東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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これがホントの一ノ谷合戦

 

 

「飯綱丸、貴様こそ千年も経った今何をしにここへ来た。我らは、すでに道を違えた。もう二度と会うことも交わることもなければ、こうして話をすることもないはずだが?」

 

 

彼女がそう、常盤百鬼丸繰経。

飯綱丸龍の古き理解者であり、鞍馬天狗の長。

 

 

「おいおい、そんな冷たいことを言うんじゃあない。もともとは親友だろう?お前と話をしに来た。訊きたいことと、お願いしたいことがあってな」

 

「訊きたい事とは濁すのだな。何が訊きたいのだ。まぁおおかた見当はついているが。妖怪の山の上空を飛行しているという飛来物の話であろう?ソレに関しては我々の知るところではない。むしろ我々は鴉天狗のものかとも思っておったぐらいだ。故にここに手がかりはなく、我ら鞍馬天狗と飛来物は無関係ということだ」

 

「……………………参ったな。手がかりもないばかりか、そちらからの動きだけで話の半分が片付けられてしまったよ。相変わらずさすがだ」

 

 

飯綱丸はいたずらっぽく頭をかくが、百鬼丸は厳しい表情をまったく緩めようとしない。

 

 

「何を嬉しそうにしている。本題はここからだ。我々は今から、この常磐を襲撃し混乱の渦に落とし、事実多くの兵士を傷つけた貴様らを抹殺する」

 

「…………どうしたんだ百鬼丸、何があった。私たちはお前と戦う意志を持たない。そのために正門から正々堂々と来たじゃないか」

 

 

飯綱丸はただ者ではない気配を醸し出す百鬼丸を見ても何一つ動じない。

そこは旧知によるものか。

 

 

「ふん。言うものだ。確かに【堂々と我が國の門を破壊して】襲撃を仕掛けてきたな」

 

「うっ…………それは…………」

 

 

妹紅のせいで立場がかなり悪くなってしまっている。

 

 

「まぁよい。どうせお前たちは全員死ぬ。しょせん外壁など飾りにすぎん、門があろうとなかろうと、我が領域の内へ入る者は全て消し去るだけだ」

 

 

百鬼丸は薙刀を両手で回転させると、右手に握って構え、脚を開き腰を落とし、戦闘態勢に入る。

 

青葉たちも話し合いは不可能だと判断して警戒の構えを取る。

その時、百鬼丸は青葉の方に視線を向けた。

 

 

「…………しかし、小僧。まさかあの武蔵に一撃与えるとは、私の見立ては少し過小評価だったようだ…………貴様のよう軟弱そうな者が我が国の兵士をものともせず、さらには武蔵を破るとはどうなっているのか…………不思議な男だ」

 

「舐めて貰っちゃ困るね。それで?百鬼丸、なんでお前たちは俺たちに危害を加えようとしたんだ。どうして俺たちを執拗に殺そうとする。門を壊した俺たちはともかく、元々友達だった大天狗様までやることないじゃないか」

 

「友達だと?ふふっ。いつの話をしている、そんなもん、月面戦争開始時点でとっくに終わりを告げておるわ。我々鞍馬天狗は今後一切、何者との交流を持たない。我々を戦争に巻き込み、多くの命を騙し討ちにした…………そんな幻想郷を断じて許すものか。また同時に月の都など一刻も早く滅ぼしたいところだ」

 

 

百鬼丸は吐き捨てるように言う。

 

 

「………………………………」

 

 

それに対して青葉は無言を貫いた。

代わりに、慧音や文に向けている背中と、その髪が意味ありげに激しく揺れた。

 

 

「そうだ。月の都…………奴らが私の仲間を散々に滅ぼしてくれたのだ。特に…………あの女剣士…………あの時の私はまだ未熟だった故にその戦闘力の秘密を知ることはできなかったが今ならわかる。神霊を宿すとは小癪な奴だ」

 

「───────────────」

 

「私があれを倒すために、鞍馬天狗の長という貧弱な妖怪から(まこと)の軍神となるのにどれだけの時間を費やしたか。私をここまで突き動かしたのは【民を守る】という意志だけだ。あの戦争で私はこの世の煉獄を見た。二度とあのような事が起きぬよう、私はいかなるものにも負けぬ國を作り、何者にも退けられぬほどの力を持ち、あらゆるモノを捨てる覚悟を以て民を守ると。私はあの時、自分に呪いをかけたのだ。他のすべてを捨ててでも、何をしてでも民を守る。そのためにならば、如何なる犠牲をも厭わない…………次に月の連中が何をしてこようがもう私は二度と負けない。あの悪魔が現れても…………次こそは必ず奴らを仕留……………」

 

 

 

「──────黙れ、」

 

 

 

話を聞いていた青葉は俯きながら一言だけ発した。

 

 

「青葉…………?どうしたんだ?」

 

 

慧音はただならぬ空気を察して青葉を見る。

 

 

 

「───────何か、」

 

 

「黙れ、つったんだ……………こっちが黙ってりゃあ好き放題言いやがって。よかったな…………途中で俺が遮ってよ。それ以上言ってりゃあ、俺ァ………こんどこそ怒りを抑えられなかったぜ」

 

「───────ほう?」

 

 

その時、なんと青葉は目元を暗くし、赤い目で百鬼丸を睨みつけたのだ。

 

 

「鞍馬天狗の大将が何だか知らないがな。依ねぇ……………に、【俺の大事な姉さん】に手出そうとするのをこの俺が許すわけねぇだろうがこのバカ大将が!!!!!」

 

 

 

「えっ!?」

「はぁっ!?」

 

 

一千子と文が驚きの声を上げる。

 

 

「おい!!!」

「オォイ!?」

 

 

慧音と妹紅は怒声を発すがもう遅い。

 

 

「おい青葉!それは…………」

 

 

龍は青葉に必死に語りかけようとしたが間に合わなかった。

百鬼丸の宿敵が青葉の姉貴分であることはこの場にいるほとんどの人物が初耳だった。

しかし、それが事実か否かはさておき、これほどの失言が他にないということは全員が察していた。

 

しかし、青葉の怒りはそんな簡単なことを判断するほどの理性をすでに奪っていた。

 

 

 

「──────そうか…………貴様は…………」

 

 

百鬼丸は静かに口にしたあと。

 

すぐにその場から消滅した。

 

 

 

 

 

 

「───────!!!!」

 

 

 

あわてて状況を把握した青葉の背後から百鬼丸が現れる。

 

 

 

「……………合点がいった。つまり貴様らはそういうコトか───────小僧、貴様はあの忌々しき月の都からの差し金だな─────!!!!!」

 

「えっ、速─────ッ!?」

 

「ホォォォォォォォァァァァァァァ!!!!!」

 

 

青葉が気づくよりも速くに百鬼丸は攻撃を始めていた。

戦闘が始まったばかりとは思えないほどの強烈な薙刀の振り上げが青葉を襲った。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!」

 

 

剣を身体にすり込まされた青葉なら反射的にそれを防ぐことは可能だったが、防いだうちに入らない飛ばされ方をした。

 

向こう側の壁に激突して跳ね返り、なんと元の位置まで返ってきたのだ。

 

 

「ぐぅ…………なんだいまの………!」

 

 

青葉はうつ伏せに倒れるところから立ち上がろうと地面に手をつく。

その瞬間、彼はとんでもないことに気づく。

 

 

「え──────ええぇぇぇっ…………!?」

 

 

なんと、百鬼丸の斬撃の衝撃により、地面に車輪を転がしたような轍ができていたのだ。地面を丸ごと剣で斬り裂いたかのような痕を見て青葉は驚愕の声をあげる。

 

 

「───────────」

 

 

青葉は青ざめた顔で百鬼丸を見る。

彼女は草木を見るような眼差しで青葉を見る。

 

 

「…………………………ッ、」

 

 

青葉もこれほどの強敵を前にしたらやることは一つしかない。

被った笠を取っ払って陽の光を浴び、ワーハクタクの姿へ変身する。

 

 

「──────フッ、やっぱりこうでなくっちゃな」

 

「何の真似だ。許すわけなかろう、そんな隙」

 

 

しかし、青葉が変身のために力を溜めている最中でもお構い無しに百鬼丸は薙刀を投げつけてきた。

 

 

「うわおっ!?」

 

 

青葉は慌てて飛び退く。笠を脱ぐ暇もない。

地面を串刺しにし、ついでと言わんばかりに大穴を開けた薙刀は風に運ばれて自動的に百鬼丸の手元に戻った。

 

 

「……………は、速い………」

 

「貴様が何をしようが無駄なことだ」

 

 

百鬼丸は薙刀を地面に刺して力を溜めると、そのうちに秘めた嵐の妖力を周囲に放出した。

 

 

「あややぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」

 

「ぐおわぁぁぁぁぁっ!?」

 

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

その大嵐の妖力は、風力だけで慧音、妹紅、龍、一千子、文をも薙ぎ倒してしまった。

百鬼丸のマスク越しに放たれる眼光による重圧だけでも並の妖怪ならば耐えられない。

 

 

「私は屈さない…………たとえ何を捨ててでも、我が王道を貫く!」

 

 

百鬼丸が脚に力を込めただけで、地盤が沈下した。

辺りには地鳴りが響き、猛烈な揺れが発生する。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

薙刀に手を当て、力を込めた百鬼丸がその刃を勢いよく地面に突き刺す。

 

周囲一体に光が満ちたあと、周囲に巨大な渦潮が巻き起こった。

 

 

 

「うわ、わぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 

青葉だけでなく、慧音たちもその波に引き込まれていく。

 

 

「ば、バカな………海を創ったというのか!?」

 

「気をつけろ!百鬼丸は潮の流れを自在に操ることができるんだ…………!」

 

「言うのがおせぇよ!!!」

 

「百鬼丸は嵐と潮の流れを操ることができる…………だから、百鬼丸に接近するのも困難だしせっかく近づけたと思ったら大嵐で吹き飛ばされたりするぞ!」

 

 

百鬼丸がいれば鞍馬天狗側には常に追い風が吹き、敵の軍勢は永久に向かい風を浴び続ける。

隊列の前進を阻み、体力を奪い、木や砂や小石の礫を撒き散らして微細なダメージで軍の運動能力と精神力と生命力を低下させる。

やっとの思いで鞍馬天狗の軍勢に近づいたと思えば常に不利な土壌でその圧倒的な力で圧倒される。

 

 

 

 

 

「そ、そんなの私の完全上位互換じゃないですかー!!!」

 

 

射命丸の泣きそうな叫びは荒波の音で完全にかき消される。

 

 

「──────知っておるか?鞍馬天狗とはな、軍神・毘沙門天王をこそ指し示す言葉だ。貴様らごときが1億もの数で束になろうが…………私の前では、風の前の塵に等しい!」

 

 

百鬼丸は腰を落とし、薙刀を槍のように構える。

 

 

「ぐぅ…………うあぁぁぁぁっ!?」

 

 

螺旋の波に流されている青葉たちは外の状況がまったく見えていない。

 

 

「むぐ……………!がぼぼぼ…………!」

(なんだ、あの構え…………!)

 

「ぶはっ………!来るぞ!衝撃に備えろ……………!」

 

 

壇ノ浦(だんのうら)天弓(ゆみ)のみ不成(ならず)万象(ばんしょう)沖流(おきなが)し』!!!」

 

 

百鬼丸の薙刀が大渦を勢いよく突き刺す。

 

 

瞬間、嵐と波が混ざり合い、雲を切り裂くほどの高い水の柱となって炸裂した。

 

 

立ち昇った水の柱が重力によって滝のように降り注ぐ。

 

滝の中から打ち上げられた青葉たちが降り、地面に打ち付けられる。

 

 

「ぐはっ………!」

 

「うやぁっ!」

 

「ぬぐっ!」

 

 

全身水まみれになっても青葉はヨロヨロと立ち上がり、すぐさま剣を構える。

 

 

「諦めるか…………!まだまだここからだ!」

 

 

しかし、青葉が正面向いた頃にはもう百鬼丸は消えていた。

 

 

「あぁそうだな!こんなんではちっとも盛り上がるまい!」

 

 

百鬼丸は斜めの角度から急降下し、青葉の身体を矢で射るように蹴りつけた。

 

 

「ぐぉあばっ…………!」

 

 

青葉は地面を踏みしめて耐えようとするが後ろに押し出される。

 

 

「我ら鞍馬天狗の千年の秘跡、舐めるな!」

 

 

百鬼丸が正面から薙刀で青葉を斬りつけにかかる。

 

 

「ぐっ……………!」

 

 

青葉は離れた位置から飛んでくる薙刀の乱舞に対抗しようとする。

しかし、猛烈な速度を誇る槍の連撃に彼が耐えられるはずもなく、刀は百鬼丸の圧倒的パワーで弾かれる。

 

離れたい位置から攻撃できる百鬼丸は刀で斬るよりも攻撃の重みは強い。

しかも、並の妖怪より少し優れた程度の腕力しかない青葉と、戦の天才である百鬼丸とでは能力の差が歴然としすぎている。

 

 

「えぇぇやぁぁぁっ!!!」

 

 

渾身の逆袈裟を飛ばすが百鬼丸はひらりと身を翻してそれを躱してしまった。

 

 

「遅い!」

 

 

そのまま回避に用いた回転の余力を利用して、逆袈裟で一撃を返された。

 

 

「ぐっ!」

 

 

刀を握る青葉の腕が頭の後ろまで弾き飛ばされる。

 

 

「惰弱なり!」

 

 

さらにそこから流れるような突きが青葉の脇腹を突いた。

身体の中央を狙った一撃を決死の回避で反らしたが、今のは間違いなく深傷。

 

 

「ぐぅ、あっ…………!」

 

 

「青葉さん!!!」

 

 

文が青葉を助けに行こうとする。

 

 

「駄目だ文!近寄るな─────」

 

 

水たまりからよろよろと起き上がろうとする飯綱丸の声ももう遅い。

 

 

「バカめ……………消えろ!!!」

 

 

百鬼丸の薙刀が文を襲った。

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

直撃は避けたが、文の羽に薙刀の刃が直撃した。

 

 

「ふん、その程度か。ならばここで死ねい!坂符(さかさふ)『ヒヨドリイズナドロップ』!!!」

 

 

雲を突き抜けるほどの跳躍から薙刀の振り下ろしが地面を叩きつけた。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

飛び上がりから急降下まで2秒以内の高速の動作により地盤が一瞬にして沈下して亀裂が入る。

衝撃で青葉たちは吹き飛ばされる。

 

 

「ふっ!!」

 

 

起き上がれない文に向かって百鬼丸は高速の踏み込みを見せる。

 

 

その速度は目で追うことも困難。

 

 

 

「文!!!」

 

 

慧音が弾幕を飛ばすが百鬼丸に当たる気配は全くない。

 

 

「邪魔をするな!」

 

 

横向きの竜巻が慧音の身体を吹き飛ばし、背中を瓦礫の山に叩きつける。

一瞬にして瓦礫の山がバラバラに粉砕され、慧音は胃液を逆流させて倒れる。

 

 

「う………ぐっ!」

 

 

「文さん…………!!!」

 

 

青葉が勢いよく飛び出してきた。

 

「掛かったな愚か者め!貴様が丸腰で飛び出すことは最初から分かっておったわ!」

 

 

「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

背後から機会を狙いすましていた妹紅の強烈な回し蹴りが炸裂する。

その勢いは寸分違わず百鬼丸の頭を直撃する。

しかし、それだけのことだった。

 

 

「ぐっ、浅かったか…………!」

 

「何かと思えば、」

 

 

百鬼丸はそのまま頭を地面に付けるほどに身体を反らし、真後ろに向かって薙刀を突き出し、妹紅の胸を貫いた。

 

 

「ぐぅはっ…………!!!」

 

 

そのまま身体をもとに戻し、薙刀を縦に振り下ろすと同時に妹紅を投げ飛ばす。

 

 

「うわっ!?」

 

 

そして、妹紅を投げ飛ばした先は青葉のいる場所だった。

 

 

「さらばだ、月の都の小僧!貴様の姉共も、我が前には無力!私は、次こそ月を落とし、全ての脅威をねじ伏せ、あらゆる鞍馬天狗を守り抜くのだ!その脅威を、貴様の死とともに終わらせてやる!」

 

 

そのまま百鬼丸は薙刀を勢いよく投擲した。

 

投げ飛ばされていく妹紅の身体を貫き、それでも止まらないその刃。

 

 

「八霖儚…………いや………違う!」

 

 

青葉は薙刀を弾こうとしたが、薙刀に貫かれそれとともに飛来してくる妹紅を青葉は見逃さなかった。

百鬼丸の投擲が見えるはずもない。弾くだけでも至難の業だが、青葉はそれを見切り、それに大事な友が連れられていることを見逃さなかった。

 

だから──────この結果は必然だった。

 

 

 

「妹紅────────!!!!!」

 

 

青葉は刀を投げ捨て、藤原妹紅を優しく受け止めるように身体を広げた。

 

 

直後、ずどぉぉぉぉんと轟音が鳴り響く。

 

 

 

そこには───────

 

 

 

 

折り重なった状態の妹紅と青葉の姿。

 

 

不老不死の妹紅は薙刀で貫かれた程度では死なない。

 

そして青葉は────────

 

 

 

 

腹の中心を薙刀に貫かれている状態で妹紅を抱きしめて倒れていた。

 

 

 

「青…………葉──────!!!」

 

 

慧音は苦しげに叫ぶ。

 

 

 

 

 

「青葉さん…………あっ─────」

 

 

「まず1人、そして貴様も終わりだ───!」

 

 

 

百鬼丸は腰から太刀を抜き、立ち上がろうとしていた文に向かって全力で振り下ろした。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────────」

 

 

百鬼丸の刀は人影を勢いよく両断した。

猛烈な血しぶきの中で文は青ざめた顔でただ居る。

 

時が止まったように、烏の黒い羽が飛び散る。

 

 

「そん……………な………………」

 

 

カランカラン、と三脚が地面に落ちて。

 

そして1人が倒れてしまった。

 

 

 

 

「飯綱丸様──────!!!!!」

 

 

 

飯綱丸は文を抱きしめるように守った状態で百鬼丸の刃を受け、倒れてしまった。

 

 

 

「なッ───────!?」

 

 

百鬼丸まさかの乱入によって自分の刃を防がれたことに驚いたのか、剣を振り下ろした状態で止まっている。

刀は飯綱丸の身体を途中まで斬りながら止まっている。

 

 

「ぐっ………………グウウゥッ……………」

 

 

飯綱丸は歯を食いしばり、口から溢れる血と背中の猛烈な痛みに耐えながら文を抱きしめる。

 

 

 

「ぐっ………………この……………!!!」

 

 

百鬼丸は刀を抜き取り、今度こそは飯綱丸もろとも文を斬り倒そうと刀を振り上げる。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

「オオバ──────ッ!!!!!」

 

 

 

集落の裏から轟音が鳴り響く。

その音はこちら側へとどんどん近づいてくる。

 

 

そしてそれは百鬼丸の戦いを遠目に見守っていた一般の鞍馬天狗兵たちを吹き飛ばしながらやってくる。

 

 

 

「オォォォラッ!どきやがれクソボケがーっ!」

 

 

そしてソレは瓦礫の山と柵を粉砕しながら現れた。

 

 

 

「行くぜぇぇぇっ!!!参・戦だっ!!!」

 

「たかね!もっとこれ運転性どうにかならなかったのか!?」

 

「んなもん知ったことか!走れたら何でもいいだろ!」

 

 

 

それは、巨大なベルトコンベアーのようなものを2本携えた、迷彩柄のゴツゴツとした巨大な自走装置だった。

 

 

「これは外の世界で【戦車】と呼ばれてるやつに私が独自の改造を施した特殊車両!いわゆる、戦車とバギーのハイブリッドってやつかね!」

 

 

運転席の河城にとり、そしてそれを覆う砲塔に座るたかね、さらに車両の甲板にしがみつく化野安曇が駆けつけてきたのだ。

 

百鬼丸は妙ちくりんな見たこともない存在を目の当たりにしても怖気づくことはない。

 

 

「なんだその鉄塊は。我が薙のもとに切り裂いてくれる!」

 

 

 

百鬼丸が手を開くと、青葉を貫いていた薙刀は勝手に青葉の身体から大量の血を撒き散らしながら強引に引き抜き取られ、回転しながら全ての鮮血を拭い、百鬼丸の手に戻る。

 

 

「テメェェェェェェッ!!!!俺の親友に何してくれとんじゃボケがぁぁぁぁぁ!!!!にとり!轢き殺しちまえ!」

 

「あいよ!ビジネスポリシー上、殺しはせんが、ちょいと軽く跳ね飛ばしてやるさ!」

 

 

にとりの運転により、たかねの戦車は猛スピードで百鬼丸を襲う。

 

 

「ふん……………薄緑よ、我が王勇を讃え給へ!」

 

 

 

百鬼丸はなんと自ら戦車に薙刀一本で突っ込んでいった。

 

 

「なんだあいつ?自ら轢かれにきたぜ?」

 

「薙刀一本か。我が自慢の車両を舐めないでもらいたいね!」

 

「いっけぇぇぇっ!突進だー!」

 

 

 

「消えるがいい!鉄屑が!」

 

 

百鬼丸は戦車に直撃した瞬間に吸い込まれるように消えたかと思えば、戦車の後部から突き抜けていった。

 

 

 

「はぁ?」

 

 

「ちょっとたかね!ハンドルが利かない………!」

 

「ま、まさか──────!?」

 

 

 

たかねの驚愕の直後、戦車の周囲には百鬼丸の突進の終わりに遅れて、無数の緑色の斬撃がほとばしり、大爆発を起こした。

 

 

「ぅぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

「鉄の塊を粉砕するほどの攻撃だと………!?」

 

 

慧音は目の前でそれを見て、苦しそうな表情が驚きの顔に上書きされる。

 

 

 

「甘いな…………その程度の戦争文明、月で既に拝んでおるわ」

 

 

「いいや!甘えのはお前だね!」

 

 

 

爆発し、大炎上する炎。そしてその中で黒い煙が立ちこめる中、4つの車輪を備えた同じような別の車両が飛び出してきた。

 

 

 

「はっはっは!山童を舐めるんじゃない!あの戦車は仮の姿だ!あの中に本命の車両があるんだよ!バギーとのハイブリッドって言っただろう?」

 

「そんなことも見抜けないお前の目は節穴か?やーいやーい!」

 

 

たかねとにとりは声を合わせて百鬼丸を煽り倒す。

 

 

「河童風情が…………!」

 

「黙りな、変態仮面が!お前はこの爆弾と一緒に遊んでいやがれ!」

 

 

安曇は勢いよく茶色の弾を投げつける。

 

 

「変態仮面!?………くっ、打ち返してくれる!」

 

 

百鬼丸は薙刀の柄で難なくそれを打ち返す。

 

跳ね返された弾は装甲車の甲板を直撃し、すぐさま真っ白な煙が周囲に立ち込める。

 

 

「残念だったね。悪いけど爆弾なんてのぁハッタリさ。私の作る煙を詰め込んだだけの煙幕玉(スモークボール)さ………これがほんとの、「河童の尻子玉」ってやつかい?」

 

「山如、冗談言ってる場合じゃねーべ!早く怪我人運ぶんだ!」

 

 

中から駒草太夫とネムノの声も聞こえてくる。

 

 

 

「くっ…………せめて貴様だけでも…………!」

 

 

百鬼丸は先ほどまで目の前にいた文だけでも仕留めようと薙刀を振り上げる。

 

 

 

「おーっと。それは甘いんじゃねぇのか?お嬢さん」

 

 

しかし、振り上げた薙刀は、彼女の背後から音もなく滑り込んできた安曇によって掴まれ、振り下ろせなくなった。

 

 

「貴様……………!!!」

 

「妹紅ちゃん!今だ!腹立つ顔面に一発ぶちかましてやれ!」

 

 

安曇は煙の中で叫ぶ。

百鬼丸も含めて、全員にはもう周囲の全てが見えない。特殊な煙なのか音も乱れるように反響してモノの位置が分からない。

しかし、彼らは事前にしっかりと話し合ったであろう手際よい連携で着々とこなしていく。

 

 

「よくも青葉と大天狗をやりやがったな………この野郎!」

 

 

怒り狂う鬼の形相の妹紅がその腕を大ぶりに百鬼丸の顔に叩きつけた。

 

 

「ぐぅぅ……………!」

 

 

百鬼丸は初めて一撃を貰った。

 

 

「貴様……………ッ!!!」

 

 

薙刀を振りかざして妹紅に反撃を取ろうとした百鬼丸だが、

 

 

「残念時間切れだ。お前は妹紅ちゃんより文ちゃんを先にやるべきだったな。お前、感情的なとこ直さないと戦いには勝てないぜ?」

 

 

倒れる文と大天狗を引きずって退避するような音が聞こえてくる。

 

 

「グッ………………妖怪風情が……………!」

 

「妖怪はお前さんもさ。私らの培ってきた技術を舐めないでもらいたいね」

 

 

「戦では進化して力をつけたって大天狗から聞いたけどよ…………進化したのはお前らだけじゃねぇんだよバカが。アタマだけは進歩してねぇなぁ?」

 

「黙れ……………黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!」

 

 

 

「よし、これで全員だ!女に関しちゃ触れば胸と頭の大きさと腿の太さで俺は全員いるのわかるからな」

 

「化野!お前最低だn」

 

「よっしゃずらかるぞ!にとり、急発進だ!」

 

「はいよーっ!」

 

 

再び轟音を立てて装甲車が急発進する。

 

 

百鬼丸は煙の中に取り残される。

 

 

 

妹紅から一撃食らったことにより仮面が外れてその素顔があらわになる。

 

 

その顔はまだ若い、甲冑を脱ぎ捨てて着飾れば実に可愛らしい乙女のものだった。

しかし、目に刻まれた深い隈が数多の苦難を物語っていた。

 

 

 

 

「百鬼丸様。今なら追えます。私の部隊が行きますが」

 

 

そこへ、弓を構えた赤髪で薄着の少女が現れた。

 

「追え。ひとり残さず殺せ」

 

「承知」

 

 

部下を先に行かせて百鬼丸は手を見つめる。

 

 

 

 

「私が…………奴を…………斬ったのか?」

 

 

百鬼丸の脳裏には、飯綱丸を斬った時の光景が焼き付いていた。

 

 

 

 

「うっ……………あぁぁぁぁっ…………!!!!」

 

 

 

百鬼丸は薙刀を落とすと、頭を両手で抱えて膝をつき、猛烈な頭痛に悩まされるかのように頭を抑え苦しむ。

 

 

 

 

「私は、なんて事を………………!!!」

 

 

 

 

百鬼丸はそのまま、しばらく立つことができなくなっていた。

 

 

 

 

 

「─────────百鬼丸様……………」

 

 

 

その様子を、武蔵は遠くから見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧が晴れた時、そこには百鬼丸と武蔵以外の誰もいなかった。

 

 

 

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