カイリューといっしょ!   作:カイリューはいいぞ

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泥棒猫と空島と茶色毛玉

「ユウリ……!もう、何してるのよ!心臓止まるかと思ったんだから!」

 

「そ、それはですね……その場の空気と言いますか、何としても戻らなきゃいけない理由が出来たので根性出したと言いますむぐむぐむぐ……!?」

 

「そんなこと聞いてるんじゃないのよ……!あんなに危ない所に行ってもう……!」

 

 空島、ウェザリアにホウエンの伝説3匹の力を借りて送り届けて……もとい、吹き飛ばしてもらった私たち。エースさんとマルコさんは空島に何回か行ったことがあるのかテンションが上がってたわけじゃなかったんだけど空島初体験の私にとってはテンションが上がりまくって海雲の中にダイブしてみたりとか島雲の感触を楽しんでみたりとか色々やってて超楽しかったんだけど、それよりもすごく良いことがあったの!

 

 今まで、細々とした島に上陸したことはあるんだけど大抵大きな島には私の、麦わらの一味の仲間がいた。この空島にもご多分に漏れずいたの、麦わらの一味の屋台骨、航海士のナミさんが!多分貸家らしい家の中で海図を広げて何かをしていたナミさんは私のことに気づくと私が飛び込もうと構えたあたりで私より早く私を抱きよせた。

 

 ナミさんはきっと新聞で戦争のことをある程度把握していたのだろう。もしかしたら中継の映像、まああの3匹のおかげで白ひげさんが亡くなって以後は完全に中継はぶちっとなっちゃったんだろうけど私が参戦していたのは映っていたのでそれも見ていたのかもしれないね。とどのつまり、滅茶苦茶に心配させてしまったに違いない、だってほら。

 

「むむむん、むぐぐぐむ……」

 

「おいナミ、ユウリ気絶すんぞ」

 

「えっ!?やだユウリちょっと!」

 

「ぷはぅ!酸素が美味しいです……」

 

 ナミさんの爆弾に顔面を押し付ける形で抱きしめられた私、強く頭を固定されたのでもがこうにも暴れようにも抜け出すことが出来ずにじたばたするしかない。そう、麦わらの一味腕力ランキング完全最下位の私ではこのように一度捕まったらポケモンに頼らず自力でどうにかすることはできないのである。そしてつまりこれが何を意味するかと言えば、呼吸困難になるということなんです。

 

 私の大平原では比較にもならないレベルの双子山に挟まれ、スペースもなくぎゅううううっとされれば息すらできないのは自明の理、感極まったナミさんはそれに気付かず再会の喜びに浸ってくれてはいるものの、だんだんと抵抗が弱まって私が痙攣しだしたのを見たエースさんが気まずそうに指摘してくれて、私は敵ではなく仲間に殺されかけるというポケモントレーナーなら別に珍しくもない状況から脱出するのであった。ドラゴンタイプに食われてどうにかなるとかトレーナー界隈じゃよく聞く話なんですよね、はい。

 

「何はともあれナミさん、お久しぶりです。会いたかったですよー」

 

「ほんとよ!私、色々言いたい事も聞きたいことも山ほどあるんだから!とにかく無事でよかったわ!ああ、これよこれ……」

 

「私の抱き心地でなつかしさに浸らないでください。そのうち大きくなるんですから私だって!」

 

 どうもナミさんは仲間と離れたせいで情緒が不安定になっているらしい。椅子に座りなおして私を膝に抱き上げてぎゅ~~っと力強めに抱きしめてくれている。とにもかくにも会えてよかった、とかいぐりかいぐりされながら言われて、ナミさんは力を緩めてくれた。それで私は、ナミさんが聞きたいことを口からハイドロポンプのように整理しつつ話す。

 

 なるほどなるほど、と頷くナミさんは途中で戦争に参加した経緯とかその他多分聞いたら気絶するだろなあと思いつつも話さないわけにはいかないということで見事に一味ナンバーツーの賞金首になっちゃいましたえへへ。というと私の話に注釈をしていてくれていたマルコさんエースさんも苦笑して2億5千万だよいと言うとナミさんは夢じゃなかったのね、とがっくり肩を落とした。

 

「2億5千万ベリーだなんて……私が欲しいくらいなのに……」

 

「多分ルフィさんと一緒な限りナミさんも高額賞金首の仲間入りしますよ?」

 

「ああ!やめて考えないようにしてたの!」

 

「ぶいぶい~~」

 

「あ、もうイーブイ勝手に出てきちゃってもう」

 

「ぶいっ!」

 

 一緒に億超えになりましょうよ~と私なりの怪しい顔でナミさんに勧誘をかけてるとあっさり断られてアンタにはそういうの向いてないわ、とばっさりと切られてしまった。むむ、私にはどうやらあくタイプの素養はナミさんから見てないらしい。スタイルか!?スタイルのせいか!?こんなお子様ちんまりぼでーをしているから迫力とか説得力とかがないのか!?ちくしょう!

 

 そうして久しぶりにナミさんに構ってもらっていると楽しそうな雰囲気を感じ取ってしまったらしいイーブイが勝手に出てきてしまう。このイーブイ、最近はよく空気が読めるようになってきて勝手に出てくることはあれど場所と雰囲気を弁えるようになってきたのだ、驚くことに。あっちの世界だと常に出ていてボールに入るのを拒否して進化の石を見せると拗ねてたのに。かわいい。

 

 イーブイは初めて見るナミさんに対してもとってもフレンドリーで、膝の上に抱かれている状態の私の体を駆け上がり、ナミさんの肩にぴょんっと乗るとぐりぐりうりうりとナミさんのほっぺに自分のほっぺを押し付けて挨拶をする。非常にラブリーなそのしぐさにナミさんは一瞬でメロメロになった。

 

「やだちょっと……可愛いじゃない。ユウリ、アンタの友達?」

 

「はい、イーブイって言います。とっても強いんですよっ」

 

「強いって……まあ、チョッパーもそうだし、アンタの友達だからそうなのよね……」

 

「ぶいぶいっ!」

 

 よろしくっ!と肩の上で片手をあげて挨拶するイーブイにナミさんが思わずといった感じで顔を綻ばせる。そうなんですよナミさん、イーブイはとっても強いのです。チョッパーさんってよくよく考えればとてもすごいよね、お医者さんで、たくさんフォルムチェンジがあって、それでいてラブリーで強い。おー、思わずゲットしたくなってきちゃうね!しないけども。

 

「ユウリ、アンタこれからどうするの?旅はするんでしょ?航海士は?」

 

「ああ、俺がやってる。お前よりベテランだよい」

 

「……白ひげ海賊団の1番隊隊長って、航海士だったの?」

 

「ちげーぜナミ。マルコは何でもできるんだ、操舵も含めてな」

 

「ま、お前らの倍生きてるからな。年の功ってやつだ」

 

「ジジイ扱いすると怒るくせによー。いっだあああああっ!?」

 

 あちゃー、マルコさんの無言の武装色ゲンコツが炸裂してエースさんの頭に大きな大きなたんこぶが現れる。何というかエースさんは学ばないというか、学んでるのかどうなのか分からないというか。もしかしたら痛いのが好きっていう奇特なタイプ、ではないと信じたい。まあ、マルコさんって正直中年って言われる年齢だけど見た目非常に若々しいもんね。そうは見えないんだよ。

 

「ナミさんはどうするんですか?一緒に来ます?」

 

「いえ、ウェザリアの天候の科学は私にとって必要になるものよ。ここで学ぶことにするわ」

 

「……ナミさんもですか」

 

「……も?」

 

 ふむむ、と私はぽすんとナミさんの胸元に後頭部を押し付けるように上を見て彼女と視線を合わせる。みーんなそうだ、ルフィさんは止められたからともかくとして、ゾロさん、フランキーさんにブルックさん、そんでウソップさんまでも自分の意志で飛ばされた島に残った。それは別に悪い事じゃないんだけど、なんだか私としては一抹の寂しさを覚えるような感じなんだ。私、皆と旅した日数短いし、それで2年も冒険お預けなんて。

 

「ははーん、ユウリあんたもしかして……寂しいの?」

 

「……悪いですか?」

 

「……あたしもよ、アンタに会えなくて……ルフィに会えなくて……みんなに会えなくて……寂しいわ。あんなに毎日賑やかだったのに、今じゃ音楽も、笑い声も聞こえないもの」

 

 私、一人じゃ何もできないから。カイリューがいて、手持ちがいて初めて私はこの世界で生きていられる。例えば手持ちがみんないなかったら、私がただの子供だったら……街にたどり着けても海賊に殺されてただろうし、いまここで立っていないし、ルフィさんを救けにも行けなかった。そして、お父さんを看取ることも、遺体に何かをしようとした黒ひげを遠ざけることもできなかった。

 

 だから私は寂しがりなのだ。預けたポケモンたちも、まだ見てない手持ちたちも。いないと不安で不安で仕方がない。納得してみんなを残したのは間違いないし、仲間を信用している。約束だってしたからね。でも、それはきっとみんな一緒。というかルフィさんが一番そうかもしれない。『俺は仲間がいないと何もできねえ』だなんて言ってたし。

 

「ぶいっ」

 

「これは……まずい、サイクロンよ!ハレダスさんに知らせないと!」

 

「いきなりどうした?!」

 

「イーブイが何かに気づきました」

 

 ナミさんの肩から机に降りていたイーブイの耳がピンと伸びる。それと同時にナミさんが私を床に降ろして椅子から立ち上がり、慌ただしく出ていく。イーブイが気づくより先に多分ナミさんも気づいていた。慌ただしく出て行ったナミさんが隣の研究所っぽい建物の中に入っていく。するとこれまた慌ただしくご老人たちがその建物から出てきて方々に散って、おそらく自宅と思われる場所でサイクロンに備えて準備をしていた。

 

「アンタたちも手伝って!窓の外のシャッターを閉めるのよ!」

 

「お、おう!わかった!」

 

 急いで戻ってきたナミさんが号令で私たちはせかせか動いて借家の窓の外についている鉄製っぽいシャッターを下ろしていく。そうして全てのシャッターを閉じてようやく、ナミさんが家に入ってきて玄関についているシャッターを上からがっちゃん!と重そうに閉めて一息ついた。そしてそれから5分経たずに、ピシャア!ザザザザ……!と雷と雨の音、そして吹きすさぶ風の音が外から聞こえてくる。

 

「へぇ、やるじゃねえか。今のは俺にゃわからんかったよい」

 

「そうね、私もギリギリだったわ。でも……イーブイっていったかしら?その子は気づいてたよね」

 

「そうですね、イーブイは敏感なので」

 

 イーブイがサイクロンに気づいたのには勿論理由がある。その理由というのは簡単で、イーブイは細胞レベルで周囲の環境に敏感だからだ。私のイーブイは何故か進化をかたくなに拒否しているけれども、本来のイーブイはちょっとしたことで進化してしまうほど細胞の構造が弱い。夜の光や日の光、コケの粒子、極低温、進化の石はいうに及ばず……本当にちょっとしたことで進化してしまうのだ。

 

 だからイーブイを持つトレーナーは平時かわらずの石をイーブイに持たせて進化するのを防いでいるのが一般常識になっている。イーブイのブリーダーなんかにはよく知られた知識だ。それを逆手にとってのお天気予報、それがさっきのイーブイがサイクロンの到来を予測できた理由。

 

 ちょっとした気温、気圧の変化を細胞で感じ取り、どう転ぶかまでは分からないけど危ない天気になりそうなら教えてくれるようになった。といってもナミさんのように、こうなったらこの天気になる、というのまで分からなくて危ないから避難しようよ!と教えてくれるのが関の山なんだけどね。それでも結構助かっているんだ。

 

「そうなのね……凄いわ、それ。私は経験則で判断しているけど、体が天気を教えてくれるだなんて」

 

「ぶいっ!」

 

「ふふっ、毛並みがいいわね貴方」

 

「でしょう!?イーブイの毛並みは私の自慢の一つなんですよ!もふもふのふわふわ!チルタリスにも負けません!」

 

「ぶぶいっ!」

 

 褒められたことは分かっているのだろう。イーブイはナミさんに向かって胸を張ると、褒めて褒めてとその体を駆け上ってアピールする。それに苦笑したナミさんははいはいとイーブイをわしゃわしゃしている。イーブイはそれがさぞ気持ちがいいらしくてまるでニャルマーのように喉を鳴らしていた。そうしていると、きゅう、と私のお腹が鳴る。エースさんの爆笑とマルコさんの笑いを我慢する声がそれに続き、私は真っ赤になった。

 

「い、いいじゃないですかお腹空いたんですっ!」

 

「ああ、悪い事じゃねえよい。笑って悪かったって殴るな殴るな」

 

「ふふ、いいわ。折角だし私が腕を振るうわよ」

 

「え、ナミさんの料理って有料……」

 

 ナミさんがイーブイを肩に乗せたまま腕に腰をあてて宣言する。ウソップさんに聞いた話なんだけどナミさんに家事をさせると全部有料になるってきいたよ!?どうしよう、ナミさんベリー大好きだからなあ……私は今後の冒険資金の兼ね合いも考えていくらまでなら出せるかを脳内電卓に入力してるとナミさんがぶすッとした顔で、私のほっぺを両側から手で挟む。

 

「バカね、折角会えたのよ?そんな無粋なことは言わないわ!久しぶりに、一緒にご飯食べましょ?」

 

「はいっ!」

 

 ナミさんの言葉に私は笑顔でそう返すのだった。

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