東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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フェニックス再誕

 

「…………ただいま」

 

こうして私は竹林にある自宅へと戻ってきた。

私にはオオバや慧音とは違って、これといった仕事はない。強いて言えば竹林の案内人程度か。ニートと言われるかもしれないのは癪だが、決して言い返せることもない。

まぁ、私は飲まず食わずでも生きていけるから、正直収入なんてどうでもいいんだけどな。

1000年もの間、そういう生活を送ってきていたんだからな。

私がこの1000年で生きていた…………いや、【活きていた】時間は、合計しても数年程度。

 

私が藤原妹紅として輝いて居られる時間は、月の明るい真夜中だけだ。

あの間だけ、私はこの不死の命を燃やすことができる。命に焔を灯すことができる。

 

 

 

私は不死。老いることも死ぬこともない。

私は不時。行く先もなく、行く末もない。

私は不治。もう二度と私に戻れはしない。

私は不仁。あの1000年に意味はなかった。

私は富士。灼熱を爆発させる時に輝く者。

 

私は藤─────私は、不死鳥だ。

 

 

 

 

 

火の鳥の生きるこの世界は何もかもがつまらない。あの日から藤原妹紅は人との関わりを完全に絶った。

里へは行かない、竹林から出ない。

私は、不死の一生使いきってでも、【あの姫】を除いて誰一人と関わりを持ちたくなかった。

 

私の過去を知られたら、どうなるかわからないから。

とても信じがたい身の上を、馬鹿馬鹿しいと罵られるのが怖かったから。

お伽噺だ、と蔑まれるのが厭だったから。

夢を見るな、と咎められるのが辛かったから。

 

 

 

「─────────」

 

でも、そんな私を変えてくれる人が現れたのだ。

日々、何もせず眠りこけ、月の明るい日の殺し合いだけに興じる灼熱の怪物に、難なく近付いてきた愚かな女を良く覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は、遠い昔に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────────大丈夫か?」

 

私は、不思議な音声を聴いて、一体何年ぶりか、昼間に目覚めた。

 

「─────────死ね」

 

敵襲、抹殺すべしと。私は相手の顔も見ずに全力で灼熱の弾幕を放った。

私と同じ不老不死の相手にだから使えた、「生き物を焼き殺す弾幕」。

生命には耐えられない灼熱の弾幕。あの太陽よりも熱く念じた、活火山の焔そのものを容赦なくけしかけた。

 

 

 

「────────む」

 

 

 

─────そこで私は、ようやく意識を取り戻した。

昼に起きるのは何年ぶりかだからか、太陽が眩しすぎて目覚められなかったのだろう。

何年ぶりかの晴天を仰いで、烏の鳴き声を聴いて、肌に涼しい風を感じていた私は、今一度、辺り周辺を見渡してみる。

 

 

──────しかし、そこは一言で、地獄と言えるものだった。

 

 

辺り一面が炎上している。

私が身を潜めていた小屋も、周辺の竹林も、地面すらも燃えていた。

 

 

「──────────はん」

 

 

なんだ、いつもの光景だ。

私が弾幕勝負(ころしあい)をした後に限ってよくこうなる。

だが、私は見てしまった。

─────私が殺し合いで使う弾幕が焼き尽くした野原に倒れ伏す、

 

 

 

 

 

一人の人間を。

 

 

 

 

 

「お、おい………………?」

 

 

 

嘘だ、

 

 

 

「どうしたんだよ、おい」

 

 

 

そんな、

 

 

 

「おい、なんか言ってくれよ…………」

 

 

 

どうして、

 

 

 

「なぁ────────!!!!」

 

 

 

私は、

 

 

 

「起きてくれよ──────!!!!!」

 

 

 

また同じ罪を犯してしまったのだろう。

 

 

 

お前が殺したんだ、私が殺したんだ。

 

私が殺した。この人を殺した。

 

罪もない人の命を奪ったのはこの私だ。

 

私に気を遣ってくれた優しい人を焼き殺したのは、この私だ────!!!

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

私の目の前が真っ赤になる。

 

私は、こんな光景を見たことがあった。

 

けれど、これは違う。

 

ここには、正義も秩序もない。

 

あるのは、そこの罪と死だけだ。

 

 

 

 

 

「妹紅!どうしたの!?」

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「大丈夫なの!?妹紅!?落ち着いて!妹紅ってば!!」

 

 

 

何も、何も聴こえない。

誰かの声が聴こえる気がする。なのにどうして、私は……………!!!

 

 

 

 

 

「また、殺して──────」

 

 

 

大声を出しすぎて頭に血が昇ったのか、私はそのまま炎の床で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────────あ」

 

目覚めたら、私は布団で眠っていた。

 

 

 

「目が覚めた?」

 

畳の上に、黒髪の女が座っていた。

嫌と言うほどその顔は知っている。

私が不死の1000年掛けて憎い、【あの姫】。

 

 

 

「なんで、お前がここに」

 

「当たり前じゃない、ここは永遠亭だもの」

 

「はぁッ!?」

 

私はよりにもよってコイツの住む邸宅の一室で眠っていたのだ。

 

「なんの真似だ、何がしたいんだお前は!」

 

「せっかく助けてあげたのに酷いじゃない。急に貴女の叫び声がしたから、そっちの方向に行ってみたら、辺り一面燃えていて、貴女はそこで発狂していたじゃない」

 

「───────────」

 

そうか、あそこで我を失った私に声を掛けていたのは、コイツだったのか。

 

「ところで、何があったのよ。発狂した貴女の横で、一人の女の人が倒れていたわよ」

 

「─────────私は、やってしまったんだ」

 

私は、また同じ罪を犯してしまった。

 

「───────そう」

 

黒髪の女は、それ以降この件に関しては何も言わなくなった。

くだらない愚痴話で盛り上がりながらお菓子ばっかり食べていた。

 

「───────姫」

 

部屋にまた別の女が入ってきた。

背が高く、赤と青の特徴的な服装だ。

あぁ、確かコイツの従者か何かだったな。

 

「永琳、どうだった?」

 

「重体だけど、なんとか一命は取り留めたわ」

 

一見して女医と言った風体の女は穏やかな笑顔で嬉しそうにしていた。

 

「ちょ、永琳さん!搬送したのは俺とウドンゲさんだったんですからね!?なに全部自分の手柄みたいに報告してるんですか!」

 

奥から、頭にバンダナを巻いてその上から竹編みの籠を被った青年が出てきた。

永琳と呼ばれた女の助手かなんかだろうか。

 

「えぇ、そうね。貴方たちのお陰でもあるわ。まぁ、これもすべて第一目撃者の姫のお陰よ。姫が気紛れを起こして外出しなかったら、助からなかったかもしれないわ」

 

「引き籠………おほん、永琳さんとの時間を大切にする姫さまが外に出るなんて、奇跡みたいなもんですね」

 

陽射しが苦手なのだろうか、この青年は。

そんなに色々するぐらいなら、広めの三度笠でも被ればいいのに。

私は布団の横に置いてあった、私の私物の笠に目をやりながら思う。

最低限の持ち物は搬送する際に持ってきてくれたのだろう。三度笠…………私も持っていたのか。私、昼間は外に出ないからこれ要らないんだけどな。

 

「よかったじゃない妹紅。死神に嫌われているせいで助かっちゃったわね」

 

「え、それってどういう」

 

「─────ついてきて」

 

永琳という女は私に私物を持っていくように言うと竹籠を被った青年と一緒に部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオバ、私は他の患者の健康確認をしてくるから、案内を頼むわ」

 

「はい!了解です、永琳さん!」

 

オオバ?そんな名前の男なのか。

永琳が病棟の廊下を途中で左折していったので、ここから正面に向かうルートは私とこの男だけになる。

 

 

 

「──────お前はいつもそれ被っているのか?」

 

今になって思えば、私とあいつの会話は、これが初めてだった。

始まりは、私が彼に掛けたなんでもない疑問だった。

 

「うん、事情があってね。日の光と月の光は苦手なんだ」

 

友好的な雰囲気のする男だ。

いまだに気持ちの整理がつかない私を少しでも安心させてくれる。

 

「見にくくないのか、それ」

 

「うん。すんごい見づらい」

 

いや、真顔で応と言われても。

 

「もっとマシなの買わないのか」

 

「そうしたいけど、生憎と生まれつきの金欠病なんでね」

 

青年はそんな現状でありながらも楽しそうにニコニコしている。

 

「──────────」

 

私は、自分の小脇に挟んでいた三度笠に目をやる。

この笠、私には荷物だし、要らないし、被るには大きすぎる。よりにもよって搬送される際に持ってこられたせいで始末に困っていたんだが……………

 

「─────────」

 

私は黙って三度笠を差し出した。

 

「───────うん?」

 

ニコニコしたまま首を傾げてくる。

なんだコイツ、いちいち言わないとわからないのかよ。

 

「だからぁ、コレ要らないのかって訊いているんだよ」

 

「要らないよそりゃあ。君の持ち物なんだから」

 

「はぁ─────要らないからやるよこれ」

 

「え?」

 

青年は余計首を傾げる。

 

「私には要らないからお前に押し付けてやるって言ってんだよ!」

 

「なんでさ、じゃあ最初から俺じゃなくて姫さまと一緒に居たときに押し付ければよかったのに」

 

クソッ、コイツ嫌いだわ私。

嘘を付いたら話を聞いてくれない。

嘘も方便とか言ったやつマジで誰だ。

 

「……………お前が、困ってそうだったから、あげるよ、コレ」

 

恥ずかしくて、青年の顔を見れなかった。

別に、友達でもなんでもないのに、初対面の相手に優しくするなんて、その…………癪だったからな。

人間との関わりかたなんて、忘れてしまったし。

 

「なぁんだ、そういうことならそうと言ってくれればいいのに。ホントにくれるの?」

 

「本気に決まってるだろ、いちいち面倒だなぁ!」

 

「ホントに!?ありがとう!!白状するとさ、俺もこれ羨ましいと思ってたんだよねー!」

 

素直なことしか聞いてくれない代わりに、素直に嬉しそうにするやつだ。

大急ぎで竹籠を脱ぐと、布の上から三度笠を被って、そのまま頭の風呂敷を剥ぎ取った。

 

「やぁー!頭が軽くて楽だなぁ!籠を被っていると首が凝るんだけど、こっちは楽だ!しかも視界がクリアで笠自体も広いし!便利だなぁ」

 

まぁ、見栄え的にもそっちのほうがいいだろう。

 

「そうかい、そら結構」

 

「本当にありがとう!優しいんだね、君」

 

「──────別に、その籠だと私が目障りに思ってただけだよ。要らないモノを要るやつに押し付けれたんなら、こっちも儲けもんだし」

 

藤原妹紅がこの日に生まれ変わって初めて関わった人間は、この意味のわからない三度笠野郎だった。

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