東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
むかーしむかし。あるところに「ちからもちのてんぐ」と「あたまがいいてんぐ」がすんでいました。
ふたりはちいさなときからずっとずーっとなかよしでした。
いつもいっしょにあそんでいました。
ちからもちのてんぐはあたまがいいてんぐがもてないものをもってあげました。
あたまがいいてんぐはちからもちのてんぐがしらないことをおしえていました。
ふたりがおおきくなったあるひ、ふたりはてんぐのおうさまになりました。
ちからもちのてんぐはちからもちななかまたちがたくさんいるくにを、
あたまがいいてんぐはあたまがいいなかまたちがたくさんいるくにを、
それぞれのくにをつくって、なかまたちからそんけいされていました。
そんなあるとき、とおくのくにでせんそうがおこりました。
ちからもちのてんぐはみんなをまもるためにたたかいにいきました。
あたまがいいてんぐはみんなをまもるためにたたかいませんでした。
ちからもちのてんぐのおうさまは、たくさんのなかまをうしないました。
あたまがいいてんぐのおうさまは、だれもひとりうしないませんでした。
そして──────
ふたりのおうさまはあるひとつぜん、あわなくなりました。
そのまま、なんぜんねんというときがたち…………
このふたりは、まだあえないままでしたとさ。
「大天狗様〜」
「むっ!」
大天狗、飯綱丸龍は射命丸文に呼びかけられて瞑想から目覚めた。
──────瞑想といいつつ……………布団にくるまっているが。
「ん〜、あと5分だけー。いいだろー、寒い」
「ダメですよ。今日は鞍馬天狗の集落に向かうんでしょう?青葉さんたちはみんな準備できています。準備どころか起きてないの大天狗様だけですよ………」
「ん…………あとから行く…………先行ってて…………」
「あのですねぇ…………」
どうもだらしない様子の大天狗を見てため息をつく文。
「…………なぁなぁ、文」
「はいなんでしょう」
「動画切れ…………私の寝坊姿をばら撒いたら三脚殴打千本だ」
「ゲッ…………バレてましたか…………」
「それより…………百鬼丸はどうすると思う?」
「百鬼丸様ですか?………すみません、私百鬼丸様にお会いしたことがないんですよね」
「そうか………まだ私と百鬼丸が仲良かった頃は文はまだまだ子供だったわね………」
飯綱丸は布団からぬるぬると起き上がると爆発に巻き込まれたような寝グセも直さず全裸で頭巾だけ被って三脚持って下駄履いて部屋を出る。
完全に寝ぼけているようだ。
そんなだから朝寒くて起きれないのは当たり前。
「飯綱丸様〜、そんなあられもないお姿では風邪をひかれてしまいます上、スクープ取られちゃいますよ♡」
菅巻典が毛布で優しく飯綱丸をくるむがもう遅い。
4連続のシャッター音が2方向から鳴り響いた。
「やったわ!大天狗様の寝起きヌード写真、捉えちゃった〜!」
「あややー!今のは私が先に撮ったのにぃ………!これは私のスクープです!何より大天狗様の裸を拝んだのは私のほうが先でしょう!」
はたてと文が前頭部をすり合わせてバチバチしている。
「…………ならばっ、私が先に記事にしてやりますよーだ!」
「ちょっ!?待ちなさいよー!そんなの反則!」
「待てぃ、文はたてお前らー!!!!!」
飯綱丸は毛布を飛び出てすんごい格好でふたりの記者を追い回す。
「ぎぇぇぇぇ!!!なんか来ましたー!!!」
「二人で逃げるわよ、売上山分けで手を打ってあげる!」
「あやっ!承りましたよはたて!」
「おい椛!そいつら押し倒せ!」
飯綱丸が文とはたてが走る廊下の先に呼びかける。
滑り込むように白色の狼のような天狗が部下を連れて二人の前に現れた。
「お二人とも、またやりましたね!?今度という今度は覚悟しなさい!」
「警備員です!はたて、どうします!?」
「あんたの自慢の速さで突っ切りなさい!警備員ぐらい体当たりで吹っ飛ばせるでしょう!」
「ガルルルル……………ウォォォォォォン!!!!」
目にも留まらぬ狼の疾走。
手にした鉈と盾を放り捨て、四足歩行で駆け出す狼のような女の体当たりが二人を真っ向からなぎ倒す。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
体当たりではね飛ばされた文とはたては無惨に地面に叩きつけられて再起不能になってしまった。
「まったく…………何度も懲りずに破廉恥な記事を書こうとするものですね…………お二人とも、お宝スクープも結構ですが、普通に犯罪の領域ですよそれ」
「でかしたぞ椛、これで安心して河童班を任せられるよ」
「はッ!!」
「さて、お前らはちょっとこっちに来い」
二人の襟を掴んで全裸の飯綱丸は廊下の向こうへと凄まじいスピードで消えていった。
「いや、今服着てくださいよ…………」
「飯綱丸様ー、どこへ行かれるのですかー」
「─────あっ…………ここは、」
気がついたら俺は、森の真ん中に立たされていた。
木の葉の間から月光が差し込む夜。
森の地面は石畳でできており、周囲には破壊された城壁のような石壁の跡。
…………まるで、古代の遺跡にいるようだった。
この…………まるで神木のように巨大な木は………
「…………楓か?」
闇夜をかすかに照らす光のおかげで、俺はこの地の情景を目にできる。
この街………いや、街だったかもわからないこの場所は………どこだ。
ひどく見覚えがあるようで、同時に、初めて見るような気もする。
この気持ちが悪い、ぬるい空気の熱。この不愉快な生暖かさは、初めてじゃないような。
「温泉旅行、随分と呑気に楽しんでいるようじゃないか、」
「…………!?」
向こうの木の下に、誰かいる。
周囲を雲まで突き抜けるほどの高い無数の木に囲まれた楓の森の中、その中にただ一つ、ひときわ背の高く、幹の太いものがあった。
その木の幹の周囲には、注連縄のような太い縄が一周に張られていた。
その木の下、一つある祭壇。
数段ほどの石の階段の先にある石板の上に、その男は座っていた。
細長い2本の角、狩衣と道士服の間を取ったようなシンプルでかつ荘厳そうな衣装。
薄緑色の髪に煌々ときらめく赤い瞳。
そして…………貼り付けたような醜悪な笑み。
ワーハクタク、神門青葉がそこにいる。
「お前は…………」
「たかが刀の一本に、ここまでの危険を背負うとは、相変わらず物好きな男だな」
神門青葉の姿をした男は、胡座の膝に頬杖つくその右手の横に浮かんでいる不思議な玉をいじりながらそう言う。
その玉は見覚えのない物体だった。人間の頭よりわずかに大きい謎の球。
水晶のようなものだろうか………自由自在に宙を漂う不思議な玉だ。
初めて見るようで、どこか親近感のようなものを感じるようで。一体、これは…………
「同じ自分に何を言っているんだ。ここはどこだ、」
「ふむ…………これはただの悪夢………場所で言うのなら、お前の心象世界といったところか?」
「はぁっ?」
「お前、という心はまさにこの場所のようなものだということだよ。記憶にないのならわからんで結構だ」
「お前、何を知っている。お前は何者だ、」
「俺は神門青葉の切り捨てた部分の残留思念………いわば【お前が使っていない部分】だ」
俺は黙って腰の刀に手をかける。
俺の姿をしたモノは、それを笑って見ていた。
「そう身構えるなよ。夢の中で自分と戦闘をしても何も起こるまい。俺にあるのはお前に欠如している部分、抑圧している部分、そして忘却している部分。つまり、お前から見た【正気でない場所】だ」
「俺に………欠けているもの………?」
「そうだ。『暴食』、『色欲』、『強欲』、『怠惰』、『憤怒』、『嫉妬』、『傲慢』………言ってしまえば地上の穢れそのもの。依姫や豊姫をはじめその他多くの月の民が嫌うもの」
「………依ねぇとトヨさんを呼び捨てにするな。彼女たちは俺の姉さんだ。たとえ俺自身が相手でも、蔑ろにするような扱いをするのは………絶対に許さない」
「おぉ、怖い怖い。………幻想郷では数少ない外国の文献を読める人物であるお前になら分かるだろうが、これらは外の世界で『七つの大罪』とも呼ばれている。それに対して………今のお前を構成している、大罪者である俺とは真逆の気質………これらは『七つの美徳』と言われる。『節制』、『純潔』、『慈善』、『勤勉』、『寛容』、『忍耐』、『謙虚』。まさにお前を体現したような素敵な言葉ばかりだ。そう思わないか?」
「…………何が言いたい、」
「今のお前はまだ不完全だということだ。人間も妖怪も、必ず善と悪の両方の心を抱えている。なぜなら、善とは悪を兼ねるものだからだ。『思いやり』はときに『お節介』と化す。お前にも、善があるように悪がある。秩序と善の方向へ気質が傾くお前に対して、俺は混沌や悪の方向へ気質が向く。善と悪を両立させることができない者は、いずれなりとも暴走する」
「…………俺は、わざわざ選んでまで悪に成り下がるつもりはない」
「はぁ…………俺はお前を悪人へと堕落させたい訳ではない。お前を止めてやろうとしているだけだ。お前は善だ…………だが、善の方向にも暴走の概念は存在する。たとえ善性であろうと、一度暴走してしまえばそれは紛れもない悪性と化す。お前、ハクタクの王様に消されるぞ」
「…………………………………………」
「今に見ているがいい。そのまま生きていけばお前はいつか、この幻想郷………いや、世界そのものを嫌うだろう。そうすればお前は気づくはずだ。自分がどれほど浅はかで、愚かな生き方をしていたかをな。無垢とは無知であり、無知は罪だ。知らぬほうが幸せなこともあるが………お前は、間違いなく破滅へと向かっている」
「──────知ったような口を………!」
「自分の正体も、自分が何者なのかも、自分の過去も丸ごと失ったお前なぞにはわかるまい…………ちなみに、俺は神門青葉ではないし、ハクタク化したお前でもない」
「な、なんだと…………!?」
「安心しろ、ハクタク化したお前は俺よりもずっと
そこの謎の男はそう言って、こちらへの興味が完全に失せたと見られる、冷めきった顔でパチンと指を鳴らすと、俺はこの悪夢の外へと追い出された。
準備完了。集合時間から実に50分が経過した現在。私たちはなかなか現れない飯綱丸様が気がかりになって文とはたてと椛を飛ばしたがそのままさらに10分。約束の時間を1時間も過ぎた結果、ついに青葉がしびれを切らして「様子見に行こう」と言い出した。
「集合場所からうちらが勝手に動きゃ、よけいにはぐれやすくなるべ」
というネムノ派の意見と、
「彼女ら使えないので私らで先に行こうか」という太夫派の意見と、
「もうめんどいし帰らねぇか………?」という妹紅派の意見、
「少なくとも絶対にはたてちゃんと椛ちゃんだけは待つぞ」
という安曇派の意見、
「心配だから様子を見に行こう」という青葉の意見。
色々と対立するなかで私はとりあえず河童組だけ先に行かせて青葉に文たちの様子を見に行かせ、椛とはたてにはあとから合流させるという行動を取った。
呆れた様子でネムノと太夫と安曇は河童のいそうな川を目指して先に行った。
私らはげっそりとした顔で立ち尽くしていた。
今朝、あんな感じの次の日で4時30分起き。
そのまま5時に集合のはずが6時になったのだ。
流石に飯綱丸様が何をやっているのか気になる。
まさか寝坊のはずがないとは信じているが。
「大天狗様の部屋って、ここだっけ」
青葉は廊下の突き当たりにある障子に目をやる。
障子に対してノックをするという行為はあまりない。永遠亭で過ごしている間でも青葉にはそういう文化がなかった。襖はスッ、と開けるものだ。
そんなわけで呼びかけもせずにバッ、と襖を両手で全開した。
慧音たちは飯綱丸が寝坊していたと思っている。しかし、ただ一人、人を疑う心のない青葉は飯綱丸に本当にただならぬ事が起きたと思い込んでいたらしい。
そんな彼を様子見役に選んだのは完全に慧音のミスだがすでに遅い。
「大天狗様!大丈夫ですか!」
冷や汗を流しながらバン、と障子を開いた青葉。
その先にいたのは──────
「えーっと、俺たち何をしようとしていたんだっけ慧音さん」
「へ?どうしたんだ急に」
私と妹紅と一千子は顔を合わせる。
「いや…………どうもここ5分ぐらいの記憶がなくて…………」
「きっと頭でも打ったんだわさ。気にすんな、今からわかるさね」
「さて!メンバーも集まったことだし向かうとしようか!鞍馬天狗の集落へ!」
「はい、行きましょう!」
青葉が襖を開けた先には全裸で土下座している文とはたての二人と、それを三脚でバシバシ殴ってる全裸の飯綱丸だった。
わけの分からない状況を目に収めて処理が追いつかずに停止していた青葉は直後、慌てて冷や汗を流した飯綱丸に三脚で頭部を殴打され、数分間の記憶を失ったらしい。
射命丸 文(しゃめいまる あや)
烏天狗の新聞記者であり、幻想郷の一大新聞、「文々。新聞」の刊行を行っている。
人当たりが良く、礼儀も正しい働き者。
ただしいつも張り切りすぎるのが玉に瑕で、お宝スクープを狙うあまりプライバシー侵害や誇大広告、強制取材にアポなし潜入捜査、果ては虚偽編集までも平然と行う問題児。
幻想郷で最も飛行速度の速い俊足とも呼ばれており、風来坊のごとくどこへでも現れてどこへでも消えていく風のブン屋。
妖怪の山で起こる事件を解決すべく青葉たちに協力するがその真意はそう、青葉の英雄譚と事件の全容を独占取材するためである。
姫海棠 はたて(ひめかいどう はたて)
烏天狗の新聞記者。文々。新聞に並ぶ一大新聞「花果子念報」の編集者。
俊足を生かしてどこへでも駆けつける突撃取材特化の文がジャーナリストなら、こちらは誰も知らぬ間に現れては誰にも気づかれずにスクープを撮るパパラッチ。
文と比べると天狗感はやや薄いが幼なじみであり永遠のライバルでもある。
妖怪の山を揺るがす大事件に関するスクープを文に独占させまいと青葉たちに協力してくれる。
若干物言いがキツいところがあるがライバルの文であろうと困ってる姿は見過ごせない心優しい女子である。
犬走 椛(いぬばしり もみじ)
天狗の集落および妖怪の山の哨戒任務を担当する白狼天狗であり、立場的には烏天狗である文やはたてよりもずっと下。
しかし才能を買われているという面と、文やはたての旧知であるという面もあって、2人とはよく共に行動する。
働き者だが、残り2人と違って公序良俗に反するような事はしない生真面目で忠実な性格。
仕事中はいかなる悪をも通さない鉄壁の守りを見せるが、プライベートはガバガバ。暇な時は趣味で知り合いたちと将棋を指している。
あくまで哨戒隊の任務として青葉たちの事件解決に同行するがそこには文とはたてのハメ外し……もとい、身の危険を案じた彼女の意志でもある。