東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
幻想郷妖怪の山、河童の集落にて。
「ここが河童の集落か?マジで?」
化野安曇と坂田ネムノ、それから駒草太夫の3人は突然であった河童と山童に連れられて河童の集落を訪れた。
「あぁそうだよ。ようこそ私たちの集落へ!ここでは河童の技術者が集まっているんだ」
河童の河城にとり、そして山童の山城たかねは大きな箱を2人で掴みながら安曇たちの先を行く。
鞄の持ち手をぐぐぐ………と引っ張り合ってる。
河童と山童は犬猿の仲。毎回喧嘩してはイライラが溜まってるらしい。
「河童と山童の技術は幻想郷でもピカイチなのさ。外の世界から持ち込まれた機械技術は幻想郷では希少なものだ。天狗と同様、文化面では幻想郷でも最も大きな種族さ」
太夫は煙草を吸いながら言う。
「幻想郷イチの技術者?このチビどもがか?」
「そこの上裸、君さっきから口の利き方気をつけるんだぞ?」
「いや!よくわかってるじゃあないか!河童よりも山童のほうが幻想郷では技術的に優れた種族だよ!よく異論を唱えてくれたね!」
「まず山童ってなんだ?河童のコンパチか?」
「お前撃ち◯すぞ!!!!!」
コンパチとはコンパーチブル。
要は似たような色違いという意味だ。
安曇の容赦なく敵を作るぶっきらぼうな口調ににとりとたかねがさらにフラストレーションを貯めていく中で一行は手頃な岩場を見つけたのでそこで座ることにした。
「んで…………お前らにもあるが、それよりお前だな」
安曇は縄で縛った一人の女を座らせる。
「うぅ……………ぐ、」
「お前は鞍馬天狗だろ。あんなところで何をしていた」
「そ、それは……………」
一人たかねはため息をつく。
「そいつは私たちとビジネスの話をしていたところだったんだ。簡単に表に出しちゃいけない取引だから草むらの中に隠れさせながらやっていたんだけど、そこをそこのにとりが邪魔してきたのさ」
「ちょっと待ってくれないか!邪魔をしてきたのはたかねの方だろう!もともと、この鞄は河童の持ち物だったからね!」
「いいや違うね!陸の流通ルートは山童の管轄だ。ここに通す荷物はなんであれ山童の承認が必要なんだから!」
「でも中身は私たちのものだ。技術はウチのものなんだから、ウチらのもので正解さ」
「要はあんたらは鞍馬天狗と交易してたってことなんだべか?何をコソコソと交易してたんだ」
「良いのか?言っても」
にとりは捕らえられた鞍馬天狗の方を向く。
鞍馬天狗は黙って頷いた。
「説明するより見てもらったほうが早い、これを見てくれないか」
にとりは鞄を開く。
巨大な鞄は2つの鞄に別れた。
大きい方の箱の中から出てきたのは鉄で出来た大きな箱に繋がれた小型の機械。
そして、小さい方からは似たような見た目の機械の少し小さいものが入っていた。
「これは何だ?天ぷら揚げるのに使うフライヤーってやつだべか?」
「いや。これは「レーザープラズマ切断機」と呼ばれるものだ。小さい方は「半導体レーザー治療器」。外の世界で使われている機械だよ」
「れー………ざー…………?」
「だ、レーザーを出す機械だって?外の世界にも弾幕があるっていうのかい?」
「いや、外の世界においては弾幕の概念はないさ。外の世界で使われるレーザーは科学熱線のことであって、発振器から放たれたレーザーを光ファイバーに通して集光レーザーレンズから対象に照射するというものだ。熱線で金属を溶融させることができるのさ」
「その性質を利用して外の世界では金属の切断加工や整形外科による皮膚治療に使われたりするんだよ。神門という商人から貰った資料にはそう書いてあった」
「オオバ!?オオバの野郎、陰ながらこんな暗黒取引に関わってやがったのか!あの野郎、真の黒幕なんじゃねぇか!?」
「バカかお前さんは。もう少し考えてから口を開いたらどうだい…………」
太夫は呆れて煙管で軽く安曇の頭を叩く。
「外の世界の医学は優秀だからね。なんでもセイヨウという場所では特に医学の発展した地域があるそうで、そこの資料の言語を翻訳して売りつけてくれたんだ。それを買い取って私たちも外の世界のレーザー開発を真似ているってわけ」
「まぁもちろん、外の世界の医学など永遠亭の万能薬師と比べればなんのアテにもならんがな!」
たかねとにとりは大笑いする。
「そのレーザーが凄いのは分かったが、なんで鞍馬天狗はレーザーなんか手に入れようとしてんだ?」
安曇は鞍馬天狗に問いかける。
「いえ…………それが、我々もよくわかっていないんです。私は鞍馬天狗の中ではこれといって戦闘能力を持たない一般の住民。他種族との関係を完全に絶ち、孤立した閉鎖された國である鞍馬天狗の集落では数少ない裏ルートでの交易が國の支えになります。その管理を担うのが私たちなんです」
「他種族の関わりを完全に絶った?そりゃまたどうしてだべ。近所に烏天狗たちが住んでるじゃあないか。手を取り合って生きりゃあいい、それに大天狗と百鬼丸は知り合いだったんだろ?」
「さぁ…………なぜですかね…………」
どうやらこの鞍馬天狗はなんの情報も持っていないようだ。
「この交易ルート辿ったら百鬼丸に辿り着いたりはしないのか?俺らは今、鞍馬天狗、特に百鬼丸の今の活動について調べているからな」
「えーっと…………鞍馬天狗の貿易網は非常に手の込んだものでして、何十カ所もの中継点があるんです…………それを把握したり遡るのは私どもではどうしようもないです…………それを知るにはこの貿易網のオーナーを当たるしかないです…………」
「よし、じゃあそのオーナーの名前と居場所を教えろ」
「それもよく分かってないんです…………」
「あのさぁ………お前役立たずすぎないか」
「そりゃ言い過ぎだべ化野」
化野のきつい物言いをネムノがたしなめる。
「あっ、でも…………なんでも、月虹市場…………?とかいう、そんなものがバックにあるということを聞いたことがあります」
「月虹市場だって?」
たかねがそのワードに反応を示す。
「月虹市場ってなんだべ」
「一昔前に一悶着騒動を起こした問題の市場だよ」
「たかね、お前も市場で問題起こした身だろう」
「はいはいそうだな」
安曇とネムノと太夫は3人で顔を見合わせて頷く。
「つまり、次はその月虹市場のことを探ることになるな。今日の収穫はこんなもんだろう。これ以上は何も無い。青いの、緑の、お前らは一旦天狗の集落に来い。悪いが拒否権はない」
「えー、やだよ」
「【タダ働き】はこの世で最も嫌いな4文字だ。人を使うなら相応のアレは出してもらわないと」
「それは飯綱丸が出してくれる。後払いだが新しいビジネス一つ始めて破滅してもプラマイゼロになるぐらいの資金は出るぞ、絶対に」
勝手すぎることを言い出す安曇に太夫とネムノは目を丸くして口をあんぐりする。
「よし、請け負おう!」
「同じくだ、河童ばかりにいい思いさせてたまるか!」
金に踊らされてあっさり飯空Projectに加入してしまったにとりとたかね。
「あっいた………!!!皆さん大変です!!!」
そこへ犬走椛が飛び降りてきた。
「椛ちゃんじゃねぇか。どこ行ってたんだよ、お前さんがいないおかげで俺はこの世の終わりみたいなメンツで調査してたんだぞ」
「お前あとで生き埋めにしてやるべ」
「お前あとで生き埋めにするからな」
「す、すみません。飯綱丸様のご命令で鞍馬天狗の集落の敷地外からはたてと共に監視をしていました」
椛が言うには。
(えっ?安曇の班から私とはたてさんを離すですって………?)
(あの安曇とかいう私を泣かせた奴に私の可愛い部下を貸すのはやっぱり癪だ。あの男はいい歳した妖怪だけで十分だ)
(え?ほんとにそれで大丈夫なんですか?)
(べつによい。最悪あの3人は◯んでもそこまで損失ない)
(大天狗様…………)
(やれやれ…………)
とのことだ。
「絶対泣かすあのバカ天狗…………!!!」
「絶対泣かすあのバカ天狗…………!!!」
「絶対泣かすあのバカ天狗…………!!!」
安曇とネムノと太夫が一斉に叫ぶ。
「そんなことより緊急事態です…………!鞍馬天狗の集落で…………百鬼丸様が現れました…………!」
「は!?」
「ですが、彼女は臨戦状態。このままでは文さんと青葉さん…………場合によっては大天狗様や妹紅さん、一千子さんや慧音さんの危機になります。安全な撤退にはみなさんの助力が必要です!」
「一千子だと…………!?百鬼丸の奴…………ふざけやがって…………!」
「大天狗ってのは飯綱丸龍のことで合ってるか?貴重な取引先だ、失うわけにはいかんぞ!」
にとりが顔面蒼白に声を荒げる。
「それなら私に任せておけ。良いものを見せてやる。山童の優れた技術をな!」
たかねは自信ありげに言った。
全員の視線が彼女に向いた。
「────────ふむ、これはなかなか厄介なことになった…………」
そして、それを遠く離れた木の上からこっそりと見る一人の姿があった。
「ぐっ……………………」
追い詰めたぞ…………高倉院武蔵!!!
俺は文さんの共同作業で見事彼女を打ち倒した。
「くっそぉ…………まさか負けるなんて…………!」
武蔵は武器も握れないほどに体力を消費し、ダメージを受けてしまい、すぐに戦える状態ではなかった。
「青葉!!!文!!!」
その後ろから、飯綱丸龍、藤原妹紅、上白沢慧音、御劔一千子が追いついてきた。
「慧音さん!みんな!無事だったんだね!」
「そりゃこっちのセリフだオオバ!お前ってやつはまた私が見てねぇところでムチャしやがってこの野郎…………!」
妹紅は青葉に駆け寄ると震える声で強烈なビンタをぶちかましてきた。
「ご、ごめん…………なんかつい。てか、君のせいだろォォォォォ!!!」
「あばばばばばばばばばばばばばばばばば」
青葉は妹紅の胸ぐらをつかんでグラグラ揺らす。
呑気さに呆れたのか、慧音は普段とは真逆の構図に人知れず吹き出していた。
「さぁ、武蔵。約束通り百鬼丸のところへ連れて行ってもらおうか!」
青葉は模造刀を武蔵に突きつける。
「───────否、その必要はない」
その時、上空から一つの声が聞こえてきた。
「だ、誰だ!?」
慧音の叫びが終わると同時に、投げられたボールが落ちるように現れた一つの影が一行の前に現れた。
「─────良くぞ来たな、この
そこにいたのは、赤い山伏装束に体の節々だけを覆う軽具足を纏い、一本の薙刀を持った白髪の女だった。
頭には黒い鴉のような仮面をつけており、顔はわからない。
しかし、そのマスクの下から覗かせる翠の眼光は間違いない………大妖怪の貫禄だ。
「だ、誰……………?」
全員が初めて見る人影に首をかしげる中、飯綱丸龍と高倉院武蔵だけが他と違う表情をしていた。
「百………鬼、丸……………様……………」
武蔵は人影の名前をうめき声で呼ぶ。
「な─────なんだって!?」
青葉はその衝撃の事実に顔を押さえる。
「……………久しいわね百鬼丸。何千年ぶりかしら。こんな状況だけど、また会えて嬉しいわ」
飯綱丸はその強烈な眼光に目をそらすこともなく、ただ薄い笑顔で冗談っぽくそう言った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
〜鞍馬天狗の神将〜
常盤百鬼丸繰経
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「青葉さん、慧音さん、」
文が青葉と慧音の二人へ静かに耳打ちしてくる。
「文さん?」
「アレをご覧ください。あの女性の右脚、」
言われたとおりに彼女の右脚へ視線を移す。
彼女の脚には具足が纏われてあり強固に身体の守りが固めてある。しかし、少し気になる箇所があった。
右脚の膝部分。そこには飯綱丸の肩にあるような金色の部品が取り付けられており、そこには青色のガラスのような綺麗な石が埋め込まれていた。
「あの荘厳な具足は………」
「アレは
「つまり彼女が、」
「えぇ。正真正銘………本物の、鞍馬の大天狗。幻想郷で最強の天狗…………常磐百鬼丸繰経その人なんです」
飯綱丸 龍(いいづなまる めぐむ)
鴉天狗の頭領にして御湯殿いづなの開設者にして鴉天狗の集落の長であり飯空Projectの総代表でもあるもうなんかとにかくえらい人。
鴉天狗たちから厚い信頼を得ているみんなのリーダーであり、尽きない熱意ととてつもないベンチャー精神を持つお茶目で愉快な理想の上司。
ただし、熱が凄いあまり周りがテンションについていけなくなったり、暴走して度々やらかしたりもするなんかどこかヘタレ感を発揮する天然上司でもある。
青葉たちの任務にも積極的に参加してくれるが結局トラブルを巻き起こしてかえって青葉たちを混乱に陥れるため慧音や文からは手を焼かれている。
経営者としての一面と、部下の典や文たちを心から可愛がっている母のような一面に加え、時には部下を容赦なく三脚で殴りつけるパワハラ上司としての一面も併せ持つ。
最近は内職と副業でおにぎりを握ってるらしい。美味いらしい。………大事なのは売れてるかどうかじゃない。
常磐百鬼丸繰経(ときわのひゃっきまるくらつね)
幻想郷でも最強と言われる戦闘民族、鞍馬天狗の長。先祖代々鞍馬天狗を統率してきた常盤一族の末裔。
苗字は存在せず、常盤は役職名としての
鴉天狗の大将・飯綱丸龍と並んで、幻想郷の八大大天狗に数えられている。厳しい身分制度の問題で天狗の長である天魔よりは下の立場だがその強大すぎる能力がゆえに、天魔よりも強力な大天狗とされている。
「嵐と
厳格で気性の荒い、暴君のような当主だがその行動力と統率力は本物。
龍とは幼い頃からの親友どうしであったが、月面戦争で多くの仲間を失ったことがきっかけで心に深い傷を負い、かつての気弱な娘から現在の威厳ある大天狗へと変貌し、以後は「すべての民を守る」と誓い、他の全てを捨ててでも鞍馬天狗を守ろうとする。