る場所はないだろうか。さまよう視界に、懐かしい男が入った。知人以下の面識の、彼の名は確か。

「……桐皇の、今吉さん?」

 声に出ていたらしい。今吉は黒子の姿に目を丸くし、そして近づいてきた。

「おー、良かった。バスケ部の子か? ちょっと道に迷うてもうて」

「キセキの皆の、スカウトに来たんですか?」

「キセキ? なんやそれ」

 今吉の言葉に、黒子は、あ、と思った。何故だか判らないが、あの五人は未だ才能を開花させていないのだ。黄瀬に至っては、バスケを始めてすらいない。

「青峰くんを、桐皇に勧誘しに来たんですか」

「青峰だけやないけど、確かに青峰はウチに欲しいな」

 実業団のチームメイトに刺された、十年後の彼を思い出した。

「あの、桐皇に、青峰君を害する人はいませんか?」

 唐突な黒子の言葉に、今吉は首を傾げた。

「何を考えとるのか知らんけど、ウチはそないな陰険なチームやあらへんで?」

「本当に? 青峰君が、もっともっと強くなっても? 誰にも止められなくなって、向かうところ敵なしになって、皆弱いからバスケ嫌いとか言い出しても、青峰くんを傷つける人はいませんか?」

「なんや、ずいぶん青峰を買っとるんやな、自分」

「当然です。彼は日本最強になれる器だ。青峰くんの才能が開花すれば、敵う人はごくわずかでしょう」

 そのうちの一人、火神を思い出しながら、黒子は断言した。

「影が薄くてスティールしか出来ない僕とは違う。彼の才能は、素晴らしいものです」

「なんや、打倒青峰! とは言わへんのやね」

「言ったでしょう。僕はパスやスティールが得意なだけなんです。僕は影だ。光にはなれません」

「自分が青峰のチームメイトになって日本一目指す、とかはあらへんの?」

「出来たら中学でやっています」嘘だけど。「それに、青峰君のいるチームに勝つのは楽しそうです。火神く――じゃなくて、黄――いえ、緑間くんや紫原くんくらいの人と組まないと難しそうですが」

 黄瀬は、バスケを始めていない。

「無理とはいわんのやね」

「諦めるのは嫌いなんです」

「なら、何で自分が光になるのをあきらめとるん?」

 え、と黒子は目を見張った。

「僕に才能はありませんし」

「や、才能って、そりゃ判り易いもんばっかやあらへんやろ。スティールが得意なんやって?」

「ええ、この通り影が薄いので」

 今吉は、上機嫌に笑った。

「よし、お前さんの才能を十分に生かせそうなやつを一人知っとるで、紹介したるわ。感謝せぇよ」

「は、え、どうしてそうなるんですか」

「やー、久々に面白い会話をしたな、思ぉて。よし決めたワシが決めた。ワシが青峰を守ったるからお前はワシの指定するバスケ部に入りィな。ほなお前さん、名前は?」

「黒子テツヤです――って、ボクまだ受けるとは一言も!」

「ええやん。どうせなら、向いているところでプレイしたいやろ。ハイ決定。今メール送ったで、もう取り消せへんでー」

 ケラケラ笑う今吉に、黒子は顔を顰めた。

「ワシの後輩をよろしゅうな」

「……ちなみに、参考までに聞きますが、高校名は」

「お前さん、高校バスケに詳しいみたいやから知っとるかもな。霧崎第一高校の、花宮真、判るか?」

 左足をギプスで固めた、木吉を思い出した。

 

 

「お前が黒子? パスとスティールが巧いっていう?」

「ええ。よろしくご指導お願いします」

「その顔からして、俺の噂を知ってんのか」

「……木吉さんの左ひざの話ですか?試合中の事故なら仕方ないと思っていますよ。ただ」

 黒子は花宮を見つめた。

「ラフプレーだったら許しませんが」

 ハッ、と花宮は鼻で笑った。

「それを判断するのはお前自身だ。んで、なんでお前ウチに来たの」

「光のような才能を持つ人たちに、勝つため、です」

「なるほどな。光を持ちすぎたせいで人格変わるやつがいるっていうしなァ」

 花宮の言葉に、黒子は瞬きをした。

「あの、その話、どこで」

「あぁ?よく言うだろ、でかい賞もらった作家とか、ノーベル賞受賞した科学者が、それ以前とは性格違ったようになる、っての」

 よくある話だ、と花宮は吐き捨てた。

 

 霧崎のプレーは、ラフプレーを目的としていない。黒子が見る限り、彼らは人体との接触ギリギリのコースを通ろうとすることで「事故を起こしやすい」プレイをしているだけだった。黒子は安心して、霧崎第一のバスケ部に所属し続けた。

 

 高1のIHで、青峰が開花した。それを偶然目撃した黄瀬が、バスケを始めたそうだ。緑間の3Pシュートはいよいよ精度を増した。陽泉の防御力は名高く、Wエースも健在だった。誠凛は創部二年目とは思えない攻撃力、と一部で話題になり、洛山のゲーム運びは将棋のようと評された。

 黒子は焦った。キセキの世代がどうなるのか彼は知っていた。彼らはお互いにライバルであり、友人だった。彼らは仲が良いながらも互いを高めあう 存在だった。

 だが、焦っているのは黒子だけではなかった。黒子は花宮に、特訓と称して余分のトレーニングを課された。それは確かに黒子に足りないものを補うものだった。黒子がそれらのメニューを行う間、花宮はスタメンに別の練習メニューを与えていた。

「チームプレーの特訓だよ」

 彼は言った。

「と言ってもパス練習みたいなもんだけどな。お前はもう十分に出来てるから、黒子は黒子の弱点を克服しろ」

 そういわれると、黒子に返す言葉はなかった。

 

 『黒子を除いたチームプレー特訓』の成果は、よりによって誠凛戦で発揮された。スナップ音に伴いあざが増えていく木吉。黒子は途中で、体調不良を訴え交代した。交代する時に、無意識に誠凛のベンチへ歩き出し、火神にいぶかしげな眼で見られた。

「どうしたんだ? お前のベンチはあっちだろ」

 そういって肩を押す彼の視線に耐えられず、黒子はその場でぶっ倒れた。

 

 試合が終わってから見舞いに来た花宮に、黒子は尋ねた。

「どうして……」

「全方向から光を浴びると、人の視覚じゃ何もないように見えるって話だ」

 まったく関係のないことを言い出す花宮の言葉に、黒子は耳を傾けた。

「それと同じだよ。俺らは自ら光り輝くような人間じゃないから、どこかで影が必要なんだ。でないと見えなくなる」

 お前流の言い方をするとな。

 黒子は翌日、退部届を提出した。

「僕はあなた方の影にはなれそうにありません。あなた方の影は、僕には闇に見えます」

 

 

 黒子が高3となった年のIHに出場したキセキは、赤司だけだった。

 青峰は今吉卒業後のチームメイトたちにバスケ部を追われていた。バスケを辞めた黒子に、今吉を責める資格はなかった。

 黄瀬はいったんバスケ部に入部したものの、馴染めなかったらしい。ストリートバスケで青峰とワンオンワンをしてばかりいるという。考えてみれば、黄瀬の入部した時、笠松は引退していた。

 紫原は、氷室引退後、部の雰囲気が悪化し、チームメイト全員分の攻守を担わされるようになった。高2のWCではだましだまし出ていたが、心身共 に限界だったのだろう。

 緑間はチャリアカーが事故に遭い、その際の怪我が響いたらしい。大事を取っての欠場だという。WCには戻ってくるという噂だ。

 

 冬になった。黒子は人生リセットボタンを入手するため、再びWCの会場に足を運んだ。影の薄さを利用し、関係者以外立ち入り禁止の札を無視する。体感としては何年も前のことなのに、黒子は覚えていた。誠凛高校バスケ部が当時控室にしていた部屋のすぐ横のベンチ。

 黒子が近寄ろうとしたとき、部屋の扉が開いた。火神大我が松葉杖をついて出てくる。視界に黒子を認め、彼は笑った。

「あ、お前。霧崎のバスケ部にいたやつだろ」

 黒子は目を丸くした。丸々一年以上経っていたにも関わらず黒子を覚えていたこと、松葉杖をついていること、それら両方が理解できなかった。

「気になってたんだよなー。あれっきり姿を見ないし。部活あるからなかなかそっちにもいけねーし」

「バカですか君は」

 かつてのように、口を聞いてしまう。

「そもそも、その足はどうしたんです。君の才能はその跳躍力でしょう。緑間君のことを笑えませんよ」

「あ、やっぱり聞いてねーんだ?」

 どこかうれしそうに首を傾げる火神に、無表情を保ちながら、黒子は告げた。

「どこでどう負傷したのかは知りませんが……せっかくバスケの才能があるのに、それを潰すような真似はしないでください」

 そう言って、ベンチの上にある人生リセットボタンに手を伸ばすと、何を勘違いしたのか、火神はその手をぎゅっと握った。

「やっぱり、お前だけは良いヤツだったんだな」

 

 他の奴らは、俺の足を潰そうとしたけど。

 

「え?」

 血の気が引くのを感じた。

「だって、え、木吉さん、じゃ? 木吉先輩じゃなかったんですか? 左ひざを痛めて」

「それは去年のWCでの話だろ?」

「そうです、が」

「今年のIHは、さすがに木吉先輩出るの無理だったからさ。霧崎も、もっと別のところに頭を使えばいいのに……って、これはお前のことじゃないからな?」

「……っ、ごめんなさい」

「だから、お前は悪くないって」

「ごめんなさい、かがみくん」

 謝罪を口にする黒子に、火神はうろたえた。

「なんだよ、お前は悪くねーだろ?」

 心配そうに黒子を見るその表情が、彼の十年後を思い起こさせて。

「かがみくん」

 黒子は、彼のあたたかい手を振りほどき、人生リセットボタンを押した。

 

 

 

 黒子はチームメイトを見た。パスなどなくても勝ててしまう彼ら。常勝不敗のキセキの世代。

 全方向から光を浴びると、影がないために、周囲からは見えなくなるのだと花宮は言った。黒子は、影を見失って自分が判らなくなったキセキ達のために、自分が影になることを決めた。

 三回目の人生では、帝光中バスケ部幻の六人目として過ごした。今回、彼らはは中学で開花した。

 

 黒子は中学卒業間近のある日に、キセキの世代を呼び出した。

「どうしたのだよ、黒子」「黒子っち、みんなを集めてどうしたッスか? ……って」

「ちょっと黒ちん、なんでそんなとこにいるの」「テツヤ、何をしている」

 屋上の柵の外側にいる黒子に、四人は目を丸くした。青峰はやはり、来なかったらしい。

 黒子は、彼が愛したキセキ達の前で笑った。無理に笑顔を作ったため、表情筋がひきつった。後ろに一歩、踏み出す。虚空を感じた。

 

 リセットボタンは、もう押せない。

 




2012年の秋~冬ごろにpixivに投稿したものです。
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