東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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月虹市場て何じゃらほい

 

 

 

──────────ならない。

 

 

 

 

 

──────────死なせてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に────────死なせてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから──────────貴方には生きていてもらわなければならないの。

 

 

 

 

 

 

 

たとえ────────私たちが何をしてでも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方は死ぬまで、死んではいけないわ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えい………………りん……………さん…………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あうっ……………く、」

 

 

頭に猛烈な痛みを抱えながら俺は瞳を開いた。

 

 

「ここは……………」

 

 

木造の天井が見える。

身体を起こすと、そこは御湯殿いづなのホテルと同じ景色だった。

 

 

「目が覚めたのね、青葉」

 

 

窓側から声がすると思って俺はバルコニーのほうを振り向く。

 

そっちから、ツインテールの女の子がやってきた。

 

 

「はたてさん…………」

 

 

姫海棠はたてさん…………文さんの知り合いかなんかだって。そう認識している。

 

 

「よく起きれたのね。その傷、普通の妖怪だったら死んでいるはずなのに………」

 

 

はたてさんは俺の身体を見つめる。

 

俺は上裸の状態で身体に包帯を巻いていた。

お腹になんとも言えない喪失感のような気持ち悪さを感じるが、ふしぎと痛みはしない。

 

俺は自身を覆う包帯を剥ぎ取る。

 

 

「ちょっ…………!あんた、それ外したら……………………えっ!?」

 

 

はたてさんは両手で口を押さえて驚いた。

 

 

 

「──────────」

 

 

俺の包帯の下にはただの白肌があっただけだった。

傷は一つもない。

 

 

「うそ……………」

 

「俺もビックリだ。たしか、俺は鞍馬天狗の集落…………常磐國で百鬼丸と戦って…………身体を薙刀で貫かれたはずなんだけど」

 

 

だが、身体のどこにも切傷や裂傷は残っておらず俺は至って無傷の健康体だった。

 

 

「うぐっ……………」

 

 

だが、お腹のあたりを漂う猛烈な喪失感と、何かへの拒絶反応か、あるいは脳へのショックなのか知らないが、猛烈な麻痺と倦怠感と嘔吐感で動けない。

 

 

「オオバは死に損なうの得意だからな。もっと厳しい怪我なんて何度か負ってきたろう?」

 

 

ソファで妹紅は雑誌を読みながらくつろいでいた。

 

 

「あのねぇ……………君……………」

 

 

いくらなんでも死傷者の真横でリラックスしすぎだろと言いかけたが、妹紅は死生観が俺たちとは異なっているので、そういう遠慮とかは概念として存在しないということを思い出した。

 

思えば無意味な問いかけだった。

 

 

「他のみんなは……………」

 

 

「……………飯空Projectのメンバーは全滅よ」

 

「あぁ。それでも死傷者ゼロなのは奇跡としか言いようがないよ」

 

 

 

 

 

射命丸文は那須備壱与という鞍馬天狗との戦闘で重傷。

 

 

姫海棠はたては多少の擦り傷程度でなんとか無事。

一番の軽症者だった。

 

 

犬走椛は再起不能。

 

 

言わずもがな妹紅は不老不死なのでなんともない。

 

 

慧音さんは重傷とまではいかないがはたてさんよりは重い怪我を負ってしまった。

 

 

太夫とネムノさんも慧音さんとほぼ同じ状況だが、少し怪我の程度は軽いそう。

 

 

安曇も重傷だ。

 

 

一千子さんはなぜか戦いの後に、妖力が底を尽きたようで、すぐに体調を崩してしまったそうだ。

 

 

新メンバーである山城たかねと河城にとりも怪我を負って満足には動けない。

 

 

そして何より……………大天狗、飯綱丸龍が精神的に大きなダメージを負ってしまったそうなのだ。

 

 

 

 

 

「くっ……………………」

 

 

これが、鞍馬天狗の力なのか。

並の妖怪が束になっても、手も足も出ないで完膚なきまでに叩き潰される。

それに、死者がないということは向こうはかなりの手加減をしていたようだ。

 

いや……………逆か。生け捕りにするのは仕留めることよりもはるかに難しい。

 

だから、本気で命をかけた戦いをすれば、こちらにとってはもはや勝ち目どころの騒ぎじゃないということか。

 

 

 

「とりあえず、みんなをこの部屋に集めてくる。いったん、話といこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────さて、みんな集まってくれたな」

 

 

というわけで、例のごとく俺と慧音さんと妹紅の部屋で、龍さんと椛さんと文さんを除いた全員が集まった。

 

 

 

「安曇……………なんで来れるの」

 

 

安曇は俺と同じぐらいの重傷を負ってあるが、見たところ回復している様子は見られない。

 

 

「いや疑問すべきは俺のほうだろ。なんでお前、もう回復してるんだよ。それが一番おかしいだろ」

 

 

それに関しては俺が一番疑問に思っている。

 

俺と安曇は同じワーハクタクなのに、再生速度が全く違う。

いや…………そうじゃない。俺の回復が早すぎるんだ。

 

 

「クソが、あの鞍馬天狗どもが…………後で絶対にぶっ殺してやるからな…………覚えていやがれマジで…………」

 

「それだけの元気があるなら安曇はぶじってことだわさ」

 

「おいコラ一千子…………」

 

 

集まったのは慧音さん、妹紅、安曇、一千子さんはたてさん、太夫、ネムノ、にとり、たかね。

 

 

それから……………

 

 

 

「どうしましょう…………飯綱丸様がお隠れになってから、指示が降りなくなってしまいましたわ…………」

 

 

飯綱丸様が連れていた狐の女の子、菅牧典。

 

 

「やれやれ…………これは困ったねぇ。大天狗が何もしないようなら、飯空Projectは壊滅だ。ウチらの出番もここで終わりってことだべな」

 

「なんだいそりゃあ。もう終わりだっていうのかい?」

 

「まるで来た意味がないじゃないか」

 

 

不満の中に沈黙が漂う。

 

 

 

 

 

「────いいや、やることは一つだけあるさ」

 

 

太夫が軽く口を開いた。

 

全員の視線が彼女のほうへ向く。

 

 

「お前たちが百鬼丸を探っている間に私たちの班は河童の調査をしているって話だったね?そこで思わぬ収穫があったのさ」

 

 

 

俺は太夫から事の顛末を聞いた。

 

 

 

「えっとつまり…………?」

 

 

「鞍馬天狗の内情を探るには、レーザー兵器の取引に携わっているその「月虹市場」を探ることが必要不可欠ということか?」

 

 

慧音さんの問いかけに太夫はそうだな、と頷く。

 

 

「なるほどな。それなら大天狗の指示がなくたってできることだべな」

 

 

ネムノはうんうん、と頷く。

 

 

「そういえば安曇。そのことを吐いてくれた子は今どうなってるの?」

 

「逃げる時、車両のエンジン部分に縛り上げて放り込んだからずっといたんだぞ。ま、車両は大爆発して跡形もなくなっちまったがよ」

 

 

死んでるじゃん。

 

 

「ところがよ、なんか奇跡的に無傷だったみてぇでな。今は文ちゃんと椛ちゃんの看護を命令してる──────安心しな。…………【いかなる理由があろうとも、文ちゃんと椛ちゃんの様態を1ミリでも悪化させた瞬間にお前の歯をすべて抜き取り、両眼を抉って耳と鼻を削ぎ落として両手両足の指をひきちぎったあとに内臓引きずり出して臓器をぜんぶ踏み潰してから残りを中華包丁で解体して骨を粉にするまで砕いて完膚なきまでに殺した後、遺体を川に捨てて魚の餌にする】って脅したからな」

 

 

脅しのレベルおかしいでしょ。

 

 

「となると、次の目的地は決まったわね!」

 

 

はたてさんが喜ぶ。

あぁそうだな。やることが分かっただけでもまだマシだ。文さんたちのことは心配だけどきっと何とかなるさ。

 

 

「しかし…………月虹市場というのはどこにあるんだろう…………」

 

 

慧音さんは顎を押さえて考える。

 

 

その時───────

 

 

 

 

 

「そのことについては問題ない!」

 

 

ドアを開けて飯綱丸龍!!!

 

 

 

「飯綱丸様!?さっきまで引きこもって、」

 

 

「すまん!ちょっとお手洗いに行ってた!」

 

 

 

 

「「「「「ズコーーーーーッ!!!!!!」」」」」

 

 

 

全員で床に煙を上げながら転がる。

 

 

 

 

「えっと……………大丈夫なんですか?」

 

「あぁ!私を誰と心える!」

 

 

いやいや、そういうことじゃなくて。

 

もうちょっとさ、落ち込んだりする姿勢ないの。

 

 

 

「たしかに敗北感もすさまじいし、文や椛のことに関しては心配でならない。だが、同時に勝機も見えたからな」

 

「勝機?百鬼丸の?」

 

「あぁ、それ以外にないだろう?」

 

 

 

いやいや。

 

いやいやいやいやいやいや。

 

あんなんどうやって勝つんだ?

 

全員がそう思ったが、諦めていては始まらない。ひとまず黙って飯綱丸様のひらめきを聞いてみることにした。

 

 

 

「百鬼丸と対峙して一つ分かったことがある。百鬼丸は私たちの心をへし折るほどの重圧を持つし、その戦闘能力も確かなものだ。私の知る百鬼丸とは大きく違う。だが、中身は昔の彼女と何も変わっていないんだ」

 

 

「って言うと……………?」

 

 

「百鬼丸は若くして鞍馬の当主、すなわち大天狗になった。大天狗というのは威厳だけではやっていけない。そこには多少のカリスマ性と指導者としての才能が問われるんだ」

 

「いやいや………百鬼丸のカリスマなんてそれこそ天を貫いてるべ」

 

「だな。少なくともお前よりは上司にしたいぜ飯綱丸」

 

「安曇、お前そろそろ本気で私泣くぞ?」

 

 

はたてさんが代わりに安曇の頬にビンタを食らわせた。

彼は1回痛い目にあったほうがいい。

怪我人殴るか普通、と言いながら安曇は顔をしかめる。

 

 

「さて…………それでだ。百鬼丸は今でこそ般若のような女だが…………百鬼丸のやつ、根は臆病者で泣き虫なんだ。幼い頃から一緒だった私にはわかる。百鬼丸は月面戦争が自分を変えたかのように言っているが、所詮はそれも仮初め。ようは、めちゃくちゃ強がってるだけなんだ」

 

「強がっている…………?臆病者…………?」

 

「あれほどのものはいないさ。武蔵かナスビがいないと平静を保てないほどにはな。だからなんというか、ひとりではかなり、というかほとんど何もできない。百鬼丸のポテンシャルはとてつもないし、強がってる間は百鬼丸はその力を発揮できる…………だが、おそらく私らのいない場所ではかなり隙だらけのはずだ。ほんとはズボラでヘタレでヘナチョコだからな」

 

「これまでのお前さんの罵倒に心当たりがあるようなシーンが見当たらないんだが?」

 

 

甘々な太夫もいよいよ呆れた目をし始めた。

 

 

「百鬼丸の弱点は右足の脛。そこを蹴ると「あ゙い゙だぁぁぁぁっ!」って叫んでのたうち回るぞ。薙刀投げ捨てて両手で膝抑えて飛び跳ねながらな」

 

 

 

「「「へ?」」」

 

 

 

全員が乾いた声を上げる。

あの百鬼丸が、そんな情けない姿を?

 

 

「しかも、大泣きしながら「いたいよぉ、むさしぃ…………」ってうめいたりするぞ」

 

 

「「「へ???」」」

 

 

全員が乾いた声を上げる。

あの百鬼丸が、そんな情けない台詞を?

 

 

「ね?ちょっと可愛く見えてきたでしょう?」

 

「な?だから本来、百鬼丸は鞍馬天狗のすべてを代表する頭領になるほどの器ではないんだ。自分に自信がないということは、本人が鞍馬天狗の頭領として力不足だと一番わかっているからさ。だから皆が想像しているよりも百鬼丸は弱い面も多いんだ。そこを突けば必ず勝機は見えてくる。武器を手放し、両手で膝を抑えながら激痛に泣いている百鬼丸を倒せないのはギリギリ典ぐらいだ」

 

 

典ちゃんはダメなんだ。

 

 

「とはいえ…………それでも今は戦力へのダメージが激しい。今は休養期間としよう。各自、己の傷を癒やすことを最優先にな」

 

 

百鬼丸には弱点がある……………

 

右足の脛が弱い、そして心が弱い。

一人で考えて動くのが苦手。

なるほど…………たしかに飯綱丸様は独立はしている。一人でも十分に事業を起こして行きていく力はありそうだ。

だが、百鬼丸はそれができない…………頼れる保護者がいないと不安気なってしまう…………まるで子どものようだ。

 

そこに勝機は見えてくる…………ということか。

 

 

「そういえば飯綱丸様の怪我は大丈夫なんですか?」

 

「もちろん生まれてこの方体験したことのない激痛だし重傷だ。だが、泣き言を言っている場合ではない。…………私たちが百鬼丸から逃げれた理由はおそらく、私が百鬼丸の脛に一発キツイのを食らわせたからだろう。相手はあの弱虫百鬼丸だ。ちょっと痛い思いをした瞬間すぐに撤退すると思う」

 

 

それに…………と飯綱丸様は続ける。

 

 

「これしきのことで倒れていては、鴉天狗の大将は務まらんよ。私が殺したはずの私がまだ元気に打倒百鬼丸の為に働いていると知ったら、あいつはきっと腰を抜かして驚くぞー?月虹市場の調査には私も協力しよう。あちらには、今では私の厚い取引相手がいるからな」

 

「えっ、月虹市場に知り合いがいたんですか?」

 

「そうさ。色々問題を起こして喧嘩になった事があったがそれももう最近解決した話だ。ちょっと最近信仰が薄れつつあって結構ショボいものではあるがいちおう相手は神様だ。無礼のないようにな」

 

 

神様?

なんの神様?それ?

 

 

「月虹市場は新月と満月の日に、月虹が綺麗に眺められる場所で開催される。そこに行ったら毎回いるので、確実に会えるさ」

 

「次の開催日は……………」

 

「次の開催は満月、明後日の夜だ。それまではやることがない。となると、なにが言いたいかはわかるかな?」

 

 

飯綱丸様はニヤリと笑う。

 

 

「おおっ!それってまさか…………」

 

 

「そうだ!御湯殿いづな観光の時間だー!!!」

 

 

 

 

「わーい!!!」

 

 

というわけで、今日と明日はオフ。

この温泉を満喫できるってわけ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ……………あいだだだだだっ!!!お腹が…………!」

 

 

「青葉!?しっかりしろ、大丈夫かー!!!」

 

 

 

 

 

怪我は完治しないし、結局このお楽しみの2日間はほどほどになりそうだな………………

 

 

 

 

 

 

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