東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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おっおっおっおっ鬼武蔵

 

「いったたぁ…………」

 

 

やれやれ、妹紅も酷いなぁ…………あそこまで蹴っ飛ばさなくても…………

ようやく俺は地面に埋まっていた自分の上半身を地上に抜き取ることができた。

 

 

「う…………うわぁ……………」

 

 

そして、目の前に広がった景色に俺は圧倒された。

そこに広がる、美しい木造建築の数々。

建築家たちの弛みない努力と工夫によって組み込まれた綺麗で頑丈な造り。

そしてその集落の奥に見える大きな階段とその上にある1本の巨大な塔。

ここが…………鞍馬天狗の集落…………

 

 

「この先に、百鬼丸が…………?」

 

 

俺はムクリと身体を起こして立ち上がる。

 

 

「おい、」

 

「えっ?」

 

 

急に呼びかけられて俺は声のする方へと振り向いた。

次の瞬間、俺の喉元に大量の刀が突きつけられる。

 

 

「うっ………!?」

 

 

俺は気が動転して一歩下がろうとしたが、背中にも槍を突きつけられている事に気付いた。

俺の周囲一周を、武器が取り囲む。

 

 

「…………………な、なに………?」

 

「……………………………………」

 

「……………………………………」

 

「……………………………………」

 

 

俺の周囲を取り囲む兵士たちは全員黙りっぱなし。

意味がわからない。なぜ俺は今武器を突きつけられている?

俺、何かしたっけ?

 

 

「お、俺が…………何か……………?」

 

「…………………ん、」

 

 

兵士の1人が目線でツンツン、と向こうを指した。

「あれ見ろ、」と言いたげだ。

そこへ目をやると、瓦礫の山があった。

細い柱と屋根があるのを見るに、これはまさか集落の門?

 

 

「…………………え、えーっと………」

 

 

もしや、俺が妹紅に蹴られた勢いで突っ込んで壊したのかも。

 

 

「覚悟ー!!!!!」

 

「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

武器を持ち突撃してくる兵士たちの間を猛スピードで走って逃げ回る。

やばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!

 

ここ鞍馬天狗の集落か!!!!

こ、こんなところでこんな盛大な破壊活動したらマジで殺される!!!

 

 

「へぇぇぇやぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うぉぉぉぉぉ!?」

 

 

正面から真横に振られた槍を潜って躱す………!

まずい、四方八方ぜんぶ敵だ…………八霖儚月流は一対一の斬り合い用…………一度に多人数に囲まれれば、こちら側が不利になる…………

 

 

「くっ……………!」

 

 

この人数から逃げられる気はしていない。

 

となると……………

 

 

「せぇぇぇぁぁぁぃ!!!」

 

「うっ…………!!!」

 

 

突き出された槍の柄を取って刺さるギリギリで掴む。

 

 

「せいりゃぁぁぁぁ!!!」

 

「うぐぁっ…………!!!」

 

 

背後から突き出されたもう1本も掴むが、身動きが取れない……………!

 

 

「これはまさか、兵法…………!!!」

 

 

こいつら、日頃から戦い慣れてる…………

連携がしっかりと取れている、よほどしっかりとした鍛錬と集団戦の訓練を積んでいるんだ。

 

 

「終わりだ…………この地より去ねぃ!!!」

 

 

──────やるしかないか…………!!!

 

 

「たぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!!!」

「ぐぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

八霖儚月流・渦波巻き。

 

周囲三百六十度を一斉に薙ぎ払う広範囲の技。

 

 

「な、なんだこの男…………!」

 

「ただ者ではないな………気をつけてかかれ!」

 

 

「気をつける………それは違うね。そっちから手を出さない限りは、俺は絶対に戦わない。けど、腕一本動かせば、気をつけたってムダだ」

 

「何を馬鹿な………こちらは民の命を背負っている、退いてたまるものか!────鞍馬天狗が武門、浅葱………参る!!!」

 

 

俺の周囲を取り囲んだ鞍馬天狗たちが一斉に武器を下ろし、その代わりにたった一人が刀を振り上げて凄まじい勢いで俺の元まで突撃してきた。

一対一で斬り合うつもりか。

望むところじゃないけど、相手にはなる!

 

 

「ちぇぇぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

強烈な脳天唐竹割り!!!

 

 

「ふぅぅん!!!」

 

 

しかし、そんなものよりもっともっと恐ろしい技を見て育ち、つい先日にも多くの優れた剣客たちと戦ってきたこの俺に、今さらこの程度の攻撃が通用するはずもない!

 

 

「馬鹿な…………!我が必殺剣が…………」

 

「肩と腕の力は言う事なしだけど、そのかわりに踏み込みがぜんぜん足りてない。地面を蹴って踏み込むんじゃない。身体を倒した時の体重で相手に近寄るんだ」

 

「くっ……………小癪な……………ぐぉっ!!!」

 

 

たかが剣兵一人など、今さら俺の敵ですらない。

俺の刀の鎬で振り下ろされた剣を軽くいなし、肘鉄で吹き飛ばす。

 

 

「ぐほっ…………!!」

 

「くっ………我は白砂、いざ尋常に!!!」

 

 

次の一人が槍を手に突っ込んできた。

なかなか足が速い。気がついたらその矛先は俺の眼の前に来ていた。

だがそれでも、

 

 

「これも違う────!!!」

 

 

柄で矛を叩きつけただけでその刺突は軌道を逸らされ、的外れな方向の空気を突き刺す。

 

 

「力みすぎて真っすぐに力が入ってない!そんな攻撃じゃ、敵は倒れてくれやしない!突きってのはこうやるんだよ、」

 

 

バック宙で槍を弾き飛ばし、こちら側も槍を突き出すように剣を構える。

 

 

「八霖儚月流─────壁破り!!!!」

 

「ぐぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

八霖儚月流の突きは盾などの守りを破壊する事を前提としている。たとえ模造刀であっても先端が突き刺されば大怪我になる。

俺は刀を鞘に納めた状態で槍兵の鳩尾を突き抜いた。

真っすぐに吹っ飛んでいく人影。

 

 

「な…………なんなのだこの男…………!!!」

 

「…………そっちが真剣勝負なんだったら、こっちも抜いた時点で女の子相手でも区別はないよ………」

 

 

俺は三度笠を脱いで俺の周囲を取り囲む兵士を見回し、一人ずつ睨みつける。

そして全員の目の前で変身が始まる。

2本の角、紅に染まる瞳、変色する体毛。

そして鋭さを帯びる歯。

 

ワーハクタク、神門青葉の変身が完了。

 

 

「────で?まだやる気か?………俺も職業柄、女の子を大人気なく模造刀で殴って体面崩壊は避けたいんだが?」

 

「だ、誰が─────!!!!!」

 

 

俺の背後から剣兵が一人、刀を抜いて俺の背中めがけて襲いかかってくる。

馬鹿な女だ─────

 

 

「よせ、萌黄!!!」

 

 

いや、もう遅い─────

 

 

「ウォォォォォォ!!!屋根穿ち!!!!!」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ………!!!!」

 

 

俺は鞘を抜いて振り下ろされた剣を叩き返し、自分の剣の峰が顎に当たった剣兵をそのまま鞘で殴りつけ、上にかち上げる。

 

 

「八霖儚月流奥義─────!!!!!」

 

 

そのまま俺も打ち上げの勢いのままに、模造刀を手に激しく跳躍し、最高点から全体重と共に急降下しながら打ち上げられた剣兵の身体の芯を叩き割る。

 

 

「稲妻哭き・霹靂ィィィィィィ!!!!!」

 

「ガ…………ガァァァァァァ!!!!」

 

 

それこそ天から雷が降り注いだかのような轟音と共に俺が地面に衝突した力で地盤が粉砕され、地面に激しい亀裂が入ると共に、地面を叩いた衝撃波で周囲の兵士たちも一斉に薙ぎ倒された。

 

稲妻落とし・霹靂と、獣哭きの合わせ技だ。

 

俺に殴られた剣兵はいまの一撃で完全に昏倒。

吹き飛ばされた周りの兵士も今の一撃に恐れをなして戦意を喪失した。

 

 

「────────────ふぅ、」

 

 

変身の必要性がなくなって俺は笠を被り直す。

 

 

「──────あれ…………あっ!?」

 

 

あれっ!?

地面に─────亀裂が……………?

 

 

(こ、これを………俺が………?)

 

た、確かに地面を殴ったが…………ここまで?

これは、八霖儚月流でも………特に威力の高い稲妻落とし、しかも依ねぇのレベルだ…………

さらに拡散状に広がるこの刃痕は獣哭き…………?

 

記憶がないわけではないし、心当たりもあるんだが、まさか自分がここまでの威力で技を出せるとは思っておらず若干、戸惑いを隠せない。

あの戦いで、俺の剣技にも多少なりともやはり磨きがかかったのだろうか。

 

 

「ぐ…………うぅっ…………」

 

 

右脚から激痛を感じて俺はその場に座り込む。

そうだった…………まだ、右脚は無茶しちゃいけないんだった…………!

痛い痛い痛い痛い痛い…………

脚がちぎれそうだ…………

 

 

 

 

「て、撤退を……………!!!」

 

 

今のは流石に怖かったのか、兵士たちも恐れをなして羽根を開き、逃亡を図る。

 

 

「逃げるのか?」

 

「た、たわけ………!百鬼丸様は住民の避難のみを優先していた!お前を襲うのが目的ではない」

 

 

兵士たちは翼で空へと舞い上がる。

飛べない俺にそれを追うことはできない。

 

 

「帰るんだったらその百鬼丸に伝えてくれないか。飯綱丸龍が、もうすぐそっちへ来るって」

 

「飯綱丸様だと…………?」

 

「あぁ、百鬼丸に訊けばわかるさ。さぁ、行った行った。俺は神門青葉。飯綱丸龍の護衛で来ただけだ。彼女に手を出すつもりなら、俺が全員の相手をするって追加で言っておいて」

 

 

「ぐ…………神門青葉…………その名、覚えたぞ、」

 

 

鞍馬天狗たちは元いた場所へ引き返そうとして、俺とは反対方向へ飛んでいく。

 

 

 

 

「ばかもん─────!!!!」

 

 

その時、空から一条の光が降り注ぎ、逃げようとした鞍馬天狗たちを蹴散らして、俺の目の前に着弾した。

 

猛烈な砂ぼこりが辺りに舞う。

遅れて、撃ち落とされた鞍馬天狗たちがドサリと倒れる。

 

ウッソだろ、あのスピードで逃げる鞍馬天狗たち全員撃ち落としたってのか?

 

 

「な、なんだ………新手の登場か!?」

 

「何をしている雑兵ども………!こんな鼠一匹、仕留められないなんて、今まで百鬼丸様のかけてくださったお言葉、ご指導、お時間、その他全てはなんだったってんだい…………!」

 

 

憤怒する兵士は倒れる鞍馬天狗たちへ向けての罵詈雑言。

立場が上のような口調だが、それは実際、見た目からして明らかに強者の匂いだった。

 

袈裟のような衣装と、背中に背負った幾本の武装。

巨大な金槌や刺股、金棒や鎌や斧。いずれも剣ではないが、明らかに重量の道具だ。

そして、それを担ぐ本人もまた鍛え上げられた強固な肉体をしていた。

 

俺なんかより圧倒的に背丈も胴の太さも、腕や脚の太さも違う。

俺の胴ぐらいの太さを持つ腕と足。

一目見ただけで怪物と分かる、恐ろしい存在。

 

 

「よっ、アンタいい剣してるねぇ坊っちゃん。アタシは高倉院武蔵(たかくらいんむさし)。百鬼丸様の第一の腹心さ」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

  〜猛将姉御な外地蔵〜

 

   高倉院武蔵

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「百鬼丸の………?」

 

「あぁ。そういうアンタは飯綱丸様のオトモと来たか。へへっ、最高だねぇ!なぁな、アタシとアンタ、どっちが強いか…………ここで力比べしてみないかい?」

 

「な、はぁ………!?」

 

 

ど、どういうことだ!?

 

 

「ま、待ってくれ!どういうことだ!」

 

「アタシらはこの常磐國に侵入者が現れたって話を聞いたんだ。アタシが出ないでも、前の連中が片付けるだろうと思いながら仕方なく武器担いで来てみりゃあ、うちの兵士たちがアンタなんかにやられてってるじゃあないか。そりゃあさ、アタシも一戦したくなるってもんだろー?」

 

「…………………………………………」

 

 

………………やっぱ、ダメだわ。

幻想郷って戦闘民族しかおらん。

 

 

「急に出てきた得体のしれないやつとやってられるかー!俺はやんないぞ!そんなことより俺たちは百鬼丸に会いたい!」

 

「やれやれ、意気地のないやつだねぇ………こんなんで百鬼丸様に謁見しようだなんて言うんだからめちゃくちゃだよ」

 

 

高倉院武蔵は頭をかきむしる。

その手には一本の大きな太刀が握られていた。

 

 

「………………………なら、こういうのはどうだ?俺が勝ったら、俺たちを百鬼丸のところまで安全に案内しろ。他の邪魔するやつを全員引き上げさせる。そうするなら受けて立つ、」

 

「ひひん、なんだってしてやるさ。だがもちろん…………」

 

 

武蔵は握っていた刀を振り上げ、すぐさま構えを変える。

すると、彼女の立っていた場所の地盤があまりの脚力で沈下した。

 

 

「げ……………」

 

「アタシのスイッチをオンにしといて、五体満足で帰れると思うのは、アンタ…………甘ちゃんって事になるよ…………?」

 

 

さっきまでのとはまったく気配が違う。

この妖怪のおそるべき気迫、依ねぇやトヨさんに酷似している。

気をつけろ、この妖怪………かなり長生きだ。

 

 

「あんた、仲間たちのためにこのアタシとわざわざ本気で戦うなんて…………見込みがあるね!さっきの言葉はナシだ、もしあんたが負けたらアタシの手元に首輪つけて置いといてあげるよ」

 

「はい?」

 

「アタシゃね、強い男が婿に欲しかったんだよ。あんたは腹から声出てて、強いし、それから顔もいい。アタシのものにふるにぴったりだよ」

 

「──────よし、お前はぶっ飛ばす。俺には将来を誓った女性がいる。その人のためにも、お前だけは絶対にぶっ飛ばす!!!」

 

「いいねェ!女にも容赦なく「ぶっ飛ばす」と来た!そういうところも良い、なにより、人夫なのが良い!男は奪ってこそなんぼだからねッ!」

 

「こんの下衆が─────!!!!!!」

 

 

 

これは天狗がどーのこーのじゃない。単純に俺の貞操を賭けた本気の戦争だ。

ここで負けたら俺はトヨさんに顔向けできない。

…………精神的にも物理的にも座標的にも。

 

気配は数千年以上生きている大妖怪のようだが、それでも負けはしない。

俺はもっと長生きしている人たちと稽古を積んできた。

今さら一万歳にも満たないひよっこの妖怪なんかに負けていられるか!

 

 

 

 

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