東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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ウェルカム・トゥ・鞍馬城塞都市『常磐(ときわ)

 

 

 

そして私、上白沢慧音をはじめとする鞍馬天狗調査班は厳しい山道を歩き抜き、だんだんと切り開かれた土地へやってきた。

 

 

 

「ところで文さん。百鬼丸の治める集落は、どんなところなの?」

 

青葉が歩きながら、文に質問をした。

 

「さて………どんな所でしょうね………私も何度か取材を試みたんですが、弓矢で迎撃されて自慢の羽を何度も散らされましたよ………」

 

「要は危険地帯ってことさね………」

 

「大天狗様はご存知なんですか?」

 

今度は文のほうから一番後ろを悠々と歩く飯綱丸に訊く。

 

「百鬼丸の集落、ねぇ…………何千年ぶりやら…………」

 

「何千年………大天狗様はどれぐらい前から生きているんですか?」

 

私や青葉にとっては千年という寿命はイマイチわからない。

 

「文ですら軽く数千年は生きているよ。私なんてもっと古くからこの幻想郷に住んでいる。少なくとも月面戦争が始まった時点では、私はすでに烏天狗の大将だった。────百鬼丸もそうだった」

 

飯綱丸は険しい崖道を歩きながら崖の奥に見える秋の森を眺めていた。

数千年と踏み込んでいない土地にくれば、懐かしい景色があるのか。

 

「昨日話した通り百鬼丸の本名は「常磐百鬼丸繰経」と言ってな。本来は百鬼丸繰経という名前だが…………「常磐國」と名付けられたこの集落を治めるにあたって、官職名として彼女には常磐の(かばね)が名付けられた。昔の彼女は、現在の私をも優に上回る情熱と快活さを持っていたなぁ…………文らが生まれる前………私たちがまだ小さかった頃はよくふたりで一緒に遊んだものだ…………あれから4桁にも及ぶ歳月が過ぎたというのに………この景色は変わらないわね」

 

「そんなに大昔から百鬼丸とは仲が良かったんですか」

 

「……………………さて。そろそろ着くが、いったん全員止まれ」

 

 

飯綱丸はピタリと脚を止める。

それにならって私たちも歩を止める。

 

 

「百鬼丸は戦の達人だ。それゆえ、彼女の治める国は防衛に長けている。私は昨夜、彼女に手紙を送ったが返事はない。おそらく、私たちと仲良くする気は向こうにはないらしい。この意味がわかるか?」

 

「えーっと…………鞍馬天狗は今、俺たちに備えて守りを固めている………?」

 

「そう。つまり、この先はいつどこにどんな罠があるかわからない、ということよ。ここから先は鞍馬天狗のテリトリー。ここから先、一歩でも踏み込めば私たちは領域侵犯。向こうが攻撃してくるには十分すぎる理由になる、どうなっても向こうの知ったことではないわけだ」

 

 

「で…………どうするんだ?私たちは空を飛べばいいが、慧音やオオバや一千子は飛べないだろ?誰かが担いでいくしかなくないか?」

 

「私は飛べるさ。風の妖怪だからな」

 

「空からの侵入は一番の愚策だぞ妹紅。堂々と正門から向かわないと。私たちは戦うわけではない。少しでも怪しい様子を見せれば話を聞いてもらえなくなる。可能な限り堂々としなければ」

 

「慧音の言う通りだ。つまり、私たちはこの道を堂々と歩く!それ以外に道はない!」

 

「え?でも、この道には罠があるかもしれないんでしょう?」

 

「そうだ!だから、今から私たちは罠をグレイズしていかなければならない!」

 

「ホエー…………」

 

オオバが白一色に固まっている。

弾幕経験が唯一存在しない彼にはもはやグレイズの概念も怪しい。

彼は剣術家。どちらかというと「受け流す」に長けている。

避けるというのは…………

 

 

「と、とにかく………俺最後でいいかな?レディファーストって言うし………」

 

「さぁさぁ青葉、行った行った!まずは男手のお前から様子見といこう!」

 

バシィンと飯綱丸は青葉の背中を叩くと青葉は凄い嫌そうに先を進みだした。

5歩歩いて模造刀で白杖のように周囲をつつく。

 

「はぁ……………大丈夫ですよ、」

 

「こんな感じで、5歩ずつ進んでいけばいい」

 

「こんなんじゃ明日の夕方になっても着けませんよ〜…………」

 

「完全に阿呆だわさ………」

 

「はっはっは!大丈夫だ!慣れればスピードも上がる!こんなふうにな!」

 

飯綱丸は調子に乗ってどんどん先へ進んでは三脚の脚で周囲をつついて罠の確認をしていく。

 

─────つもりだった。

 

飯綱丸が調子に乗って先へ進んだその一歩。

彼女の右脚は周りよりも深く地面に沈んだ。

 

「おや?なにか踏んだかな?」

 

「は!?」

 

青葉が真っ青な顔で飯綱丸を見る。

 

「─────なんか揺れてないか?」

 

明らかに罠のスイッチと思われる箇所に飯綱丸は突っ立ってる。

 

「ばか!バカモン、このバカ大将が!敵の罠のボタン長押ししてどうするのさ!」

 

「やっぱりそうであったかー」

 

「阿呆!なにやってんのさ!これで敵にバレたらどうするつも………」

 

「ちょっとちょっと皆さん緊急事態です!後ろから大岩が転がってきてますよ────!?」

 

 

 

全員で後ろを振り向くと、なんと高さ7メートル超えの超巨大な大岩が物凄いスピードで転がってきた。

 

 

「に、逃げろ!潰されるぞ!!!」

 

飯綱丸は誰よりも速く逃げ始める。

その行く先々でその長い脚で地面を踏みまくる度に、カチカチカチカチカチカチとボタンを踏む音がする。

 

 

「大天狗様!罠のスイッチ踏みまくってます!」

 

 

「うわっ!前から車が!」

 

 

「「「 わ゙ーーーーっ!!!! 」」」

 

 

前から飛んできた3台の荷車を飛び退いてかわした私たちだったがその荷台には大量の樽が積んであった。

岩に当たって砕けた台車から樽がこぼれてこちらへ転がってくる。

 

 

「あの樽の中身、火薬の匂いだ!逃げろー!」

 

飯綱丸はさらに速い脚で逃げるがその往く先々でボタンを踏みまくる。

 

 

「地面から針が生えましたよー!」

「横から巨大な棘鉄球が飛んできてる!」

「おい、左右から火矢が放たれてるぞ!」

「空から大量の丸太が降ってきてるさ!」

「さっきの樽が爆発したぁぁぁ!?」

 

 

飯綱丸一人の脚で30個以上のトラップが一斉に作動する。

命からがら次々と飛んでくる罠の嵐を精一杯かわしていく私たちだが、弾幕経験がない青葉がついていけてない。

 

「止まるんだ飯綱丸!」

 

「止まったらどうなると思う!罠に巻き込まれるぞー!!!」

 

「せめて低空で飛んでください!!!」

 

「あそっかそうすればいいんだ」

 

文の指示に頷いて飯綱丸は低空飛行をする。

これで現在作動したもの以外にトラップは動かない!

あとは青葉の体力が…………

 

「オオバ!大丈夫か!」

 

「俺は大丈夫…………あっ!妹紅危ない!」

 

「は?」

 

妹紅の横の木々の隙間から紐で吊るされた丸太が横殴りに飛んできた。

 

「しまった、気が付か………」

 

「うぬっ………ぅぅぅ!!!」

 

すんでのところで青葉が妹紅を抱きしめ、ギリギリの回避を見せる。

 

 

「見事だわさ、青葉!」

 

「うぉぉぉぉぉ!!!迷いの竹林のお硬い女性が男の人と抱きしめ合っています!」

 

文、この状況で平然とシャッターを切るな。

 

 

「妹紅!大丈夫!?」

 

「わかった!わかったから離せ!ヘンな写真撮られてるって!」

 

「青葉さん!妹紅さんの足元から針が生えて来ます!」

 

「妹紅、危ない!!!」

 

妹紅を抱いた状態で青葉は背中を逸らす。

妹紅の股下を刃がギリギリで通り抜ける。

 

「青葉さん!今度はあなたの方に丸太が降ってきます!」

 

「危なぁい!!!」

 

その状態から勢いよく立ち上がる。

青葉は鮮やかに丸太を回避した。

 

「は、離せお前!ずっと撮られてるんだよ!」

 

「青葉さん!妹紅さん!丸太が2本飛んできます!2人で間に入って避けないとペシャンコです!」

 

「妹紅危ない!!!」

 

さらに青葉は一層強く妹紅を抱きしめ、1つに重なるほどに密着して2人それぞれの背中めがけて飛んできた丸太を避けた。

 

「ううっ………オオバお前………いい加減に…………」

 

「青葉さん!妹紅さん!2人の真上から巨大な鉄の刃が降ってきます!避けてください!」

 

 

「妹紅、危なぁぁぁぁい!!!!!」

 

青葉は抱いていた妹紅を突き放すと両手で妹紅の胸をがっつりと掴んで押さえた状態で突き飛ばすように距離を離す。

青葉の胴体と妹紅の胴体の間に刃が降ってくる。

横の座標は見事な回避。縦の座標もなんとか青葉の両腕の間を通り抜けた。

 

 

 

「ふぃー、危なかった……………」

 

青葉は安堵しきったため息をつく。

一方の妹紅は俯いた状態で黙っている。顔が見えないがとんでもないことになってそうだ。

 

 

「うぉぉぉぉっ!!!こんなえっちぃ1枚を収めてもいいんでしょうか………!大天狗様!これは思いがけないスクープですよ!」

 

「でかしたぞ文!抜かりも遅れも根も葉もないスクープをばらまいて大儲けしてやれ!男どもはえっちぃ週刊誌とか写真集が大好きだからな!発行部数はいつもの6割増しでばらまけ!紙不足的な適当なウソをうたって新聞の値上げもやるんだ!このエ◯写真で大儲けするぞーっ!」

 

 

「いや、根も葉もないは駄目だろう!?」

「お前らいい加減にしなァ!?」

 

 

 

「………………オオバ」

 

「ん?どうしたのもこ……ドブェッ!?」

 

涙目の妹紅に強烈なビンタを食らって地面にうつ伏せに倒れる青葉。

その状態で土下座の体勢を組み、妹紅は青葉の尻を高く持ち上げる。

その状態で青葉の袴をずらし、その鍛え上げられた肉体からは想像もつかないような柔らかそうな生尻を晒し上げる。

 

「あっ、これは良いですね!これも撮っときましょう!」

 

「あ、私も撮っておこう。今夜何かに使う」

 

駄目だこの2人。

そして肝心の妹紅はその状態で青葉の尻に向き合い、2歩下がる。

その状態で右脚を勢いよく振りかぶる。

 

「も、妹紅!落ち着け!」

 

0.5秒後の展開が見えてしまった私は全力で妹紅を静止しようと試みたが手遅れだった。

 

 

「死ねセクハラ男ー!!!!!!!!!!!!」

 

「どわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

尻を蹴られた青葉は音のような速さで罠だらけの直線を低空飛行しながら向こうの地平の彼方へと消えていった。

 

 

「…………………………」

 

パンパンパン、と手を払って妹紅は何事もなかったかのように歩を歩み始める。

 

「そうか!さすがだな藤原妹紅!飛べない青葉がスイッチを踏まずに済ませるために、衝撃を与えて遠くに物理的に飛ばしたわけか!なるほどこうすれば歩かずに飛翔が可能だな!」

 

もうだめだこの大将。

 

「まぁ、作戦としては上出来さ。あの勢いで門に突っ込もうものなら間違いなく鞍馬天狗の里の門は倒壊して私らは侵略者認定を食らってブチ殺されるだろうが、そこは妹紅がうまく加減してくれているだろうさ」

 

 

 

チュドォォォォォォォォォォォォォォン。

 

 

 

「────今のは明らかに門か何かが壊れた音だな」

 

「妹紅のキックが強すぎて鞍馬天狗の集落の関門が破壊されたのだろう。なんだ、さしたる問題ではない…………………え?まじで?」

 

 

飯綱丸が過去の彼女からは想像もつかない青ざめた顔をする。

 

 

「まぁ、自国を守るための門を潰されちゃあ、鞍馬天狗の連中は黙ってはいられねぇだろうさ………私らは今すぐ来た道返しゃ生きては帰れるさ。もちろんその場合は、青葉の命は諦めてもらうことになるだろうがさ」

 

「………………………妹紅」

 

「………………し、しょうがねぇやつだなぁ、あはははは…………!よし、しかたねぇから………オオバを助けに、行こう………か!!」

 

「お前のせいだろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「百鬼丸、そんなに武装して、どこへ行くのよ」

 

「私は………今から戦いに行ってくるわ。幻想郷のためにね」

 

「大丈夫なの?お前は、鞍馬天狗の大将じゃないのか。置いていった民たちはどうするんだ?」

 

「置いていった民は一人もいない。兵士も、民も、女子供も、みな一緒だ。私が強制したんじゃない。みんな、私に付いていきたいと言って聞かなかったんだ」

 

「大丈夫か?聞いたところでは、凄まじい戦いになるそうだが…………」

 

「大丈夫だよ。我々鞍馬天狗は天狗族の中でも最強の種族だ。戦においては、天狗はおろか、幻想郷の並の妖怪では並ばないよ」

 

「それもそうか。まぁお前のことだ、どうせ忘れた頃にノコノコと帰ってくるんだろうが。私はその間に山のことを見ておくよ」

 

「すまないな、めぐみん。お前にはいろいろと世話になった」

 

「なによそのお別れのような台詞は。私はさよならなんて言わないわよ。どうせ帰ってくるんだし、そしたらまた私と飲んだりしてくれるんだろう?」

 

「もちろんさ。鞍馬天狗と鴉天狗、二つの種族で力を合わせて、人一倍巨大な国を作ろうじゃないか」

 

「いやそこまではいい」

 

「あっ、そう」

 

「でも百鬼丸、お前のことは………ずっと皆で待っている。帰ってきた頃には………盛大に出迎えられるように準備を整えておくよ」

 

「ありがとうめぐみん…………そろそろ行かなくてはな」

 

「そうか………ではまた会おう、常磐百鬼丸繰経。繰烏の名………あちらに轟かせてくれ」

 

「あぁ。必ず会いに戻ろう、飯綱丸龍。山の総大将よ」

 

 

 

 

 

 

 

しかし…………私は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────めぐみん………」

 

そんな過去のことを考えながら、鞍馬天狗の大将、常磐百鬼丸繰経は座っていた。

ただ座っているだけではない。

そろそろ鴉天狗の連中がやってくる刻限だ。

警戒は怠らない。彼女はここ数千年間、一度も背後への警戒を欠いたことはない。

この長い年月の間、一度たりとも隙は存在しなかった。つねに臨戦態勢を組んでいた彼女に、考え事をしながら敵の襲撃に備えることなどまるで当たり前のよう。

 

 

 

「──────申し上げます!百鬼丸様!!!」

 

突如、百鬼丸の部屋にひとりの鞍馬天狗が現れる。

額に冷や汗、身体中に疾走した汗を流しながらも百鬼丸の前で深々とひざまずく天狗。

 

「て………敵が………侵入しました!」

 

「そうか、いよいよ戦の─────」

 

 

「申し上げます百鬼丸様!正門及び第一関門が、破壊されました!」

 

そしてもう一人、別の天狗が青ざめた顔で部屋へ飛び込んできた。

 

「なに……?正門と第一関門からの侵入を許すばかりか、門を破られるだと!?正門への警戒と守備は最大限にしろとあれほど忠告したはずだ!何をやっている愚か者めが!!!!!」

 

「申し上げます!百鬼丸様!何者かの放った飛来物と思われるものの直撃により、正門と第一関門が破壊されました!被害状況現在、怪我人および死者は零ですが、正門と第一関門の2番壁に大穴が開いて倒壊、このままでは敵の侵入を許してしまいます!」

 

さらに一人。

 

「申し上げます!敵の侵入を確認しました!敵は…………人間の男が一人!!!」 

 

「百鬼丸様!どうしたらいいんですか!」

 

兵士に加えてさらには住民がやってきた。

 

「我々はどこへ避難すれば…………」

 

「百鬼丸様、ご決断を!」

 

「百鬼丸様!すぐに戦闘を開始せねばなりませぬか!」

 

「百鬼丸様!このペースでは民の避難経路の確保と敵からの防衛が人員不足でやや遅れを取ります!」

 

「百鬼丸様!」

 

 

 

口も出せず黙って聞いていた百鬼丸はザワザワと喚き立てて誰一人として話が聞き取れないほどに騒がしい部屋の中でただ一人、その長い脚を振り上げると。

 

──────ズドォォォォォンと踵で床を蹴りつけた。

 

 

「──────!!!」

「──────!!!」

「──────!!!」

 

 

10人以上の声が響く部屋は一瞬にして静まり返った。

 

「──────お前たちは馬鹿か!!!敵の侵入を許したところでなんだ!住民の避難経路の確保と防衛の人数が間に合わないだと?愚か者!!!住民の避難経路を最優先にするに決まっているだろう!!!そんな判断もできぬのか!!!たとえこの常磐を陥落させようと、住民の命だけは全て守り尽くせ!一人失うにつき貴様らの首はこの場で三十人分飛ぶと思え!!!外壁の防衛軍のラインを全員内側の前線まで下げろ!後退軍は全員住民の安全確保だ!!!いいな、すべてだぞ!!そして住民どもお前たちはここに駆け込んでどうするのだ!隣人に避難の呼びかけをすべきであったろう!何のために私が常日頃から指示をしていたと思っている!自分で考えぬか!お前たちは自身の命を守るのではない!お前たちとその仲間たちを全て守り抜け!むろん一人失うごとに貴様ら住民の首も飛ぶからな!!!!」

 

 

百鬼丸の恐ろしい剣幕により住民たちは全員部屋の外へと吹き飛ばされ、兵士たちも風圧で壁に叩きつけられる。

部屋の壁はすべて倒れ、天井も丸ごと穴が空いてしまった。

床には大穴が開き、そこから兵士が一人落下。

 

 

「はぁ、はぁ………はぁ…………はぁ……………………それがわかったなら、早くしろ。私も民を守るために出る。外堀を埋めるのに全力で、住宅地への警備はやや薄い。私が住宅地へ侵入した敵を全員なます斬りにする。お前たちは外の警護と侵入者の討伐だ。幸いにも人間の男ただ一人、偵察か陽動か特攻といったところだろう。しょせん人の子一匹、何もできまい」

 

「はッ!」

「了解しました!」

「承知!」

 

 

 

 

 

「申し上げます!直撃した飛来物と侵入した男は同一の存在でした!!!現在は地面に埋まっています!!!」

 

「─────飛来物だと?まさか、【この山の上空に頻繁に現れる飛来物】とは、それの事だったのか?飛来物が人間だと!?…………いや、いい。その話は後だ、そんなもんは殺しておけ」 

 

 

「あの…………それが…………申し上げにくいのですが………尻を出した状態で埋まっていて…………」

 

 

申し訳なさそうに部下が言うと、百鬼丸は凍りついた。

 

 

「──────殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!こちらに尻を丸出しで挑発するだと!?許せん!!!我ら鞍馬天狗を侮辱する気だ!!住宅地へ費やした防衛ラインをすべて前線に上げろ!住宅地など私一人で十分だ!!!」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「早くしろ!」

 

「えぇぇぇぇぇあ、はいぃぃぃ!!!」

「じゃ、じゃあ………命令を撤回してきます………」

 

 

 

 

 

「どのような恥知らずの男だ…………!必ず根絶やしにしてくれる…………!問答無用で殺せ!生け捕りにする価値もない!首をここへ持ってきたやつには鞍馬天狗栄誉賞をやる!鞍馬諧報にも載るぞ」

 

「うぉぉぉぉ!!鞍馬天狗栄誉賞ですか!!」

 

「勘違いするな、これはお楽しみ会ではない。それだけこの常磐國の沽券に関わる事態なのだ!住民以外の全員に伝えろ!!!」

 

「はッ!!!!!」

 

 

 

兵士たちは一斉に部屋の外へ駆け出していった。

 

 

 

 

「──────なんだよぉ…………こっちに尻を向けてくるなんて…………!露出狂かよぉ…………!もぅ…………あんなの…………ぜったいぶっころしてやるんだからぁ!!!!!」

 

 

「申し上げます!!!」

 

 

「なんだ!緊急なら礼儀より要件を先に言わぬか!」

 

「は、はい…………あの…………正門前の罠を突破されました」

 

「それがどうした、想定内だ。正門と第一関門が突破されたことも承知している」

 

「いや………その………だから、突破してきた連中ですよ。侵入してきた尻出し男の遥か後ろからですが…………「見たことのない青色の天狗」がやってきたんですよ」

 

「なんだと…………?」

 

「その…………左肩に、青い石の埋め込まれた金色の肩当てを付けておりまして。勘違いだったら大変申し訳ないのですが………あれってまさか【天狗眼(てんぐだま)】じゃないかな………なぁんて………」

 

「─────────────」

 

「天狗眼は大天狗の官職に選ばれし時に天魔様より賜る、特に純度と硬度の高い特別な龍珠で出来た勲章、言ってしまえば大天狗の証。………ほら、百鬼丸様も右脚に似たような具足をお着けになられているじゃないですか。もしかしたら…………なんて…………」

 

百鬼丸は完全凍結している。

 

「昨日確か、私は鴉天狗が攻めてくると聞いているんですが…………あーもう!要は鴉天狗の大将っぽい人が攻めてきました!!!」

 

「それを早く言わぬかオオバカモノ!!!!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

部下は暴風に吹き飛ばされていった。

 

 

 

「めぐみんだと…………なぜこんな時に…………いや、それがどうした。我々はもう道を違えた仲。たとえ【貴様】が相手でも私は私の信念を折らせはしない…………!」

 

 

百鬼丸は薙刀を手にとって立ち上がる。

 

 

「邪魔する者は、誰一人として生かしては返さん!」

 

 

 

 

 

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