東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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全滅・満身創痍

 

 

 

「せぇっ!!!」

 

 

犬走椛が刀を抜き、一目散に赤髪の少女へ斬りかかる。

 

 

鞍馬天狗の三傑、那須備壱与。

 

現在慧音たちは、大天狗百鬼丸との戦いで重傷を負った飯綱丸と瀕死の青葉を乗せ、山城たかねの装甲車で鞍馬天狗の軍勢から逃亡中だ。

 

しかし敵は鞍馬天狗、幻想郷の多人数種族の中では最強とされた種族。戦の天才から逃亡することは一筋縄ではかなわず、ついにナスビが率いる本隊が追いついてしまった。

 

河城にとりとたかねは車両の運転、射命丸文と姫海棠はたては飯綱丸の看護、駒草太夫と坂田ネムノは青葉の応急処置で手一杯。

 

甲板で追いついてきた軍隊を撃退することが可能なのは上白沢慧音と藤原妹紅、犬走椛、それから化野安曇だけであった。

 

最初は絶望的な状況だったものの、安曇の戦闘能力は見かけに反して常軌を逸したものであり、一貫の終わりかと思ったこの状況を打破することに成功した。

 

しかし……………

 

 

「弓が手薄だぜ、お嬢さんよぉ!!!」

 

「こっちは四人もいるんだ、四手に分かれれば弓で一斉に相手することはかなうまい!」

 

 

 

「いや…………甘いな。確かに私は弓を最も得意とする武将だが、剣の心得がないとは言っておらん!」

 

 

相手は鞍馬天狗を代表するやり手。

一般の人妖が4人つっかかった程度ではどうにもできない強敵だ。

 

 

「な、なんだぁぁぁっ!?」

 

 

安曇がパイプ状の鉄棒を振り下ろすが、ナスビは弓を立ててその一撃を防いでしまった。

 

 

さらに、赤と金の派手な色合いの弓が分裂し、2本の刀となって振り上げられた。

 

 

「ぐぅっ…………!?」

 

 

安曇は腕と胸を斬り裂かれながらはじき返される。

 

 

「安曇!」

 

「うるせぇ騒ぐな、軽傷だ」

 

 

ナスビの弓は二本の小太刀の束を合わせたもの。二本の刀は武器となり弓の弦となる。

 

 

「カッコいい武器じゃねぇか。羨ましいぜ」

 

 

安曇は余裕を見せるように話しかける。

 

 

「ほんとう!?ありがとうちょっと嬉しいかも!」

 

「てめ舐めてんじゃねぇぞバカかコラ!!!」

 

 

天然すぎて素直に喜んでしまうナスビに調子を狂わせる安曇。

 

 

「だが残念だったな。私なぞよりも百鬼丸様のほうがずっとかっこいい!それが分からないお前は死ぬべきだ!たとえどんなお世辞を並べ立てても、私を誘惑することはできないぞ!」

 

「今めちゃくちゃ喜んでただろ」

 

 

すかさず妹紅のツッコミが入る。

 

 

「うるさーい!…………とくに白いのと男!お前たちのことは河童の集落にいる時からずっと木の上から監視していたんだぞ。その気になればお前たちの脳天を射ることもできたのだからな!」

 

「だからなんだよ。じゃあやれよ。なんでやらなかったんだよ」

 

「たしかにそうだな!そうしとけばこうはならなかったかもしれんな!だから次からはそうする!」

 

 

やはり限りなく脳が小さい。

 

 

「さて…………ここで俺たちを仕留めないと、お前が死ぬことになるぜ?このナスビ野郎」

 

「ナスビ言うな!」

 

「あの百鬼丸のことだ。お前が俺たちを監視段階で仕留める判断ができなかったと知ったら、かわいい部下だろうが死刑確定だろうよ。さぁどうする?俺たちと本気で喧嘩するか?もしお前が来なけりゃこのまま俺たちは逃げ切り、あとは百鬼丸にチクられてお前は死ぬ。だがお前が俺たちを殺しに来るようなら、俺は当然殺られる前にお前を殺す。せっかくだからお前に選ばせてやるよ」

 

 

「あたかもお前が主導権を握っているかのようだな。勘違いされては困る」

 

 

ナスビの背中から翼が生える。

 

 

「貴様、私が少し頭が回らないからって調子に乗っているだろう」

 

「少しじゃねぇだろ」

 

「私は確かに頭は切れないがな、それでもただの妖怪に偉そうにされるのもそれはそれで遺憾だ」

 

 

ナスビは二本の刀の束を合わせ、弓の形状に戻したあと、合体させた束をひねり、双頭剣の形状へと切り替える。

 

 

「なんだぁありゃあ!?上にも下にも、刃があるぞ!?」

 

「あれは両剣という形状です!あれほどの特殊な形状、重さも長さも平衡感も、すべてにおいて扱いは困難を極めますが、鞍馬天狗ならばあるいは…………!」

 

 

「お前たちは私がお前たちを殺そうとしているように見えるか?…………たしかにそうだな。だがな、私はこれでも兵法を究めた者だ。物事の順序というものを熟知している。戦において、相手の何から潰していくべきか瞬時に判断できる」

 

 

そのままナスビは安曇や慧音たちから離れた状態で武器を振り上げる。

この間合いでは絶対に届かない。

 

 

「何か仕掛けてくる……………!?」

 

 

 

「──────お前たちは私よりバカだな。天狗とは空を飛ぶものって知っているか?」

 

 

 

一呼吸の隙に、ナスビの狙いが見抜けなかった慧音たちの責任だった。

 

 

 

「空を飛ぶほうが有利であるのに、わざわざ私が律儀に甲板の上に降り立った理由が、お前たちのような戦の素人には見抜けないんだろう」

 

 

 

 

そのままナスビは両刀を勢いよく甲板に突き刺した。

 

 

刃は鋼鉄の装甲をものともせず貫き、強烈な破砕音を響かせた。

 

 

「あ゙ーーーーっ!!!!!」

 

 

妹紅が指を差すがもう遅い。

 

 

 

甲板に開いた大穴から電流が走る。

 

 

「まさか、野郎はじめからこの車両を止めるってハラだったってのか…………!!!」

 

「その通りだ!逃げ回る貴様らを私一人で葬り去るよりも、そもそも貴様らを逃げれなくして、部隊の到着に合わせて全勢力で叩くほうが効率が良いにきまっておろう!戦とは相手の脚から払うものだ。知っているか?弓戦といってな、馬に乗る相手を弓で落とし、脚を奪ってから鎧の隙間から刀を刺すのだ。それと同じであるよ!」

 

 

もう一度両刀を振り上げ、刺しこんだあと、車両は急激にスピードを落としてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「にとり!エンジンが破損したぞ!」

 

「ちゃんとメンテしたのか!?これだから山童は…………!」

 

「いや違う!これは、甲板が破壊された外傷が内部に響いたんだ…………敵が、装甲を破ってエンジンを破壊しやがったんだ…………!」

 

「つまりこの車両はまもなく止まるということか!?」

 

 

 

「あややぁぁっ!!そんな!!」

 

「ど、どうすればいいっていうのよ!?」

 

「緊急事態だべ、こうなりゃウチらも出るしかない!」

 

「いやネムノ。私らが看護を手薄にすれば、青葉が助かる可能性が格段に下がる…………!」

 

 

コックピットの中は大騒ぎ。

重症者2名を抱えた状態でたいした防衛策も用意できていない無防備な状態で装甲車が止まれば本当に終わりだ。

 

 

 

「…………………!たかね、にとり!」

 

 

 

飯綱丸が突然運転席に飛び込み、にとりとたかねの襟を掴んで引っ張った。

 

 

運転席から二人が引っ剥がされるとほぼ同時、上から降ってきた刃が運転席を寸分の狂いなく貫いた。

 

 

「ひっ…………!!!今の……………!!!」

 

 

運転席のシートは見事に貫かれていた。

 

 

にとりとたかねがそこに座り続けていれば間違いなく上から下まで串刺しだった。

 

 

「助かった〜……………」

 

「だ、大天狗………これは借りにしておくよ………」

 

「いいや。問題ない…………ご、ふっ、」

 

 

急激な運動で傷口が悪化して飯綱丸はくずおれる。

 

 

「飯綱丸様!!」

 

「くっ……………青葉だけじゃない、大天狗も限界だべ。これ以上は動けやしねぇ…………」

 

「青葉!はやく起きなさいよ!何とかしてよ!」

 

「はたて…………今のこの状態の青葉さんが指一本でも動かせば死んでしまいますよ…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉらっ!!!!」

 

「遅い!浅い!甘ったるい!」

 

「三拍子揃えやがってくそったれ…………!ぐぅぁっ!」

 

 

急激に動きが良くなったナスビの猛攻に押し切られて安曇は転倒する。

 

 

「ここか!」

 

 

そして、攻撃の合間にナスビは両刀を車両に突き刺し、中にいる者を串刺しにしようとする。

 

そうこうしているあいだについに車両が完全に止まってしまった。

 

 

「車両が停止したか。これで私の部隊が到着するのも時間の問題だ。この時点で貴様らの敗北は確定したな」

 

 

「何を言っているんですか。この程度で、私たちは諦めたりなどしません…………!」

 

 

椛は歯を食いしばり、刀を取ってナスビの前にたちふさがる。

 

 

「白狼天狗風情が…………身の程を知れい!」

 

 

甲板を前傾姿勢でものすごい勢いで駆け抜けるナスビを見切ることが椛にはできない。

盾を構えて待つしかない。

 

 

「ここだ!」

 

 

椛は両刀の一撃を盾で流すようにして防ぎ、左腕を振りかぶって勢いを受け流してやった。

椛も白狼天狗の中では精鋭中の精鋭。

それなりに修羅場はくぐってきている。

 

 

「ふん、虚を突くための伏線にすぎん!」

 

 

両刀が二刀に分離して、ナスビは身体を回転させながら逆手に持ち変え、そのまま弾くように左へ追いやった盾によりガラ空きになった右脇からその刃を椛に突き刺した。

 

 

「かはっ……………!!!」

 

 

椛はギリギリで飛び退こうとするがそれでも脇腹を斬り裂かれて後退する。

 

 

「いや…………タダではやらせないぞ…………!」

 

 

しかし、のけぞった体勢をすぐに直し、椛は四本脚で逆にナスビへと突っ込んでいく。

 

 

「玉砕とは見苦しいな!」

 

 

二本の刀の連続の突きが猪突猛進する椛を襲う。

 

 

「ぐっふ…………!これしき…………!!」

 

 

「行くぞ!椛、テキトーに合わせてくれ!」

 

 

 

しかし、椛の働きも無駄ではない。

椛が対峙している隙に妹紅がナスビの背後に回っていたのだ。

 

 

「逃げ道、簡単に作らせるかよ!」

 

 

妹紅はあえて車両の甲板に火を放つ。

もう使えない車両だ。燃えても害はない。

炎の壁がたちまちナスビの後退と横移動を妨げる。

 

ナスビはこの一瞬で目を一回転させただけで全ての状況を把握した。

 

 

「ならば……………」

 

 

───────上に逃げるのみ。

 

 

ナスビはすでに飛翔の準備は整えている。

 

 

 

 

 

「そうはさせるか!!!」

 

 

しかし、そっちの方はすでに慧音が対策済みだ。

 

 

「むっ……………!?」

 

 

ナスビの上空を何か帯のようなものが連続で通過していく。

それにより天井が作られていき、上への逃げ道を無くしてしまった。

 

 

 

「貴様か……………!」

 

 

ナスビの死線の先には、巻物を手にする慧音の姿。

無限に伸びる巻物が天井を作ったのだ。

 

 

「ならば防ぐか……………?」

 

 

二本の刀を交差して突進する椛の攻撃を止めようとしたその時!

 

 

 

「今だぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「くたばりやがれ鳥頭がよぉぉぉぉ!!!!」

 

 

背後からの妹紅の攻撃、さらに椛の肩を跳び箱のようにして飛び越え、中空から飛び込んでくる安曇の攻撃の挟み撃ちだ。

 

 

さらに椛の瞳が決意に燃え、立派な白い尻尾と瞳が燃え盛る炎のような赤になる。

 

 

「まさか………………!!!」

 

 

妹紅の攻撃と安曇の攻撃は難なく防がれてしまった。

 

 

しかし、挟み撃ちの攻撃にナスビは両手を使ってしまった。

 

 

 

 

正面からやってくる椛の攻撃を防ぐ手段はない!

 

 

 

白凰撃(はくおうげき)餓狼豪火爪(がろうごうかそう)』!!!」

 

 

椛の目にも留まらぬ疾走から放たれる、燃え盛る強烈な爪の振り上げが激しくナスビへと叩きつけられた。

 

 

甲板の上で大爆発が起こる。

 

 

 

「やった!!!決まったな!!!」

 

 

妹紅がガッツポーズをとる。

 

 

「これで少しは懲りただろ。あのバカも」

 

 

安曇がパンパンと手をはたく。

 

 

 

 

「いや…………手応えが……………ない…………!?」

 

 

椛の声とともに爆風が止む。

 

 

 

 

そこにはなんと、これまでに見たことのないほどの大きさを持つ大穴だった。

人っ子一人は余裕で入れる。

 

 

 

「まさか、あいつ!?」

 

 

安曇の最悪の予感は的中してしまった。 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

そう、なんとナスビは上空でも横でも背後でもなく、下。つまり車両を強引に切り開き中に逃げるという選択をとった。

 

エンジンを跡形もなく引き裂き破壊し尽くし、機械室を粉砕してそのまま壁を突き破り、横からコックピット内へと突入した。

 

 

 

「馬鹿な──────っ!?」

 

 

飯綱丸が慌てて三脚を構え、さらに嫌な予感を察したネムノが中華包丁を出し、さらに山如も同じく金属性の巨大な扇子を広げたがその勢いを殺すには全く足りていなかった。

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

「ぐぅぅっ!!」

 

「ぬぐっ!」

 

 

3人は壁に叩きつけられてバウンドし、床に倒れた。

 

 

「大丈夫か3人とも!?」

 

「飯綱丸様ーっ!!!」

 

「あややっ!?どうやって侵入したんですか!?」

 

 

 

文とはたてが慌ててナスビの前に立ち塞がるが全く見向きもされずにただただ蹴り飛ばされた。

 

 

「敵将………飯綱丸、見つけたぞ………!」

 

 

「飯綱丸様、下がってください。ここは私と文で…………」

 

 

はたてがナスビの前に出て飯綱丸を守るようにする。

 

 

「いや…………下がれはたて」

 

「飯綱丸様!?」

 

 

飯綱丸が苦しげに立ち上がる。

先ほどの一撃で負傷した左腕を抑えながらはたての前に出る。

 

 

「私は鴉天狗の大将だ…………可愛い部下を戦に巻き込み、自分を守らせて死なせるなど…………絶対にさせるものか…………」

 

 

「それがお前の覚悟か…………飯綱丸龍。この目に確と見せて貰った。たしかにお前は優れた鴉天狗の指導者のようだな」

 

「さぁ…………私は逃げも隠れもせんぞ。私を捉えたいのなら好きにしろ!」

 

 

飯綱丸は武器である三脚を床に投げ捨てる。

 

 

「見事だな、鴉の大天狗よ。その最高の誉れに敬意を示して、一撃で首をはねる!」

 

 

瞬間、ナスビは一瞬で間合いを詰めた。

 

 

 

 

 

「待て!その前にいろいろと話をさせろ!」

 

 

飯綱丸は叫ぶ。

 

 

「なんだ!早くしろ!」

 

 

そしてナスビは停止。

 

そしてその一瞬が勝利へ繋がる。

 

 

 

「ボケが、時間切れだよォァ!!!」

 

 

背後から金属棒を振り上げて安曇が襲いかかる。

飯綱丸が時間を稼いだ成果だ。

 

 

(この間合いは躱せねぇぞ!一発食らって死んでいやがれ、クソ鳥が─────!!!!)

 

 

ナスビはまだ振り向いてすらいない。

安曇は勝利を確信した。

 

 

 

「─────────────」

 

 

しかし、ナスビはピクッと視線を安曇のほうへ移すと迷わず体勢を低くした。

 

 

「何いっ…………!?」

 

 

安曇の攻撃は虚しく空を切り、ナスビの頭を外していく。

 

 

「やはり来ると思っていたぞ。ずいぶんと早い行動だな」

 

 

ナスビは満面の余裕で刀を安曇へと突き刺す。

右腕から放たれる上段の突きを安曇は躱しきれない。

 

 

「ぐっ…………!!!」

 

 

咄嗟に片手を出すとともに攻撃を受ける。

安曇の右手が刀に引き裂かれて大量の出血を引き起こす。

 

さらに、ナスビの刀は二本。

突きはもう一段階ある。

 

 

「これで貴様は、逃げられないな!」

 

 

 

左からの突きが今度は安曇の腹を貫いた。

 

 

「グフアッ…………!!!」

 

「安曇さん──────!!!!!」

 

 

血を吐きながら倒れようとする安曇だったが、彼は最後の力を振り絞る。

 

 

 

「…………今だぁぁ…………射命丸────!!!!」

 

 

安曇の叫びを聞いて文は咄嗟に反応した。

 

 

一瞬にして立ち上がり、床に転がっていた飯綱丸の三脚を握りしめる。

そして目にも留まらぬ速度でナスビへと突っ込んでいった。

 

 

 

「なっ…………!?」

 

 

ナスビは慌てて文を撃退しようとするが、それはできなかった。

 

なぜならば──────────

 

 

 

 

 

「逃げられないって言ってたな…………?誰に向かって言ってんだ?そりゃあ」

 

 

安曇は刺された状態で、両手でナスビの剣を握りしめ、抜けないように固めていたからだ。

 

 

 

 

 

「あやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 

文の強烈な三脚振り上げ。

 

 

「ま、待てぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

「鴉天狗式・三脚殴打─────!!!!!」

 

 

バチコーン、と一撃にして俊足。

強烈な三脚振り下ろしがナスビの頭頂部を直撃した。

 

 

 

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」

 

 

 

ナスビは横に傾き、吹っ飛びながら何十回と回転しながら倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった……………!!!!!」

 

 

はたてが泣きそうな声で叫んだ。

 

 

 

「ひえーっ。死ぬかと思ったぁ…………」

 

「やれやれ、万事休すだ、」

 

 

にとりとたかねが冷や汗をぬぐう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない所だったぞ─────鴉天狗、」

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてナスビは、身体を上下反転させた状態で宙に浮かび、弓に矢をつがえていた。

 

 

 

 

 

 

 

「─────天弓(てんきゅう)月射曲光(げっしゃきょっこう)』」

 

 

 

 

 

 

「──────────────」

 

 

 

 

一条の光が文の身体の中心を捉え、そのまま車両のコックピットを丸ごと打ち抜いた。

 

光の矢はナスビが光の弦から指を離すより前に放たれたかのような神速。

ナスビ自身も含めて、誰もその光の軌道を見ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして装甲車はけたたましい爆発音と共に真っ赤な煙を放ち、燃え上がったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅっ……………!」

 

 

飯綱丸は爆塵や砂埃を浴び、擦り傷を負いながらもなんとか助かった。

 

 

 

「あ、文は…………!?」

 

 

 

飯綱丸は四つん這いになって顔を上げた時にはもう遅い。

 

 

 

 

「────────文ーッッッ!!!!」

 

 

 

文は光の弓で撃ち抜かれて力なく地面に倒れ伏していた。

さらに車両の爆発をモロに受けて、限界の重傷を負っていた。

 

 

「文………!文………!しっかり!しっかりしなさいよ!」

 

 

煤まみれで黒くなったはたてが必至に文の身体を揺らすが彼女から返事はない。

 

 

 

「ぐっ…………見えたか大天狗…………?文はな、あの弓から放たれた光に撃ち抜かれて、そのまま壁に激突したんだ……………」

 

 

 

炎に包まれる車両の破片の下敷きになっていたたかねが這い出てくる。

 

 

「そして光はそのまま車両を貫き爆発したんだ。つまり、爆心地は文の真後ろだ…………助かるほうが不思議だよ…………」

 

 

にとりもなんとか口にしたがすぐさまバタリと力を失って倒れてしまった。

 

 

 

「うぐ…………こりゃ一本取られたべ…………」

 

「こいつは………流石に………お手上げか………」

 

 

ネムノと山如も戦えそうな状態ではない。

すぐに横になってしまった。

 

 

 

「────────そんな…………馬鹿な…………」

 

 

 

勝ち目はいくらでもあったはずだ。

それを事ごとく、裏をかいたナスビに潰され、安曇の献身によりやっとの思いで食らわせられた一撃が、100倍になって返ってくるなんて。

 

逃げる手段を失い、仲間は一瞬にして全滅し再起不能。

 

全員とも、鞍馬天狗を甘く見すぎていた。

いや……………知らなかったのだ。

 

 

幻想郷で最強の種族たるその所以を……………

 

 

 

「ちなみに、今の一撃だが。あんなもの、食らったうちに入らん。分かるだろう?お前たちの戦力では、どうあがいても鞍馬天狗には勝てん。何かの妖怪の種の総戦力を合わせて、やっと私たち一人ぶんになる。そんな最強の妖怪に勝負を挑むことの愚かさを、その身を以て思い知ったか?」

 

「ぐぅっ……………く……………」

 

 

 

「待て…………飯綱丸には…………触れさせねぇよ…………!」

 

 

後ろから安曇がとてつもない重傷を負いながらも、なんとか脚を引きずって現れる。

 

 

「ふん、貴様に何ができる?」

 

 

ナスビは軽く弓を射って安曇の脚を撃ち抜いた。

 

 

「クソが……………てめぇはぜってぇ、後で殺…………!」

 

 

安曇も歩けなくなり、前のめりに倒れる。

 

 

「誰か…………いないのか……………!?椛!妹紅!慧音!」

 

 

 

飯綱丸は炎の向こうへ叫ぶ。

 

 

炎の中から、妹紅が飛んできた。

 

 

妹紅は何者かに跳ね飛ばされたかのように吹っ飛んで現れ、背中を地面に打ち付けて倒れた。

 

 

身体じゅうを無惨に切り刻まれて死んでいた。

 

 

「くっそぉ………………!!!あいつ…………もう追いついてきたのかよ…………ガハッ!!!」

 

 

妹紅の胸に突如としてどこからともなく薙刀が落ちてきた。

 

 

 

「─────!?」

 

 

そして、妹紅が飛んできた炎の奥から、一人の人影が歩いてきた。

 

 

それは、紛れもない。

飯綱丸の元親友、常磐百鬼丸繰経。

 

 

 

その両手には、ぐったりとした慧音と、ボロボロになって気絶している椛が引きずられていた。

 

 

 

百鬼丸は2人を乱雑に、そして見せつけるように飯綱丸の目の前に投げ捨てた。

 

 

 

「…………………………っ!!!椛…………慧音…………」

 

 

 

薙刀が妹紅の胸からひとりでに抜き取られ、自動的に百鬼丸の右手へ戻っていく。

 

 

 

「───────あっけないな、飯綱丸」

 

 

百鬼丸は傷一つなく表情も変えることなく現れた。

 

 

「百鬼丸………………」

 

 

百鬼丸は余計な問答もなく、薙刀の切っ先を、しゃがみ込む飯綱丸の首筋へと突きつけた。

 

 

「うっ………………!」

 

「思い知ったか?これが、私の見た地獄だ。抗うことのできぬ暴力を前に、数多の無辜の民が一瞬にして犠牲となった。私らが最大限まで手加減してやっただけに、あの小僧以外に死者はおらぬようだが…………私はな、これらのすべてが命を落としたんだ」

 

「───────────────」

 

「飯綱丸、再三忠告するぞ。お前と私は、もう友ではない。邪魔をするのならお前も敵だ。さぁ、はやく月の小僧を出せ。それと引き換えにするのならば、私はお前に今この瞬間という最後のチャンスをやる。他の連中を連れて帰るがいい。もっとも、小僧の身柄はあきらめてもらうことになるがな」

 

 

 

今にも首元の刃が動き首を裂きそうな重圧。

しかしその中でも飯綱丸は表情を変えずに百鬼丸を睨んだ。

 

 

 

「───────────断る、」

 

 

そして一言。こう言い放った。

 

 

「………………なんだと?」

 

「断じて断る!!!青葉は我が飯空Projectの重要なビジネスパートナーだ!私は富と利益を得るために仲間を持つんだよ────だがな…………富では仲間と引き換えられない。私は仲間を売るなんてこと、商売人として死んでもできるものか!」

 

「貴様………………!!!」

 

 

百鬼丸は薙刀を勢いよく引く。

飯綱丸の胸を貫こうと突き出そうとした瞬間────

 

 

「そもそも、お前が言うには、お前はもう私の友達ではないのだろう。私はな、友達のお願いは喜んで引き受けるが、赤の他人の勝手な願いを………対価もないのに聞くわけがないだろう!」

 

 

 

飯綱丸は薙刀を払い除けて百鬼丸の脛をその高下駄の角で勢いよく蹴り飛ばした。

天狗眼の収められた、あの金の脛当てを。

 

 

 

「あ゙い゙だーーーーーーーっ!!!!!!!」

 

 

 

百鬼丸は薙刀を投げ捨て、脛を両手で抑え、変な声を上げながらピョンピョンはねる。

 

 

「昔からお前はそこが決定的な弱点だったよな………百鬼丸。お前とは幼い頃なんどもケンカしたが………そこだけは蹴らないようにしてやったんだ。…………でも今は違う。私の仲間を襲うお前のような卑怯者を、私は許さないぞ………百鬼丸!」

 

 

「いっ…………だぁいよぉ…………むさしぃ…………いたいよぉ…………」

 

 

百鬼丸は大粒の涙を流しながら苦しそうな声を上げる。

まるで子どものようだった。

その豹変ぶりには飯綱丸も一瞬戸惑いを見せる。

 

もちろん先程との、決定的な態度の変化が恐ろしいのもそうだが、

 

その懐かしさに情が沸いてしまったのだ。

 

その綺麗な心の隙も、戦場においては死へのいざない。

 

 

 

「許さん!!!貴様がその気なら、その死んでも売れない仲間とやらのために死ぬがいい!!!」

 

 

百鬼丸は一瞬にして元気を取り戻し、飛び上がりながら飯綱丸を斬りつける。

 

 

「ぐぅっっ……………!!!!」

 

 

飯綱丸はばっさりと袈裟に斬られる。

 

 

(まずいな…………今のは本当に当たりどころ次第では死んでいたぞ…………)

 

 

 

「よく外したな。だが、次はない!!!…………死ね、鴉天狗幾千年の歴史とともに!!!」

 

 

 

 

 

「もう駄目か─────────!!!!!」

 

 

 

 

飯綱丸はもう一度躱せないか、もう無理かと思案していた頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

飯綱丸は百鬼丸の背後、その上空から何かが燃え上がりながら降ってくるのを見た。

 

 

 

「あれは────────!?」

 

 

「なにっ……………!!」

 

 

飯綱丸の視線の変化と、その表情を見た百鬼丸も背後を振り向く。

 

 

上空から、燃えるような細長い物体が素早く落下してくる。

 

 

 

「なんだあれは……………!」

 

「えいっ!!!」

 

 

好きを晒せば死。

それは飯綱丸だけの条件ではない。

百鬼丸だろうがそのルールは同じ。

 

飯綱丸はもう一度勢いよく脛を蹴っ飛ばした。

 

 

 

「ひゃあんっ!!!」

 

 

今度は百鬼丸が甲高い声を上げながら飛び退く。

さっき蹴られたばかりで警戒していたので、ギリギリで躱したようだ。

 

 

しかし、咄嗟の乱雑な回避のせいで、上から降ってくる炎の剣を見るのが遅れてしまった。

 

 

「あっ、やば──────」

 

 

 

構太刀(かまいたち)八重垣(やえがきの)構太刀(かまえたち)』!!!」

 

 

 

振り下ろされた刀が勢いよく地面を切り裂くとともに、猛烈な炎の柱が広がった。

 

 

地盤が沈下し、その亀裂からマグマが噴き出すように火の柱が上がっていく。

 

 

 

 

「─────さっ、大天狗!早く逃げるんだわさ!鴉天狗の援軍もすぐそこまで来てるさ!」

 

 

そこに現れたのは御劔一千子。

 

 

「一千子!そういえばお前もいたな!どこへ行っていた!?」

 

 

「私だけ遅れてやってきたんだわさ。あんたらの乗る車両を追いかける鞍馬天狗たちを一通り足止めしたあと、車両を追いかけたってことさ」

 

 

一千子は火柱が上がってる隙に飯綱丸に肩を貸してその場を去る。

 

 

「あんたらの車両があのまんま走ってりゃあ合流は御湯殿いづなになったろうが、途中で止まってくれたおかげさ」

 

「まってくれ一千子!他のみんなは…………!」

 

「もう救出チームが来てるらしいんだわさ。他のみんなも今、救出班に助け出されているってさ。椛から聞いてなかっただか?」

 

 

そういえば椛は援軍を呼ぶというようなことを言っていたような気がしたな、と飯綱丸は思い出した。

 

そして飯綱丸は一千子に連れられながらなんとか木々の間に入り、入り組んだ森の中をくぐってなんとか撤退することに成功した。

 

 

 

 

百鬼丸たちの追っ手は来なかった。

 

──────というのも、

 

 

 

 

 

 

「百鬼丸様!?大丈夫ですか!?そんなお涙を流されて…………!」

 

「違うっ…………泣いてなんかないもん…………!!!目が乾燥しただけだ!」

 

「もっとマシな言い訳なかったのですか…………見せて下さい。あぁ…………さては脛蹴られましたね?」

 

「ううっ……………いったいなマジで……………ナスビ、戦略的撤退だ」

 

「はい?」

 

「帰って私の脚冷やせ」

 

「いや、それだったら私らだけ帰って他の部隊は奴ら追わせたら」

 

「どうでも!あんなもんどうだってよいわ!小僧の命なんてそのうち屠れば良い!今は私の痛いの治すのが最優先だっ!」

 

「………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、飯空Projectのメンバーは全員が負傷し、戦線に立てない状態。

 

 

最悪の収穫で御湯殿に戻る飯綱丸は、帰っても心の整理がつかない。

親友の豹変、圧倒的な力の差、仲間たちが全滅。幼いころから面倒を見てやっていた可愛い部下の重傷………………

 

 

だが、それでも彼女の頭の中ではただ一つの、同じ言葉だけが繰り返されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────お前と私はもう友達ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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